【改稿前版】唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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07 陰謀は重層する

 ──こんなはずではなかった。

 

 打鳥(だどり)保親(やすちか)は、既にそんな心境になっていた。

 元々、簡単な任務のはずだったのだ。生徒会長トレイシー=ピースヘイヴンが矢面に出て注目を奪っている間に、目下一番の障害である必殺女中(リーサルメイド)を無力化。可能であれば、遠歩院(とおほいん)流知(ルシル)を拉致。これを以て、()()()()()()()()()()『オオカミシブキ』を機能不全にする。

 その点で、透明になれる打鳥(だどり)のシキガミクスは最適だったはずなのに。

 

 ふたを開けてみれば、完璧なタイミングでの奇襲は土壇場で防御されてしまった。

 そもそも、アレがケチのつき始めだ。なんだ? 足音が聞こえたとは。目の前に最大の敵がいるにも拘らず何故そんなに注意深く周辺を警戒できるんだ? メイドという言葉では説明がつかないだろう流石に。

 

 それでも咄嗟の機転で生徒会権限を使い、校内放送をジャックして音の弱点を潰し、遠歩院(とおほいん)拉致の可能性を意図的に残して相手の判断能力に圧をかける戦法を思いついたのはよかった。しかし、あのメイドと来たら即座に対応して地面にスプーンやらフォークやらをバラ撒く始末。お陰で打鳥(だどり)は強制的に必殺女中(リーサルメイド)との一対一を余儀なくされた上に、戦闘区域も制限されてしまった。

 

 

打鳥(だどり)君、ちょ~っと調子が悪そうだけど、大丈夫かい?」

 

 

 横から、先ほど戻ってきたトレイシー=ピースヘイヴンが退屈そうに打鳥(だどり)を覗き込んでいる。

 

 ──生徒会所有の準備室。

 打鳥(だどり)は、そこから薫織(かおり)と戦闘を繰り広げていた。

 

 

「……会長が遠歩院(とおほいん)流知(ルシル)を確保しに行ってくれれば、私も少しは楽をできるのですがね」

 

「はっはっは、冗談はよしてくれ打鳥(だどり)君。遠歩院(とおほいん)君は囮だよ。彼女の周辺には柚香(ゆずか)の警戒網が敷かれている。私が勇み足を踏もうものなら、ヤツは嬉々として私と接触するか……あるいはその隙に君を叩きに来るだろうね」

 

「…………!」

 

「何より、ご主人様をダシに使えばあのメイドのことだ。キレて手が付けられなくなると思うよ?」

 

 

 そんな忠誠心があるようには見えなかったが──と打鳥(だどり)は思うが、ほかならぬ会長の言うことだ。打鳥(だどり)としては疑う余地もない。それより問題は、目の前で繰り広げられている戦闘だ。

 画面内の戦況は、完全に硬直している。戦闘メイドは目に見えない敵を見つけ出すことができていなかった。

 

 

(……いくら俺のシキガミクスが遠隔操作の使役型とはいえ、此処まで決め手に欠けるものかね!? いや……それはない。今までの校内での戦闘だってもう少しうまくことを運べていた。あのメイドがイレギュラーなんだ……!)

 

 

 ──打鳥(だどり)のシキガミクス『場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)』は、人型のシキガミクスである。

 電球のように膨れ上がった頭部を合わせて体長は一・五メートル程度で、少し小さめの成人男性くらいの体躯はある。格闘能力はそこまで高くないが、それでも決して非力というほどではない。シキガミクスの頑丈さと併せて、頭部に一撃入れれば人間であればあっさり昏倒する程度の攻撃力はある。

 にも拘らず、打鳥(だどり)は一撃であの戦闘メイドを倒すイメージが湧かなかった。

 

 

(そして……一撃で倒すことができなければ、待っているのはカウンターからの即死!)

 

 

 百鬼夜行(カタストロフ)がすぐにでも起きかねない状況でシキガミクスを失うのは致命的だ。いくら自分がピースヘイヴンの庇護を受けているからといって、自衛手段が失われることを許容するのは別問題なのだから。

 

 

(だが……やるしかない! このまま戦況が硬直し続ければ、おそらく今フリーになっている嵐殿(らしでん)柚香(ゆずか)の思うつぼ! いやそれだけじゃない……痺れを切らした園縁(そのべり)薫織(かおり)が此処を放棄していまえば、俺は完全に遊兵になってしまう! 生徒会長の描く社会に乗るって決めたんだ……。……こんなところで、会長の計画が狂ってしまっては困るんだよ……!!)

