【改稿前版】唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション 作:家葉 テイク
「お前の霊能ももう察しがついた。その対策もな」
ピースヘイヴンが実際に行動を起こすよりも、一瞬早く。
「……ほう。ちょっと前まで生死の境を彷徨っていたとは思えない威勢の良さだ。流石はメイドだな」
「そこで
しかし、
そればかりか嘲るような色の笑みを浮かべて、両手を腰に当ててくつくつと声を上げる。
明確な油断。
そう判断したピースヘイヴンだったが──その場では動かなかった。
シキガミクスは、悉く霊気を帯びている。そして『怪異』がそうであるように、多くのシキガミクスには物理的な攻撃は通用しない。例外は内部血路を熱で破壊しうる炎などだが──『着用型』の場合、この『物理攻撃への耐性』が本体にも波及している場合が大半である。
つまり、シキガミクスに遠距離攻撃機能を持たない
それが追撃に繋がるならまだ良いが、それを見いだせていない状態で無駄な攻撃を繰り出すのは
(
「あー、もしかして勘違いしてるのか?」
油断なく盤面を把握しようと心がけるピースヘイヴンに対して、あくまでも強気で
「これは、駆け引きなんかじゃねェ。単なる宣言だ。霊能を察した察してねェで余計な腹の探り合いにリソースを割くのは、
その姿に、ピースヘイヴンは一人の男を幻視する。
別に見知った顔ではなかった。ただ、目の前の少女の生き方の背景に──裏打ちされた、確かな『人生』の影が見えた。
誰かの為に戦い、誰かを護り、誰かを救い、そうやって一つの歴史を築き上げてきた一人の男の人生が。
(ハッタリではない)
だからこそ、ピースヘイヴンは速やかにすべての楽観を捨てた。
(こちらに心理的圧迫を与えようとかなんてチャチな思惑はない。本気で
合理性で言えば、仮に霊能の原理を看破したとしてもその事実はギリギリまで伏せておくべきだろう。相手が霊能の原理を知られていないという前提で動いていた方が、行動にも油断が生じやすい。だがあえてそれをしないということは──あらゆる言い訳を封じて、その上で完璧な勝利をしてみせるという宣言に等しかった。
「……随分、ナメられたものだな」
「高く買ってもらえるほど、テメェに黒幕としての格があるとでも?」
「あるさ。これでも二〇年はこの学園を支配してきた大悪党だ!!」
言葉と同時に、ピースヘイヴンはステージ上へと駆けて『唯神夜行』のシキガミクスを手に取ろうと動く。しかしそれは当然
両者がほぼ同時にステージ上のシキガミクスを取りにかかったこのタイミングで、奇しくも二人は同時に状況を判断した。
((このままシキガミクス奪取を優先すれば、確保の瞬間を狙われる))
ゆえに二人の目的は、シキガミクス奪取と見せかけてその瞬間の攻撃に対するカウンター。
互いに『着用型』を纏った二人は流星のようにステージ中央まで駆け──そして一瞬後には、シキガミクスの一歩手前の距離で互いに拳を交差させていた。
互いの拳を互いに受けつつ、そして互いに拳を繰り出す体勢。
しかし、霊能が絡んだ戦いはそこでは終わらない。
「『
刹那、世界が静止し、空間の切れ間から星空のような異空間が展開されていく。
逆行していく世界の中で、ピースヘイヴンは静かに宣言した。
「『一秒』……時を巻き戻した。そして書き換える。この先一秒……君は私の行動の変化に適応できない」
一秒の逆行が終了し、世界が運行を再開する。
互いにシキガミクスへ駆けていくピースヘイヴンと
しかし、この時にピースヘイヴンがほんの少しだけ異なる位置にいればどうなるだろうか。
「これが『
空を切った拳──それを掻い潜るような姿勢で、ピースヘイヴンは言う。
無理な姿勢ではあるが、『ターミナルスカーフェイス』を纏い運動補助を受けているピースヘイヴンにとって、この程度の姿勢は格闘家が臨戦態勢をとっているよりも自然な体勢だった。
「私の霊能を看破したという君の発言、信じよう。そして私に何もさせるつもりがないというその自信もな……。だからこそ私は君という宿敵が、
致命。
| 18 崩れ去る定説 ② |
| >> RAGE AGAINST THE WORLD act2 |
「か、
その様子を、
いや──本来それですらおかしいのだ。傍目から見れば、今攻撃が相打ったはずのピースヘイヴンの体勢が一瞬にして変化して、
「……やはり……な……」
しかし。
致命の一撃を叩き込まれたはずの
その声色に、痛みや予定外の展開への動揺は一切存在しない。ただただ、粛々とした冷静さがあった。
それもそのはず。
「何ィいいい!?」
足先からじんわりと広がる痛みに、ピースヘイヴンは短く声を上げる。
「
同時に、ピースヘイヴンはほぼ正確に現状を把握していた。
その仕様を実現する為に、取り寄せた『女中道具』は発現直後はその場に固定されることになる。これは取り回すまでに一瞬のラグが生まれるという欠点であると同時に、咄嗟に
──無敵に思える
それは、『一周目』の能力発動時点の知覚は何ら変わらないピースヘイヴン自身の知覚によるということ。無数のカメラを備える
「メイド
『一手』。
「からの、『
ピースヘイヴンは咄嗟に蹴り脚を引くことで攻撃を回避するが──
たたんっ、と。
頭突きをした勢いそのままに、
そのままハンドスプリングの要領で飛び上がり、空中で身体を一回転させ──勢いを全て足に一点集中させた踵落としを、体勢が崩れたピースヘイヴンに振り下ろす。
ピースヘイヴンはやっとの思いで両腕を交差させてこれを受け止めるが、一七〇センチ近い筋肉質の
さらに、
「
そう問いかける
(浴びせて滑りやすくすれば機動力激減!! かけた後でさらに別種の洗剤をかければ至近距離から毒ガス……!
