【改稿前版】唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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13 裏切りの胎動

 世界がヒビ割れるような音が、どこか遠くから聞こえていたような気がした。

 

 濛々(もうもう)と立ち込める煙。破砕された壁──木材の破片。その中心では、半ばめり込むような形で一人のメイドが壁に背を預け座り込んでいた。

 否──座り込んでいたというよりは、()()()()()()()()()というべきか。いったいどんな衝撃を加えられれば人体が原型を留めたままこんな状態になるのか、そんな感心さえ抱いてしまうほどに、現実離れした光景だった。

 

 

薫織(かおり)……!!」

 

 

 メイドの傍らには、一人の少女がいた。

 美しい金髪が振り乱れるのもお構いなしにメイドに呼びかける少女の横顔は、血と涙に汚れていた。

 

 

「大丈夫だからね!! 心配要らないよ! 今、今、久遠(くおん)ちゃんを呼んだから!!!!」

 

 

 しかし──血に汚れた横顔は、別に彼女の負傷を意味しているわけではない。

 夥しい血液の源は──座り込んだメイドの脇腹にあった。

 

 

 端的に言うと、メイドの脇腹には風穴が空いていた。

 

 拳大の穴が、ぽっかりと。

 そしてそこから、生命の源が漏れるみたいに夥しい血液が流れ出て、漆黒のメイド服をどす黒い赤に染め上げていた。

 

 

「カガミサマが……『神様』が来ればきっと何とかしてくれるから!! だからそれまで絶対に意識だけは保つんだよ! 分かった!? ねぇ返事してよ!! ご主人様の命令だよ!!」

 

 

 しかし、呼びかけられたメイドの視線は、虚ろに宙を彷徨うばかり。

 少女に握られたその手も、今は握り返す力すらないようだった。

 

 そんな二人に、ひとつの影が差す。

 光を遮るように佇むそいつは──嘘みたいに冷たい眼差しで、死にゆくメイドの姿を見下ろしていた。

 

 メイドは、虚ろな眼差しでそいつを見上げ、ぽつりと一言、溢すようにその名を呼んだ。

 

 

 

 

「…………(らし)殿(でん)

 

 

 


 

 

 

 

13 裏切りの胎動

>> FOR THE AMBITION

 

 

 


 

 

 

「…………んぁ?」

 

 

 翌朝。

 夜を徹してのゲーム大会の途中で脱落した流知(ルシル)は、甘い匂いとフライパンで油が弾ける音で目を覚ました。

 おそらくキッチンで薫織(かおり)が料理をしているのだろう。むくりと身体を起こすと、隣のベッドに冷的(さまと)と久遠が転がっているのが見えた。薫織(かおり)の部屋の寝室にはベッドが二つあるので、徹夜のゲーム大会で寝落ちした者からベッドに放り込まれたのだろう。

 

 

「お風呂、途中で入っておいて正解でしたわぁ……」

 

 

 欠伸を噛み殺しながら、流知(ルシル)は掛布団を避けてベッドから降りる。他人様の部屋のベッドなのでとりあえず形だけでも整えておきたいところだったが、それをやると後で異常メイドから文句を言われるのであえてそのままにしておく。ご主人様なのになんで文句を言われるんだろう。流知(ルシル)はちょっと不思議に思った。

 

 そんな日常の不満はさておき、流知(ルシル)は朝ごはんにあずかるべくダイニングへと移動する。

 薫織(かおり)の部屋──に限らず、『ウラノツカサ』の学生寮は基本的に1LDK脱衣洗面所風呂トイレ付が基本だ。玄関から一直線に伸びた廊下に脱衣洗面所・バスルームとトイレ、寝室がそれぞれついていて、その先の突き当りにリビングとダイニングとキッチンがあるという構造になっている。

 左手にキッチンと対面式のダイニング、右手にリビングがあるので、1LDKという字面に反してかなり開放的な作りになっている──が、薫織(かおり)の部屋は昨日夜遅くまで遊んでいたにも拘らず、信じられないほど綺麗に整頓されていた。

 

 

「……おう、おはようお嬢様」

 

「あら~流知(ルシル)ちゃん、おはよう~」

 

 

 ダイニングまでやってくると、キッチンでは薫織(かおり)が料理を、ダイニングでは嵐殿(らしでん)が配膳をしている。

 流知(ルシル)はそこで薫織(かおり)がどことなく不機嫌なことに気付いた。

 

 

「おはよう、お二人とも。……薫織(かおり)、どうしてちょっとムッとしてますの?」

 

