【改稿前版】唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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03 世界を諦めない者

「…………こんな世界、か」

 

 

 ──コスプレメイド、園縁(そのべり)薫織(かおり)の半生について話すならば。

 

 彼女の半生は、まさしく『破天荒』と呼ぶに相応しいものだった。

 陰陽術の名門・園縁(そのべり)家に長女として生まれた彼女は就学前に陰陽術の基礎を修得し、若くして園縁(そのべり)家の次期当主としての将来を熱望されるようになる。しかし、彼女は小学生になる直前に突如として生家を出奔。以降、園縁(そのべり)家の追手を掻い潜りつつ、小学生の年齢にして放浪の旅をするようになる。

 単なる無鉄砲かと思いきや、修得した陰陽術で民間陰陽師として普通に名を馳せるわ、盆と正月には帰省するものだからいつしか園縁(そのべり)家の方も半ば出奔を黙認してしまうようになるわと来れば、園縁(そのべり)薫織(かおり)の『破天荒』の質が分かろうものだろう。

 そうしていつしか『必殺女中(リーサルメイド)』というおかしな二つ名で呼ばれるようになった頃、個人的な恩義のある知り合いに依頼され、依頼主の娘──令嬢風の少女こと遠歩院(とおほいん)流知(ルシル)の護衛としてウラノツカサに中途編入するに至る。

 

 しかし、この名物メイドの半生を語る上では、幾つかの説明不能な謎があった。

 

 何故、これほど早く、そして高度に陰陽術を扱うことができたのか。

 何故、幼くして出奔して一人で生き抜こうなどと思ったのか。

 何故、そのままたった一人で一〇年近く社会活動を営み、大成できたのか。

 

 

(オレ)にとっては、思う存分メイドをやれる世界だが」

 

 

 何故、そんなにも──破天荒(メイド)なのか。

 

 

「アナタこの前、()()からメイドだったって言っていましたわよね? 思う存分メイドをやれるとかは世界関係ないのではなくて?」

 

 

 ──転生。

 それらの疑問に答えるならば、ひとまずこの答えが分かりやすかろう。

 

 端的に言えば、園縁(そのべり)薫織(かおり)はこの世界に生まれる前の『記憶』と『経験』、そして『価値観』を有しており──この世界では、彼女と同じように『シキガミクス・レヴォリューション』を()()()、もしくは()()ことのある人間が生前の人格を保持して生まれてくるケースが多数確認されている。

 このウラノツカサで確認されているだけでも、およそ一〇〇人。転生者であることを他者に隠している者も含めれば二〇〇人はくだらないだろうと言われ、ウラノツカサの全校生徒のおよそ二割弱は転生者が占める計算となる。先ほどの青髪の少女もそうだし、薫織(かおり)流知(ルシル)もまた数多いる転生者の一人だ。

 

 

「……ああ、わたくしできることなら、あと五〇年早く生まれたかったですわ。そうすれば平和な時代のうちに『シキレボ』の世界の楽しいところを思うさま堪能して寿命で死ねましたのに……」

 

「お嬢様、七〇弱じゃ人間死ねないモンだぞ」

 

「そんなこと言われても、わたくし前世の享年は三〇前でしかも病死でしてよ! 人生一二〇年とかとんだ欺瞞ですわ!!」

 

 

 うんざりしたように肩を落とす流知(ルシル)の横で、自らの主に声をかけるにはあまりにもガラが悪いコスプレメイドはぽんと落とした肩を叩く。

 

 

「それに、五〇年前だとちょうど『陰陽再黎明編』のあたりだから今より治安悪いし」

 

「どの時代も最悪ですわよねぇこの世界!! 救いはないのぉ!?」

 

「お嬢様。口調、口調が崩れていますわよー」

 

 

 本格的に項垂れてしまった流知(ルシル)の背中を押して無理やりに歩かせながら、コスプレメイドはぽつりと呟く。

 

 

「救い……救いねェ」

 

 

 『シキガミクス・レヴォリューション』の世界は、確かに危険と隣り合わせである。

 何しろ怪異との遭遇事件が日本人の死因のトップ10にランクインしているし、政府は怪異対策に追われていて陰陽術犯罪に対する法整備すらろくに整っていない。百鬼夜行(カタストロフ)という霊気の大規模暴走事故が発生すれば、都市などたちまち壊滅してしまうほどだ。

 

 

「……『草薙剣』があれば、他の皆さんもまだ未来に希望を持てたんでしょうけど……」

 

 

