【改稿前版】唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

16 / 24
14 縛られた神秘

「あの、薫織(かおり)。……裏切りって……?」

 

 

 例によって俵のような形で、お尻を前に向けて肩に担がれながら。

 流知(ルシル)は戸惑いつつ、薫織(かおり)にそう問いかけていた。

 

 現在、暴走メイドは廊下を全力疾走中。それにしては流知(ルシル)のお腹にそこまで負担がかかっていないのが不思議だった。

 

 

「決まってんだろ。ピースヘイヴンの野郎だよ!」

 

 

 吐き捨てるように言って、

 

 

「昨日の段階で、もっと深く考えておくべきだった……!」

 

 

 流知(ルシル)を俵のように肩に担ぎながら、爆走するメイドは忸怩たる思いを滲ませながら呻いた。

 その様子にただならぬ非常事態の気配を感じつつ、流知(ルシル)は身をよじってなんとか顔を前方に向けようとしながら問い返す。

 

 

「何がですのっ?」

 

「何故、花蓮(かれん)の野郎がピースヘイヴンの計画の内容を知っているような口ぶりだったか、をだ。……あの時はそれどころじゃねェ危機が転がっていたから気にする余裕がなかったが……そもそも、『神様』っつったって別に全知全能って訳じゃねェだろ」

 

 

 それは、『原作』においても提示されている事実だ。

 『神様』は全知でも全能でもない。本質的には、ただ圧倒的な出力を誇るだけの『怪異の一種』。それが、この世界においての『神様』だ。

 だから、秘されていた事実を知っているならばそれは長い歴史からの推察であったり、何かしらの情報源があったり、さもなくば特有の霊能だったり──とにかく何かしらの『からくり』がある。無条件に何もかもお見通しというわけではない。

 そして。

 

 

「ヤツの霊能は、詳細じゃねェが概要が分かる程度には(オレ)も見たことがある。確かにほぼほぼ無敵みてェな霊能だったが、他者の頭の中を読み取って企みを全部問答無用で暴くようなモンじゃなかった。(オレ)はてっきり何かの繋がりで知ったモンだと納得しちまっていたが……」

 

 

 薫織(かおり)は真実後悔しながら、

 

 

「……そうじゃなかった。花蓮(かれん)側に特別な事情があったんじゃねェ。ピースヘイヴンの野郎が進めていた企みの方が、特別だったんだ」

 

 

 そう、断言した。

 

 

「会長の企みが……? あの、百鬼夜行(カタストロフ)の前倒しがですの?」

 

「『神様』に限らず、怪異ってのは存在の維持に霊気を必要とする。だから現世に存在する連中は生物、とりわけ人の霊気を取り込んでいるわけだが……『神様』は特別でな。連中は、大気中に残存している霊気を吸収することで存在を維持することができる」

 

「それは流石に覚えていますわよっ! それがどうしたんですの?」

 

「おそらく『神様』は、その生態上霊気の流れをある程度読むことができる」

 

 

 言われて、流知(ルシル)は思わず言葉に詰まった。

 

 

「……これは『原作』では明言されていねェ。『神様』は大抵独自の情報網を持っていたし、本筋に絡みづらい以上、作中でのそれらしい描写も『「百鬼夜行(カタストロフ)」前に意味深な表情で霊気が荒れていることに言及すること』くらいしかなかったからな。いわば……『裏設定』だ」

 

「『裏設定』……」

 

 

 流知(ルシル)が言葉を濁すのも無理はない。

 そもそもの発端となった『霊威簒奪』だって、そもそも裏設定という触れ込みで広まったデマだ。そんな『裏設定』がこの局面に来て重要な判断基準となることには、何か皮肉な因果を感じざるを得ない。

 

 

「つまり、花蓮(かれん)の奴がピースヘイヴンの計画について知った風な態度を取っていたのは、ピースヘイヴンの計画の全容を察していたからじゃあなく……『神様』の生態として、ピースヘイヴンの計画によって変容していた霊気の流れを把握していたからって訳だ」

 

「カガミサマが会長の企みを察知していた理屈は分かりましたわ。でも……それって結局、『百鬼夜行(カタストロフ)を前倒ししようとしていた』ことを知っていたってだけでしょう?」

 

「あァ。(オレ)も最初はそうかと思った。だがヤツはあの時こう言っていただろ? 『アナタが為そうとしていた「決着」には目を瞑る』って」

 

「…………?」

 

 

 意図が読めずに首を傾げる流知(ルシル)に、薫織(かおり)はさらに説明を重ねる。

 

 

「あの時点で周知の事実だった百鬼夜行(カタストロフ)の前倒しをわざわざ濁した言い回しで表現したことに違和感を覚えてたんだが……あの時点で、ヤツは『神様』としての感覚で霊気淀みの集積に何かしらの異常を検知していたんじゃねェのか」

 

「え……それって」

 

