【改稿前版】唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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12 ある反逆の終了

 戦闘メイドが生徒会書記長と激戦を繰り広げていた、ちょうどその頃──。

 

 

「早速困ったな」

 

 

 嵐殿(らしでん)とピースヘイヴンの原作者チームは、目的地である図書棟に入るその前に立ち往生していた。

 

 生徒会執行部の本拠地としては、生徒会室が存在する部室棟があたる。

 しかし、生徒会執行部は役員だけで五〇人はいる大所帯である。活動中その全員が生徒会室に詰めているわけにはいかない。したがって、役職を持たない庶務の生徒は図書棟で様々な書類仕事をやるというのが通例になっている。

 嵐殿(らしでん)とピースヘイヴンは、そうした庶務生徒達が詰めているところへ乗り込んで反抗の機運を完全に叩こうとしている訳だが──

 

 

「そういえば、私の生徒証が連中に監視されている可能性を考えてなかった。どうしよう柚香(ゆずか)

 

 

 ──図書棟は、蔵書の盗難を抑制する為に入場時に生徒証に内臓されている陰陽回路(OC)チップを使って個人認証をしている。ピースヘイヴンも嵐殿(らしでん)もそれぞれのやり方でこの生徒証問題は自力で解消しているものの、この入場記録自体は生徒会執行部権限でいくらでも随時閲覧できるような仕組みになっていた。

 つまり、正規の方法で図書棟に入場した場合、ピースヘイヴンが侵入したことが生徒会執行部側に速攻でバレてしまうということになる。

 

 

「あらぁ、大変そうねぇ。お姉さんにはなーんにも関係ないけど」

 

 

 が、駅の改札機のような認証システムを前にして立ち往生するピースヘイヴンの横をするっと通り抜けて、嵐殿(らしでん)はいとも容易く認証システムを通過していく。

 同じ立場だと思っていたピースヘイヴンは目を丸くして、

 

 

「ええっ!? 柚香(ゆずか)は何で大丈夫なんだ!?」

 

「そもそも私自身の生徒証は書類上卒業した段階で失効してるしぃ。今私が持ってるのは、他の生徒の生徒証を複製したものだから。別にスキャンとかしても私だってバレる道理はないのよん」

 

「何だそれ、ズルいな……。私にも一枚分けてくれないか? どうせ複数持ってるんだろ?」

 

「嫌よ。何で私が協力しなきゃいけないの? 自分で何とかしなさいよ」

 

「えーっ!! ケチ!!」

 

 

 不満そうに唇を尖らせてぶーぶー言う元ラスボスだが、嵐殿(らしでん)は取り合う気もないらしい。

 

 

「何もできないなら私はさっさと先に行っちゃうわよぉ? 別に侵入がバレたって困らないんだし、盛大に侵入して陽動でもやったらどうかしら」

 

「そしたらお前が侵入してることも言って力の限り足を引っ張ってやる」

 

「このカス……!!」

 

 

 ギリィ……! と奥歯を噛み締める嵐殿(らしでん)だが、元ラスボスはそんなことはどうでもいいとばかりに地団太を踏んで、

 

 

「ウワーン!! なんとかしてくれよー! なーんーとーかーしーてーくーれーよー!!」

 

「分かったから敵地で泣き喚くんじゃない生徒会長!!」

 

 

 嵐殿(らしでん)は頭痛をこらえるようにこめかみを指で抑える。

 

 

「……トレイシーちゃん。何か勘違いしているようだけど、私達は仲間同士じゃないわ。たまたま利害が一致しているから一時的に行動をしているだけで、私たちは敵同士。あまり馴れ合わないでくれるかしら?」

 

「それは君が、昔の感覚に戻ってしまうからかい?」

 

「…………、」

 

「待て待て待て待て! 今のは私が悪かった!!」

 

 

 一気に冷え込んだ空気のその場を後にしかけた嵐殿(らしでん)に、ピースヘイヴンは慌てて待ったをかける。

 その様子を見て重いため息を吐いて、嵐殿(らしでん)は問いかけた。

 

 

「次はないからね。……でも、アナタならこんな認証システム程度いくらでも通過できるんじゃないの?」

 

「そうだが、君、それを見て私の霊能の推測材料にしようとしてるだろ」

 

 