「……料理の隙を突かれて配膳役を取られた」

 

「なんなんですのその地雷……」

 

 

 普段はどこか超然としているメイドが『拗ねた部分』を見せるところがそこなのか……と思うと何か複雑な気持ちになる流知(ルシル)だった。

 そこで、流知(ルシル)はふと気付く。

 

 

「そういえば、会長はどうしましたの? 寝室にもいませんでしたけど」

 

「あァ。ヤツなら今朝早くに出て行ったよ。生徒集会の準備があるんだと。執行部半分が学生牢送りになったから仕方ねェんじゃねェか?」

 

 

 薫織(かおり)はそう言ってから数枚の紙束を虚空から『取り寄せ』ると、

 

 

「ちなみに、設計図はちゃんと預かってある」

 

 

 直後、パンと音を立てて設計図が消え去る。

 『裏階段』に収納しただけなのだが、この様は何度見ても不思議だ、と流知(ルシル)は思う。

 

 

「……いやお待ちになって。あの方、わたくしが寝落ちしたときもまだゲームやっていましたわよ? いったいいつまでゲームやってたんですの?」

 

「さァなァ。お子様組が寝落ちして、お嬢様がソファの上でくたばったあとは、カガミサマとゲームやってた。(オレ)はその後日の出まで寝てたから知らねェが……多分完徹してんじゃねェか?」

 

「ええ……」

 

 

 一応生徒会長のはずなのに一番挙動がヤンチャなのはどういうことなのだろうか。あと地味にこのメイドも日の出まで寝ていたって睡眠時間はとんでもないことになっているのではないだろうか。色々と不思議である。

 

 

「というか、昨日も少し話していましたけど、あの人あれで三七歳ってマジなんですの……?」

 

「まぁ、子どもっぽいわよね~」

 

「いえそうではなく。挙動はさておき、見た目は本当に高校生相当じゃありませんの? 三〇過ぎのお肌じゃありませんわよ……」

 

「あ~……。まぁ、アイツは陰陽術を極めてるからねぇ……。陰陽術は霊気の流れを読み操る技術でしょ? 普通は体内の霊気の巡りを調整して健康になる程度で、劇的な変化はないんだけど……アイツレベルになるとね~。不老不死に片足突っ込んじゃうというか」

 

 

 嵐殿(らしでん)は笑い話のように言うが、もちろんこれはとんでもない話である。

 確かに陰陽術は霊気を操る技術だ。陰陽術が義務教育となったこの世界では、誰もが子どもの頃から陰陽術に親しんだ結果、がんリスクが大幅に低下し、健康寿命は一〇〇歳を超えるほどになった。ただそれでも老いを克服できた人間はいないし、年齢相応に体力も落ちていくことになる。

 二〇巻近い『原作』の歴史において、登場したいかなる強者であっても、人間の範疇に収まっている存在が不老不死という領域に辿り着いたことはない。そう言えば、ピースヘイヴンがどれほどのイレギュラーかは分かるだろう。

 もしもその霊気制御技術をきちんと全世界に開陳すれば、おそらく十数世代クラスで陰陽術の基準が更新される。──そのレベルで、『格が違う』。

 

 

「ち、ちなみに師匠も……?」

 

 

 そして、その傍らにあり続けた『オオカミシブキ』としての顔も持つ目の前の少女も、同じく不老である。そう思い問いかけた流知(ルシル)に、嵐殿(らしでん)は苦笑してから答える。

 

 

「いーえぇ。私のは自前の霊能を使った裏技よん♪ ……だから、技術力合戦とかではあんまり期待しないでねぇ」

 

「……師匠は心配性ですわねぇ。昨日の様子を見る限り、会長と敵対するような展開はありえないですわよ」

 

 

 ピースヘイヴンの計画は最早潰えた。彼女は百鬼夜行(カタストロフ)を使って何かをしようとしていたようだが、その計画を実行する為の手足たる生徒会執行部が半分も離脱してしまった以上、計画は進めることはできない。

 そういう意味でも、これまで共に行動していた感覚から言っても、ピースヘイヴンの裏切りの可能性を考える意義は薄いだろう。彼女は、世界に絶望した大袈裟な自殺志願者という訳ではないのだから。

 

 

「……いや、まだ根本的な解決には至っていないからねぇ? この件が終わったらしれっと裏切るとか、全然あるラインだと思うし」

 

「どれだけ信用がないんですの……」

 

 