 

「そうだ、打鳥(だどり)君」

 

 

 と、戦況を脇から見ていたピースヘイヴンが、軽い調子で声をかける。

 ただし。

 

 

「前々から思っていたんだけどね……()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 当人がどれだけ軽いつもりで発した言葉でも。

 その知識が、その発想が、何かを致命的に変えてしまうこともあるのだが。

 

 

 


 

 

 

07 陰謀は重層する

>> DEEP-LAID PLOT

 

 

 


 

 

 

 

 ──状況は、概ね薫織(かおり)の狙い通りに進んでいた。

 

 こちらのアキレス腱である流知(ルシル)冷的(さまと)は戦場から離脱。敵の腹心である打鳥(だどり)はシキガミクスをこちらに釘付けにし、トレイシー=ピースヘイヴンの守りは手薄。ここまで派手に暴れれば、今も潜伏しているであろう嵐殿(らしでん)は完全にフリーだ。陽動としての目的は十分に達したと言える。

 

 

(……だが、此処で満足しているようじゃまだまだメイド足り得ねェ)

 

 

 園縁(そのべり)薫織(かおり)は現状に甘んじない。

 陽動は十分できているが、ピースヘイヴンの動きからしてあちらの作戦もかなり進行しているようだ。このあたりで敵陣営にダメージを与えて計画に遅れを出さないと、嵐殿(らしでん)にも不測の事態が発生しかねない。

 先ほど『作戦負けをしていた場合はリカバリをすればいい』と薫織(かおり)は考えたが、余裕があるならばそもそも作戦負けをしないよう努力をすべきである。

 ゆえに、相手に揺さぶりをかけるべく行動を始めようとしたところで──

 

 薫織(かおり)のこめかみ辺りに、突如として不可視の『何か』が衝突する。

 戦闘メイドの身体が横薙ぎにされるが──

 

 

「ッ」

 

 

 衝突の瞬間に反射的に体の勢いを合わせて投擲物の威力を殺していた薫織(かおり)は、体を傾がせながらも意識はしっかりと保っていた。

 硬直状態が破られたことへの緊張。敵シキガミクスの接近に対する警戒。自分が受けたダメージへの不安。当然、様々な懸念が瞬時に脳裏を過るが──。

 

 戦闘メイドは迷わなかった。

 

 ズバォッッ!! と、風を斬る音がした。

 それが横薙ぎにされて乱れた態勢から右足を勢いよく振り上げた蹴りであると打鳥(だどり)が気付いたのは、薫織(かおり)が受け身を取って立ち上がってからだった。

 遅れて、何かが突き立ったような音が響く。

 天井を見上げれば、天井にはアイスピックが突き立っていた。

 

 

(明らかにクリーンヒットしているはずなのにカウンターだけでなく、霊能の行使まで合わせてくるか……! 肝が冷える……!!)

 

 

 ただし──

 

 

『『『……何かね? 突然何もないところを蹴りだして。退屈でもしていたか?』』』

 

 

 手ごたえは、なし。

 遠隔操作使役型であれば、攻撃後すぐさまヒット&アウェイで退避できるほどの敏捷性は持ち合わせていない。攻撃をした直後で、今の蹴りを回避することはできないのだが──

 

 ──パラパラと、粉々になった木片が戦闘メイドの足元に散らばっていた。それを見て、薫織(かおり)は舌打ちする。

 

 

「……自分を対象にするだけじゃねェのか。となると、厄介になってくるな……」

 

 

 崩れ落ちていたのは、木製の箱のようなもの──シキガミクスによる小型家霊製品の残骸だった。おそらく、打鳥(だどり)はそれを『透明化』して投擲したのだろう。

 警戒状態の薫織(かおり)であれば、たとえ『透明化』していたとしても命中は至難。だからあえて『透明化』した適当な物品を投擲し、そして──

 

 

「……加えて本命の一撃。やられたな」

 

 

 一回目の投擲自体は、命中こそすれ受け身を取ることでダメージは最小限に抑えられた。

 それを見越した打鳥(だどり)は、さらにもう一回投擲を行っていたのだ。

 シキガミクスを身に纏っている薫織(かおり)は、霊気による防御で一般人よりも耐久性が上がっているが──同じく霊気を帯びている家霊製品であれば、その防御を貫通して純粋な衝撃によるダメージを与えることができる。