 しれっと言われて、嵐殿(らしでん)は思わず息を呑んだ。

 コメディなノリに隠して、確かに嵐殿(らしでん)はピースヘイヴンの霊能について確認しようとしていた節はある。

 ──都合三八年ほどこの世界で活動していて、それなりに互いのことを認識していた期間も長い二人だが、それでも未だにお互いの霊能についてはほぼ把握できていないと言ってもいい。

 既に野望は折れた──と宣言しているピースヘイヴンに対して嵐殿(らしでん)が未だに能力を知ろうとする姿勢を崩さないのは、前世(かつて)の姿を知っているからか。

 

 

「もう計画自体は潰えているので教えてしまっても問題はないのだが、せっかく今まで隠し通してきた霊能なんだ。さっさと教えてしまうのも味気ないだろう?」

 

「アナタはまたそうやって……」

 

 

 ピースヘイヴンはそう言って、茶目っ気を出しましたとばかりにウインクをする。嵐殿(らしでん)は呆れたように首を振って嘆息するしかなかった。

 嵐殿(らしでん)の雰囲気がいくらか弛緩したのを見て取ったピースヘイヴンは、頼りなさげな笑みを浮かべて言う。

 

 

「……それじゃあ、スペアの学生証貸してくれないか?」

 

「そもそもスペアの学生証なんて今持ってないわよん」

 

「ちくしょーっ!!」

 

 

 だん!! と、膝から崩れ落ちるピースヘイヴン。

 彼女に憐れみの視線を投げかける嵐殿(らしでん)と併せ──彼女達が転生者の中でも指折りの重要人物であるとは、余人には分からない有様だった。

 

 

「それじゃ、私は一足先に潜入してるわぁ。トレイシーちゃんは派手に突入して暴れちゃってねぇ」

 

「え!? おい待て! 柚香(ゆずか)! 待って!!」

 

 

 必死に呼び止めるが、嵐殿(らしでん)は最早ピースヘイヴンの方へは振り向きもせず、ひらひらと手を振って立ち去ってしまった。

 そうは言っても実は戻ってきて面倒を見てくれるんじゃないか? とちょっと期待していたピースヘイヴンだったが、三〇秒ほど待っても嵐殿(らしでん)が戻って来ないのを確かめると、いそいそと立ち上がる。

 俯きがちなその表情は遠目には伺い知れないが──

 

 

「……分かった。じゃあもう全部めちゃくちゃにしてやる」

 

 

 顔を上げたその、いっそコメディに触れ切った不機嫌そうな表情。

 

 直後。

 

 トレイシー=ピースヘイヴンの姿が、()()()

 

 

 

 …………。

 

 …………。

 

 

 

 それから一〇分ほど後。

 嵐殿(らしでん)とピースヘイヴンは、それぞれくたびれた様子で図書棟から退場していた。

 

 

「……というわけで、普通に全員ボコった訳なのだが」

 

「アナタの中でさっきまでの戦闘はカットされてる扱いなのね……」

 

 

 そうぼやく嵐殿(らしでん)は、服装こそ乱れていなかったが、うっすらと汗をかいている。

 隣を歩くピースヘイヴンも、手をパンパンと叩いて一仕事終えた感を演出していた。どちらもこの世界でも有数の実力者である二人には似つかわしくない苦戦の跡を感じさせる姿だったが──

 

 

「……アナタ、加減とかできないわけ?」

 

 

 ──そんな二人の惨状も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「私が居なかったらどう考えても図書棟倒壊してたわよ……?」

 

 

 大前提として、生徒会執行部の造反勢力は完全壊滅していた。

 彼ら彼女らの扱うシキガミクスは一機残らず大破し、本人たちも今も大小さまざまな負傷を負って図書棟の床に転がっていることだろう。──生徒会執行部の半数、およそ二五名ほどが、である。

 伽退(きゃのく)の霊能に屈服して寝返ったり、あるいは直接的に霊能によって洗脳されたり、普通に口車に乗せられたり──造反した役員達はその程度のレベルの人間でしかない。

 それでも陰陽師として陰陽術を修め、シキガミクスを行使する能力を持った人間が二五人である。少なくとも、二人なんていうごく少数で対応するならば、ぶつかり方を工夫しない限り手痛い反撃を食らうのは確定のはずである。

 だが、彼女達の常識外れはそこに留まらなかった。

 

 

「壁は壊す、天井は壊す、床は壊す。……挙句の果てに私の方に敵が大量に雪崩れ込んでくるように仕向ける。いやがらせにしても陰湿すぎないかしらぁ?」

 

