み〜あろっく 作:幽霊部In
ロックバンドに限らないけれど。
リードギターの次か、同じぐらいにバンドの花形はボーカル担当って言われている。
まあ実際中心に立つボーカルが一番目立ち易いし分かり易い。
この分かりやすいっていうのは観客目線で、音楽をしていない人でも、絶対にどこかで歌を歌った事はあると思うんだ。だから尚更ボーカルは見られやすい。
楽器は知らないけれど、歌なら少しは知ってるよって人は沢山いる、まあ実際の所はどうなの?っていうと、知ったかぶりの人が多かったりするけれど、それはそれとして。
中心になっているのが実際は別の楽器の人でも、ボーカルで覚えられているバンドは多い、この人の歌ってるバンドって覚え方をしているバンドは結構いるんじゃ無いかな。
それ自体は、まあ良いんだけれど。ボーカル完成度つまりは、歌声の上手さ下手さを観客がどれぐらい知っているか。
大体は知らない、というより基本的に、綺麗な歌声で裏声が出ていればもう上手い部類になっていると思う。
そう評価するのは良いよ、音楽的なことを知らないといけないのは演者側の問題で、観客はそうじゃ無いから。
ただ、その評価を受けて、そこで成長を止めているボーカリストが結構いる。
クリーンな声を出せるからって歌の技術が高いかって言われたらそうでもなかったりする人がいる。ボイストレーニングに行ったり、歌い方の技術を取り入れようとしてステップアップするなら良いけれど。それをしない人も中にはいる。
まあ……バンド活動を拠点していないなら、合成音声に任せたりMIXで調整したりすれば良いと思うけれど。
ステージ場でのボーカルは一番シビアで、頑張らないといけないとわたしは思っている。歌詞のある曲な以上、そのバンドの想いを届けないとダメなんだ。
その想いの届け方はそれぞれのライブパフォーマンスによるけれどね。
共通して言える事は、最後まで突き抜けることが出来る感情の昂りと、それについていく為の体力作りは欠かせない。
動き回るなら動いても声が上擦らないようにする為の体力は必要だし、歌の技術を豊富に使うにも体力はいるし、というより普通に歌っていても体力はいる。とにかくいる。
腹式呼吸だけじゃ息は続かなかったりするから、尚更。
それとやっぱり自信だね。
自分に対して酔っていればいる程、ライブ上でのボーカルは輝ける、もちろん実力に見合っていない酔い方はダメだけどね。
「ふふ……」
今回の調整は最低限でいい、ノイズ調整ぐらいに抑えて、軽いMIXを入れたりとか、そんなのはいらない。
出来る限りの生演奏に近づけた、わたしが今できることを、この一つの曲にのせた。
ただ、世の中にあげるのはもう少しだけ待って欲しい。
この最後の勇気を出すにはもう少しだけ、前に進まないといけないから。
☆
「ギターの練習に付き合って欲しい?」
「はいっ!」
きたーーーん!
土曜日、邂逅一番に喜多ちゃんの輝かしいばかりのきたーん!な瞳で「ギターの練習見てもらっていいですか!」と聞かれた。
さて、わたしは少し困惑している。
特定のレコーディングか、結束バンドのライブぐらいしか下北沢駅には降りないわたしなのだが、わたしも人並みには外食をしたいなって思う時があったり。
下北沢はとても美味しいカレー屋さんがあるのは結構有名だと思うんだけれど、今日のお昼こそは行こうと思って食べに来たのである。
すると。何やら見知った子がスマホで自撮りをしていたので、思わず声を掛けると、わたしを見るや否や、ギターの練習を見てくださいと言われたのがここまでのあらすじだ。
ついこの前の中間テストの時にこの子けっこう突っ走るタイプなのかな?って思ったけれど、わたしが思っていた以上に突っ走るタイプみたいだ。
「私もっとギター頑張りたくて……!」
「ひとりちゃんから教えてもらっているんじゃないのかな、喧嘩した?」
「けっ喧嘩?!そんな殺伐としたバンドだと思ってたんですか……!?」
「あは。冗談だよ、自分も頑張りたいって事だよね」
「……!そ、そうです」
良く分かりましたねって顔をしているけれど、これは経験上というか、見てきたというか。
同じ楽器を担当している人が身近にいたり、同じバンドメンバーだった時、明らかに技術に差があると大きく分けて三つぐらいパターンが分かれる。
その中で喜多ちゃんみたいな子はポジティブに向かう気持ちになる場合が多く、あの人も頑張ってるし自分も頑張ろう!って思う気持ちは、全部が全部じゃないけれど、察せることの方が多い。
「でもどうしてわたしに?」
「えっと……後藤さんと仲が良いから、ギター上手な人なんだろうなって思ってですっ」
