【改稿前版】唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション 作:家葉 テイク
『プリズムプリンセス』は、名作だった。
……なんて堂々と言うのは、
でも、私は大好きだった。後に続く『プリズム』シリーズの金字塔。長らく途切れていた日曜朝の女児向けアニメ枠を復権させたその功績は日本史にも載っていいレベルだと、私は本気で思ってる。
何が凄いって、私が一番に推したいのはキャラクター描写の巧みさ。
アニメをあんま見ない非オタの大人はバカにしがちだけど、アニメのキャラクター描写ってどのアニメも本当に凄く考えられてるんだよね。だから『ズムプリ』が凄いのは『キャラクター描写の納得感』や『キャラクターを好きにさせてくれる手腕』じゃなくて、『キャラクターに対する評価を視聴者に掌返しさせるストーリーの腕力』。そして『キャラクターに対する評価を掌返しすること』自体が、物語の納得感を高める要素になってるところ。
つまり、長所であるキャラクター描写の巧みさがダイレクトにストーリーの納得に繋がっているっていう全体の構造が、私が思う『ズムプリ』の一番の魅力かな。
私の最推しは、『ズムプリ』主人公チームの中で最年長のレイア様。あ、
金髪でふわふわロングでエアインテークがあって、釣り目で神経質そうなしかめっ面で……典型的なイジワルお嬢様って思った?
まぁ~初見の人はみんなそう思うんだよねぇ。うん分かる分かる。私も子どもの頃最初はそう思ってた。
実際、中学二年生の主人公……
ミカンちゃんはけっこうヤンチャっ子なんだけど、先輩で同じ部活……ああバレー部ね……のレイア様はそんなミカンちゃんのことをいっつも注意してばっかりなんだ。いわゆる小姑みたいな?
『プリズム』として参戦してからもそれは変わらなくて、主人公チームでも最年長だからってピリピリしてる感じなの。そのくせ『プリズム』としての力量はそんなないから、メンバーの中では一番弱いし、あまつさえミカンちゃんに助けられたりすることも多い……っていうのが序盤のレイア様の立ち位置。
もちろん、そんな中でもいいところは出てくるんだよ? しっかり者だからメンバーの勉強を見てあげたりとか、責任感で押し潰されそうになっているマリンちゃんのことをそれとなく察して、ミカンちゃんにフォローするよう促したりとか。ああ此処もレイア様のいいところで、いつも口うるさくしてて嫌われている自分の言葉じゃ響かないからってわざわざミカンちゃんにフォローするようにそれとなく促すその優しさが本当によくってね……! ……あ、そこはいいから続きいけって? はい。
まぁそういうわけで、多分大人が見れば好きな人がけっこう出てくるであろうレイア様だったんだけど、子どもの頃の私は本当にこのキャラが苦手で……。何せミカンちゃんに感情移入してるからね。口うるさく言ってくる先輩っていうキャラで、もう拒否反応がね。……思えば、お母さんの口うるささとかをレイア様に投影して見てたのかもしれないなぁ。
そんな風にしてヘイトを貯めてたレイア様だったんだけど、物語の中盤になってくるといよいよ苦戦が多くなってきてね。
その頃になってくると主人公チームも強化フォームとかが出てくるのね。でも、レイア様にはいつまで経っても出てこない。レイア様は焦るし、主人公チームもそんなレイア様に気を遣うしで……段々空気が悪くなっていっちゃうの。悪の組織からも、いつもピリピリしているレイア様は利用できるんじゃないか? って話になってきて……。
そして、ちょうど物語も折り返し地点。
今となっては恒例だけど、ちょうどこのタイミングでOPが後期OPに切り替わるんだよね。
そこで……出ちゃったんだよ、OPに。今までの共通衣装の黒バージョンじゃない、フリルも何もなくて禍々しくてちょっと大人っぽい、悪堕ち衣装のレイア様がさ……。
もう最悪のネタバレだよ! レイア様、やっぱ悪堕ちしちゃうんだって! そりゃそうだよねって! 尊敬してる先輩が悪堕ちしちゃうミカンちゃんが可哀想とか、散々責任とか偉そうなこと言っといて悪の誘惑に負けちゃうのとか、当時の私はすっごいショックだったんだよ……。……あと、これ後からネットを見て知ったんだけど、当時の『おおきなおともだち』も祭状態だったらしいね。鬱展開確定来た! とか、ミカンちゃんの情緒はもうボロボロとか、すごい言われようで、後から見てめちゃくちゃ笑っちゃった。