「フンっ。私を見捨てた罰だ」

 

 

 『メガセンチピード』を殴打のみで粉砕できる、圧倒的な戦闘能力。

 それはつまり、平凡な建物の建材など発泡スチロールのように粉々に殴り砕くことができるということである。そしてそれは、屋内というある種の限定された地形戦において、『地形を無視できる』というカードとして機能する。

 ピースヘイヴンは、己の霊能を秘匿する為にこのカードをとにかく使い倒した。

 結果として、図書棟は倒壊していないのが奇跡というレベルで破壊され尽くしてしまったのだが──

 

 

「それに、造反者を叩きのめしたはいいが、この後が問題だ。何せ首謀者の伽退(きゃのく)も併せて生徒会執行部の人員が半減してしまう訳だからな。学生牢の逼迫も問題になりそうだし、生徒会執行部の影響力も激減だ。組織の長としては頭が痛いことばかりだよ」

 

「うーん、お姉さんてば自業自得以外にかける言葉が見つからないわ」

 

「お姉さんを自称するならもう少しママみを出せ変態痴女め」

 

 

 何らかの拘りが見える恨み言を吐き、舌打ちを一つ。

 

 

「ともかく、だ。これで後顧の憂いは断った。だが大丈夫なんだろうな?」

 

 

 嵐殿(らしでん)の横を歩いていたピースヘイヴンは、前に出てからくるりと振り返り、上目遣いで嵐殿(らしでん)の目を見据えて念を押した。

 ──反乱分子の大半は鎮圧できた。だが、あくまでも計画の首謀者は伽退(きゃのく)であり、彼女の目下の目的は園縁(そのべり)久遠。そして、園縁(そのべり)久遠への加害は即ち神様の逆鱗への抵触を意味する。導き出されるのは、然る後の破滅だ。

 

 

「君のところのメイドがしくじっていたら、私はこれから高飛びの計画を練らなくちゃならなくなるんだがね」

 

「それなら心配には及ばないわよん」

 

 

 冗談めかしたピースヘイヴンに、嵐殿(らしでん)はスマートフォンタイプの霊話端末をちらつかせながら笑う。

 

 

「さっき薫織(かおり)ちゃんと連絡がついたわ。伽退(きゃのく)ちゃんは無事確保したって」

 

 

 


 

 

 

 

12 ある反逆の終了

>> DEEP GROOVE

 

 

 


 

 

 

 というわけで、紆余曲折ありはしたものの、薫織(かおり)流知(ルシル)嵐殿(らしでん)とピースヘイヴンはそれぞれ自分達の役割を全うして合流を果たした。

 

 

「……面倒臭せェ役目を押し付けやがって」

 

「そうですわよ! 結局ボスは薫織(かおり)が倒したんですからね!」

 

 

 もっとも、薫織(かおり)達には言いたいこともあるようだったが。

 シキガミクスを破壊して無力化した伽退(きゃのく)を学生牢に放り込んだ薫織(かおり)達は、薫織(かおり)の自室で嵐殿(らしでん)達と合流した後、開口一番にそんな文句を言っていた。

 

 

「それについては感謝する。ありがとう助かったよ。私が迎撃役を買って出ていたら伽退(きゃのく)君はおそらく警戒して表に出てこなかっただろうからね」

 

「うぐぅ……素直に感謝されると強く出づらいですわ……」

 

「バーカ。それを狙って殊勝な態度とってんだよ」

 

 

 速攻で丸め込まれた流知(ルシル)の頭をポンポンと叩きつつ、薫織(かおり)は真っ直ぐにピースヘイヴンを見つめる。

 

 

「まァ実際のところ、面倒臭せェ役目を押し付けたことについてはもう良いがよ。伽退(きゃのく)のヘイトは大分根深そうなモンがあったぞ。テメェ、何かあくどい真似を別口でやってたりはしてねェよな?」

 

「思い当たる節がありすぎて心当たりが絞り切れない……というのが本音だが」

 

 

 薫織(かおり)の詰問に対し、ピースヘイヴンはあっさりと答えた。

 

 

「彼女は『外』の裏社会からの刺客だったんだろう? ならばおそらく、動機の大半は世界の現状……自分が経験してきた苦境を『設定』した私への恨みだろう。正当な憎しみだな」

 