リョウちゃんかひとりちゃんにわたしのことを聞いたとか、そういう事ではないんだね。そっか、
こういう事で困ってて、知っていますか?って具体的に問いかけるならまだしも、特定の人だからって理由で教えて貰おうとするのはわたしはあんまり好きじゃない。
わたしは殆どひとりでやって、見て、聴いて……そうやって習得してきた。それを強要するわけじゃ無いけれど、音楽の根底は人に教えて貰ってやることじゃないと思ってる。
もちろん分からない事は聞いた方が良いけどね、そこに熱意があるなら、わたしだって応えて上げたいって思う。
その点、喜多ちゃんはいい熱意をしてる。
ひとりちゃんを除いて結束バンドの中で一番教え甲斐がありそうで、どうしても厳しめに見てしまうのは喜多ちゃんだ。
それは喜多ちゃんが一番楽器歴が短いからとかそういう理由じゃない、喜多ちゃんがボーカルギターだからだ。
「喜多ちゃんは今、ひとりちゃん以外にもギターの練習を見て貰ってる?」
「はいっ、リョウ先輩に見てもらってます!」
「ならわたしが教えることは、今は少ないから力になれないね」
「えっ……そ、そうです、か」
「喜多ちゃんにいじわるしてる訳じゃないよ、ギターの技術的な事なら教えられるし、喜多ちゃんのやる気が十分ならついて来れると思ってるよ」
「それならっ」
「ダメ、リズム感が纏まってない内に技術を覚えるのは危険だ。クリック無しで正確なリズムをライブ中に、最後まで完璧に弾き続ける事を喜多ちゃんは出来るって自信を持って言える?」
「完璧……は、断言出来ないかもです」
ごめんね、お昼にこんなこと言われたくないよね。
少し厳しいかもしれないけれど、兎にも角にも先ずは此処からなんだ。
学生なのも相まって最近のライブ演奏を聴いていても、喜多ちゃんのギターの腕前の成長の速度は速い方だと思ってる。
ただまだ初心者を卒業したてぐらいの内に生半可な技術を覚えたとして、それを披露出来る取り出しのタイミングを掴めるかといったら先ず難しい。
上手くなろうとしてついついリズムをおざなりにして、スラップ奏法*1とかオクターブ奏法*2とかの技術を取り入れようと思うかも知れない。
経験の浅い内にそれをするのははっきり言えば非効率でしか無い。出来たら良い技術と、出来なきゃいけない技術とでは雲泥の差がある。
喜多ちゃん自身は無自覚だと思うけれど、文化祭ライブに向けて少し焦っているんだろうね。
「焦る必要なんてないからね、喜多ちゃんは頑張ってるよ」
「は、はいっ……!」
「でもそうだなあ、文化祭ライブまで治さないとねって思うことの一つだけど、喜多ちゃんはまだ歌う時手元を見る癖があるよね、表情にも出てるからボーカルギターとしては及第点も付けられないよ。普通にだめだめだよ、ツチノコひとりちゃんと並ぶぐらいやばいよ」
「えぅぅ……そんなズバって言うんですね……でもなんだかお世辞じゃないことが分かって少し嬉しいかもしれないわ……?」
「だから練習の時目隠しして弾くと良いよ、手元を見ようと思っても見れなくなるからおすすめ。その様子をリョウちゃんや虹夏ちゃん、ひとりちゃんに見て聴いて貰おっか」
「ひょえ〜〜〜め、目隠しですか?で、でもそれは私には厳しめなのでは?」
「難しいって思ってる?それは少し勘違いだよ。やってみてね、約束してくれたらここのお代奢ってあげる」
「えっい、良いんですか……?!や、やります!頑張りますっ!」
初ライブの時に見た喜多ちゃんと違って、今の喜多ちゃんなら絶対できるようになるよ。
気付いてるか分からないから、今こうやってわたしと話している喜多ちゃんが、わたしの目からどう思ってるかは、内緒だけどね……ふふっ。
☆
少し前。
わたしがSNSに一言だけツイートしたことで、幾つかの企業からのDMが何件か来ていたのは、少し前から確認していた。
ただわたしと関わりのあった企業からは一通も来ていない。
普通ならこれは、ネガティブに捉えるような事なんだろうけど実態は違う。
わたしがSNS上でのそういったやり取りや、行為をわたしがやりたいと思わない限り絶対にやらないって分かっているからこその距離感をあの人達は覚えていてくれたんだ。
わたしが出来る事は音楽だけだ……ごめん、少し言い方が違うね、わたしがやりたい事は音楽なんだ、そのやりたい音楽は、誰かに強制されるようなことじゃない、わたしがたのしいって思えることじゃないと、
それを了承してくれる上で、何かしらの形で関わらせて頂くことは、今までもこれからもずっと、感謝してる。
世間の目線や、ネット上でのわたしについての話題については、わたしは意図的にシャットアウトしている。