 あるいは前世の分だけ不信が蓄積されているのかもしれないが、酷い言われようである。

 そんな風にお喋りをしているうちに目が冴えてきた流知(ルシル)を見て、クッキングメイドは朝食のホットケーキ(流知(ルシル)の好物)を焼き上げながら、

 

 

「そろそろできるぞ。歯ぁ磨いて顔洗ったらお子様組を起こしてきてくれ」

 

「はぁい、分かりましたわー」

 

 

 お母さんメイドの号令を受けて、長女お嬢様は洗面所へとはけていく。

 その後ろ姿を見送りながら、薫織(かおり)は溜息を吐いて、

 

 

「……っつか、まだ百鬼夜行(カタストロフ)の危険が去った訳でもねェんだけどな。この図面がちゃんとしているかの検証もできてねェんだし」

 

「それは言わないでおいてあげましょ~♪」

 

 

 


 

 

 

 それから少しした後。

 朝食を済ませ、薫織(かおり)の部屋から自分のクラスへ出向いた流知(ルシル)は、同じクラスの面々と共に全校生徒の集まる第一体育館へとやってきていた。

 普段は薫織(かおり)達と行動を共にしている流知(ルシル)だが、彼女にも彼女の学校生活があり、交友関係がある。今は薫織(かおり)達と別れて、そうした自分の交友関係の中にいた。

 なお、彼女の友人達は別に転生者というわけではなかった。

 もちろんクラスにも転生者は何人かいるし、その中には転生者であることを公言していない者もいる。しかし──同じ転生者である流知(ルシル)には、何となく分かるのだ。転生者と、そうでない者の違いが。

 転生者は流知(ルシル)を含め、()()()()()()が普通とは違う。キラキラと眩しいモノとして見ているか、あるいはグズグズに燻ったモノとして見ているか、その両極端だ。嵐殿(らしでん)は前者で、最近戦った伽退(きゃのく)は後者である。

 半面、転生者でない者はそもそも『()()()()()()()()()()()()。何故なら、彼らは『そういう枠組み』自体を明確に実感する機会がないから。

 もっとも、

 

 

(中には例外もいるけど……)

 

「姉御ォ!!」

 

 

 一瞬、ヤンキー漫画に迷い込んだのかと錯覚するほど暑苦しい声が、下手なドーム球場よりも広い体育館に響き渡る。

 見ると、騒ぎの源は隣のクラスの集団だった。純白のブレザーと濃紫のスラックス/プリーツスカート姿の学生達に紛れるようにして──いや全然紛れてない異物感で、黒橙のメイドが堂々と重役出勤を決めていた。

 

 

「お疲れ様です姉御ッッッ」

 

「遅かったっすねぇメイド長!」

 

「ちょっと野暮用がな。いいから静かにしろやバカども。周りの迷惑になるだろ」

 

 

 当たり前のように転生者にも転生者じゃない者にも慕われている異常メイドは、そうやって平然と喧騒の中心に存在していた。アイツを見ていると転生者とかそうじゃないとかは些細なことのように見えるのだが──ここはけっこう重要な対立軸であるはずである。たぶん。

 流知(ルシル)は心の中でほろりと涙を流しながら、

 

 

薫織(かおり)……。知ってる……? 私この前転生者同士のお喋りを聞いちゃったけど、アナタって他の転生者から原作乖離の結果発生したバグキャラだと思われてるんだよ……)

 

 

 悲しき事実である。

 流知(ルシル)も、通りすがりの転生者達が『あんな濃いキャラがなんで原作に出てなかったの? BD特典の小説で登場したキャラ?』『そういえばメイドキャラいなかったしな……。あり得る』『原作乖離の結果誕生したキャラとかじゃないの?』と話しているのを聞いてしまったときは、なんともいたたまれない気持ちになったものだ。

 

 と、心で涙を流していた流知(ルシル)を見つけると、薫織(かおり)は集団の輪から出て流知(ルシル)にちょいちょいと手招きをする。流知(ルシル)はこくりと頷くと、友人に断りを入れてから薫織(かおり)の方へと駆け寄っていった。

 なお、薫織(かおり)の変人っぷりに内心で呆れている流知(ルシル)であるが、そんな薫織(かおり)をメイドとしている流知(ルシル)もまた周囲からはまぁまぁやべーヤツとみられているのだが、それは本人は知らないことである。

 

 

「どうしたんですの? ……あまり人の多いところでアナタと一緒にいると、わたくしまで変に噂されそうで困るのですが」

 