 言わば脇腹に野球ボールを思い切り投げつけられたような状況である。戦闘慣れしていない流知(ルシル)あたりがモロに食らっていれば、今頃二本の足で立っていることすらできなかっただろう。

 

 

『『『……分かるかね? 今の一撃は、私の策略が君の処理能力を超えた証左だ。此処から先は早いぞ。……雪崩れるように君は劣勢に追い込まれていくだろう』』』

 

 

 ただの一撃、と思うかもしれない。

 だが現状、薫織(かおり)打鳥(だどり)に対して有効な手を打つことができていない。この状況は、打鳥(だどり)寄りの硬直状態なのだ。この盤面で打鳥(だどり)薫織(かおり)に一撃を入れることができたということは、その状況のまま硬直状態が続いていくことを意味する。

 ──たとえ薫織(かおり)がどれほど戦闘慣れしていたとしても、そのスタミナは人間相応でしかない。つまり、いずれは体力の限界が来て薫織(かおり)の方が先に膝を突くことになる。

 そのくらい、今の一撃は重い意味を持っていた。

 

 

(まさか、これほど劇的に変わるとは!)

 

 

 モニタ越しに盤面を見据えながら、打鳥(だどり)は内心でほくそ笑む。

 

 

(『透明化』は場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)の機体にのみ作用させるのが限界だと思い込んでいたが……確かに、霊能の仕様を考えれば他対象も可能にする余地はあった……! それが此処まで私の戦略を広げるのか……!)

 

 

 ちらり、と打鳥(だどり)は視線を横にズラす。

 何やら木製のタブレット端末を使って作業をしているらしいピースヘイヴンの表情は此処からでは伺い知れないが──やはり、原作者。その知恵は凡百の転生者でしかない打鳥(だどり)とは比べ物にならないくらい有益だ。

 

 

伽退(きゃのく)あたりは冷ややかだが、やはりこの人は勝ち馬だ……! こっちに着いて行けば、俺が破滅することはない!!)

 

 

 確信めいた予感を以て、打鳥(だどり)場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)を操作する。

 『透明化』を維持している場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)は、薫織(かおり)から見て左斜め前五メートルの位置にある支柱の陰にいた。

 霊能が十全に働いているなら隠れる必要はないのだが、今は攻撃の直後だ。あの戦闘メイドであれば攻撃の方向から現在地くらいは平気で割り出しかねないので、念の為移動して身を潜めているのである。

 

 

(それに……ヤツの霊能の弱点も分かってきた)

 

 

 過去の戦闘、そして今回の戦闘を遠隔監視していた生徒会は、既に女中の心得(ホーミーアーミー)の大まかな霊能の分析は終わっていた。どこかに保管してある道具を引き出す霊能。これが、薫織(かおり)のシキガミクスの神髄である。

 ナイフ、アイスピック、デッキブラシ……その種類は多岐に渡り、その多彩さは敵対者にとっては手数の読めなさに直結する。その対応力も含め、園縁(そのべり)薫織(かおり)は──必殺女中(リーサルメイド)は手強いのだ。

 

 だが、手数の多さはある弱点と直結する。

 ──それは、処理能力への負担だ。

 確かに女中の心得(ホーミーアーミー)は多彩な手数を誇り、戦闘において無数の選択肢を持っている。だが、それは『戦闘中に考慮すべき可能性が多い』という欠点でもある。相手の攻撃に対して常に複数の対応策が頭の片隅にあり、それを選択しながら戦う──時間に余裕があるのであればそれでも問題ないのかもしれないが、戦闘はリアルタイムに状況が変わり、そして敵は待ってなどくれない。

 未知の事象や予想外の展開があれば、それらの負荷はダイレクトに処理能力に重くのしかかっていく。──そんな状況で無数の選択肢を自前で確保してしまえば、目の前の敵に対する行動も疎かになりかねない。

 

 

(向こうだってプロだ。通常であればそんな心配は要らなかったのだろうが……俺の霊能は相性が悪かったな。このまま負荷を強めていけば、早晩処理能力の限界を迎えるはず……!!)

