【改稿前版】唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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06 見えない暗殺者

「さてお客人達。君たちの名を伺っても?」

 

「…………遠歩院(とおほいん)流知(ルシル)と申しますわ。こちらはわたくしのメイドの園縁(そのべり)薫織(かおり)で、こっちがご友人の冷的(さまと)静夏(しずか)さん」

 

 

 ピースヘイヴンの初手が対話だったからか。

 流知(ルシル)は支柱の陰から完全に出ると、そう言って一礼した。

 

 

「あぁ、遠歩院(とおほいん)君か。君のことは知っているよ。学園祭の準備で色々協力してくれていると聞いているからね。いやぁ、設立一か月だというのにライ研の活躍は目覚ましいな!」

 

「何故、『霊威簒奪』なんてデマを撒いた?」

 

 

 両手を広げて演劇でもするみたいに語るピースヘイヴンの言葉を遮るようにして、薫織(かおり)は問いかける。

 腕を組んで佇む姿は戦闘態勢とは程遠いが、それでも彼女の放つプレッシャーは並の生徒なら気圧されてしまいそうなほどに強大だった。──しかしピースヘイヴンはそんなものに意も介さず、

 

 

「随分急くな、園縁(そのべり)君。時間稼ぎが目的なんじゃないのかい?」

 

(オレ)が必死に稼がなくても、どうもお前が勝手に時間を稼いでくれているみてェだしな」

 

 

 平然と薫織(かおり)達の目的を言い当てたピースヘイヴンだったが、薫織(かおり)は欠片も動じずに言い返す。

 

 というか、そもそもこの盤面でピースヘイヴンが登場してくるのは、そのくらい異常なことなのだ。

 『生徒会長』という立場を持ち、最大派閥を率いているピースヘイヴンには、『シキガミクス』を含めて大量の手駒が存在している。通常であれば、長であるピースヘイヴンはそれらを指揮をする立場であり、こうして現場に出てくることなどありえない。

 

 

(あるとすれば……『大ボスが登場する』っていうイベントを発生させることで、こちらの動揺を誘うとかか?)

 

 

 想定外の事象が発生したことで、嵐殿(らしでん)の判断を鈍らせ、こちらの行動を後手に回す作戦であればピースヘイヴンが突然矢面に現れたことにも納得がいく。

 もちろん、だからといって敵の目的がそうであると断定するのはあまりにも危険な判断だが。

 

 

(まァ、敵の目的がどうであれ(オレ)は自分の役割を果たすだけだ。作戦負けしていた場合はその時リカバリすれば良い)

 

 

 懸念材料はあるが、薫織(かおり)はそこで迷いを押し殺す。

 行動する前から正解が明確に見えていることなど、現実では早々ない。そうした迷いが実戦では致命的な隙を生むことを知っている薫織(かおり)は、迷いを自覚しながら『迷わない』ことができた。

 それに、このピースヘイヴンの動きは薫織(かおり)達との目的とも合致する。目的は全面戦争というわけでもない。よって薫織(かおり)はあえて戦闘態勢を解きながら、

 

 

「ただでさえ、もうじきやってくる『百鬼夜行(カタストロフ)』のせいで学内の治安は終わってんだ。ここに『霊威簒奪』なんてデマをぶち込めば、学内がどうなるかくらい分かんだろうが」

 

「んー……。そもそもシロウ……ああ失礼、柚香(ゆずか)の言は疑わないのかね?」

 

 

 少し困ったように、ピースヘイヴンは首を傾げる。

 

 

「君達は『霊威簒奪』とかいうデマの出所は私だと考えているようだが、その情報もどうせ彼女からだろう? しかもあの胡散臭さだ。彼女が虚言を吐いて私を黒幕に仕立て上げようとしている可能性を何故考えない?」

 

「『メガセンチピード』を出して来てんのに今更すぎんだろ」

 

 

 飄々と問いかけるピースヘイヴンに対し、薫織(かおり)の返答は一切ブレなかった。

 

 

「『メガセンチピード』の目的は人質調達だ。『シキガミクス』を失った冷的(さまと)を攫えばこっちとしては見捨てる訳にはいかねェからな。(オレ)はそっちにかかりきりになる。ウチのお嬢様の性格(キャラ)を知っているなら、真っ先に考える手だよ」

 

 

