【改稿前版】唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション 作:家葉 テイク
──こんなはずではなかった。
元々、簡単な任務のはずだったのだ。生徒会長トレイシー=ピースヘイヴンが矢面に出て注目を奪っている間に、目下一番の障害である
その点で、透明になれる
ふたを開けてみれば、完璧なタイミングでの奇襲は土壇場で防御されてしまった。
そもそも、アレがケチのつき始めだ。なんだ? 足音が聞こえたとは。目の前に最大の敵がいるにも拘らず何故そんなに注意深く周辺を警戒できるんだ? メイドという言葉では説明がつかないだろう流石に。
それでも咄嗟の機転で生徒会権限を使い、校内放送をジャックして音の弱点を潰し、
「
横から、先ほど戻ってきたトレイシー=ピースヘイヴンが退屈そうに
──生徒会所有の準備室。
「……会長が
「はっはっは、冗談はよしてくれ
「…………!」
「何より、ご主人様をダシに使えばあのメイドのことだ。キレて手が付けられなくなると思うよ?」
そんな忠誠心があるようには見えなかったが──と
画面内の戦況は、完全に硬直している。戦闘メイドは目に見えない敵を見つけ出すことができていなかった。
(……いくら俺のシキガミクスが遠隔操作の使役型とはいえ、此処まで決め手に欠けるものかね!? いや……それはない。今までの校内での戦闘だってもう少しうまくことを運べていた。あのメイドがイレギュラーなんだ……!)
──
電球のように膨れ上がった頭部を合わせて体長は一・五メートル程度で、少し小さめの成人男性くらいの体躯はある。格闘能力はそこまで高くないが、それでも決して非力というほどではない。シキガミクスの頑丈さと併せて、頭部に一撃入れれば人間であればあっさり昏倒する程度の攻撃力はある。
にも拘らず、
(そして……一撃で倒すことができなければ、待っているのはカウンターからの即死!)
(だが……やるしかない! このまま戦況が硬直し続ければ、おそらく今フリーになっている
「そうだ、
と、戦況を脇から見ていたピースヘイヴンが、軽い調子で声をかける。
ただし。
「前々から思っていたんだけどね……
当人がどれだけ軽いつもりで発した言葉でも。
その知識が、その発想が、何かを致命的に変えてしまうこともあるのだが。
| 07 陰謀は重層する |
| >> DEEP-LAID PLOT |
──状況は、概ね
こちらのアキレス腱である
(……だが、此処で満足しているようじゃまだまだメイド足り得ねェ)
陽動は十分できているが、ピースヘイヴンの動きからしてあちらの作戦もかなり進行しているようだ。このあたりで敵陣営にダメージを与えて計画に遅れを出さないと、
先ほど『作戦負けをしていた場合はリカバリをすればいい』と
ゆえに、相手に揺さぶりをかけるべく行動を始めようとしたところで──
戦闘メイドの身体が横薙ぎにされるが──
「ッ」
衝突の瞬間に反射的に体の勢いを合わせて投擲物の威力を殺していた
硬直状態が破られたことへの緊張。敵シキガミクスの接近に対する警戒。自分が受けたダメージへの不安。当然、様々な懸念が瞬時に脳裏を過るが──。
戦闘メイドは迷わなかった。
ズバォッッ!! と、風を斬る音がした。
それが横薙ぎにされて乱れた態勢から右足を勢いよく振り上げた蹴りであると
遅れて、何かが突き立ったような音が響く。
天井を見上げれば、天井にはアイスピックが突き立っていた。
(明らかにクリーンヒットしているはずなのにカウンターだけでなく、霊能の行使まで合わせてくるか……! 肝が冷える……!!)
ただし──
『『『……何かね? 突然何もないところを蹴りだして。退屈でもしていたか?』』』
手ごたえは、なし。
遠隔操作使役型であれば、攻撃後すぐさまヒット&アウェイで退避できるほどの敏捷性は持ち合わせていない。攻撃をした直後で、今の蹴りを回避することはできないのだが──
──パラパラと、粉々になった木片が戦闘メイドの足元に散らばっていた。それを見て、
「……自分を対象にするだけじゃねェのか。となると、厄介になってくるな……」
崩れ落ちていたのは、木製の箱のようなもの──シキガミクスによる小型家霊製品の残骸だった。おそらく、
警戒状態の
「……加えて本命の一撃。やられたな」
一回目の投擲自体は、命中こそすれ受け身を取ることでダメージは最小限に抑えられた。
それを見越した
シキガミクスを身に纏っている
言わば脇腹に野球ボールを思い切り投げつけられたような状況である。戦闘慣れしていない
『『『……分かるかね? 今の一撃は、私の策略が君の処理能力を超えた証左だ。此処から先は早いぞ。……雪崩れるように君は劣勢に追い込まれていくだろう』』』
ただの一撃、と思うかもしれない。
だが現状、
──たとえ
そのくらい、今の一撃は重い意味を持っていた。
(まさか、これほど劇的に変わるとは!)