「…………くっだらねェ」

 

 

 薫織(かおり)はつまらなさそうに舌打ちを一つして、

 

 

「サブのプランを裏で走らせているとかって訳じゃなさそうなのは分かった。無粋なことを聞いたな」

 

遠歩院(とおほいん)君。君のメイドって任侠と書いてメイドと読ませるタイプなのかね」

 

「わたくしもまだ完全には掴み切ってないんですの……。雰囲気は何となく分かりかけてきたのですが……」

 

 

 メイド観。人生観に並ぶ難しい話題である。ひょっとしたら、この突然変異メイドのそれを完全に推し量ることなど不可能なのかもしれないと、流知(ルシル)はどこか諦め混じりに考えていた。

 

 

「オマエら遅かったな。わたしは、わたしは、ずっと、ずっと待ってたんだぞ」

 

 

 と、震える声を抑えながら四人を出迎えたのは、留守番係に任命されていた冷的(さまと)だ。

 神様相手の接待ゲームを余儀なくされた冷的(さまと)は、ぷるぷると生まれたての小鹿みたいな感じになっている。全体的に不憫極まりない有様であった。

 

 

「あー……なんというか、申し訳ございませんわ。カガミサマも、そう怖いばかりの方ではありませんのよ?」

 

「まァお嬢様は神様(ヤツ)に多少気に入られてるしな」

 

「だと思ったぞオマエ昔話で良い思いするタイプだもんなー!!」

 

 

 わーん! と冷的(さまと)は目をバッテンにして泣く。神様は不平等である。もっとも、神様と一緒にゲームをしても特に何の祟りもない冷的(さまと)もまた大分気に入られている部類ではあるのだが。

 

 

「さて、本題だ。いよいよ『草薙剣』のコピーに入っていくぞ」

 

 

 冷的(さまと)が合流してきたところで、ピースヘイヴンがどかっとベッドに腰かける。神様と久遠は居間でゲームの続きをしているらしいので、こういった込み入った話をするならば今がチャンスなのであった。

 

 

「まずは前提の共有をするか。たまに誤認している読者もいたことだしな」

 

 

 ピースヘイヴンはそう前置きをしてから、

 

 

「『草薙剣』とは『神様』スサノオノミコトの霊能を()()()()使()()()()()()()()特殊なシキガミクスだ」

 

 

 転生者(どくしゃ)にとっては大前提。

 その事実を、原作者は語っていく。

 

 

「分類としては『神託型』に分類される。怪異や霊魂を機体に封じる『封印型』だと誤解されがちだが、究極的にはスサノオの協力がなくとも運用できるのが『草薙剣』の長所でもあり短所でもあった」

 

「せめて強奪された時の為のセーフティ機能くらいつけとけよと思わなくもねェが」

 

「仕方があるまい。下手に認証機能をつければ悪用されるリスクの方が高かったのは原作(れきし)が証明している」

 

 

 ──もちろん、『草薙剣』のセキュリティ的脆弱性については原作でも改善が提案されたことがあった。

 たとえば、利用者を登録して強奪のリスクを減らそうというもの。しかし、その施策が検討された直後に発生したのが、利用者候補となった人員の誘拐と成りすまし。霊能というあまりにも自由すぎる概念の前では、下手なセキュリティは却って強奪者に利するという結論がなされたのも無理はなかった。

 結局は、霊能によるごり押しが通じないくらいの物理的な障壁で『草薙剣』を守るのが『原作』での結論だったが──結果として、何らかの方法でこの物理的な障壁を貫通して『草薙剣』を奪われてしまったのが現状のウラノツカサである。

 

 

「本来、余剰霊気は『常世』という追加領域に退避することで霊気の淀みを解消し、百鬼夜行(カタストロフ)を防止する仕組みになっていた。だが、五〇年前の怪異の『再発』によってこの機構は最早機能不全に陥っている。……『草薙剣』の霊能は、こうした余剰霊気を『常世』へと移送することだ」

 

 

 霊気淀みを解消し、百鬼夜行(カタストロフ)を防止する霊能。だからこそ、『草薙剣』は百鬼夜行(カタストロフ)に対するジョーカーとなっていた。

 ただし、この霊能は百鬼夜行(カタストロフ)にのみ有効となるわけではない。

 人に向ければ、その身から放たれる顕在霊気を丸ごと『常世』に移送されることになる。必然的に、『草薙剣』の太刀を受けた者の霊能はキャンセルされるのだ。

 ──霊能阻止(スキルジャミング)。『草薙剣』が何者かによって盗難の憂き目にあったのも、こうした戦力としての優秀さが関係しているのは間違いない。

 