「口調をお嬢様にしておいてよく言うな」

 

 

 ド正論であった。

 

 第一体育館。

 全校生徒一〇八〇人+αが一堂に会した全校集会を開けるだけあって、体育館はドーム球場数個分ほどの広さが確保されている。あまりに広すぎるせいか、壇上の様子を映す為にどでかいハイヴィジョンがその上に設置されているほどである。

 そんな大容量の体育館の端っこの方に集まった二人は内緒話をするようなトーンで、

 

 

「そういえば、今日は遅れて来たんですのね。薫織(かおり)にしては珍しいですわ」

 

「あァ。コイツを組み立てていてな」

 

 

 そう言って、薫織(かおり)はパッと虚空から一本の木剣を取り出す。そして何でもないように、

 

 

「『草薙剣』のレプリカだ。さっき材料を集めてちょちょいと作った。まだ内部血路はね、」

 

「ばっっっ!?」

 

 

 帯刀メイドが最後まで言い終わる前に、流知(ルシル)は慌ててその木剣を体で覆い隠す。

 それから一層声のトーンを落として、

 

 

「なっ……何を考えていますの!? こんなところで! 誰かに見られたらどうしますの!!」

 

「だから場所を変えてんだろうが」

 

「……ま、まぁいいですわ。いきなりこれを出してどういうつもりなんですの」

 

 

 薫織(かおり)は言われて、『草薙剣』のレプリカを放り投げて流知(ルシル)に手渡す。流知(ルシル)は慌ててそれを受け取りながら、

 

 

「だから説明!! いい加減怒るよ!!」

 

「タイムリミットが分かんねェんだよ」

 

 

 薫織(かおり)は肩を竦めて、

 

 

「元々、生徒会連中は生徒集会の最中にあの野郎の暗殺を目論んでいた。つまり、百鬼夜行(カタストロフ)はこの時間にカタをつけねェとマズイ程度には差し迫った状況だったと推測できる。悲観的に見て、多分今日中ってトコだな」

 

「それは同意しますが……」

 

「……だが、昨日あの馬鹿は図書棟に乗り込んで派手に暴れた。……霊気淀みってのは霊能の大量使用によって加速する。数十人規模の戦闘なんて起きた日にゃあ……タイムリミットがどこまで縮まっているか分かったもんじゃねェだろ」

 

 

 言われてみればその通りであった。

 驚愕の事実に愕然とする流知(ルシル)だったが、しかし反論もある。

 

 

「で、でも……会長だってそんなこと気にした様子ではなかったじゃありませんの」

 

「あの野郎の性格を思い出せ。百鬼夜行(カタストロフ)を安全確実に潰す方法を手に入れて、設計図をそれが実現可能な勢力に預けた。……その事実に安心して手前が起こした戦闘の余波を考慮に入れ忘れ、その結果、生徒集会の最中に百鬼夜行(カタストロフ)勃発! ……いかにもありそうな展開だと思わねェか?」

 

「た、確かにありそう……」

 

 

 何せ相手は『霊威簒奪』のデマをばら撒いて百鬼夜行(カタストロフ)の勃発を早めようとしていたら、そのどさくさに紛れて暗殺されかけた黒幕野郎である。最後の詰めを誤って大惨事なんて可能性は、全然ありえた。

 なので、そこをカバーする為の転ばぬ先の杖というわけである。

 流知(ルシル)は感心しながら飛躍する絵筆(ピクトゥラ)を手に取り、

 

 

「そういうことなら、ささっと終わらせてしまいましょう。あ、薫織(かおり)。手が足りないので設計図をわたくしに広げて見せてくださいます? 見ながらでないとちゃんとイメージが湧かないので……」

 

「あいよ」

 

 

 『草薙剣』のレプリカをいじると、柄に当たる部分に蓋のようなものがあり、そこを開くとシキガミクスの内部構造が確認できた。流知(ルシル)は手早くそこに絵筆の槍を差し込む。

 そして薫織(かおり)が広げたものを目視確認し、

 

 

「……飛躍する絵筆(ピクトゥラ)、発動っ」

 

 

 ──劇的な現象は、何もなかった。

 するる、と何かが滑るような音が一、二秒ほどしたかと思うと、その音もすぐに止む。流知(ルシル)はさっと飛躍する絵筆(ピクトゥラ)を解除すると、『草薙剣』の内部構造を確認して頷く。

 ぱん、と乾いた音を立てて木札に変わった『草薙剣』を掌に載せると、

 

