【改稿前版】唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション 作:家葉 テイク
「さてお客人達。君たちの名を伺っても?」
「…………
ピースヘイヴンの初手が対話だったからか。
「あぁ、
「何故、『霊威簒奪』なんてデマを撒いた?」
両手を広げて演劇でもするみたいに語るピースヘイヴンの言葉を遮るようにして、
腕を組んで佇む姿は戦闘態勢とは程遠いが、それでも彼女の放つプレッシャーは並の生徒なら気圧されてしまいそうなほどに強大だった。──しかしピースヘイヴンはそんなものに意も介さず、
「随分急くな、
「
平然と
というか、そもそもこの盤面でピースヘイヴンが登場してくるのは、そのくらい異常なことなのだ。
『生徒会長』という立場を持ち、最大派閥を率いているピースヘイヴンには、『シキガミクス』を含めて大量の手駒が存在している。通常であれば、長であるピースヘイヴンはそれらを指揮をする立場であり、こうして現場に出てくることなどありえない。
(あるとすれば……『大ボスが登場する』っていうイベントを発生させることで、こちらの動揺を誘うとかか?)
想定外の事象が発生したことで、
もちろん、だからといって敵の目的がそうであると断定するのはあまりにも危険な判断だが。
(まァ、敵の目的がどうであれ
懸念材料はあるが、
行動する前から正解が明確に見えていることなど、現実では早々ない。そうした迷いが実戦では致命的な隙を生むことを知っている
それに、このピースヘイヴンの動きは
「ただでさえ、もうじきやってくる『
「んー……。そもそもシロウ……ああ失礼、
少し困ったように、ピースヘイヴンは首を傾げる。
「君達は『霊威簒奪』とかいうデマの出所は私だと考えているようだが、その情報もどうせ彼女からだろう? しかもあの胡散臭さだ。彼女が虚言を吐いて私を黒幕に仕立て上げようとしている可能性を何故考えない?」
「『メガセンチピード』を出して来てんのに今更すぎんだろ」
飄々と問いかけるピースヘイヴンに対し、
「『メガセンチピード』の目的は人質調達だ。『シキガミクス』を失った
即座に切り返されたピースヘイヴンは、浮かべた笑みに少し気まずそうな色を滲ませ、それから大して間も置かずに答える。
「……『メガセンチピード』を使った襲撃が私の陰謀であることは認めよう。だが、それは
「
「…………、」
「仮にデマの出所があの痴女野郎だったとして。アイツ自身が言っていたように、そんなもんは所詮搦め手にすぎねェ。基盤も権威もテメェ自身の方が上だ。テメェがシロなら、あっさりと潰せるはずだろうがよ。こんな噂」
そこまで言い切った
「答え合わせをしに来てんじゃねェんだ。お前は黒幕。それは前提。こっちが聞きてェのは周回遅れの悪足掻きなんかじゃなくて、『霊威簒奪』なんてデマを撒いた黒幕サマの意図だっつってんだよ」
「…………治安悪化という特大のデメリットを加味してもなお果たさねばならない目的があるから、と言っても……おそらくは納得してもらえないだろうね」
観念したからか、ピースヘイヴンはバツの悪そうな笑みを浮かべて答えていた。
「虚偽の情報を真実だと思い込ませるのは、全体の虚偽の中に一握りの真実を加えておけばそう難しくはないんだ」
そして、ピースヘイヴンはそんなことを言う。
「この場合、一握りの真実とは『陰陽師は常に一〇〇%のコントロールで霊気を操れる訳ではない』という部分があたる。『読者』にとって既知の情報は、そこから続く新情報もまた事実であると認識しやすくなる」
「……まァ、それが
そして、その原因となる霊気は怪異の活動や人類が発動する陰陽術の余剰霊気が蓄積されることによって発生する。──もっとも、この事実は世情不安を抑える為に表向きには公表されていないが。
人類の生活を豊かにした陰陽術だが、それを無秩序に行使すれば
「まさにそこだよ。『霊威簒奪』のデマは
ピースヘイヴンは、我が意を得たりとばかりにぱちんと指を弾く。
「『霊威簒奪』を信じた者達は、やがて来る
「……分からねェな。それじゃあ結局テメェの首を絞めているだけじゃねェか」