 

「とりあえず、『草薙剣』を再建する」

 

 

 そんな絶望的な状況において、『ライ研』が用意していた策というのは。

 

 

「……その話は前にも聞ーたけど、具体的にどうするんだぞ? 流知(ルシル)の霊能って、戦闘タイプではないらしーけど……」

 

「ああ、わたくしの霊能は飛躍する絵筆(ピクトゥラ)。このシキガミクスが触れたものの表面に望んだイラストの『完成図』を出力することですわ。ほらこんな風に」

 

 

 言って、流知(ルシル)は何気なく適当な紙に木製のGペンを触れさせた。

 とん──とそこから水面に波紋が広がるようにして、白紙の表面にイラストが広がっていく。浮かび上がったのは、金髪碧眼の神経質そうな美少女の姿。

 

 

「おおっ!? すご!! これが流知(ルシル)の霊能なのか?」

 

「ええ! これこそ世界最高の霊能ですわ! 出力できるイラストはわたくしがきちんと完成図までイメージしている必要があるとか、わたくしの画力で描けるものでないといけないとか、多少の制約はありますが……下書きとか線画とかそういうのをすっ飛ばして、どんな場所にも好きな画材でイラストを描くことができるんでしてよ!! しかも一度描いたイラストは時間経過でも解除されません!」

 

 

 胸を張って力説する流知(ルシル)

 実際、イラストを描くものにしてみれば夢のような霊能であるのは間違いないだろう。戦闘においてはほぼ無意味もいいところな霊能だが。

 ただ、それだけに冷的(さまと)の脳内に当たり前な疑問が生まれる。

 

 

「凄い……とは思うけど、これがどーやって『草薙剣』の再建に繋がるんだぞ?」

 

「シキガミクスってのは、()()()()()()()()()()()()()モンだろ」

 

 

 首を傾げる冷的(さまと)だったが、薫織(かおり)の一言を聞いてそのまま顔を蒼褪めさせる。

 それは──つまり。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「と、とんでもないチート霊能だぞ……」

 

「此処だけ聞けば、そうかもしれねェが……」

 

 

 唖然とする冷的(さまと)だったが、薫織(かおり)の含みのある言葉を聞いて思い直した。

 確かに、作中の重要なアイテムを完璧に複製できるという点だけ聞けば反則(チート)級の霊能だが──あまりにも活躍できる場所がピンポイントすぎるのだ。

 乾いていないペンキなどを使って足場を悪くする応用もあるにはあるが、触れたところからイラストを描くという霊能の性質上、影響を真っ先に受けるのはよほど状況をコントロールできない限り自分になってしまう。引火しやすいシンナー等を発現して火をつけるにしても同様の難点が立ちはだかるし──考えれば考えるほど、戦闘的な意味での伸びしろが見いだせなくなる。

 むしろ──。

 

 

「察したか? ……この話が下手に広まれば、流知(ルシル)はシキガミクスの複製ってところだけが無用にピックアップされて警戒されるだろう。人格的にも霊能的にも戦闘向きじゃねェのに、たった一つの抜け穴みてェな悪用法だけがクリティカルすぎる。……これはそういう厄介なシキガミクスなんだよ」

 

「な、なんて難儀な……」

 

 

 冷的(さまと)だったら、その事実に気付いた時点で速攻で放り投げるシキガミクスである。もっとも、放り投げたところで『そんなシキガミクスを運用できる』という事実があるだけでその後も狙われ続ける、そういう類の厄ネタなのだが……。

 そう考えたら、流知(ルシル)を襲った際の薫織(かおり)の異様な合流速度の早さにも頷ける冷的(さまと)だった。むしろ、冷的(さまと)流知(ルシル)を襲えたのがある種のイレギュラーと呼べるかもしれない。

 

 

(……考えてみれば、コイツにしたら自分を襲ってきたわたしは、『稀有な霊能を狙ってきた怖いヤツ』に映っていたのかもしれないな……)

 

 

 改めて自分の罪を思い出した冷的(さまと)は、人知れず落ち込んで視線を下に落とす。

 薫織(かおり)はそこから話を若干逸らして、

 