そして運命の悪堕ち回。此処は、『プリズム』オタクの中では今でも伝説として語り継がれてるよ。私も、長い『プリズム』シリーズの中でこの回が一番好きだね。
ついに
同時進行で、レイア様を助ける為に幹部のハピエロットと戦うミカンちゃんなんだけど、ハピエロットからは『もう遅いハピ~』とか『もうじき憧れの先輩に会わせてやるハピ~。お前の知ってる先輩はもういないハピけどな~!』とか、もう最悪の煽りの数々で……私は当時泣きながら見てたんだけどさ……。そこでミカンちゃんが言うんだよ。
ボロボロの状態で、敵幹部の攻撃を幾つも受けてもう立ってるのもやっとって状態でさ。
『こんなチンケな作戦なんかで、先輩を悪の道に堕とす? ……アンタ達、レイア先輩をナメんのも大概にしなさいよ』
『あの人は、アンタ達が思っている一万倍、一億倍、一兆倍強い人なんだからっっ!!!!』
……で、そんなミカンちゃんの言葉に呼応するように、敵の機械に繋がれたレイア様から黒くて禍々しいエネルギーが大量に放出されてね。
敵の拠点にいた連中も最初は『やった! 実験成功だ! 「プリズム」を我が陣営に引き入れることに成功したぞ!』って喜ぶんだけど……すぐに様子がおかしいことに気付くわけ。
おかしい、計器の反応が異常すぎる。こんなに強いパワーは考えられない。
それもそのはず。レイア様は、嫉妬や劣等感に吞み込まれたんじゃなくて……自分の中の嫉妬や劣等感を認めた上で、自分に散々お小言を言われても着いてきてくれて、そして一生懸命に前を見据えるミカンちゃんの向上心を尊敬してるんだ! ……って、自分の中の負の心を乗り越えたんだ。
嫉妬や劣等感を認めたことで、その負の感情のパワーを自在に操れるようになったレイア様の姿はアンクリアーズの幹部みたいな悪そうな恰好になっちゃったんだけど、もう全然禍々しくなんか見えないわけ。むしろ、カッコよくしか見えなくて……。
そのまま敵拠点を壊滅させたレイア様は、今にもミカンちゃんにトドメを刺しそうになってたハピエロットを上空から叩き潰して助けに来るのね。で、この後が最高の場面。
『あら、ミカンさん。またお召し物が乱れていましてよ。……まったく、身嗜みは人を作るといつも言っているでしょう?』
『…………そういう先輩こそ、随分なカッコしてるじゃないですか!』
満面の笑みを浮かべるミカンちゃんに、不敵な笑みを返しながらレイア様が手を伸ばして、その手がガッチリ掴まれて……。
憧れの先輩に助けてもらって、心配事もなくなったミカンちゃんはレイア様と一緒に並んで、立ち直ったハピエロットと対峙! 逃げようとしたハピエロットの影をレイア様が縛って捕まえて、そこにミカンちゃんのフルパワープリズムシャインバースト! レイア様の作り出した影の檻ごとハピエロットを消し飛ばすんだけど、強化されたっていうのに自分の技を跡形もなく消し飛ばすミカンちゃんを見るレイア様の目が本当に優しくて優しくて……ああ思い出しただけで泣けてくる。
それでこのエピソードの最後のやりとりも最高でね。
『アナタはそのまま、いつも通りでいなさい。わたくしはそんなアナタを、陰から支えて差し上げますから』
『えー! 何でよ? 先輩も一緒にいてくれなきゃヤですからね! 先輩は私が一番尊敬してる人なんですから!!』
『……隣にいるには、アナタはやかましすぎるんですのよ』
それで、二人だけしか知らない事件は人知れず幕を下ろすの。他のメンバーとかは全く出てこない二人だけの話で、この後もレイア様はサポート的な活躍がメインになるんだけど……もうさ? それすらも別の意味が見えてくるじゃん。最年長として皆を支えようとする意志とか……。
太陽を司るミカンちゃんに対して影を司るレイア様って関係性で、ミカンちゃんはレイア様に自分の傍らで輝く月であることを求めるんだよ!! もう……もう……!! 最高でしょ!? いや当時の私はそんなこと思わなかったけど! ただ普通に感動して泣いてたけど! もうこの話擦るだけで日付超えるんですけど!!