 

 

 オーケストラの音の中に紛れる小さな物音の聞き取り。

 敵霊能の分析。

 この戦闘の外にある状況への思索。

 そしてそもそも、今まさに向かっている世界の破滅への危惧。

 

 これだけ考えるべき事柄が積み重なって、普段通りのパフォーマンスが発揮できる人間などいるはずがない。あとは消化試合だ。

 功は焦らない。確実に、完璧に、必殺女中(リーサルメイド)を削り倒す。油断も慢心もなく、打鳥(だどり)はそのタスクを消化しようとして──

 

 

 カッ!! と。

 

 

 突如、眩い光が場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)のカメラを焼いた。

 

 光の正体は、なんて事のない携帯端末だった。

 薫織(かおり)が取り出したスマートフォンタイプの霊話端末のカメラ機能によるフラッシュが、焚かれていただけだ。

 さらに薫織(かおり)はあたりを縦横無尽に跳ね回りながら、パシャシャシャシャ!! と位置と方向を変えてシャッターを連続していく。

 シャッターライトに照らされて壁や床が明滅し──遠く離れた位置に、ぽつんと影が伸びる。

 

 

(…………?)

 

 

 突然の奇行に、打鳥(だどり)はタブレット端末を見下ろしながら首を傾げた。

 当然だが、シキガミクスのカメラ機能はカメラのフラッシュ程度で破壊されない。場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)の『透明化』のカラクリにしても、別に強い光によって瓦解するような性質のものではない。だから、大した意味はないはずなのだが──

 

 

「なるほど、そこか」

 

 

 ぐりん、と。

 橙黒のメイドの視線が、場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)のカメラを通して打鳥(だどり)を射抜いた。

 

 

『『『ひっ……!?』』』

 

 

 理屈は分からない。

 だが、明確に『バレた』と判断した打鳥(だどり)がシキガミクスを退避させるよりも早く。

 

 ガッシャアアアアアアアアア!!!!! と、薫織(かおり)は大量のフォークやスプーン、ナイフといった食器を場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)にバラ撒いた。

 

 

「……最初から、ずっと考えてはいたんだ」

 

 

 謎の奇行を働いた薫織(かおり)は、それですべての処置が完了したとばかりに囁いた。

 先ほどまでのような高速機動をすることもなくゆったりと歩く薫織(かおり)は、そのまま話を続ける。

 

 

「シキガミクスの機体自体を透明化させる霊能は、術者自身が操作不能に陥るリスクが高すぎるから使えない。なら、いったいどういう手を使ったのか? そこで思い出したんだ。『透明』って言うと色合いが透き通っているイメージだが……現実に研究されていた『透明化』ってのがどういう代物だったか」

 

 

 ──だが、打鳥(だどり)はまだ別に追い詰められているわけではない。

 確かに足元には『鳴子』代わりの銀食器たちが散らばっているが、足の踏み場もないというわけではなかった。幸い薫織(かおり)は腹部へのダメージが効いているのかゆっくり歩いているし、今なら距離を取って逃げることも可能である。

 

 

「原理としては、プロジェクションマッピングが近いんだろうな」

 

 

 薫織(かおり)は、端的に指摘した。

 

 

「テメェの霊能は、周辺の映像をリアルタイムで投影することにより、周囲の景色に溶け込む『カメレオン』。……おそらく、陰のような周辺物への影響にも、リアルタイムで映像を投影することで違和感を消していたんだろうよ」

 

 

 機体以外の物品に『透明化』──光学迷彩を施したのはピースヘイヴンの発想だが、原理としては陰を消す投影の用途と変わらない。もっとも、霊能の射程範囲である一〇メートルを超えてしまえば投影は解除されてしまうし、あくまでも機体を中心とした『投影』なので、遮蔽物が挟まってしまえば遮られた部分については通常の見え方に戻ってしまうが。

 

 

(…………待てよ? ()()()()?)

 

 

 そこで、打鳥(だどり)はようやく気付いた。

 『投影』の射程距離は機体から半径一〇メートル──ということは、機体の影が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「そろそろ気付いたかよ。さっきのカメラのライトは、テメェの機体から影を伸ばす為のものだ。デフォルトじゃ『投影』で影を塗り潰すよう設定しているんだろうが……射程外にまで影が伸びちまえば、隠しきれねェテメェの尻尾は(オレ)にも見えるようになる」

 

『『『………………!!!!』』』

 

 

 確かにそれならば、薫織(かおり)打鳥(だどり)の位置を見抜いた理由も分かる。

 本来は考慮する必要もないくらいのレアケースかもしれない。そんな状況が自然に発生することがほぼあり得ないし、仮にその状況が偶発的に成立したとしても、普通に戦闘していれば見落とす可能性の方が高い。