 即座に切り返されたピースヘイヴンは、浮かべた笑みに少し気まずそうな色を滲ませ、それから大して間も置かずに答える。

 

 

「……『メガセンチピード』を使った襲撃が私の陰謀であることは認めよう。だが、それは柚香(ゆずか)から君達を引き離すのに必要なことだった。潔白でないからと言って黒幕であると断ずるのは早計ではないかね?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「…………、」

 

 

 薫織(かおり)が突きつけるようにそう言うと、ピースヘイヴンの滑らかな言葉が暫し止まる。

 

 

「仮にデマの出所があの痴女野郎だったとして。アイツ自身が言っていたように、そんなもんは所詮搦め手にすぎねェ。基盤も権威もテメェ自身の方が上だ。テメェがシロなら、あっさりと潰せるはずだろうがよ。こんな噂」

 

 

 そこまで言い切った薫織(かおり)は、溜息を吐くように目を伏せてから、

 

 

「答え合わせをしに来てんじゃねェんだ。お前は黒幕。それは前提。こっちが聞きてェのは周回遅れの悪足掻きなんかじゃなくて、『霊威簒奪』なんてデマを撒いた黒幕サマの意図だっつってんだよ」

 

「…………治安悪化という特大のデメリットを加味してもなお果たさねばならない目的があるから、と言っても……おそらくは納得してもらえないだろうね」

 

 

 観念したからか、ピースヘイヴンはバツの悪そうな笑みを浮かべて答えていた。

 

 

「虚偽の情報を真実だと思い込ませるのは、全体の虚偽の中に一握りの真実を加えておけばそう難しくはないんだ」

 

 

 そして、ピースヘイヴンはそんなことを言う。

 

 

「この場合、一握りの真実とは『陰陽師は常に一〇〇%のコントロールで霊気を操れる訳ではない』という部分があたる。『読者』にとって既知の情報は、そこから続く新情報もまた事実であると認識しやすくなる」

 

「……まァ、それが百鬼夜行(カタストロフ)が引き起こされる理由でもある訳だしな」

 

 

 百鬼夜行(カタストロフ)とは、空間中における霊気の淀みが一定濃度を超えることで発生する霊気災害だ。

 そして、その原因となる霊気は怪異の活動や人類が発動する陰陽術の余剰霊気が蓄積されることによって発生する。──もっとも、この事実は世情不安を抑える為に表向きには公表されていないが。

 人類の生活を豊かにした陰陽術だが、それを無秩序に行使すれば百鬼夜行(カタストロフ)が起きて大規模な被害が齎される。それが『原作』にて語られたこの社会の歪みだった。

 

 

「まさにそこだよ。『霊威簒奪』のデマは()()()に流したんだ」

 

 

 ピースヘイヴンは、我が意を得たりとばかりにぱちんと指を弾く。

 

 

「『霊威簒奪』を信じた者達は、やがて来る百鬼夜行(カタストロフ)によって破綻した社会に備える為に力を得ようとするだろう。そして散発的な戦闘が行われれば、その分余剰霊気は大気中に放散される。──つまり、場の霊気淀みの濃度が上昇するスピードも上がり、百鬼夜行(カタストロフ)までのリミットが短くなるというわけだ」

 

「……分からねェな。それじゃあ結局テメェの首を絞めているだけじゃねェか」

 

 

 薫織(かおり)は怪訝そうな表情を隠そうともせずに言った。

 ピースヘイヴンの話を聞くだけだと、『霊威簒奪』は百鬼夜行(カタストロフ)の進行を早めているだけのように聞こえる。

 だが、百鬼夜行(カタストロフ)とはそもそもただの災害だ。霊気の淀みが崩壊することによって、広域に霊気による破壊が発生し、その際に霊気が結合することで大量の怪異が自然発生する。

 霊気の破壊という第一波と、大量発生した怪異の襲撃という第二波。人類はまだ、この災害を克服することができていない。──精々、『草薙剣』をはじめとした何らかの特殊な方法によって霊気の淀みが一定量以上に大きくならないよう管理するくらいしかできないのだ。

 

 つまり、百鬼夜行(カタストロフ)を早めるなど普通ならば自殺行為。

 そんなことをするのは──

 

 

「世界を巻き込んだ壮大な破滅願望でもあるってんなら話は別だが……」

 

「まさか。そんなチンケな悪党をやるつもりは私にはないよ! これでも私は学園全体を支配する黒幕をやってるんだぞ?」

 