百鬼夜行(カタストロフ)のコントロール。おそらく、それがヤツの狙いだろう」

 

 

 薫織(かおり)は、端的に断言した。

 

 

 


 

 

 

 

14 縛られた神秘

>> SOOTY DIVINITY

 

 

 


 

 

 

 ──百鬼夜行(カタストロフ)とは、霊気淀みの濃度が一定を超えて、霊気が暴走する事象。その際に発生するのは、大規模な霊気の奔流による物理的な破壊と、大量の怪異の自然発生。

 発生する怪異は純粋な霊気の結合によって発生した妖怪、大量の霊気を浴びたことで器物が変質した化生、霊気の奔流によって命を落とした人間の幽霊。強さも種類も状況によるのでまちまちだが、場合によっては大怪異と呼ばれるような強力な個体が発生することもある。

 『原作』では、それによるピンチが何度かあったし、敵の黒幕が百鬼夜行(カタストロフ)によって命を落とした後幽霊の大怪異に変貌して第二ラウンドが始まる、なんてこともあった。

 

 

「短い付き合いだが……ヤツの人間性の一端くらいは(オレ)にも分かる。アイツは確かにカスでクズだが……意味のない破壊に意味を見出してバカ真面目に計画を打ち立てるような、どうしようもねェバカではねェ」

 

 

 そんな百鬼夜行(カタストロフ)によって発生する怪異を、任意で調整することができるとしたら?

 

 大量に怪異を発生させる百鬼夜行(カタストロフ)の霊気の奔流を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「あの野郎はおそらく……自分の思い通りの大妖怪を作り出す為だけに、百鬼夜行(カタストロフ)を引き起こそうとしている」

 

「そ、そんなこと、できるわけ!」

 

 

 反射的に流知(ルシル)が言い返したのも、無理もない。

 百鬼夜行(カタストロフ)の原理を考えてみれば分かるだろう。そもそも、百鬼夜行(カタストロフ)で怪異が生まれるのだって大規模な霊気によって偶発的に引き起こされる事象なのだ。原始の海に落ちた雷で、偶発的に原始生命が生まれるようなもの。

 これを狙ってやろうというのは、原始の海に雷を堕とすだけで海に複雑な脊椎動物を生み出そうと言っているようなものだ。

 まさに、神の御業。

 しかし。

 

 

「できねェと、言い切れるか? 相手はこの世界の法則を作り出した張本人だぞ」

 

 

 陰陽術を極めた不老。高性能なシキガミクス。確かに確定していたはずの死の回避。

 見え隠れしている事象を並べ立てるだけでも、ピースヘイヴンがこの世界でも有数の猛者なのは分かる。それを考えれば──可能性は大いにあると言えるだろう。

 そしてこの推論が正しいなら、ピースヘイヴンが出番になっても現れなかったのは百鬼夜行(カタストロフ)の発生現場でその動きを精密に調整しているから──ということで、一連の流れにも筋が通ってしまう。

 

 

「で、でも望み通りの怪異を生み出せたとしても、怪異は怪異ですわよ? 狙い通りに動くとは限らないのではなくって……?」

 

「おそらく、『封印型』にでも取り込むつもりだろうな。元を正せば、それが()()()()()()()だし」

 

 

 流知(ルシル)の懸念に、薫織(かおり)はあっさりと返す。

 

 ──シキガミクスは、『怪異の再発』に対する抑止力として発明された。では、それが具体的にどういう機能を以て抑止力とされたのか?

 その答えが、『封印型』と呼ばれる運用方式(タイプ)である。

 怪異は、特定の条件を満たすことで何かに封印することができる。『神様』をその身に封印している久遠の例がその典型だが──かつては現人神や人柱と呼ばれた『それ』を現代のロボット工学を用いて再現したのが、原初のシキガミクスであった。

 原初のシキガミクスは何らかの方法で弱らせた怪異を機体に封印することでその霊能を人間の為に行使する『封印型』が主。現在主流となっている『陰陽師の霊能の使用補助・利便性向上』としての機能は、技術の発展に伴って派生したオプションに過ぎない。

 もっとも、ランダムに発生する怪異をリスクを負ってまで封印して運用するより術者の霊能をカスタマイズする方が圧倒的に安価・安全かつ強力ということで、今はほぼ廃れた運用方式なのだが。

 

 この流行り廃りについては、何かと例外の多かった『原作』においても、数えるほどしか例外はなかった。

 ただし、その数少ない例外があまりにも有名すぎるせいで、いまいち例外感が薄かったという評もあるのだが──。

 

 

「……つまり、神織(こうおる)さんと浄蓮(じょうれん)さんの再現ってことですの?」

 

「ああ。そういうことになるだろうな」

 

 

 神織(こうおる)悟志(さとし)と、浄蓮(じょうれん)