即座にその危険性を理解したピースヘイヴンだが、全体重を乗せられている状態では即座の回避は不可能。
能力発動から、まだ一秒も経過していない。
「そう焦るな、
ゴギン、と。
ピースヘイヴンの右肩関節がひとりでに外れ、
「なッ!?」
「『ターミナルスカーフェイス』は『着用型』だが、肉体の
脱臼に痛みか、額に脂汗を流しながらピースヘイヴンは蹴りを受け流されて体勢を崩した
「……テメェ!!」
すぐさまピースヘイヴンの狙いに気付いて洗剤の『取り寄せ』を解除する
さらにピースヘイヴンが身を低く構えた、ちょうどその瞬間。
「えいっ」
横合いから、
そして次に、大きめの木片がまるでボウリングのピンみたいに『唯神夜行』のシキガミクスをステージの奥まで弾き飛ばしていた。
その答えが『大きめの木片をぶつけてカーリングみたいにシキガミクスを弾く』だったのは、直前に自分が同じことをされたことを差し引いてもあまりに原始的すぎる選択だったが──しかし、この場においてはそれが功を奏した。
「あ、」
想定外の指し手の、想定外の一手。
此処で、両者の勝利条件の違いが如実に表れる。
だからピースヘイヴンは反射的にステージの奥に飛ばされたシキガミクスの方を目で追い──対する
「よそ見は厳禁じゃねェか、ラスボス様ァ!!」
「くっ……!!」
思い切り振りかぶったミドルキックは流石にピースヘイヴンの両腕にガードされてしまうが、しかし勢いまで殺しきれる訳ではない。
そのままピースヘイヴンの身体は数メートルほど後方、体育館中央側へとフッ飛ばされ──ステージ上から離脱することになる。
この時点で、ステージ東袖に
「……流石だな」
ピースヘイヴンはすっと居住まいを正すと、
これは霊能発動のインターバルまでの時間稼ぎの意味もあったが、一方でピースヘイヴンの偽らざる本心でもあった。
「今の動き。確かに私の霊能を完全に看破していなければ不可能な動きだった。そうだ、私の霊能は『時』の『書き換え』。この世の時間を数秒ほど巻き戻し、そしてその中で私だけが行動を変更することができる」
「……!! そんなデタラメな……!」
当然そんなことは考えもしていなかったらしい
ピースヘイヴンの足から、ナイフが音もなく消える。おそらく逆用を警戒したであろう
「動ける時間は精々一秒程度、だろうがな」
ピースヘイヴンの説明に、冷静に補足を入れた。
「テメェは未来の出来事を予知した上で行動することができる。だが、未来の予知は何もテメェの専売特許じゃねェ。当たり前な予測を積み重ねていけば
「簡単に言ってくれるね。君のそれを霊能抜きでやっていると言われたら、困惑と共に憤慨する人間が大半だろうよ」
「だが可能だ。ご主人様の命を受けたメイドならな」
ステージの上から、黒幕を見下しながら。
──ただし。
忘れてはいけないのは、ピースヘイヴンは曲がりなりにもこの世界を二〇年近くにわたって掌握し続けてきた実績を持つということ。
その悪辣な発想が、
「では、こうしよう」
言葉と同時に、ピースヘイヴンと
即ち。
「選手交代だ」
今までの、『本体がシキガミクスと同等に動ける』程度のスケールとは桁が違う。
現存する中で間違いなく『最強』の性能を誇るシキガミクスが──主人を背に守るメイドへ牙を剥く。