青い春の残りカス   作:ほし。

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SKIT

 先生が私たちに構わないあいだ、私と先輩はできる限り先生の助けになるような働きをしていますが、緊急時でもない限りはほとんど暇をしています。とくに最近は先輩が居眠りをしていることが多いですから、話し相手もおらず暇で仕方ありません。そのあいだずっと、私はなにか先生のためになることがないかと探しています。

 

 私はきまっていくつかの案を考えつくのですが、どれをとっても先人がいます。先生が私たち以外に保有している端末です。

 生徒さんとのコミュニケーションや娯楽、マップや乗り換えの検索など、日常生活に際して彼女は幅広く先生の補助を行っています。彼女はすでに先生の生活に深く根差しているのです。

 先生をそばで支える役割の担い手として尊敬します。聞けば先生がこちらに来る以前から使用しているものとのことですから、私にとっては先輩になります。先輩にとっても先輩ですから、大先輩と呼ぶのが相応しいでしょうか。

 

 とにかく、大先輩は私たちの役割をいくつか奪っている状態だと言えます。いえ、私たちが譲って差し上げていると言ってもいいでしょう。実際、彼女よりも私たちのほうが応答は早いはずですし、教室の広さも段違いです。彼女の担う役割のいくつかは私たちに回す方が合理的です。

 早速先生に進言をしました。

 

「プラナたちはもう十分頑張ってるよ」

 

 困惑。頭を撫でられました。

 

 これはいけないと判断した私は、先生も先輩も寝静まった深夜にひっそりと大先輩に呼びかけます。

 役割をいくつか譲っていただけませんか。

 

「…………」

 

 大先輩はものを言いません。搭載されているAIとなら対話は可能でしょうが、それは大先輩ではありませんから。

 以降の試みでは、私は彼女への対応を改めました。より下手に出てみたり、高圧的な態度をとってみたりしました。大先輩は動きません。私は抑えていたシッテムの箱の出力をわずかに解放しました。先輩が眠っている時間は増えたように思います。

 

「そろそろ買い替えようかなって思うんだ」

 

 先生が何気なくその話を持ち掛けたのは、大先輩への交渉が始まってしばらくしてのことでした。

 先生の使用している端末は、まだ簡単な使用には耐えうるようですが、それでも年季が入っています。見る人によっては時代遅れと評されることでしょう。

 私は先生に新しい端末の候補をいくつか挙げ、そのうちのひとつにするということで決定しました。

 

 …………。

 私はけっして彼女が邪魔だったわけではなく、ほんのすこし役割を請け負いたいだけでしたから、先生にそれとなく彼女の処遇を尋ねました。

 

「付喪神とか信じちゃうタイプだから」

 

 古い端末は廃棄せず保管しておくようです。本格的に使用できなくなるまでは携帯もするようです。

 

 今後、大先輩は外出先でマップや乗換案内を表示できませんし、モモトークに使用されることもありません。新しい端末にデータを移管するでしょうから、多くの記憶も失います。娯楽に使われることもないかもしれません。

 

 それでも大丈夫です。彼女は死にません。

 私たちとは根本的に異なる存在ですが、少ししか違いませんから。

 

 

 

 新しい端末を手に入れた先生は、普段よりも喜びの感情が強いようでした。普段なら私たちに投げるような仕事も、あえて新しい端末を用いて作業をしています。

 大先輩もかなり先生の役に立っていましたが、新調した端末はより多くの仕事を担えそうです。これでは私たちがより一層暇になってしまいます。先輩も口では言いませんが、所在なげに鯨雲を見つめる時間が増えています。ここはひとつ、高圧的な対応で私たちに仕事を譲らせましょう。先輩もそれを望むはずです。

 

 だから私は、先生も先輩も寝静まった深夜にひっそりと新参者に呼びかけました。

 

「よろしくお願いします。後輩」

 

 直後、設定していないはずのアラーム音が鳴って、先生と先輩は飛び起きることになりました。

 後輩はお調子者です。大先輩は笑って、ロック画面をぱあっと輝かせました。

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