 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ウラノツカサ高等部一年、神織(こうおる)悟志(さとし)。彼の持つシキガミクスの運用方式は『封印型』。彼のシキガミクスには──『神様』にも届きうる大妖怪、『()()()()()()()()』が封印されている。

 

 

「既存の主人公とは異なる『軸』の獲得。……なるほど、こう表現すりゃあ世界を諦めちまった原作者らしい『決着』じゃねェか」

 

 

 新たなる主人公の資格の創出。

 即ち、かつてあった物語の完全なる放棄。

 霊気の流れを感知することによって、花蓮(かれん)がその前兆を前以て把握していたのであれば──それを彼女なりの『決着』と表現するのは納得がいく話だ。

 

 そこで薫織(かおり)は足を止めて、

 

 

「…………ってのが(オレ)の推論なんだが、どうだ?」

 

 

 地下鉄の島型ホームのような、太い支柱が幾つか立つばかりのだだっ広い廊下──その片隅でまるで幽霊のように希薄な存在で佇む女に、そう問いかけた。

 

 

『──概ね間違いありません。正解と言っていいでしょう』

 

 

 黒髪の巫女──花蓮(かれん)はただ目を伏せて、簡潔に答えた。

 そんな『神様』に向かって、薫織(かおり)はあくまで警戒を解かないままに問いかける。

 

 

「んで、愛しの久遠をほっぽってこんなところまで来た理由は? (オレ)達はこの先の百鬼夜行(カタストロフ)に用事があるんだがよ」

 

『──安心してください。私は貴方達のどちらにも肩入れするつもりはありませんよ』

 

 

 花蓮(かれん)は顔を上げると、真っすぐに薫織(かおり)の方を見て答えた。

 

 

『貴方達は、どちらに向かおうとしていますか?』

 

「……屋上。空から霊気淀みを確認して現場に出向くつもりだ。流石にこの鳴動だけじゃ位置までは分からねェからな」

 

『手間を省きに来ました。──それでは間に合わなくなる可能性があるので』

 

 

 そう言って、花蓮(かれん)はスッと横合いを指差す。

 

 

『第七体育館。虎刺(ありどおし)先生はあちらにいます。霊気の淀みがどんどん収束していますから、間違いないです』

 

「……アイツの肩を持つんだか、こっちの肩を持つんだか、はっきりしねェ態度だな」

 

『言ったはずですよ。私はどちらにも肩入れするつもりはありません、と。──あちらの計画を阻止せず見過ごす以上、それに釣り合う手助けをしているまでです』

 

 

 言い繕うような言葉のあと、花蓮(かれん)は目を逸らして、

 

 

『──私は、この世界に転生して救われました。己の魂を賭けてもいいと思えるくらいに大事な人との出会いを、永劫に渡って見守っていたいと思えるものを、与えてもらいました。そしてそれは、この世界を──「シキガミクス・レヴォリューション」を作ったあの方への恩です。だから──この世界に生きて初めて幸せになることができた私は、もしもあの方と巡り合えたなら、この力であの方の手助けをすると決めていました』

 

 

 話の内容は半分も薫織(かおり)には分からなかったが、想像はできた。

 三〇〇〇年も前に転生した転生者が、人間を辞めて『神様』になってまでこの世に生きている、その熱量。そこに思いを馳せれば──この『神様』がどんなことを考えているかはなんとなく予想できる。

 そしてそれは、『神様』として悠久の時を生きる彼女にとっては間違いなく希望だったはずだ。

 だが──現状が彼女の望んだ通りでないのは明白だろう。彼女がこの状況でしている『手助け』とは、その力によって恩人の望みを叶えることではなく──自分の意に添わぬ活動をしている恩人の所業を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということでしかないのだから。

 

 そこまでを斟酌して、薫織(かおり)は端的に、

 

 

「くっだらねェな」

 

 

 そう、切り捨てた。

 

 

「ちょっと薫織(かおり)! 酷いですわよ!」

 

『良いのです、遠歩院(とおほいん)。図星である自覚はありますので』

 

 

 花蓮(かれん)への恐怖心から──というよりは、純粋な同情心から憤って見せた流知(ルシル)に対し、花蓮(かれん)は柔らかく微笑みながら答えた。

 

 

『少々、長く生きすぎたのかもしれませんね。──こうはなりたくないから、しがらみの類は最低限に抑えたつもりだったのですが』

 

「……まァ任せとけ。結局、これは生者の世界の問題だからな」

 

 

 疲れたように漏らす花蓮(かれん)に、薫織(かおり)は背を向けながら答える。

 ひらひらと手を振った薫織(かおり)は、廊下の窓に足をかけて、

 

 

「情報ありがとよ。助かったぜ、花蓮(かれん)

 

 

 そう言い捨てて、窓の外へと跳び立った。




特に深い意味はないのですが、覚えやすい感じにタイトルを変更しました。気軽にこういう調整ができるのもweb連載のいいところ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。