 

「よしっ! これで完成ですわ!」

 

「ん。流石はお嬢様」

 

 

 頷く薫織(かおり)ににっこりと微笑んで、流知(ルシル)は『草薙剣』の木札を差し出す。こういうのは戦闘能力のある薫織(かおり)に持っておいてもらった方がいいだろう、という判断である。

 しかし薫織(かおり)は無言でその手を押し返した。

 

 

「……? どういうことですの?」

 

「いや、その札はお嬢様が持っとけ。自衛用になるだろ」

 

 

 これに目を丸くしたのは、流知(ルシル)だ。

 

 

「はぁ!? 何を言っておりますの!? こんなものを持っていたら逆に狙われるんじゃありませんの!?」

 

「『草薙剣』が本物なら並みのシキガミクスは返り討ちなんじゃねェの? ……なんにせよ、情報がどこから漏れるか分からねェんだ。(オレ)もなるべくお嬢様を守るが、いざって時の武器はあった方がいい」

 

「……あ、あまりにも物騒ですわ……」

 

 

 しかし、そう言われてしまっては全く武力を所持していないのもなんとなく怖い。流知(ルシル)はすごすごと木札を胸元にしまい込む。

 ちなみに、多くのシキガミクスはこうして木札にして服の内側など分かりづらい場所に仕込んでおくのが通例だ。どうせ霊気を巡らせればシキガミクスは術者の傍らに発現するので、どこにどう保管していても問題ないのである。

 もっとも、流知(ルシル)のようにべたな場所にしまっていたら発現前に攻撃を食らって木札そのものが破壊されて使用不能になるリスクもあったりするのだが──そもそも発現前に懐に直接攻撃を食らうような状況は死んだも同然という観点から、この辺りは誰も気にしていなかった。

 

 

「じゃ、(オレ)はクラスに戻るぞ。集会中に何か異常があったらすぐ拾うから」

 

「あっ、分かりましたわ……」

 

 

 言いたいことだけ言ってさっさと行ってしまう要件メイドの背中を見送ってから、流知(ルシル)は遅れて自分のクラスの方から友人たちが視線を向けていることに気付いた。

 

 

(はぁ……。薫織(かおり)ももうちょっと目立たない方法を選んでくれたらいいのに。アイツは人の目に無頓着すぎるよ)

 

 

 とはいえ、本人に人目を気にするという発想がなさすぎるのだから仕方がない。薫織(かおり)のそういうところが好きでもある流知(ルシル)としては、なんとも痛し痒しといったところなのだった。

 そうして自分のクラスの集団に戻ると、早速友人たちが声をかけてくる。

 

 

「……ねぇねぇ流知(ルシル)ちゃん。さっきの人って確かE組の園縁(そのべり)さんだったよね?」

 

流知(ルシル)ちゃんと園縁(そのべり)さんって……いったいどういう関係?」

 

「どうもこうも、ご主人様とメイドですわよ」

 

「ごしゅじんさま!?」

 

 

 げんなりとしながら、流知(ルシル)は生徒集会の開始を待つ。

 トンデモワードの出現に目を丸くした生徒達の様子は、流知(ルシル)にとっては気にもならなかった。──コイツもコイツで、大概である。

 

 

 


 

 

 

 生徒集会は、(つつが)なく進行していった。

 

 学長の言葉に、理事長の言葉。生徒指導担当からの注意事項に新年度の表彰者。連休後に始まる学園祭の準備についての予告etcetc...。諸々の式次を終え、最後に生徒会長の言葉となった、その後のこと。

 ざわざわ……というさざめきのような騒めきと共に、式が一旦停滞する。一分ほどそうして何も進行がないまま、流知(ルシル)も事態に困惑していたが──

 ズダッ!! と。

 真横に着地してきた黒橙のメイドに、思わず飛び上がったことで事態の進行は再開した。

 無言のままに流知(ルシル)を肩で抱えた薫織(かおり)は、そのまま体育館の外へと走り出す。

 

 

「なっ……なんですの!? 薫織(かおり)、どうしましたの!? 百鬼夜行(カタストロフ)ですか!?」

 

「あァ! クソ……(オレ)としたことが、抜かった!!」

 

 

 珍しく慌てた様子で薫織(かおり)が答えた瞬間、ぐぐっ、と地震のような揺れが、空間全体を波及していった。

 まるで胎動のような音をBGMにしながら、薫織(かおり)は言う。

 

 

()()()()…………(オレ)達を裏切りやがった!!」

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