み〜あろっく 作:幽霊部In
私が初ライブをして数ヶ月経ったぐらいの時だったかな。
そのバンドの噂は聞こえていた、初ライブでその場に居た観客の大半を魅了したってバンドマンの間で噂になってた。
私の時は正直に言っちゃうと散々だったから、凄いなって純粋に思った。だけども初ライブで凄いクオリティのパフォーマンスを発揮出来るバンドは、数えようとすれば意外といるもので。
そういうのは大抵、有名になってる。だからそのバンドも、有名になるような実力を既に持っているんだろうなって思ってた。
そんな時に、偶然そのバンドと同じ日に同じ箱で演奏することになった、後ろ暗い気持ちは全くなかった……と、思う。
どうだろう、少し怖いかもって思ってたかも知れない。正直あの頃はまだまだ自分に酔えなかった時もあったから、自分が最強だっていう気持ちがまだまだ足りてなかったと思う。
そのバンドは二組目で、私のバンドは四組目だった。お客さん奪われちゃうかも〜なんて思いながら、逆に取ってやる!なんて思ってたりもしたっけ。
だけどいざその日になって、初めてそのバンドの曲を聞いた時。
私は多分魅了されたんだと思う。
これがただの凄いバンドだったら、普通の感動程度で終わってたのかもしれない。でもそのバンドの中心に居るって子のカリスマ性は、当時の私には光のように眩しいようで、闇のように誘うようで。
今でもなんて言えばいいかわかんない、ただその場を、その色で染める“何か”があった。そしてその子について行く周りのメンバーも感化されるみたいに存在感があって。
これが、一人のミュージシャンを心から好きになるって気持ちなんだって思った。
だからその日はいつも以上に暴れるようにライブをしたのを覚えてる、その結果は……まあ。自分でも引いちゃうぐらいにウケなかったんだけど、でもたのしかった、たのしんで弾けて、たのしんで歌えた。
自惚れじゃなかったらあの子もそんな私を見てくれてた。笑ってくれてたと思いたい、たのしそうに聞いてくれたって思いたい。
その日を含めても片手で数えるぐらいしか対バンしなかったけれど、行ける時は欠かさず、そのバンドに通ってた。
今では信じられないかもしれないけど、その時の私は憧れの人に会えたみたいな感情で、何だか恥ずかしくて。
お酒を飲んでもそれは治らなくて、話しかけるタイミングはいくらでもあったのにできなかったのを覚えてる。
でも、私とあの子の距離は、それが良いのかもしれないって思って。
だから、その子のバンドが音沙汰もなく、泡みたいに、白いキャンバスみたいに解散した時。
悲しい。なんて一言じゃ言い表せない、空虚な気持ちになったのを必死で忘れようとして。ふと一人になった時に、また思い出して。
そんな時、あの子の曲に触れた。
その子は正体を隠してたし、投稿サイトと一つのSNSしか使ってなかったけれど、何度聞いても同一人物で。
あの子が弾いて、あの子が歌って歌わない時もあって、なんて。
バンドから離れても、こうして同じ音楽で関われているなら……って思った気持ちよりやっぱり、寂しいって気持ちの方が大きかった。
でもやっぱり嬉しいし、あの子の勢いはどんどん進んで深まるばかりで、それと比例するような確かな技術は他のアーティストの曲と聴き比べても一味違くて。
何より、曲数は少ないけれどあの子が歌う声は、何度聞いてもわたしを魅了して。
だから私も絶対に負けないぞって気持ちが強くなって、それで。
また、あの子は居なくなった。
今度こそ本当に、お酒だけじゃどうにもならない埋まらない心の穴がある事を知った。
もしあの時声をかけて、何か話して仲良くなっていれば、なんて何度考えたんだろう。
この気持ちを抱えたまま私は生きていくのかな?何れ折り合いがついて、ああ、そういえばあの子の曲好きだったなあって漠然とした思い出になっちゃうのか。
そんな風になりたくない。でも、こんな気持ちも抱え続けたくない。
だからまた
今日もいつもみたいに酔っ払って、また何処かに流れ着いて。
それで________水色みたいな目がわたしを見ていた。
あの時と同じ目で、ちょっとだけ身長が伸びていて、肩ぐらいの長さのふわふわしてる綺麗な銀色の髪で、髪先が少し薄い赤色。
他人の空似かと思ってもどうしてもそうとは思えなくて、面白い女の子にひと肌脱いでやろうって路上ライブをしようってなって。