……ああうんごめん。話が逸れたね。
えーと、なんだったっけ。
ああそう、私がなんでお嬢様を目指してるか、だっけ。
つまりね、子どもの頃の私は、そんなレイア様に憧れてた。だから小さい頃の私は、レイア様の真似をしてたんだよ。お嬢様口調をしたり、しっかり者になろうとして身の回りのことを自分でやろうとしたりね。ああいうトコが女児向けアニメとしても優秀なとこだったんだろうなー……。
まぁでも、そんなのも一瞬のことで、レイア様の真似はすぐ辞めちゃったんだけどね。だって、お嬢様口調なんて恥ずかしいし。
思えば、前世は長いようで短かったなー。
恥ずかしさで蓋をした憧れは、いつかまた取り出せると思ってた。生活が安定して、自分のことがちゃんとできるくらいに余裕ができたらさ、お嬢様口調の真似したりとかそういうのじゃなくて……もっと本質的なところで、あの人の生き方を体現できるかなって。
でも現実には、結局私は三〇前に死んじゃって。生活も全然安定なんかしなかったしね。デザイン業のブラックさナメんなよNPO代表!
……うん、分かってるよ。生活が安定したらなんて、私の場合はただの言い訳だった。レイア様の真似と同じ。そうやって周りから抜け出して踏み込むのが、一人で突き進むのが怖かったから、二の足を踏んでいただけ。
始めようと思えば、出る杭になる覚悟を決めれば、誰だっていつだって憧れに生きることはできる。アナタを見てれば嫌でも分かるよ。……だから、今度は最初から。恥ずかしさなんかで憧れに蓋をしないつもり。
不出来でも、カッコ悪くても、憧れからほど遠くなっちゃっても。……やれる限り自分の理想を追い求めてみる。
そうすればきっと、『今度』は胸を張っていられるはずだからさ。
| 幕間-1 目指すは煌めく姫ではなく |
| >> VIRTUOUS ARROGANCE |
「あぁでも、将来の夢は流石にもうちょっと安定させたいかな!」
陶磁器のティーカップに口をつけて喉を潤した流知は、そう言って話を締めくくる。
居候のコスプレメイドを自室に招いての親睦会は、八割が彼女のオタクトークに終始していたが──この居候のコスプレメイドは、何が楽しいのか文句ひとつ言わずに(脱線を指摘はしたが)二時間に及ぶトークに付き合っていた。お茶会の支度をしながら。
居候メイドは流知の言葉に興味深そうに眉を動かして、
「へェ、そりゃ前世で痛い目見たからか?」
「まぁそんなところかなー。前世で私が早死にしたの、絶対仕事が忙しくて不摂生だったからだと思うんだよ! だから今世は陰陽師の資格とってどホワイトな環境を作って、できた余裕で趣味としてイラストやったり、なんかこう……慈善事業的なことをやれたらなって。まだ具体的なことはなんともだけどさ……」
そこまで言うと、流知は恥ずかしそうに頬を掻いた。
「…………夢、ないかな?」
「十分夢はあるんじゃねェの?」
居候のメイドは壁にかけてある純白の制服に視線をやってから、
「そもそも来年まで学園が存続してるかも分かんねェんだ。そんな鉄火場に乗り込む予定を抱えておきながら、臆面もなく『将来』の話ができるようなヤツはお嬢様くらいだろ」
「……そ、そうでした……! 『シキレボ』本編の事件、今年から始まるんだよね……!」
さあっと顔を蒼褪めさせた流知は、しかしぐっと眉に力を入れて持ちこたえる。
「でも、薫織と一緒なら何とかできるよ。
「くっだらねェ……キャラづけなんて別に要らねェだろ」
「鏡見てから言って?」
どう考えてもコスプレ不良メイドはキャラづけの塊であった。
流知は気を取り直すと、傍らに佇むメイドの顔を見上げ、
「ねえ薫織。どんな感じがいいかな?」
「…………、」
問いかけられたコスプレメイドだが、答えを用意するつもりは毛頭なかった。というか、話を聞いていればこの少女の中で答えが決まっていることなど分かり切っている。これはただ、踏み出す為の最後の一押しが欲しいだけだ。
……それは甘えでもあるが、しかしそのくらいはいいだろう、と居候のコスプレメイドは思っていた。この甘ったれな、それでいて夢に真っ直ぐな少女が一人で道を進めるまでの
「んじゃ、お嬢様のロールプレイでもしてみればいいんじゃねェか。辞めたんだろ? 憧れに蓋すんの」
「それ、良い! 採用! いや、採用ですわ!」
────三月。
遠歩院流知と園縁薫織が、『ウラノツカサ』高等部に入学する一か月前のことだった。