 ただし、意図的に脆弱性を突こうと思えば話は別だ。霊能の──シキガミクスの戦闘とは、とどのつまりそういうこと。その想定の広さと深さが、霊能の盤石さに繋がるのだから。

 

 だが、最早打鳥(だどり)の関心はそこにはなかった。看破された霊能の弱点など今は良い。そんなものは後からいくらでも調整できる。それよりも、今はこの場から退避しなければならない。

 今このタイミングでシキガミクスを失えば、来るべき百鬼夜行(カタストロフ)を丸腰で迎えなければならなくなる。そんな最悪の事態に陥ってしまえば、せっかく『原作者』という勝ち馬に乗った意味も無に帰してしまうからだ。

 まだ、逃げて仕切り直せばどうとでもなる。この戦闘メイドから逃避さえすれば。

 

 なのに。

 

 

『『『……ど……どういうことだ!? 場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)が……動かない!? ……何をした!? お前の霊能は物品の取り寄せのはず……こんな霊能は……!?』』』

 

 

 まるで旧式のコンピュータか何かのように、場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)の動きは緩慢になっていた。

 

 

「さァな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 適当そうに言って、薫織(かおり)は足を止める。

 彼我の距離は、いつの間にか二メートル弱にまで縮まっていた。

 

 

「テメェの霊能、よく手が込んでんな。単に機体だけや陰に対してのみ投影をするだけだと、反射物から機体情報が漏れてしまう可能性がある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 『メガセンチピード』戦で薫織(かおり)がやったように、意外と校舎内には反射物が多い。

 そこから情報を受け取ることができるかどうかはさておき、『透明化』という自分の居場所を隠すことが重要な霊能ならば、それらに対しても欺瞞情報を投影することで自分の居場所を隠すよう設定しておくのはある意味では当然である。

 もちろん、それだけの作業を人力で実施するのは不可能なので、場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)は全自動で周辺の情報を読み取り、そして欺瞞情報を投影するよう設定されていた。

 だからこそ、『場当たり主義の迷彩』というわけだ。

 

 ただし──全自動とはいえ、その処理能力には限界が存在する。

 打鳥(だどり)自身は意識もしていなかったが、最初に薫織(かおり)によって『鳴子』としてばら撒かれていた無数の食器類に欺瞞情報を投影したことで、場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)の処理能力には確かなダメージが入っていた。

 そこに来て、自分の周囲に大量の食器類である。顔が映るくらいに綺麗な銀食器は当然景色を余すことなく反射する為に場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)はご丁寧にそのすべてに対して全自動で欺瞞情報を投影し──

 ──結果として、処理能力の限界を迎えた。

 

 

『『『……ば、バカな……!? ……開発者は俺だぞ!? その俺すらも意識していなかった仕様を突いて、シキガミクスを操作不能に陥れる!? そんなことできるわけ……!!!!』』』

 

「何言ってやがる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 呆れたように、薫織(かおり)は言う。

 

 

「気付かれてねェとでも思ったか? 最初から想定していたなら、そもそもシキガミクスに射撃能力を搭載しているべきだからな。どうせ、脇で片手間の指示出しでもしているピースヘイヴンの入れ知恵だろ」

 

 

 完膚なきまでに、図星だった。

 ──自分で設計開発したモノ、なんて言葉に意味はない。そんなものを易々と踏み越えてくるのが──『本物の実力者』の世界だ。

 

 

「悟ったか? 理解したか? ……そんじゃあ、『陽動』の仕事を果たさせてもらうぞ。メイドとしてな」

 

 

 それが、最後だった。

 打鳥(だどり)は『投影』を解除して処理落ち状態を解消しようと試みるが、そもそも対象指定を全自動にしていたのがまずかった。何度能力を解除しようとしても足元の銀食器たちが欺瞞情報の投影対象に選択されてしまい処理落ちが解消されない。

 そうこうしているうちに、戦闘メイドは移動を終えてしまう。

 

 

「『メイド百手』」

 

 

 至近距離。

 まさに肉薄と表現すべき距離で、メイドの拳が振り上げられ──

 

 

「『鉄拳奉仕(フィストサービス)』!!」

 

 

 ──そして、シンプルに振り下ろされた。

 

 


 

 

 