モニタ越しに盤面を見据えながら、
(『透明化』は
ちらり、と
何やら木製のタブレット端末を使って作業をしているらしいピースヘイヴンの表情は此処からでは伺い知れないが──やはり、原作者。その知恵は凡百の転生者でしかない
(
確信めいた予感を以て、
『透明化』を維持している
霊能が十全に働いているなら隠れる必要はないのだが、今は攻撃の直後だ。あの戦闘メイドであれば攻撃の方向から現在地くらいは平気で割り出しかねないので、念の為移動して身を潜めているのである。
(それに……ヤツの霊能の弱点も分かってきた)
過去の戦闘、そして今回の戦闘を遠隔監視していた生徒会は、既に
ナイフ、アイスピック、デッキブラシ……その種類は多岐に渡り、その多彩さは敵対者にとっては手数の読めなさに直結する。その対応力も含め、
だが、手数の多さはある弱点と直結する。
──それは、処理能力への負担だ。
確かに
未知の事象や予想外の展開があれば、それらの負荷はダイレクトに処理能力に重くのしかかっていく。──そんな状況で無数の選択肢を自前で確保してしまえば、目の前の敵に対する行動も疎かになりかねない。
(向こうだってプロだ。通常であればそんな心配は要らなかったのだろうが……俺の霊能は相性が悪かったな。このまま負荷を強めていけば、早晩処理能力の限界を迎えるはず……!!)
オーケストラの音の中に紛れる小さな物音の聞き取り。
敵霊能の分析。
この戦闘の外にある状況への思索。
そしてそもそも、今まさに向かっている世界の破滅への危惧。
これだけ考えるべき事柄が積み重なって、普段通りのパフォーマンスが発揮できる人間などいるはずがない。あとは消化試合だ。
功は焦らない。確実に、完璧に、
カッ!! と。
突如、眩い光が
光の正体は、なんて事のない携帯端末だった。
さらに
シャッターライトに照らされて壁や床が明滅し──遠く離れた位置に、ぽつんと影が伸びる。
(…………?)
突然の奇行に、
当然だが、シキガミクスのカメラ機能はカメラのフラッシュ程度で破壊されない。
「なるほど、そこか」
ぐりん、と。
橙黒のメイドの視線が、
『『『ひっ……!?』』』
理屈は分からない。
だが、明確に『バレた』と判断した
ガッシャアアアアアアアアア!!!!! と、
「……最初から、ずっと考えてはいたんだ」
謎の奇行を働いた
先ほどまでのような高速機動をすることもなくゆったりと歩く
「シキガミクスの機体自体を透明化させる霊能は、術者自身が操作不能に陥るリスクが高すぎるから使えない。なら、いったいどういう手を使ったのか? そこで思い出したんだ。『透明』って言うと色合いが透き通っているイメージだが……現実に研究されていた『透明化』ってのがどういう代物だったか」
──だが、
確かに足元には『鳴子』代わりの銀食器たちが散らばっているが、足の踏み場もないというわけではなかった。幸い
「原理としては、プロジェクションマッピングが近いんだろうな」
「テメェの霊能は、周辺の映像をリアルタイムで投影することにより、周囲の景色に溶け込む『カメレオン』。……おそらく、陰のような周辺物への影響にも、リアルタイムで映像を投影することで違和感を消していたんだろうよ」
機体以外の物品に『透明化』──光学迷彩を施したのはピースヘイヴンの発想だが、原理としては陰を消す投影の用途と変わらない。もっとも、霊能の射程範囲である一〇メートルを超えてしまえば投影は解除されてしまうし、あくまでも機体を中心とした『投影』なので、遮蔽物が挟まってしまえば遮られた部分については通常の見え方に戻ってしまうが。
(…………待てよ?
そこで、
『投影』の射程距離は機体から半径一〇メートル──ということは、機体の影が
「そろそろ気付いたかよ。さっきのカメラのライトは、テメェの機体から影を伸ばす為のものだ。デフォルトじゃ『投影』で影を塗り潰すよう設定しているんだろうが……射程外にまで影が伸びちまえば、隠しきれねェテメェの尻尾は
『『『………………!!!!』』』
確かにそれならば、
本来は考慮する必要もないくらいのレアケースかもしれない。そんな状況が自然に発生することがほぼあり得ないし、仮にその状況が偶発的に成立したとしても、普通に戦闘していれば見落とす可能性の方が高い。
ただし、意図的に脆弱性を突こうと思えば話は別だ。霊能の──シキガミクスの戦闘とは、とどのつまりそういうこと。その想定の広さと深さが、霊能の盤石さに繋がるのだから。
だが、最早
今このタイミングでシキガミクスを失えば、来るべき
まだ、逃げて仕切り直せばどうとでもなる。この戦闘メイドから逃避さえすれば。
なのに。
『『『……ど……どういうことだ!?
