【改稿前版】唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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第一部 そのメイドは星を見た
01 あるいは、ありふれた序章


 知っての通り、陰陽術の再発明によって、社会は大きく様変わりした。

 

 

 日本国民の九六%が陰陽術を使用できるようになり、義務教育に陰陽術の授業が加えられるようになってから久しい昨今に生きる御前達のような若者には実感が薄いかもしれないが──この世を陰陽と五行の二つの法則で切り分け、既存の科学理論とは異なるレイヤーで万物を管理する技術の登場は、端的に言って人類社会に大きな大きなブレイクスルーを齎した。

 

 方術や星読みといった技術によるストレートな恩恵や、陰陽五行説のスケールで現実を観測し直すことによるちょっとした()()の活用──いわゆる霊能も地味に人類の発展に貢献していたが、実際のところ、こういうのは枝葉末節でしかない。

 

 方術や星読みといった技術は、確かに人類文明全体で言えばかなりのプラスになった。しかし如何せん人は瞬間を生きる生き物だ。アレらは目に見える恩恵がない。精々数十年の統計を眺めてようやく分かる程度のものだ。

 霊能に至っては──アレを取り回せるような陰陽師はほんのひと握りの達人レベルだからな。

 結局のところ、大多数の一般市民にしてみれば、陰陽術単体の恩恵っていうのはそれだけでは()()()()()()()()()()程度の実感しかなかった、と言えるだろう。

 

 だからまぁ。

 陰陽術の再発明から始まった一連の流れの中でもっとも大きな変化は、旧来の式神技術と現代の科学技術が組み合わさった新技術──いわゆる『シキガミクス』の登場かね。

 内部に陣を刻んだ木造機構。正式名称を霊力式駆動木機──有り体に言えば安価に製造・運用できる木製のロボット技術の登場によって、労働・通信・運搬・医療・娯楽などなど、人類のQOLってヤツは劇的に向上した。さっき話した霊能も、シキガミクスを介することで劇的に取り回しがしやすくなったしな。

 まぁ、分かりやすい超常現象よりも結局地味な労働力の発生が人々の暮らしに貢献するあたりは、なんというか所詮は人間って感じだが。

 

 ともあれ、そうした陰陽術の再発明から始まった一連の流れは陰陽革命──シキガミクス・レヴォリューションと呼ばれ、産業革命やIT革命に連なる新たな人類のターニングポイントとして人類史の一節に明確に刻み込まれたのだった。

 

 

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 では、ここで思考を逆行させてみよう。

 

 技術というものは常に、必要に駆られて生み出されるものだ。

 人は闇を克服する為に灯りを発明したし、病を克服する為に薬を発明したし、戦を克服する為に武器を発明した。

 それなら、陰陽術は何のために再発明された? 方術や星読みといった技術から始まり、陰陽や五行といった既存の科学法則とは異なる理論で世界を捉え直し、挙句の果てにシキガミクスなんてモノを生み出してまで──そんな技術を世に送り出すほどの『必要』が、どうして発生したのか。

 

 要点を最初に言おう。

 

 

 ──五〇年ほど前、怪異は()()した。

 

 

 妖怪、幽霊、化生、精霊、それと、神様。

 一般に『怪異』と呼ばれる概念で括られるそれらは本来、明治維新の頃を最後に根絶し、歴史の表舞台からは消え去ったはずだった。それによって怪異を管理する為の技術である陰陽術も徐々に廃れていったのだから。

 だがあの日──現代社会は突然、怪異の脅威に再び見舞われた。

 

 『百鬼夜行(カタストロフ)』。

 

 のちにそう呼ばれるあの『災害』の影響で、根絶したはずだった怪異は今や日本全国津々浦々に散らばってしまった。

 今となっては、日本人の死因のベスト10には怪異との遭遇事件が食い込んでいるというのだから、人類が必死になって陰陽革命を起こすのも宜なるかな、といったところだろう。

 

 ………………。

 

 ──くく。

 

 ああ、すまない。悪かったよ、だからそんなに『白々しいことを言うな』って顔でこちらを睨みつけないでくれ。

 だが、怪異の再発も満更悪いばかりではなかっただろう?

 なんだかんだで陰陽術のお陰で人類の生活水準は向上したのだし、ここ一〇年は怪異絡みの死者数も減少傾向だ。それに何より、陰陽術には──というより、シキガミクスには特大の『恩恵(オマケ)』もあった。

 

 これに関する説明は必要かな?

 

 ──まぁ、要らないか。

 何せその具体例が、今まさに御前の目の前に『いる』のだからな。

 

 

──『シキガミクス・レヴォリューション』

序章 より

 

 

 


 

 

 

01 あるいは、ありふれた序章

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