 

「それに、飛躍する絵筆(ピクトゥラ)がいくら理論上完璧な内部血路を描けるとしても、霊能の性質上、元となる図面がなければお話にもならねェ。原作者(ピースヘイヴン)っていう『完璧な図面を用意できる存在』がいて初めて実現する策なんだよ、これは」

 

 

 だからこそ、ピースヘイヴンから図面を引き出すことが可能(という触れ込み)な嵐殿(らしでん)のはたらきが重要視されていたという部分もある。もっとも、今はピースヘイヴン本人の協力を取り付けることができているが。

 

 

「だからわたくし、最初に冷的(さまと)さんに襲われた時は、てっきり何か再現して欲しいシキガミクスの図面でもあるのかと思ってましたの」

 

 

 世間話でもするみたいに、流知(ルシル)はのほほんと言った。思い出したくない己の罪をつつかれた冷的(さまと)はしゅんと俯いて視線を逸らす。

 なお、元凶であるピースヘイヴンはどこ吹く風であった。

 

 

「そ、その節は……悪かったんだぞ……」

 

「あ、いえ! そうではなくてですね、あの時『困っていることがあるなら協力しますわ』って言っていたでしょう? アレ、実はちょっと『草薙剣』の図面を持ってるんじゃないかって期待も半分だったのでしてよ。わたくしを襲うということは、わたくしの霊能に何かしら期待している可能性があるということですから……」

 

 

 流知(ルシル)は気まずそうに苦笑して、

 

 

「わたくし、レイア様ほど人間ができているわけではありませんの。だからこういう風にわりと現金なことを考えていたりするので……あんまり気にしすぎないでくださいましね」

 

「……なんていうか、もー、わたし、オマエに一生頭が上がらない気がしてきたぞ……」

 

「どうして今の流れでそうなるんですのっ!?」

 

 

 


 

 

 

一目で全体が木製だと分かるGペン型シキガミクス。

片手で扱える通常サイズだが、持ち手を捻ることで最大で一・五メートル程度まで伸長し、槍のように取り回せる。槍状態では通常の槍に比べるとかなり細身となるが、それでも鉄棒以上の頑強さを誇る。

 

触れたものの表面にイラストを描いていく能力。

書く動作を行わず、触れた箇所からインクが広がるように描画される。

また、下書きなどを無視していきなり術者のイメージしたイラストの完成形を描画することができる。

 

材質も無視することができ、ガラスの上に鉛筆画を描いて定着させることも可能。また、乾燥具合や塗料の材質なども実在する限りで自在に設定できる。

 

元々は物質創造系の能力だったが、本人の趣向でイラスト具現化能力に調整された。

飛躍する絵筆(ピクトゥラ)

攻撃性:40 防護性:40 俊敏性:20

持久性:20 精密性:本人次第 発展性:70

※100点満点で評価

 

 

 


 

 

 

 そんなこんなで。

 ピースヘイヴンが『草薙剣』の設計図を書いている間、暇になった面々は居間でゲームをしている久遠達と合流することに。

 

 

『おお、戻ってきましたか冷的(さまと)。待っていましたよ』

 

「何だよサメガキ、お前も好かれてんじゃん」

 

「わたしみたいな小悪党はいつ神様の逆鱗に触れるか分かったもんじゃないから怖いんだぞ……!」

 

『この小動物感、可愛いと思いませんか? 薫織(かおり)

 

 

 完全に愛玩動物としての好意であった。

 神様の尺度での『好かれている』は、必ずしも人間の尺度で喜ばしいものとは限らない。冷的(さまと)の震える理由が何となく分かった薫織(かおり)である。

 非常に気の毒な事になっている冷的(さまと)に対して、ゲームを一時中断した久遠は肩を組みながら、

 

 

「まぁまぁ。静夏(しずか)はわたしの友達ですから、花蓮ちゃんも手荒な真似はしないのです。そんなに緊張するこたぁないのですよ」

 

「あ、姐さん……!」

 

「そういう格付けになってんのか……」

 

 

 ちょっと見ない間に久遠を姐さん呼ばわりすることになっている冷的(さまと)に、薫織(かおり)は少なからず同情の念を禁じえなかった。

 ちなみに久遠は中学二年生なので、中学三年生の冷的(さまと)は前世も(猫なので)ほぼ存在していない下級生の舎弟みたいなことになっているのだった。

 

 

