【改稿前版】唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション 作:家葉 テイク
「…………やっぱり納得いきませんわ」
「何がだ?」
横を歩く
「決着を急ぐ理由ですわ。明日暗殺される危険があるなら、どう考えても会長に明日の生徒集会を欠席してもらった方が良いはず。目標である会長が現れないなら、生徒会の方々だってそもそも暗殺騒ぎを起こせないでしょう? ……むしろ、こちらから行動するということはいたずらに
あの場では生徒集会へのピースヘイヴンの登壇は必須というような扱いになっていたが、それはあくまで『ピースヘイヴンを囮にすれば相手の隙を突けるから』という理由ありきだ。
暗殺騒ぎが花蓮を刺激することに繋がり、それを回避するのが最優先──という理路であれば、選ぶべきは『今日中の決着』ではなく『登壇の中止による暗殺騒ぎそのものの阻止』。
戦闘を嫌う流知の性格ゆえではあるが、至極理性的な発想である。
ただし、此処には一つ共有されていない前提があった。
「……ああ、そういえばお嬢様には言ってなかったっけか」
「
そんな衝撃の事実を、あっさりと話した。
「生徒会室でピースヘイヴンの野郎が裏切られた時、裏切ったピースヘイヴンの腹心……
思い返すように
「おそらく……『契約』を軸にした精神操作系統の霊能だろう。精神操作系統の霊能は陰陽師相手では顕在化している霊気の影響で著しく効果が減少するが、相手に『同意』させた場合にはその限りじゃねェし」
「そ、そうなんですの……?」
「あァ、民間時代に何人か見たし……っつか、『原作』でも登場してたし解説もされてたろ、『精神操作』系統の霊能」
「……、……わたくしは後追いだからコミカライズの関係性読みがメインだったんですぅー!!」
「………………」
『ファン』としての嗜好の違いが浮き彫りになったところで、
「
「明日は全校生徒が集まる生徒集会だって言ったろ?」
首を傾げる
「
当たり前のことのように、最悪の可能性を提示する。
「全校生徒の中の不特定多数がヤツの手駒になっちまえば、あとはもう分の悪い消耗戦だ。つまり、ピースヘイヴンが登壇しようが登壇しまいが明日の生徒集会で連中は動く。……そして、それに久遠が巻き込まれたらどうなると思う?」
「………………考えたくありませんわね」
愛しの久遠がバカの手駒にされる。良く考えずとも、花蓮の地雷をストンピングしている状況だ。確実にその場で爆発するし、そうなれば全校生徒が花蓮の怒りに巻き込まれかねないことになる。人的被害は、計り知れないレベルになるだろう。
──そして、
「連中も流石にピースヘイヴンと
「それは……」
それをあの場で話せば、花蓮は『つまり現時点で久遠は身の危険に晒されている』と解釈したはずだ。そうなればどこにいるとも分からない
「な? だから今日中に決着をつけるしかねェ……どころか、もうすぐにでも
「……そ、それって、事前に会長と師匠とで話し合って考えたんですの?」
「特には。でもまァ、アイツらも同じようなことは思い至ってんだろ。でなけりゃ
あっさり言うメイドだったが、
思考の回転速度もそうだが──そもそも、会話の前提として必要とされる想定の複雑さの次元が違う。
と、そこで
「……ん? でも、そうなると現状はマズイのではなくて? わたくし達が外に出ているということは、久遠さんの守りががら空きになってしまいますわ。相手が久遠さんを狙っているのであれば、その動向は筒抜けということに……」
「むしろ、それを狙ってる」
神をも恐れぬメイドはあっさり頷いて、
「十中八九、向こうは
「…………それって……」
「あァ。万一突破されて花蓮が出張ってきた場合、まず間違いなく
「最悪じゃありませんのそれ~~~~~~~~~!!!!!!!!」
あまりのことに頭を抱える
「だから、とっとと潰す。お嬢様と
「……つまり、師匠たちが空振りしたらわたくし達が責任重大になるということでよろしいのかしら?」
「察しが良いじゃねェか。冴えてるな、お嬢様」
「なァに心配は要らん。拠点防御と迎撃はメイドの十八番だ」
「そんな訳ないですわよね???」
| 10 最悪の二択 |
| >> HELL OR HELL |
「………………」
「………………」
二人の少女達は、横並びになって無言で歩く。
長身の
「アナタの部下から
歩きながら、
「
「耳が痛いな。だが、君にとっては都合がよかったんじゃないか?」
「
「だとしても、友人の人望が音を立てて崩れていって楽しくなるほど
互いに今世の名で呼び合うのは、隔意の証か。
互いに互いの腹を探り合うようにしながら、二人は先を急いで行く。
「しかし妹
「
どういう原理か知らないけど、と
おそらくメイドなので、お嬢様を護ってると気分が乗るのだろう。これで納得できている時点で、だいぶ精神の深いところをあのメイドに毒されている気がしないでもないが。
そんな精神汚染メイドの話はさておき、ピースヘイヴンは嫌そうに目を細めながら
「……万一突破されたら、私は逃げるが構わないな」
「どうして始める前から失敗することばかり考えるのよぉ~。もうちょっと明るく考えましょ?」
「
「……それを、アナタが言うのね」
そこで、また会話の流れが途切れた。
数秒か、数分か。時間の経過すらも曖昧になるような重苦しい沈黙の後、二人の足音だけが廊下に響く。