いつの間にかその子がギターを持って前に立った時。
私はやっぱりその子だって確信した。雰囲気が違っても、あの頃より大人びていても、あの頃より輝いた目をしてなくても。
久しぶりに人と演奏したんだろうな、ってわかっちゃうぐらいにたのしそうにぼっちちゃんと弾くあの子を見て。
私は嬉しくなった、音楽が好きなんだって、嫌いになんてなってなかったって、安心した。
「あ〜〜!そういえばぼっちちゃん、みあちゃんの連絡先って知ってる〜?」
「あっはい、知ってます、けど……」
「ねぇね〜教えて〜」
「えっエッでもその」
「教えてよぉ〜〜教えて教えて〜〜」
「フェッ、はっはい……」
また、直接聞き出せなかったけれど。
今度はもう後悔したく無いから、だから。
またあの時、あの頃みたいなライブを……音楽を、して欲しいんだ。
その為に私ができることはやるつもりだよ。
★
新宿のライブハウスに来るのも久しぶりだね。
個人的な感想になるけれど、新宿のライブハウスは渋谷ほどじゃないにしてもまぁまぁあるけれど、その中で有名な場所と言ったら二つぐらいに限られるのかな。
その中でも廣井ちゃんが活動している新宿FOLTは、その有名な場所の一つに当てはまる場所だとわたしは思う。
初めてのライブハウスがここ、っていう人も中には居たりするんじゃないかな、それぐらい行きやすくてキャパも広くて、音質も悪くない丁度良い箱だと思ってる。
演者として来たこともある、懐かしいよりも新鮮な気持ちの方が大きいかも、観客としてここに来たのは、わたしが記憶している限りだと多分、ないんじゃないかな。
「何かスターリーとは随分雰囲気違いますね……」
「だいじょーぶ、うちと変わらないよ!」
いやそうでも無いと思うけどなあ、スターリーは煙草吸う人居ないし……というかそっちの方が珍しかったりするんだけれどね。未成年がいるから、星歌ちゃんが配慮しているかな?
あ、この雰囲気に当てられてひとりちゃんが幽体離脱し始めちゃった。スターリーでライブハウス耐性ついたと思ったけれどだめだったか。
「銀ちゃんおはよ〜」
「あぁ?」
ビシッみたいな効果音と一緒に今度は虹夏ちゃんが石になってしまった、あははーウケるってちがうちがう、思ってないよ。というより懐かしい気持ち。
心配する必要は無い、この人見た目は怖いけど良い人なの、知ってるし。
「あら〜ゲストの子達なのね、ごめんね〜!吉田銀次郎37歳で〜す!好きなジャンルはパンクロック*1よ!」
ほらね、心が乙女な人なんだよこの人、その見た目とのギャップに困惑してる結束バンドの子たちでした。
そんなこんなしていると、廣井ちゃんのバンドメンバーがやってきた、結束バンドの子たちと話しているのを確認して、挨拶するならこのタイミングがいいかと判断して、少し離れて一人になった銀ちゃんの方に向かう。
「こんにちは、銀ちゃん」
「あら_____珍しい事もあるのねぇ……」
「そんなに珍しい?」
「珍しいでしょー!もう来ないかと思ってたもの、しかもあいつのゲストで来るなんてね」
もう来ないと思ってた、か。
まあ……そうか。少なくとも前までは多分もう来ないんだろうなって思ってた。ここに来る理由も無いし、尚更。
でもどうしてだろう?不思議だね、わたしは今ここに居る。来ないと思っていた場所にまた来てる。
「いつでも歓迎するわよ、他でも無い
「ありがと、その気が起きたらね」
さて、銀ちゃんと話すのはたのしいけれどいつの間にか廣井ちゃんはライブの準備に向かったし、結束バンドの子たちも移動したみたいだから私も合流しに行こうかな。
どこに行ったんだろう?結構中の方まで行っちゃったかな、まさか最前の方には行ってないだろうけれど、そうなると合流出来ないな。
と、探しているとある意味目立っているのが一人いた。
リョウちゃんがライブハウスによく居る「手前で盛り上がっているお前らとは違うんだぜ」感を出す通ぶりたいファンの子してる。
わたしもやるか。
「ああ〜〜っ!みあさんも通ぶり始めた!」
なんて虹夏ちゃんの声が聞こえた、多分気のせいじゃ無い、だって目線合ったし。
「みあさん、何処に行ってたの?」
「秘密、リョウちゃんはここで聞いていて良いの?」
「音を聴きたいので……」
あ、まだそれやるんだ?