「よーし、わたくしも混ぜてくださいまし!」

 

「お! 歓迎するのです流知(ルシル)ちゃん。何故ならこのゲームは四人用なので……!」

 

『──フ、果たして人の子に私の牙城が崩せますか──?』

 

「ゲームでそんな神様アピールされても困るんだぞ」

 

 

 なんだかんだでワイワイと楽しみつつある(地味に神様にツッコミもできてる)四人を少し離れたところから見守りながら──薫織(かおり)はダイニングテーブルについた嵐殿(らしでん)にお茶を振舞う。

 

 

「……ああ、ありがとう」

 

「あんま根詰めすぎんなよ」

 

 

 現状は、至って順調である。

 当初の予定とは違い戦闘なしにピースヘイヴンの協力を取り付けることができた為、ほとんどのメンバーが消耗することなく『草薙剣』複製にこぎつけることができた。

 今は肝心の『草薙剣』の機体を作る為の素材がないが、生徒会の権力を使えばそれも労せずこなすことができる。この分ならば、明日には『草薙剣』を製造して百鬼夜行(カタストロフ)の危険をとりあえず消し去れるだろう。

 もちろんその後も世界の危機は頻発することになるが、それでもジョーカーを再建できれば『避け得ない世界の終わり』というウラノツカサ全体を覆う閉塞感は打破できる。

 しかしそれでも、当事者の心労が完全に消え失せる訳ではない。特に、ピースヘイヴンと嵐殿(らしでん)──否、『虎刺看酔』と『オオカミシブキ』の関係性を断片的ではあっても知っている薫織(かおり)としては、そこが気がかりになっていた。

 

 

「何か、気になることでもあんのか。わざわざヤツと一緒に行動するなんてよ」

 

 

 本来であれば、あの場で嵐殿(らしでん)はピースヘイヴンと行動を共にする必要はなかった。

 お互い腕の立つ使い手だし、霊能の都合上、単独行動を好んでいる嵐殿(らしでん)としても誰かと共に行動するのは足枷にしかならない。

 それをおしてピースヘイヴンと行動を共にしたのは──一緒に行動することで霊能を探りたかったという思いももちろんあるにせよ、一番大きい動機は『現在のピースヘイヴンを見定めたい』という気持ちであることに疑う余地はない。

 

 

「……俺は、今から二三年前、高校生の時にトラと再会してね」

 

 

 溜息を吐くみたいに、嵐殿(らしでん)は話し始めた。

 

 

「俺は編入組だったからな。当時から既に、トラは生徒会長をやっていた。驚いたよ。生徒会は俺の知っているあの世界と違って、しっかりとした組織として成立していた。まるでフィクションに登場する生徒会みたいだった」

 

 

 生徒会執行部は、元々モブの集団のような脇役じみた組織だった。精々サブキャラクターのプロフィールに載っている程度の属性。それが生徒会執行部というものだった。

 

 

「当時から、既に『草薙剣』は失われていてね。トラは『草薙剣』に変わるセーフティネットを構築しようと模索している段階だった。俺も、二もなく協力を申し出たよ。……あの頃は、……いや何でもない」

 

 

 嵐殿(らしでん)はそこで言葉を止めて、静かに頭を振った。

 聞かずとも、その言葉の続きは薫織(かおり)には分かっていた。『あの頃は幸せだった』──嵐殿(らしでん)の表情は、そう如実に語っていた。

 無理もない、と薫織(かおり)は思う。無二の親友と共通の目的の為に力を合わせられる環境。どれほどの苦境だったとしても、当時の嵐殿(らしでん)は幸せだったに違いない。そしておそらくは、ピースヘイヴンにとっても。

 

 

「それから三年間、俺は生徒会副会長としてトラの右腕をやっていた。霊能は互いに秘密にしていてな。『全力で隠すから当ててみろ』……そういう遊びが好きなヤツなんだ」

 

 

 しかし──三年後。つまり今から二〇年前、二人に転機が訪れる。それも、これ以上なく悪い転機が。

 

 

「高校三年生の秋だった。俺達は、『草薙剣』の代用に成功した。今回のような完璧な複製ではないが、少なくとも『原作』における役割を果たすくらいのことはできるようにはなった」

 

「それは……スゲェじゃねェか」

 

「ただ、当時の生徒会役員が欲に目を眩ませてね。完成した代用品を盗もうとした」

 

 