ピースヘイヴンの話を聞くだけだと、『霊威簒奪』は
だが、
霊気の破壊という第一波と、大量発生した怪異の襲撃という第二波。人類はまだ、この災害を克服することができていない。──精々、『草薙剣』をはじめとした何らかの特殊な方法によって霊気の淀みが一定量以上に大きくならないよう管理するくらいしかできないのだ。
つまり、
そんなことをするのは──
「世界を巻き込んだ壮大な破滅願望でもあるってんなら話は別だが……」
「まさか。そんなチンケな悪党をやるつもりは私にはないよ! これでも私は学園全体を支配する黒幕をやってるんだぞ?」
ピースヘイヴンは、心外とばかりに眉をひそめた。
それから少しムキになったように声を大きくして、
「
「……いやァ…………全く」
「えー! もう、少しは考察とかしてくれよー……。張り合いがないぞ」
ピースヘイヴンは分かりやすく肩を落とした。
「まー、理由はそれだよ。隠してもどうせバレるだろうから言ってしまうが、確かに被害は一定数発生する。だが私はこの世界を投げ出すつもりはないよ。私は私なりの
そこまで言うと、ピースヘイヴンはパンパンと手を叩く。
同時に、
「話は此処までだ。十分にヒントは出してやったことだし、残りは君達で考えてくれたまえよ」
直後、だった。
ドッッッ!!!! と、
| 06 見えない暗殺者 |
| >> MURDEROUS CLARITY |
| 画:レナルーさん(@renaru_ex) |
| メイド服型のシキガミクス。 服の生地に織り交ぜたり、各種装飾に備え付ける形でシキガミクスを実装している。 その為、普通の衣服でありながらシキガミクス相応の防御力を備えている。
『女中道具』を取り寄せる能力。 この『女中道具』は前以て作成した『裏階段』に保管されている物品で、発現した段階でシキガミクスの一部として扱われ、霊力によって強化される。 『裏階段』に保管してさえいればどんなものでも『女中道具』として扱うことができるが、本体のこだわりの為『掃除用具』『調理器具』『食器類』『食材』『寝具』以外のメイドに関係なさそうな物品はほぼ置かれていない。
また、本体に限り『裏階段』へ瞬間転移することが可能。再転移すると元の位置に戻る。 『裏階段』は屋根と壁がある屋内にシキガミクスと同様の陣を床一面に記せば最大で一〇個まで作成可能で、現時点で貸倉庫や洋上のクルーザーなど全国に七か所ほど『裏階段』が存在している。
元々は瞬間移動系の霊能だったが、本人の類稀なメイド欲によって物品のアポート能力に調整されている。
|
| 『 |
|---|
| 攻撃性:70 防護性:70 俊敏性:70 持久性:90 精密性:90 発展性:95 |
「なッ…………!?
「心配要らねェ! 防御はしている!!」
思わず悲鳴を上げた
そのまま
「…………ピースヘイヴンは……もう離脱したか。チッ、まんまと逃げられちまったな。まァ、ある程度の時間と情報は得られたから良しとはするが……」
すっかり戦闘モードになっている
それは──
あの場には、
「……今のはピースヘイヴンの能力じゃねェな。
最初の時点では能力を出し惜しみして確実な不意打ちを行おうとしたという可能性もあるにはあるが、それならばわざわざシキガミクスを見せながら『メガセンチピード』を破壊するより、能力を使って『メガセンチピード』と戦っている
そう考えると、先ほど
『『『……参ったな。まさか初撃を無傷でやり過ごされるとは思っていなかった』』』
と、あたりからほぼ同時に、複数の声が重なって響いた。
少年──というには、あまりにも落ち着いた声色だった。
声の張りは確かに少年なのに、まるで四〇過ぎの壮年の策略家を相手にしているような──そんな気配が、声の裏から漂っている。
見れば、廊下の各所には校内放送用の小型スピーカーが幾つも配置されていた。
「なるほどな。ピースヘイヴンの突然の登場は時間稼ぎかつ、お前の奇襲を成功させる為の囮だったって訳だ。得心がいったよ」
『『『……お陰様で不発に終わったがね』』』
「お前、自分の姿を消すタイプの霊能使ってんだろ? 視覚的な無敵にかまけて足音消し忘れてたぞ」