 

 ピースヘイヴンは、心外とばかりに眉をひそめた。

 それから少しムキになったように声を大きくして、

 

 

百鬼夜行(カタストロフ)の発生を()()()()()()というのが重要なんだ。霊気の淀みが暴走し、崩壊と共に数多の怪異を生み出すあの災害を! 私がこの手で管理するということが! ……とここまで言えばおおよそ策略の概要くらいは分かるかね?」

 

「……いやァ…………全く」

 

「えー! もう、少しは考察とかしてくれよー……。張り合いがないぞ」

 

 

 ピースヘイヴンは分かりやすく肩を落とした。

 

 

「まー、理由はそれだよ。隠してもどうせバレるだろうから言ってしまうが、確かに被害は一定数発生する。だが私はこの世界を投げ出すつもりはないよ。私は私なりの陰謀(やりかた)で、この世界を今後も運営していく。この世界を作った責任者としてな」

 

 

 そこまで言うと、ピースヘイヴンはパンパンと手を叩く。

 同時に、薫織(かおり)は身を低くして神経を尖らせていく。

 

 

「話は此処までだ。十分にヒントは出してやったことだし、残りは君達で考えてくれたまえよ」

 

 

 直後、だった。

 

 ドッッッ!!!! と、薫織(かおり)の身体が独りでに真横へ吹っ飛ばされたのは。

 

 

 


 

 

 

 

06 見えない暗殺者

>> MURDEROUS CLARITY

 

 

 


 

 

 

 

 

画:レナルーさん(@renaru_ex

メイド服型のシキガミクス。

服の生地に織り交ぜたり、各種装飾に備え付ける形でシキガミクスを実装している。

その為、普通の衣服でありながらシキガミクス相応の防御力を備えている。

 

『女中道具』を取り寄せる能力。

この『女中道具』は前以て作成した『裏階段』に保管されている物品で、発現した段階でシキガミクスの一部として扱われ、霊力によって強化される。

『裏階段』に保管してさえいればどんなものでも『女中道具』として扱うことができるが、本体のこだわりの為『掃除用具』『調理器具』『食器類』『食材』『寝具』以外のメイドに関係なさそうな物品はほぼ置かれていない。

 

また、本体に限り『裏階段』へ瞬間転移することが可能。再転移すると元の位置に戻る。

『裏階段』は屋根と壁がある屋内にシキガミクスと同様の陣を床一面に記せば最大で一〇個まで作成可能で、現時点で貸倉庫や洋上のクルーザーなど全国に七か所ほど『裏階段』が存在している。

 

元々は瞬間移動系の霊能だったが、本人の類稀なメイド欲によって物品のアポート能力に調整されている。

 

女中の心得(ホーミーアーミー)

攻撃性:70 防護性:70 俊敏性:70

持久性:90 精密性:90 発展性:95

※100点満点で評価

 

 

 


 

 

 

「なッ…………!? 薫織(かおり)ぃ!!」

 

「心配要らねェ! 防御はしている!!」

 

 

 思わず悲鳴を上げた流知(ルシル)だったが、薫織(かおり)はと言えば吹っ飛ばされる直前に両腕を交差させて身を守っていたらしく、ダメージ自体はそこまででもないようだった。

 そのまま薫織(かおり)は空中で一回転して、その後すぐさま跳躍し、流知(ルシル)冷的(さまと)の元へと戻る。

 

 

「…………ピースヘイヴンは……もう離脱したか。チッ、まんまと逃げられちまったな。まァ、ある程度の時間と情報は得られたから良しとはするが……」

 

 

 すっかり戦闘モードになっている薫織(かおり)だったが、今この盤面には欠落しているピースが一つだけあった。

 それは──薫織(かおり)を吹っ飛ばした攻撃の正体。

 あの場には、薫織(かおり)流知(ルシル)冷的(さまと)、それとピースヘイヴンの四人しか人影は存在していなかった。となると、アレ自体はピースヘイヴンの能力のように思えるが──

 

 

「……今のはピースヘイヴンの能力じゃねェな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。逆に言えば、シキガミクスの姿すら確認できない能力ではねェってことだ」

 

 

 最初の時点では能力を出し惜しみして確実な不意打ちを行おうとしたという可能性もあるにはあるが、それならばわざわざシキガミクスを見せながら『メガセンチピード』を破壊するより、能力を使って『メガセンチピード』と戦っている薫織(かおり)の隙を突く方が合理的である。