さてそろそろ始まるな……ってタイミングで、リョウちゃんは結束バンドの子たちと合流しに行った、わたしはここで良い。
リョウちゃんの台詞を借りるなら、音を聴きたいから。
SICK HACK、スリーピースで構成されている____廣井ちゃんのバンド。
一曲目が始まる。
音を聞いて直ぐに解った、サイケデリック*2だ、サイケロックって言った方がいいか。
廣井ちゃんらしいジャンル。流石にこの手のジャンルで500人以上固定客が付いてるだけある、上手い。
ドラムスの彼女、変拍子の合わせ的確だ、場数を踏んできたんだなって分かる正確さ。
あれだけロジカルに弾けるギタリストも中々居ないんじゃないかな。
廣井ちゃんのベースもさる事ながら、それ以上にあの場所で強い存在感を放ってるのは、廣井ちゃんのカリスマ性だ。
ギターと違って和音とリズム両方出る訳じゃ無いのに、ベース弾きながら歌うの良くやれるね。これ気付いてる人何人居るんだろう、慣れって言われれば慣れだけれどさ。
あの時以上に磨き上がってる、それでいてやっぱり聞いていてたのしい、ライブパフォーマンスもそうだけれど、廣井ちゃんは全力で音楽を楽しんでいるのが伝わる。
それに……あのベースのコード、上手く取り入れたなあ。
弾いていたわたしには分かるよ、あのコード進行の繋げ方はわたしがバンド活動をしていた時に使ったことのある技術だ。
偶然とは思わないよ。だってそこの部分だけ、音の出し方が似過ぎてる。
凄いよ。ねえもしかして、廣井ちゃんはずっと聞いていてくれたのかな、だとしたらもっと早くお話ししたかった。
どうして話してくれなかったの、なんて、今更な事は言わない。でも思うぐらいは良いかな、どうだろう。
……ああ。
あなたの音が、わたしの心をこんなにもたのしくさせてくれる。
ステージにいる間は演者はヒーローになれる、わたしだってヒーローになっていたのかな、でも今日のヒーローには負けちゃうかも。
……ああ、思い出した。
最初に聞いた時も似たような事、思ってた。
かっこいいよ廣井ちゃん。
☆
ライブが終わって。廣井ちゃんがひとりちゃんに話しかけに向かってるのを横目で見ながら様子を覗いてると、背後から肩を叩かれた。
振り向いてみると、なんだか良い顔つきをしている銀ちゃんが居た。
「話しかけに行かないの〜?」
「今は……うーん、順番待ち?」
「何それ〜〜〜!」
「銀ちゃんは変わんないね、いや前よりメイク上手くなった?」
「嬉しい事言ってくれるじゃな〜い!」
お世辞じゃなくて本当に言ったんだけれど、お世辞に捉えられちゃったかも。
「……久々にね、
そう言って曖昧に笑ってみると、銀ちゃんは何か言おうとして、同じように笑ってくれた。
多分色々言いたいこと、あると思うんだけど、でも隠してくれるその優しさが嬉しい、ごめんね銀ちゃん。
もう一度あの場所に立つのはやっぱり難しいと思うけれど、でも今日来たことは、感じたことは無駄になんてならない、させない。
そんな風に思いながら、廣井ちゃんの方を見てみると、壁ぶっ壊してた。
えぇ……?隣にいた銀ちゃんが如何にも怒ってますって感じで廣井ちゃんの方に向かった、いやまあそれは怒るよね。
全くもう、かっこよかったのは最初だけ?
「壁の修理費+10万加算しといたからね〜?」
「ぼっぼっちちゃんとの連帯責任って事で……」
「!?」
ぼっちちゃんの顔のパーツが散らばってしまった、新宿のカオナシ人見知・リーになっちゃった。
さて、廣井ちゃんに一言言おうと思ったけれど、やっぱり良いかな、そろそろ帰ろうか。
そう思って帰路につこうとライブハウスから出ようとして、呼び止める声に振り返る。
「みあちゃん、すっごいライブ見せれたかなっ!」
「もちろん、わたしも
「〜〜〜っ!じゃあじゃあ!今度カラオケ一緒に行こ〜よぉぉ〜〜!お酒も飲めるし〜〜!」
「カラオケ?いいね、ところで」
「なになにぃぃ〜〜〜〜?!」
「未成年に修理費払わせるの普通にやばいよ廣井ちゃん」
「オアッ……!」
ばたり。
わたしの言葉が矢印になって廣井ちゃんの心臓を貫いてしまった。
なるほどこれが、人を〆す感覚か……クセになるかもしれない。
「あ、みあさん……みあさんも良かったら文化さ……い?えっ、あっ、さっ殺人現場!?ウッ……!」
ぱたり。
第一目撃者のひとりちゃんは凄惨な現場に耐え兼ねて気絶した。
ひとりちゃんまでやってしまった、ついやっちゃった。わたしはもうだめだ。ここには居られない。
自首はしたく無いから雲隠れしないと、証拠隠滅は銀ちゃんに任せよう。
ごめんね銀ちゃん、壁の修理費10万円は廣井ちゃんの手のひらに握らせたからそれで許してね。
新曲「あのバンド」早速サブスク追加されてるのでfullを聞こう!僕のおすすめはベースです、正直刺さり過ぎてベース進行だけで飛びかけた。
ところで。アニメの進み具合次第だけど廣井名人のバカかっこいい演奏シーンが来るかもしれないってマジ?期待して良いのか……?