存在を認識できないままの完全なる不意打ち。
その攻撃に
それに加えて、スピーカー──即ち自分の声の位置が特定しづらくなる工夫を施しているところを見ると、透明になるとか、対象の視覚から自分を消すとか、そういう霊能である可能性が高くなってくる。
そこまで一瞬で思考を巡らせた戦闘メイドに対し、声の主は少しばかり言葉を選んで、
『『『……ご忠告痛み入る。流石は
直後。
複数のスピーカーから、荘厳なオーケストラ音楽が鳴り響いた。
突然の爆音に
(
視界の端で走り去って行く二人の影を見たメイドは、口端に笑みを浮かべる。
直後──ガチャチャチャチャチャチャチャン!! と。
『『『……何かね? 意図が読めないが……』』』
「気にすんな。単なるメイドの仕事だ。
事も無げに。
「あるいは、
『『『…………、食器を粗末に扱うのはメイドとしてまずくないかね?』』』
「……落第メイドか。悪くねェ響きだ」
不良メイドはどうやら無敵だったらしい。
襲撃者はその様子を見て大きく息を吐くと、一転して悠長な態度を取り始めた。
『『『……やれやれ。これは長丁場になりそうだ。……まずは自己紹介をしてもいいかね?』』』
オーケストラをBGMにしながら、ゆったりとした調子で襲撃者は語りだす。
『『『……私の名は
「ほォ、そいつは都合がいい。こっちの目的は生徒会の攪乱だ。重要ポストをボコボコにできりゃあ、組織に与える衝撃ってのも十分だろ」
『『『……血の気が多いな。……何かね? 私程度であれば問題なく倒せるとでも?』』』
「そうだと言ったら?」
『『『……何も言うまい。……相手が勝手に油断してくれているならば、その機に乗じない手はないのだから』』』
会話が、そこで一旦途切れる。
(『音』で自分の存在を塗り潰しにかかったところからして、光学的干渉で自分の姿を消しているか、
シキガミクスには、その運用方式によって幾つかの種類が存在している。
他にも『展開型』や『封印型』など色々種類はあるが、大概のシキガミクスはこの三つに分類される。
着用型は術者本人がシキガミクスの駆動によってダメージを受けないよう精密に調整する必要があり、運用難易度が高い。だから基本的に、シキガミクスによる攻撃があるのに周辺に本体らしき人影がない場合、真っ先に疑うべきは使役型シキガミクスの遠隔操作だ。
シキガミクスは霊気によって動くため、カメラに用いられている霊気が届く範囲であれば遠隔操作が可能である。もっとも、この場合シキガミクス視点の視覚のみで操作を行う必要がある為、人体スペックを超える動きをさせることが難しくなるという欠点があるのだが──
(透明化したシキガミクスと周囲に見当たらない術者という状況の場合、まず真っ先に思い浮かぶ敵の霊能と
警戒を解かないまま、戦闘メイドは思考を巡らせていく。
(1.遠隔操作の使役型で、シキガミクス自体が
とはいえ、
(
遠隔操作使役型と、着用型の違い。
それは、着用型が遠隔操作の使役型と違って人体の限界を超えた挙動を取れるという点にある。
つまり、着用型の攻撃は最低でも人体を超えたスペックになる。直前に足音を聞いた段階からでは、さしもの
(だが、そうすると疑念が生まれる。自身を透明化するってことはあらゆる光学情報が素通りしてしまうってことだ。そうなれば光はレンズに結像しないから、映像情報を取得することもできねェ。……
物体を透明にする霊能自体は、そこまで珍しいモノではない。武器を透明にしたり、地形を透明にしたりする戦略上のメリットは計り知れないからだ。たとえば何の変哲もない弓矢を透明にするだけでも、敵の回避難易度は大幅に向上するだろう。
ただし、
同様の理由で、着用型のシキガミクスでも透明化の霊能を構築することはまずないと言っていい。
(
透明化も視覚干渉もあり得ない。
となると、敵の霊能については第三の可能性を考えなければならないが──
(……考えられるのは
だいたいのアタリをつけた戦闘メイドは、スッとデッキブラシを取り出して構える。
そして、不可視の暗殺者に対してはっきりと宣言した。
「──さて、そろそろ『ご奉仕』の時間と行くか」