 そう考えると、先ほど薫織(かおり)を攻撃した敵はピースヘイヴンとは違う新手で、ピースヘイヴンとの会話に熱中している薫織(かおり)を襲ったが、寸前のところでガードされてしまった──という流れなのだろう。

 

 

『『『……参ったな。まさか初撃を無傷でやり過ごされるとは思っていなかった』』』

 

 

 と、あたりからほぼ同時に、複数の声が重なって響いた。

 

 少年──というには、あまりにも落ち着いた声色だった。

 声の張りは確かに少年なのに、まるで四〇過ぎの壮年の策略家を相手にしているような──そんな気配が、声の裏から漂っている。

 見れば、廊下の各所には校内放送用の小型スピーカーが幾つも配置されていた。

 薫織(かおり)はつまらなさそうに鼻を鳴らすと、

 

 

「なるほどな。ピースヘイヴンの突然の登場は時間稼ぎかつ、お前の奇襲を成功させる為の囮だったって訳だ。得心がいったよ」

 

『『『……お陰様で不発に終わったがね』』』

 

「お前、自分の姿を消すタイプの霊能使ってんだろ? 視覚的な無敵にかまけて足音消し忘れてたぞ」

 

 

 存在を認識できないままの完全なる不意打ち。

 その攻撃に薫織(かおり)が対応できたのには幾つかの要因があるが、そのうちの一つに『襲撃の直前に敵の足音が聞こえていた』というのがあった。

 それに加えて、スピーカー──即ち自分の声の位置が特定しづらくなる工夫を施しているところを見ると、透明になるとか、対象の視覚から自分を消すとか、そういう霊能である可能性が高くなってくる。

 そこまで一瞬で思考を巡らせた戦闘メイドに対し、声の主は少しばかり言葉を選んで、

 

 

『『『……ご忠告痛み入る。流石は必殺女中(リーサルメイド)といったところか。だがそれはつまり、聴覚を潰せば打つ手がなくなるということにもならないかね?』』』

 

 

 直後。

 複数のスピーカーから、荘厳なオーケストラ音楽が鳴り響いた。

 突然の爆音に薫織(かおり)は眉を潜めつつ、舌打ちする。

 

 

流知(ルシル)とサメガキは……戦場から退避し始めている、か。サメガキと一緒に行動させておいて正解だったな。あっちの方がまだ平和ボケ度合いは薄いし)

 

 

 視界の端で走り去って行く二人の影を見たメイドは、口端に笑みを浮かべる。

 

 直後──ガチャチャチャチャチャチャチャン!! と。

 薫織(かおり)の背後に、大量のフォークやスプーンが撒き散らされた。

 

 

『『『……何かね? 意図が読めないが……』』』

 

「気にすんな。単なるメイドの仕事だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 事も無げに。

 薫織(かおり)は、この場において最悪の可能性を指摘する。

 

 

「あるいは、(オレ)にその可能性を警戒させることで隙を誘発させるとかか? いずれにせよメイドとしては放置していていい可能性じゃねェな。だから、テメェがお嬢様を襲いに行けばいくら大音量でも掻き消せねェ音が出るように『鳴子』をバラ撒いておいたってだけだ」

 

『『『…………、食器を粗末に扱うのはメイドとしてまずくないかね?』』』 

 

「……落第メイドか。悪くねェ響きだ」

 

 

 不良メイドはどうやら無敵だったらしい。

 襲撃者はその様子を見て大きく息を吐くと、一転して悠長な態度を取り始めた。

 

 

『『『……やれやれ。これは長丁場になりそうだ。……まずは自己紹介をしてもいいかね?』』』

 

 

 オーケストラをBGMにしながら、ゆったりとした調子で襲撃者は語りだす。

 

 

『『『……私の名は打鳥(だどり)保親(やすちか)。……生徒会副会長の任を仰せつかっている。会長の「腹心」と、そう受け取ってもらっていい』』』

 

「ほォ、そいつは都合がいい。こっちの目的は生徒会の攪乱だ。重要ポストをボコボコにできりゃあ、組織に与える衝撃ってのも十分だろ」

 

『『『……血の気が多いな。……何かね? 私程度であれば問題なく倒せるとでも?』』』

 

「そうだと言ったら?」

 