 ──ただし、そんな世界にも救いはあった。

 

 『草薙剣』。

 神話に語られる剣と同じ名を持つ、『陰陽革命』初期に作成されたシキガミクスだ。

 その刃は百鬼夜行(カタストロフ)の原因となる霊気の淀みを解消し、回避不能の災害のはずの百鬼夜行(カタストロフ)を未然に防ぐことができると言われている。──というか、実際にそういう能力があった。

 『原作』においても、この『草薙剣』は何度となく主人公一行ひいては世界を救うキーアイテムとなっていた。

 このように、『シキガミクス・レヴォリューション』という物語では百鬼夜行(カタストロフ)に対抗する手段もきちんとあり、それらと主人公達の活躍によって辛くも世界滅亡の危機を毎回逃れているのだが──

 

 

「…………なんか()くなっていますものね、『草薙剣』」

 

 

 しかし、それは一つ歯車が狂えば『逃れられないバッドエンドが幾つも転がっている世界』という事態にもなりかねない。

 そしてそのトリガーは、割合間近に迫っていた。

 背中を押されるがままに歩いていた流知(ルシル)は自分の足で歩き始め、薫織(かおり)の横に並んで言う。

 

 

「多分、転生者の誰かが持って行っちゃったんだと思うんですけれど……客観的に見ればヤバイなんてもんじゃないですわよ。『原作』が始まるの、三日後ですわよ。三日後」

 

 

 ──それは、『シキガミクス・レヴォリューション』の物語の最初。

 そこで一度、世界は滅亡の危機に瀕することとなる。

 人為的な事件ではない。陰陽術を学ぶ場所である『ウラノツカサ』では、島中に日常的に霊気が発散される環境が生まれている。この環境は霊気が大量に滞留することで暴走を起こす百鬼夜行(カタストロフ)が非常に発生しやすい条件が整っており──『草薙剣』はそれを抑止する役割を持ったシキガミクスだった。

 『シキガミクス・レヴォリューション』一巻ではこの『草薙剣』を私欲の為に奪おうとする敵が登場し、それに対し主人公達が立ち向かっていくことになるのだが──この世界では既に、その『草薙剣』が紛失してしまって存在しない。

 

 もちろん、転生者達はまず最初にこの『草薙剣』の復元もしくは代用を考えた。

 しかし、『草薙剣』は()()()()()()()()によって構築されているため、真っ当な方法では代用も複製もすることなどできない。

 

 つまり、いわゆる一つの、詰み状態。

 しかも、『草薙剣』ほどの超重要シキガミクスの紛失なんて事実は公表できないので、転生者達は『ウラノツカサ』に入学し、それなりに学園の状況に精通するようになってようやくこの事実を知るわけなのである。

 知った時には、既に手の打ちようがなくなっているこの地獄。

 

 

「しかも、物語全体から見れば、あそこは別に大一番ってわけではありませんもの。ステージ1で、もうこの体たらく。その後の波乱万丈の物語を考えたら、『原作』開始直前のこの時期に学園にいる生徒の何割かはもう自暴自棄なのかもしれませんわ……」

 

 

 ご覧の有様である。

 数日後の逃れられぬ最悪の事態(カタストロフ)。それによるある種の末法思想が、この学園全体を包み込んでいるのだ。

 世界の危機は、この世界が『シキガミクス・レヴォリューション』の世界である限り当然のように降りかかる。そんな『世界の流れ』に対し、一個人ができることなど限られている。であるならば──現状に絶望し、『世界の危機によって全てが終わった後』を見据えた行動を取るのが賢い選択になるのかもしれない。あの、青髪の少女のように。

 ただし。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そこで、薫織(かおり)は足を止める。

 

 

「世界の現状がどうだろうが関係ねェ。『やりたいこと』があるから、その為にも世界は終わらせねェ」

 

 

 地下鉄のホームのようにだだっ広い廊下を進んだ、その終着点。

 彼女達の前には一つの教室──より正確には『部室』があり、スライド式の引き戸には『ライトノベルイラストレーション研究部』という胡乱な看板がかけられていた。

 

 

「その為に、(オレ)達がいる。だろ?」

 

 

 ニッと勝気に笑うメイドの横顔に滲む不敵さは、そうした絶望や無力感からはかけ離れていた。

 

 

 


 

 

 

03 世界を諦めない者

>> CREATER B

 

 

 


 

 

 