興味がない、とまでは言わないけれど、人の意見や言葉でわたしを曲げたくないんだ。頑固って言われればそうだし、そんなことを言っていても影響しないの?って言われたら、する時はあるけれどね。
それに一から百まで全て遮断、とは言えない。ちょっと気になる時だってある、最初の頃は変に斜に構えたりしてたけれどね。
「さ……
自室、ギターの調整を整えて、パソコンの設定を確認して。
わたしが唯一使っている動画投稿サイト、そのサイトの機能の一つでもあるLive機能。ようはリアルタイム配信を可能にさせる生放送機能。
緊張する。
いつもそう、今日も、いつだって毎回。この瞬間が一番、
配信をするのは初めてじゃない。だけれどこれをするときはいつだって。
わたしが前に進む時だ。
★
「……えっ」
夜、ご飯を食べ終えて、文化祭でやるセトリを確認したり、一日目に決まってしまったクラスの出し物で鬱になったり、やっぱり高校辞めたいなあって、じゃあやっぱプロになるかニートイャァァァァァ……なんて、考えていたら。
パソコンから、一通の通知が来た。
長年見ていなかった通知、だけどいつか来るって信じてた通知。
そして多分、初めてリアルタイムで観る通知。
「Miaの……生配信だ」
直ぐにクリックしてヘッドホンを付ける、ちょっとだけサイトが重い、良かった、まだ待機中。
あれっ、でも音聞こえる、チューニングの音、ギターだ、ギターの音だ。
ふと、この配信が何人見ているんだろうって気になって、その数字を目撃する、この配信が突然始まってまだ数分しか経ってないのに10万人を簡単に超えていた、もう直ぐ20万人……行った、止まることを知らない。
改めて鳥肌が立つような気持ちになる。
こんな、凄い人を集める人が、あんなに身近にいる事実が。
『____________弾きます』
ギターと手元だけを映したライブカメラ、なのにその声は凄く良く通っていて。
音が彩り始める、ギターの音が支配するように広がる、最初からライトハンド奏法*3を使ったテクニカルなメロディーを奏でる。なんて難しいメロディー、それでいて完成されているメロディーなんだろう。
既存の奏法を複合したMia特有のスラップ、一番目立っている所はそこだけれど、もっとすごいのは寸分の狂いのないってぐらいに、完璧なリズム感。
どれだけ音楽に打ち込めば、ううん。そんなことを思うことすら野暮に感じるぐらい。
伴奏と主旋律が入り乱れる、こんなにも調和をとって、和音を奏でて、ギターひとつだけで。
やっぱり凄い________っ!
知っていた。だってMiaは、わたしが初めてギターを弾いた時に、一番最初にこの曲をカバーしたいって思った曲を作る、すごい人だったから。
これが、
ただひたすらに圧倒するだけじゃない、特別明るい音を出している訳でもない、寧ろ少しほの暗いようなのに、聴いているだけで体がリズムをとって、音楽を楽しませてくれる。
いつまでも聴いていたい、そんなふうに思う、これが多分みあさんの特出したカリスマ性……!
「あ……」
終わる。そんなふうに思った時、思わず声が出た。
『……おしまい』
そう静かに、約3分程度の短くて、永遠みたいな音色の終幕を告げられた。
すごかった、でもそれ以上に……嬉しい。Miaが新しい、まだ世の中に出てない曲を弾くなんて何年ぶりなんだろう、私よりも前に知っている人は、今私よりも心が揺れているのかな。
私も……頑張らないと……!
『そうだな……えっとね……なんて言おう』
まだ、もう少しだけ配信を続けてくれるみたい、何か言いたいことあるのかな、なんだろう、すっごい気になる。もしかして、この後……今の曲の、完成した新曲を流してくれるのかな……!
『見たいバンドのライブが終わったら、新曲出すね。だからもう少し待って下さい』
ええっ……そ、そんな。マイペースだなぁみあさん……見たいバンドってなんだろう、廣井さんが活動している
『じゃ……がんばってね、
と、意味深な一言を呟いて、突然始まった約7分ぐらいの配信が突然終わった。
________ん?
あれっ。
「えっ」
もしかしなくても私のことですか?
「……アゥ」
ぱたり。
あ、まだこの前貸したお金リョウさんに返してもらってないな……ガクッ
使うエレキギターの種類の良し悪しは最終的に弾き手に寄るけれど、レスポール特有の音も良いよね……値段高ぇ〜けど。
ところで。
ぽいずん♡やみ17才(自称)ちゃんさん、かわいいよね、わからせたい。巻を増す毎にこいつ以外といい奴?ってなって今ではこいついい奴!ってなってる。そのうち掘り下げしてくれるのを待ってます……。
ついでに感想くれると筆の進みが早くなります(これはマジ)(やっぱこれだね)