電球のように巨大な頭部を持つ人型のシキガミクス。体長はおよそ一・五メートルほど。

灰色をベースにした都市迷彩のカラーリングをしている。

 

透明になる能力。

機体を外部から透明になっているように見せることができる。

これは本当に透明になっている訳ではなく、正確にはプロジェクションマッピングのように外部の景色をリアルタイムで機体表面に投影する『光学迷彩』である。

この投影は機体周辺にも影響を及ぼすことができ、影や周辺の反射物にも着彩することで疑似的な完全透明を実現した。

また、この能力を応用することで二つ程度ならば機体以外のものも透明化可能。

 

一方で、大量の物質に対してリアルタイムで投影を実行するのは非常な演算負荷がかかる上、対象の算出自体はオートで実施しているため対象の取捨選択ができず、負荷によっては機体スペックが落ちることもある。

 

投影が届くのは機体から半径一〇メートル程度。

つまり、一〇メートル以上にまで影が伸びるなどした場合は影を消しきることができず、透明化に不備が出る。

 

元々は光線操作系の能力だったが、レーザーのような高出力の実現ができなかった為妥協で今の形に至る。

場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)

攻撃性:50 防護性:60 俊敏性:60

持久性:60 精密性:60 発展性:10

※100点満点で評価

 

 

 


 

 

 

 

「片付いたみたいね」

 

 

 と。

 場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)の頭部を一撃で陥没させた鉄拳メイドの前に、嵐殿(らしでん)が現れた。それを見た薫織(かおり)は眉をひそめて、

 

 

「……どういうことだ。(オレ)が陽動やってるうちにお前は腹心の情報を抜くって手筈じゃなかったか。もしかして失敗したか?」

 

「んもう! 失礼しちゃうわね~! ……情報は生徒会の書記の子から抜き終えた。こっちの目的は完了だ。ただし、拾った情報が大分マズくてな。その為に、一刻も早く生徒会長のところに行かないといけない。場所は分かっているから、さっさと行こう」

 

「おい、その前に生徒会長の計画を共有しろよ。あと流知(ルシル)達は?」

 

「そのへんの部屋に隠れさせている。今はとにかく時間がないから詳しい話は後で。早くしないと間に合わなくなる!」

 

 

 そう言って、嵐殿(らしでん)は走るようにして薫織(かおり)を先導する。

 あまりにも性急な話運びに対して薫織(かおり)が不信感を覚えなかったのは、その横顔に不自然さを上回るほどの鬼気迫る焦燥感が現れていたからだ。

 こういう場合は、安心の為に行動を遅延させるよりも、あらゆる方面の『不測の事態』に備えておいた方が総合的には上手く立ち回れるものだ。経験上そう判断した薫織(かおり)は、それ以上何も言わずに嵐殿(らしでん)の後を追走する。

 

 果たして、目的地はすぐ近くだった。

 生徒会室から少し離れた場所。何の変哲もない空き教室に見せかけられた扉の前で、嵐殿(らしでん)は立ち止まる。おそらく、陽動用の襲撃を事前に察知してこちらの方に本拠地を移していたのだろう。

 走った後だからか肩で息をしている嵐殿(らしでん)は、背後に控えている戦闘メイドに視線を寄越すと、

 

薫織(かおり)。此処だ」

 

「了解了解」

 

 

 不良メイドは、特に断りを入れなかった。

 バギャア!! と、派手な音を立てて生徒会準備室の扉が蹴破られる。薫織(かおり)はすぐさま室内へ飛び込み、嵐殿(らしでん)もそれを追うようにして室内に入っていく。

 

 そこには、二人の男女がいた。

 

 一人は、打鳥(だどり)保親(やすちか)。生徒会副会長でありピースヘイヴンの腹心だ。

 もう一人は、トレイシー=ピースヘイヴン。生徒会会長であり、今回の黒幕。彼女もまた、此処で潜伏していたらしい。

 

 いずれも、顔ぶれとしては薫織(かおり)の予想の範囲を超えないものだ。他の伏兵は気配を探る限りはおらず、この室内にいるのは薫織(かおり)達を含めて四人だけ。

 ただし──状況については、薫織(かおり)が予想すらしていない異常事態となっていた。

 

 端的に説明するならば。

 

 

「……あれ……? 違う……俺は、勝ち馬、に…………?」

 

「…………トラ…………?」

 

 

 打鳥(だどり)保親(やすちか)が握っているナイフが。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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