 ──何も、この世界の行く末を知る者(てんせいしゃ)の全てが悲観論に囚われているわけではない。

 このコスプレメイドをはじめ世界の現状を正しく認識した上で『世界の破滅』を回避する為に活動している転生者も、相当数いる。何もすべての転生者が世界の行く末を悲観しているわけではないのだ。

 

 そうした転生者達を分類する手軽な区分は、こうした『部活』であった。

 『シキガミクス・レヴォリューション』は序盤の主な舞台が学園内である関係上、多くの組織が部活動の形で登場する。

 『ウラノツカサ』では部活動は申請さえすれば生徒が自由に設立できる為、数々の胡乱な部活が誕生していたわけだが──転生者達もこの流れを汲み、各々部活動を結成し自分たちの望む世界の為に活動しているのだった。

 薫織(かおり)流知(ルシル)が所属しているのは、この『ライトノベルイラストレーション研究部』。その名の通り、ライトノベルのイラストについて研究したり、描いてみたりするといういかにもなサブカル系の部活だったが──その真価はそこにはない。

 

 

「う~ん、頼れる発言。先輩感心しちゃうわねん」

 

 

 と。

 部室の前で話している二人に向けて、軽薄そうな女の声がかけられた。

 

 

「…………うげ」

 

 

 薫織(かおり)の口から形容しがたい呻き声が出てくるのも宜なるかな。

 

 そこにいたのは、痴女だった。

 

 学校指定の制服──ではあるのだろうが、白のブレザーを着ずにその内側のワイシャツだけを着ている、のはまだいい。

 しかしそのボタンは全く留められておらず、シャツ自体を胸の下あたりで結んで済ませている。当人がかなりの巨乳なのも相まって、かなり危険な状態に陥っていた。

 狼を連想させる癖毛気味なダークシルバーのロングヘアをポニーテールにしているだとか、胡散臭そうな糸目だとか、すらりとした高身長のモデル体型だとか、そういう印象が完全に塗り潰されたような『キャラクターデザイン』。

 その蠱惑的な肢体をいっそコメディに映るほど大袈裟にくねらせながら、女は言う。

 

 

「乱れに乱れ、崩れに崩れたこの世界で、それでも『シキガミクス・レヴォリューション』を楽しみ尽くす。その為に必要なら、世界も救ったりしちゃう! いやぁ~、我が部の精神を体現する部員達に恵まれて、お姉さんってば幸せ者だわぁ!」

 

 

 ──痴女の名は、嵐殿(らしでん)柚香(ゆずか)

 彼女もまた薫織(かおり)流知(ルシル)と同じく転生者であり、こんなナリで彼女達の保護者的な立ち位置──つまるところこの胡乱な部活動の部長の座にいる女だった。

 

 

「絵面が最悪なんだよ悦に浸るな変態。……んで、情報はつかめたんだろうな?」

 

「そりゃもちろんよぉ。お姉さんのこと誰だと思ってるの~?」

 

 

 嵐殿(らしでん)はちらりと薫織(かおり)の引きずっている青髪の少女に視線を向けると、そこは黙殺して胡散臭さいっぱいの笑みを浮かべてこう告げた。

 

 

 

「『霊威簒奪』。この()()()()について調査してきたから、さくっと報告しちゃうわよん♪」

 

「デマぁッ!?」

 

 

 嵐殿(らしでん)の台詞に一番リアクションを示したのは、薫織(かおり)でも流知(ルシル)でもなく──青髪の少女だった。

 麻縄でぐるぐる巻きにされた状態の青髪の少女は、一瞬間が空いてから自分の状況に気付く。世にも気まずそうな表情で再度黙った青髪の少女に対し、目を丸くしたのは流知(ルシル)だ。

 

 

「え……もう意識を取り戻してましたの!?」

 

「あらん? 流知(ルシル)ちゃんてば気付いてなかったの? 薫織(かおり)ちゃんの様子からしててっきりカマをかける流れかとばっかり~……」

 

 

 嵐殿(らしでん)の言葉を聞いて、流知(ルシル)は唖然としたまま傍らに立つメイドに視線を向ける。謀反メイドはむしろ気付いていなかったのかとばかりに呆れた表情で流知(ルシル)のことを見ていた。

 いやだわ、と頬に手を当てる嵐殿(らしでん)に、開き直った青髪の少女が拘束されたまま言い募る。

 

 

「か、カマってことは……!」

 

「あっ、情報の真偽について(そっち)は事実よん♪ カマって言ったのは、既知の情報をあえて話してあなたの反応を伺ったってコトねぇ」

 