『『『……何も言うまい。……相手が勝手に油断してくれているならば、その機に乗じない手はないのだから』』』

 

 

 会話が、そこで一旦途切れる。

 薫織(かおり)は、静かに敵の能力の本質を測っていた。

 

 

(『音』で自分の存在を塗り潰しにかかったところからして、光学的干渉で自分の姿を消しているか、(オレ)の視覚に干渉して自分を見えなくしているのは確定。……本体の姿が見えねェのは、(オレ)と同じように着用型なのか、あるいは使役型を遠隔操作しているのか……)

 

 

 シキガミクスには、その運用方式によって幾つかの種類が存在している。

 冷的(さまと)皮剥上手(ピーラージョーズ)のようにシキガミクス自体を操作することができるタイプは『使役型』。

 流知(ルシル)飛躍する絵筆(ピクトゥラ)のようにシキガミクスを陰陽師自身が手に取り扱うタイプは『装備型』。

 薫織(かおり)女中の心得(ホーミーアーミー)のようにシキガミクスで本体の動きを補佐するタイプは『着用型』。

 他にも『展開型』や『封印型』など色々種類はあるが、大概のシキガミクスはこの三つに分類される。

 

 着用型は術者本人がシキガミクスの駆動によってダメージを受けないよう精密に調整する必要があり、運用難易度が高い。だから基本的に、シキガミクスによる攻撃があるのに周辺に本体らしき人影がない場合、真っ先に疑うべきは使役型シキガミクスの遠隔操作だ。

 シキガミクスは霊気によって動くため、カメラに用いられている霊気が届く範囲であれば遠隔操作が可能である。もっとも、この場合シキガミクス視点の視覚のみで操作を行う必要がある為、人体スペックを超える動きをさせることが難しくなるという欠点があるのだが──

 

 

(透明化したシキガミクスと周囲に見当たらない術者という状況の場合、まず真っ先に思い浮かぶ敵の霊能と運用方式(タイプ)は二つ)

 

 

 警戒を解かないまま、戦闘メイドは思考を巡らせていく。

 

 

(1.遠隔操作の使役型で、シキガミクス自体が(オレ)に見えなくなっている。術者は此処にはいない。2.(オレ)に見えなくなる霊能の着用型で、術者が自ら攻めてきている)

 

 

 とはいえ、薫織(かおり)は可能性を提示した時点で、既に答えをある程度絞っていた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 遠隔操作使役型と、着用型の違い。

 それは、着用型が遠隔操作の使役型と違って人体の限界を超えた挙動を取れるという点にある。

 つまり、着用型の攻撃は最低でも人体を超えたスペックになる。直前に足音を聞いた段階からでは、さしもの女中の心得(ホーミーアーミー)でも動作が間に合わないというわけだ。

 

 

(だが、そうすると疑念が生まれる。自身を透明化するってことはあらゆる光学情報が素通りしてしまうってことだ。そうなれば光はレンズに結像しないから、映像情報を取得することもできねェ。……前世(むかし)読んだことあったな、確か透明人間の実現性だったっけか)

 

 

 物体を透明にする霊能自体は、そこまで珍しいモノではない。武器を透明にしたり、地形を透明にしたりする戦略上のメリットは計り知れないからだ。たとえば何の変哲もない弓矢を透明にするだけでも、敵の回避難易度は大幅に向上するだろう。

 ただし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()を構築することはほぼないと言っていい。至近操作の使役型だとしても目視でシキガミクスの挙動を確認しづらいし、遠隔操作の使役型にしても光がカメラを素通りすることでろくに映像を取得できなくなるのだ。

 同様の理由で、着用型のシキガミクスでも透明化の霊能を構築することはまずないと言っていい。

 

 

他者(オレ)の視覚に干渉している……さっきは可能性として挙げたが、ねェな。もしそれが可能なら、どう考えても視覚を奪った方が遥かに話が早えェ)

 

 

 透明化も視覚干渉もあり得ない。

 となると、敵の霊能については第三の可能性を考えなければならないが──薫織(かおり)は、既にその答えに辿り着く為の材料を握っていた。

 

 

(……考えられるのは()()()だな)

 

 

 だいたいのアタリをつけた戦闘メイドは、スッとデッキブラシを取り出して構える。

 そして、不可視の暗殺者に対してはっきりと宣言した。

 

 

「──さて、そろそろ『ご奉仕』の時間と行くか」

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