 ──百鬼夜行(カタストロフ)の防止。余剰霊気の移送というのは、人間相手に使えばあらゆるシキガミクスを機能停止に追い込むことができるジョーカーになる。

 手にすることができれば、最強の切り札を獲得できるのと同義だ。ウラノツカサから卒業間近で百鬼夜行(カタストロフ)に巻き込まれる危険も薄い人間であれば、魔が差すこともあるかもしれない。

 

 

「…………、」

 

「もちろん盗難は阻止された。俺とアイツがいるんだ、当然だろう? ……ただ、信じていた仲間の裏切りに遭ったアイツは、そこで絶望した」

 

 

 悲痛な面持ちで、嵐殿(らしでん)は静かに言い添えた。

 痛恨。そう表現するのが相応しいくらいに──己の罪を責めているような表情だった。

 

 

「二〇年後の百鬼夜行(カタストロフ)を阻止したところで、意味がない。誰かが少しでも欲をかけば即座に瓦解する。ならば、ただ穴埋めをするだけでは対応として不十分だ。……ま、詳しいやりとりは省くが、そこで発生した方針の違いによって、俺達は袂を分かつことになったんだ」

 

「……その話を聞く限りじゃあ……」

 

「ああ。……現状は、ヤツが絶望したとりあえず目先の破滅を防ぐ、言い換えれば『誰かが欲をかけば瓦解する』方針でしかない。ヤツの策が頓挫したことでとりあえず妥協をしているならば、俺の取り越し苦労でしかないが……」

 

「随分警戒してくれるじゃないか」

 

 

 そこで。

 話に割って入るように、ピースヘイヴンがダイニングテーブルにつく。

 予想外の乱入に息が止まる嵐殿(らしでん)とは対照的に、薫織(かおり)は静かにピースヘイヴンの分の紅茶をテーブルに置いて、

 

 

「設計図は?」

 

「書き終わったよ! 後は明日、生徒会所有の資材をかき集めればいい。あー、遠歩院(とおほいん)君の霊能が使えれば楽だったんだがね」

 

 

 ピースヘイヴンはそう言ってから、温かな紅茶を一口含み、喉を潤す。

 

 

「……警戒するのも無理はないと思っているよ。そう思われても仕方がないだけのことを、してきた自覚はある。詫びるつもりはないが」

 

 

 寂しそうに言って、ピースヘイヴンは視線を横合いにずらす。

 エヴァーグリーンの瞳には楽しそうにゲームに興じる四人の姿が映っていた。

 

 

「だが、私は別に仲間(かれら)に絶望した訳じゃない。今こうして此処にいるのも、それが理由さ。……これだけでは、信じるには足りないか?」

 

 

 ピースヘイヴンの視線が、嵐殿(らしでん)と交錯する。

 先に視線を落としたのは、嵐殿(らしでん)だった。そんな彼女に寂しそうな笑みを向けてから、ピースヘイヴンはきっと表情を切り替えると、立ち上がって声を張り上げる。

 

 

「…………さて! 仕事も終えたし、私もゲームに混ぜてもらおうか!! どれ、負けたヤツが交代するルールで行こうじゃあないか!」

 

 

 四人でゲームに興じている集団に飛び込んでいくと、ピースヘイヴンは大人げなくコントローラ争奪戦を勃発させていく。

 

 

「あ、わたくしもうそろそろ寝ようと思っていたので、代わりにどうぞ……」

 

「駄目だ! 今日は徹夜でやるぞ!!」

 

「ええ!? 明日は全校集会ですわよ!? 他にも色々目白押しなのですから、明日に備えて寝ましょうよぉ!」

 

「フハハハ陰陽術を極めれば睡眠など不要! よって徹夜ゲーム!」

 

「いやあああこの人精神が明日の講義のことを一切考えない男子大学生になってますわああああ!?」

 

 

 なんだかんだで仲間の輪の中に入って行って笑うピースヘイヴンの横顔を見て、薫織(かおり)は静かにダイニングテーブルにつく。

 

 

「まァ、飲めよ。(オレ)にゃあ、話を聞いてやることしかできねェが……」

 

「十分だよ」

 

 

 ぬるくなった紅茶を啜って、嵐殿(らしでん)は一言、呟くように言った。喧騒の環の中にいる誰かさんには絶対に聞こえないような声量で。

 

 

「……今は、それだけでも十分だよ」

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