まるで旧式のコンピュータか何かのように、
「さァな。
適当そうに言って、
彼我の距離は、いつの間にか二メートル弱にまで縮まっていた。
「テメェの霊能、よく手が込んでんな。単に機体だけや陰に対してのみ投影をするだけだと、反射物から機体情報が漏れてしまう可能性がある。
『メガセンチピード』戦で
そこから情報を受け取ることができるかどうかはさておき、『透明化』という自分の居場所を隠すことが重要な霊能ならば、それらに対しても欺瞞情報を投影することで自分の居場所を隠すよう設定しておくのはある意味では当然である。
もちろん、それだけの作業を人力で実施するのは不可能なので、
だからこそ、『場当たり主義の迷彩』というわけだ。
ただし──全自動とはいえ、その処理能力には限界が存在する。
そこに来て、自分の周囲に大量の食器類である。顔が映るくらいに綺麗な銀食器は当然景色を余すことなく反射する為に
──結果として、処理能力の限界を迎えた。
『『『……ば、バカな……!? ……開発者は俺だぞ!? その俺すらも意識していなかった仕様を突いて、シキガミクスを操作不能に陥れる!? そんなことできるわけ……!!!!』』』
「何言ってやがる。
呆れたように、
「気付かれてねェとでも思ったか? 最初から想定していたなら、そもそもシキガミクスに射撃能力を搭載しているべきだからな。どうせ、脇で片手間の指示出しでもしているピースヘイヴンの入れ知恵だろ」
完膚なきまでに、図星だった。
──自分で設計開発したモノ、なんて言葉に意味はない。そんなものを易々と踏み越えてくるのが──『本物の実力者』の世界だ。
「悟ったか? 理解したか? ……そんじゃあ、『陽動』の仕事を果たさせてもらうぞ。メイドとしてな」
それが、最後だった。
そうこうしているうちに、戦闘メイドは移動を終えてしまう。
「『メイド百手』」
至近距離。
まさに肉薄と表現すべき距離で、メイドの拳が振り上げられ──
「『
──そして、シンプルに振り下ろされた。
| 電球のように巨大な頭部を持つ人型のシキガミクス。体長はおよそ一・五メートルほど。 灰色をベースにした都市迷彩のカラーリングをしている。
透明になる能力。 機体を外部から透明になっているように見せることができる。 これは本当に透明になっている訳ではなく、正確にはプロジェクションマッピングのように外部の景色をリアルタイムで機体表面に投影する『光学迷彩』である。 この投影は機体周辺にも影響を及ぼすことができ、影や周辺の反射物にも着彩することで疑似的な完全透明を実現した。 また、この能力を応用することで二つ程度ならば機体以外のものも透明化可能。
一方で、大量の物質に対してリアルタイムで投影を実行するのは非常な演算負荷がかかる上、対象の算出自体はオートで実施しているため対象の取捨選択ができず、負荷によっては機体スペックが落ちることもある。
投影が届くのは機体から半径一〇メートル程度。 つまり、一〇メートル以上にまで影が伸びるなどした場合は影を消しきることができず、透明化に不備が出る。
元々は光線操作系の能力だったが、レーザーのような高出力の実現ができなかった為妥協で今の形に至る。 |
| 『 |
|---|
| 攻撃性:50 防護性:60 俊敏性:60 持久性:60 精密性:60 発展性:10 |
「片付いたみたいね」
と。
「……どういうことだ。
「んもう! 失礼しちゃうわね~! ……情報は生徒会の書記の子から抜き終えた。こっちの目的は完了だ。ただし、拾った情報が大分マズくてな。その為に、一刻も早く生徒会長のところに行かないといけない。場所は分かっているから、さっさと行こう」
「おい、その前に生徒会長の計画を共有しろよ。あと
「そのへんの部屋に隠れさせている。今はとにかく時間がないから詳しい話は後で。早くしないと間に合わなくなる!」
そう言って、
あまりにも性急な話運びに対して
こういう場合は、安心の為に行動を遅延させるよりも、あらゆる方面の『不測の事態』に備えておいた方が総合的には上手く立ち回れるものだ。経験上そう判断した
果たして、目的地はすぐ近くだった。
生徒会室から少し離れた場所。何の変哲もない空き教室に見せかけられた扉の前で、
走った後だからか肩で息をしている
「
「了解了解」
不良メイドは、特に断りを入れなかった。
バギャア!! と、派手な音を立てて生徒会準備室の扉が蹴破られる。
そこには、二人の男女がいた。
一人は、
もう一人は、トレイシー=ピースヘイヴン。生徒会会長であり、今回の黒幕。彼女もまた、此処で潜伏していたらしい。
いずれも、顔ぶれとしては
ただし──状況については、
端的に説明するならば。
「……あれ……? 違う……俺は、勝ち馬、に…………?」
「…………トラ…………?」