「……っ、なんで……なんでそんなことが分かるんだぞっ!! 『霊威簒奪』は……『裏設定』の情報は確かなスジから仕入れたんだぞ!! デマなはずないんだぞ!!」

 

 

 麻縄でぐるぐる巻きにされているにも拘らず、青髪の少女は吠えた。

 それに対し、嵐殿(らしでん)はにっこりと眼を細めたまま、そっと倒れた状態の青髪の少女を座った体勢にしてやりつつ、

 

 

「なんでって……それはね~、あなたみたいなおバカ~なコを返り討ちにした後、拘束して首絞めて気絶させては目覚めさせて首絞めて気絶させて~を一〇〇回繰り返したけど、ま~ったく目に見えた変化がなかったからよん♪ 信じられないならあなたでも試してあげよっか、()()()()()()()?」

 

 

 じいっと目を見据えられた冷的(さまと)には、すぐに分かった。

 温和そうに細められたその目の奥にある瞳は、一切笑っていない。

 

 

「…………!?」

 

 

 冷的(さまと)静夏(しずか)。言っていなかったはずの今世の名を言い当てられ、思わず息を呑んだ青髪の少女──冷的(さまと)からスッと一歩引いて、嵐殿(らしでん)は冗談を言うときのような気軽さで笑う。

 

 

「な~んてウ~ソよう! イヤねぇ、お姉さんも流石にそんな酷いことできないわよん!」

 

「た、た、性質悪い冗談だぞ、オマエ……」

 

「……君の立場で、優しく取り扱ってもらえるとでも? 襲撃犯さん」

 

「ま、まぁまぁまぁまぁ! 師匠もそのへんにして差し上げて!」

 

 

 ただでさえ冷え切った空気がさらに冷え込みかけたところで、慌てて流知(ルシル)が割って入る。

 すると嵐殿(らしでん)はまるで先ほどまでの冷たい顔色こそが冗句だったかのようにけろっと表情を明るくする。

 

 

「んも~、悪かったわよぉ。怖かった? ごめんなさいねぇ、()()を襲われたから仕返しに、ちょっと怖がらせちゃおっかなって茶目っ気よ~!」

 

 

 オホホ、と嘯きながら嵐殿(らしでん)はくるりとその場で回って、

 

 

「……ま、ホントのことを言えば、デマだっていうのは最初から分かってたの。だってお姉さん、『シキガミクス・レヴォリューション』原作のイラスト担当だも~ん」

 

 

 ──そう、あっさりと言った。

 

 『シキガミクス・レヴォリューション』イラスト担当、オオカミシブキ。

 『シキガミクス・レヴォリューション』のキャラクターデザインからメカデザイン、果ては都市などの背景デザインまで担当していたというイラストレーターである。

 非常に多作で、『シキガミクス・レヴォリューション』以外にもイラスト系SNSで掲載していたイラストや短編漫画などをまとめて定期的に商業出版するような人気クリエイターだった。

 『シキガミクス・レヴォリューション』原作者とは高校時代からの友人、かつ公私共に親しいことで有名で、生活能力のない虎刺をサポートする為に殆ど同棲状態で生活をしていたとか、『シキガミクス・レヴォリューション』の印税で得た虎刺の莫大な資産の管理を一手に取り仕切っていたりとか、とかくエピソードに事欠かない人物で──その中で、『シキガミクス・レヴォリューション』の設定を非公開のものに至るまで聞かされている、と言われていた。

 

 ──『ライトノベルイラストレーション研究部』。

 つまりは、そういうことである。

 

 

「だから、お姉さんは『シキガミクス・レヴォリューション』の設定なら裏設定までバッチリ把握してるの~。……『霊威簒奪』なんて事象は、その中には存在していない。絶対にね」

 

 

 そこだけは、嵐殿(らしでん)は真顔で断言した。

 しかしその表情はすぐにへにゃりと柔らかくなり、また元の調子に戻って話の続きを始める。

 

 

「調査してたっていうのは()()()()()じゃなくて、デマ情報の出どころなのねん。冷的(さまと)ちゃんは周回遅れにしちゃって悪いけど~」

 

「そ、そんなぁ……」

 

 

 平然と言う嵐殿(らしでん)に、冷的(さまと)は世にも情けない表情で溜息をついてしまう。

 ──冷的(さまと)の立場からすれば、仕方のないことだった。何せ彼女は百鬼夜行(カタストロフ)の阻止について『できる訳がない』と諦めて、『滅んだ後の世界』で有利に立ち回る為に『霊威簒奪』の噂に飛びついたのだ。