「思えば……こうしてきちんと話をするのは
それは、
さりとて、『前世』を計算に含めた話でもない。彼女は前の生の最期を、横を歩く少女に看取られているのだから。
──それが示すのは、つまり。
「今年で三八歳。はっはっは、陰陽術で若さを保っているとはいえ、流石に物悲しくなってくるなぁ」
『ウラノツカサ』の事情に詳しい学生は、転生者に限らずピースヘイヴンのことをこう呼ぶ。
永久に生徒会長の座に君臨する者──『
考えてみれば、自然の流れではある。
小等部から数えれば一二年の在籍期間がある『ウラノツカサ』だが、いかにピースヘイヴンが原作者であろうと、ほんの十数年程度で原作ではモブの集まりにすぎなかった組織を学園最大の派閥へ変貌させ、大量の汎用シキガミクスを配備した万全の支配体制を作り出し、世界を揺るがすような計画を練ることなどできはしない。
校則は問題にはならなかった。そんなものは、生徒会長になって学園の権力構造の頂点に立った時点で容易に握り潰せた。
「君もよくやっているな。学籍もないのに二〇年間も素知らぬ顔で学生をやっているなんて正気の沙汰じゃないぞ」
「だぁって。アナタを放ってなんておけないもの~」
からかうようなピースヘイヴンの物言いを、
──ピースヘイヴンが規則を強引に捻じ曲げて二〇年間生徒会長をやっているなら、
通常であればそんな横紙破りは通らないはずだが、彼女の手腕と──ピースヘイヴン自体が規則を捻じ曲げていることによる混乱で、そんな無法が罷り通っている。
「……どうして、デマなんて流したんだ」
そこで。
耐えきれなくなったように、
「『シキガミクス・レヴォリューション』の裏設定? ……そういう風に自分の作品を
「おいおい、神聖化しすぎじゃないか、『シキガミクス・レヴォリューション』を。あんなものは、今となっては実現することのない虚構の歴史に過ぎないだろ?」
「…………、」
それほど、彼女にとっては大きな問題だった。
『シキガミクス・レヴォリューション』とは。
少なくとも、オオカミシブキにとっては。
「分かった分かった。デマを撒いたことは詫びるよ。多くの生徒達の人間関係を破壊したことにではなく、『
「煙に巻こうとするな。俺は『何故デマを撒いたんだ』と聞いているんだ」
「単にそれが最善手だと判断したからだが?」
「『霊威簒奪』がか? 生徒会長として学校行事を掌握できる立場なら、学内での試合イベントを増量した方が霊気の蓄積速度は速いし波風も立たないだろう」
「……君の存在を意識していたからだよ。学内で混乱が起これば
「…………、」
ピースヘイヴンはすらすらと語るが、
証言については全く信用されていないらしい。ピースヘイヴンは困ったように肩を竦めると、続いてこう返した。
「そうこうしているうちに目的地だぞ、
「はぁい。…………ごめんね、
その会話のやりとりを以て、二人の間に横たわる空気が弛緩する。
居合わせた者の精神を削る類の重々しい沈黙から、空々しい喧騒へと。
一旦足を止めて二人が見上げた先。
そこは先ほどまでの校舎の外──正確には、部活動や生徒会活動にまつわる教室が集約された『部室棟』の外だった。
彼女達の視線の先にある校舎は、『図書棟』と呼ばれている。図書館を校舎単位まで拡大した施設で、四階建ての建物には総勢二〇万冊にも及ぶ本が所蔵されていると言われていた。
──
遊撃するならば、此処に突貫するのが話は早い。──もっとも、それだけ騒ぎを大きくすれば、向こうも当然手薄な久遠たちの方を狙ってくることは容易に想像できるが。
というわけで。
原作関係者二名は、敵の本丸にカチコミへ向かう。──防備を二人の後輩(今世年齢二二歳差)に丸投げして。
「あァ……お嬢様。どうやら予想は悪いほうに当たったらしいな」
時を同じくして。
足を止めた
そこにいたのは、深緑色のストレートヘアを腰ほどまで伸ばした、物静かな少女だった。
眼鏡の向こうの落ち着いた眼差しと言い、楚々とした歩き方と言い、およそ戦闘とは無縁のような印象を見る者に与える。こんな状況でなければ──いや、こんな状況であっても警戒することを忘れてしまいそうなほどには。
ただし。
その全身からは、尋常ではない戦意が滲み出ている。──既に外面を取り繕うような段階は過ぎ去っていると悟っているのか、敵対心を隠そうともしていない。
そして──隠そうともしていないのは敵対心だけではなかった。
傍らに佇んでいるのは、人型のシキガミクス。
体長二メートル程度の機体の頭部は顔面にあたる部分がデジタルモニタのような作りになっており、能面のような表情を画像で表示している。
新聞紙を巻きつけたみたいに文字列が乱雑にプリントされた体躯の中で、左胸に浮かび上がる『NO』の文字が特徴的だった。
「…………こちらの素性は、わざわざ説明せずともよろしいでしょうか」
秘書然としたその女は、左手の指でメガネを静かに押し上げながら口を開いた。
「ピースヘイヴンがいないのは好都合。
「へェ、見くびられたモンだな」
「『外』で名を上げた
傍らのシキガミクスが、両手を構えてファイティングポーズをとる。
「先に警告しましょう。『自分』を保ち続けたいのであれば、今すぐ降伏して私に道を譲ることをお勧めします」
「何? ガチで戦って勝てる気がしないから勝ちを譲ってくださいだって?」
静かに言う秘書然とした少女──
挑発に対し、
「……『
「『
二人の『プロ』が、激突する。