 これがデマとなれば、冷的(さまと)は無用に他人を襲っただけである。無駄な恨みを買っただけという最悪な展開なのもさることながら、成果が得られなかったことで改めて『誰かを一方的に傷つけようとした』事実が背に圧し掛かる。

 

 

「ま、そこで罪悪感を覚えられるんならまだ救いようはあるだろ」

 

 

 そんな冷的(さまと)の様子を見て、薫織(かおり)はふんと鼻を鳴らして言う。流知(ルシル)に目配せをして頷くのを確認した後、薫織(かおり)は項垂れる冷的(さまと)を縛っていた縄を解いてやった。

 

 

「……い、いーのか? 急に襲い掛かった上に追いかけまわして、けっこー本気で攻撃したのに」

 

お嬢様(アイツ)が良いって言ってるしな。それにこの通り、(オレ)は無傷だし」

 

「うぐっ」

 

 

 言外に格が違うと言われてしまった冷的(さまと)は苦し気に呻くと、また先ほどのように項垂れてしまった。実際、戦闘の流れ自体はほぼ必殺女中(リーサルメイド)のペースで進んでしまっていたので言い返す余地もない。

 しばし気まずそうに視線を彷徨わせた後で、冷的(さまと)はおずおずと口を開いた。

 

 

「その……、……ごめんなさい。勘違いで襲って……、いや、そもそも襲ったこと……」

 

「いいんですのよ。分かっていただければそれで。いやぁ本当によかったですわ、無事に和解できて」

 

 

 項垂れながらもか細い声で詫びた冷的(さまと)に、流知(ルシル)はにっこりと微笑みかける。

 

 

「……それで! デマの出どころって結局どこだったんですの? 師匠」

 

 

 少し湿っぽい沈黙が流れかけたところで、流知(ルシル)がパン! と手を叩いて話を切り替える。

 一部始終を楽しそうに眺めていた嵐殿(らしでん)だったが、話を振られたことで『そうね~』と相槌を打ってから、

 

 

「まず、この噂って妙な点があるのよねぇ」

 

 

 と、徐に話し始めた。

 

 

「『裏設定を発見した』。これ自体はまぁいいわ。でも、その検証はどうやってやったのかしらん? 霊力の増減なんて見た目では分からないじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………あ、確かに」

 

 

 言われて、まんまとデマに引っかかっていた冷的(さまと)は納得してしまった。

 『勝敗によって霊気に変動が発生した』という情報が事実だとして、そんなものを感知できるような人間はほぼいない。この情報自体、その確認の難しさを利用して広められている節がある。

 

 だが一方で、転生者達だってただのバカというわけではない。むしろその多くは前世である程度の人生経験を積み、多少の賢しさを備えた人間である。

 検証ができないということは、目に見える根拠がないということだ。いかに百鬼夜行(カタストロフ)による滅亡が回避できない状況とはいえ、果たして全く根拠のない情報を信じたりするだろうか。

 ──答えは、否。おそらく、個人個人に何かしらの『信じるに足る理由』があったはずだ。

 たとえば、情報源が個人的に信頼できる相手だったとか。もしも信頼を置く相手から伝えられた情報だった場合は、根拠がなくても信じてしまうかもしれない。

 

 では、冷的(さまと)にデマを聞かせた人物は誰からその話を聞いたのか? さらにその『誰か』はどこから情報を仕入れたのか? そうして大元を辿っていけば、おのずと答えは見えてくる。

 

 

「その前提を考えた時点で、ある程度アタリはついてたんだけどね~。調べてみたら、案の定だったわよん♪ デマの出所、その名は…………」

 

 

 そこまで言って、嵐殿(らしでん)はその名を口にした。

 

 

「……『生徒会執行部』」

 

 

 ウラノツカサ生徒会執行部、通称『生徒会』。

 『原作』には存在しない、学内最大の転生者組織。

 その正体は、未確認の者も合わせれば総勢二〇〇人程度の転生者がいるという『ウラノツカサ』において、実に五〇人以上にも及ぶ()()()()構成員を誇る超巨大組織である。

 実質的に学園の運営を支配しているこの組織の長には、こんな噂がまことしやかに囁かれていた。

 

 ──噂に曰く。

 

 

 

「『()()()()』、トレイシー=ピースヘイヴン」

 

 

 

 『生徒会長の正体は、「シキガミクス・レヴォリューション」の原作者である』、と。

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