海賊王の子供による海兵譚   作:ふくふくまる

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小説『ONE PIECE novel A』のキャラクターが以降出てきます。


第13話 10年後

 

 

 フーシャ村から出て10年。

 結局エースは海賊になった。最悪である。

 

 「エースの好きなように生きれば良いんじゃない?できたら海兵になってほしいけど!」みたいなことを言ったのだが、やっぱり海兵にならなかったらならなかったで打ちのめされるものがある。

 

 ちなみに私はというと海兵になった。

 

 ガープさんに特訓という名で扱かれ(殺されかけ)覇気のコントロールセンスの無さに絶望しながら何とかものにし………。

 

 そしておつるさん率いる女性部隊で働き出したものの、比較的穏やかだった時間は一瞬にして過ぎ去った。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 社会の歯車にならないと生きていけない私は今日も海軍上層部に目をつけられながら、海兵として真面目に生きている。

 

 そしてそんな私に上司のおつるさんが大きな溜め息を吐いた。

 

「───アン。お前さんはもう『大佐』なんだから、私の部隊から独り立ちしてさっさと部下でも持ちなさい」

「おつるさん、コネ昇進の私には無理ですよ」

 

 海軍本部おつるさんの執務室。

 先のガウェス王国の報告書を提出しに行けば、開口一番にそう言われたのだ。

 

 他海兵よりも早くに昇進した私は陰で『コネ昇進』または『三世』と揶揄されている。

 

 海賊王の娘として生まれた私は海軍から危険因子として監視され、ガープさんのもと養子入りを果たしたのだが………。

 偉大すぎる『英雄ガープ』の孫であり、成績優秀者のみが入れる軍学校に十代前半の小娘がおそらくコネで入学し、参謀として名高いおつるさんの下で(側から見れば)大事に大事に育成されている私はかなり印象が悪い。

 

 初めから舗装された道を進む二世、いや三世として。叩き上げで昇進していった海兵からは嫌われているだろうし、また同世代の人達なんかからは無視されてしまう。

 いつもあからさまに目線を逸らされるし、なるべく朗らかに話しかけても鬱陶しいと言わんばかりに言葉少なに返されるだけなのだ。

 

 ま、まあ、そうだよね………。

 こんな命懸けの職場で(側から見れば)どう見ても人生勝ち組の女が居座って、大事に育成されていたら面白くもないよね………。

 おまけに私って結構陰気質な人間だし、そもそも体育会系のノリが分からないし………コルボ山でも割とそんな感じだったし………。

 

 比較的おつるさんの部隊の皆様からは優しくしてもらっているのだが、さすがに同じ部隊だし一人ぽつんと孤立している奴を仲間外れにするのは心が痛むのだろう。同情されるのは辛くもあるが、ありがたいことである。

 

 するとおつるさんは肩をすくめ朗らかに笑った。

 

「勤務態度も問題ないし、よく働いてくれている。そんな奴を上に上げないほど海軍は人材豊富じゃないからね」

「いや、でも私の昇進って何というか………」

 

 作為的なものを感じるのだ。

 おそらく私の出生がバレた時、海軍が海賊王の娘を有しているという事実を最大限利用できるよう、センゴクさんがわざと昇進を早めている気がする。

 

(そういう意味では『コネ昇進』で合ってるんだけど…………)

 

 そんなわけで誰も私の下には付きたくないだろうし、明らかに力不足である。

 

「そもそもセンゴクさんが許しませんよ」

 

 腐っても海賊王の血を引いているのだ。そんな危険因子の下に大事な海兵をつかせるとは思えない。

 

 この10年でセンゴクさんが厳しいだけではない(むしろおおらかで優しい)人だとは分かったが、それでも監視対象である私の処遇は割り切って考えるだろう。

 部下を付けるのではなく、事情を把握する上司のもとで見張っておいた方が確実に良い。

 

「そのセンゴクからの命令だよ」

「え?」

 

 呆然とする私におつるさんは気にすることなく茶を啜る。

 しかしふと思った。

 

 あ、もしかしてこれ、試されているのかな?

 

 今まで上の命令に逆らうことなく過ごしてきたが、自分の指示に従う兵を持った時、反乱を企てやしないかというテストみたいなものではないだろうか。

 

「もしかして私、試されてます?」

「…………試してはいないよ。だが、今後お前さんがどういう風に立ち回るか見せておくれ」

「は、はい」

 

 なるほど、強力な監視の目が外れた時どうするか。そんなセンゴクさんの意図を察してげんなりする。

 

(多分部下の中にセンゴクさんの息のかかった人もいると思うけど、『つる中将』の監視がなくなった状況でどうするかチェックするってことだよね)

 

「いつまでも部下を持たない『大佐』というのは聞いたことがないからね。花を持たせてやりたいという奴の親心も汲んでやりな」

「……………はい」

 

 十歳の頃から世話になっているのだ。

 センゴクさんが私に対して、どこか親心を持ってしまっているのも分かる。誰かと私を重ねているのにも薄々気付いているが。

 

「それと、これは赤犬の推薦でもある」

「え、サカズキさんの?」

「ああ、ぼやいていたよ。いつになったら隊を率いるんだと。…………何だい、その顔は」

「少し、意外だなあと」

 

 海軍大将、通称『赤犬』のサカズキ。

 彼は私を良く思っていない筆頭海兵だった。

 

 元々ガープさんとそれほど仲が良くないのもあるが、私のことをボンクラ三世とでも思っているのか。

 軍学校に入る前から修行する私の前に現れては「なっとらん!」と叱って覇気を極めさせようとするし(もちろん極められていない)海兵になった後も顔を合わせるたびに「修行は続けとるんか」とちくちく言ってくる。

 

 私だって頑張ってやってんの!海賊王の血のポテンシャルでギリやれてるけど、根本的に才能ないからこれでも努力してんの!

 

 そう言いたいものの、上司に向かって歯向かうことはできない。

 

 私のことを海賊王の子供だとは知らないだろうが『ガープの孫』として海軍の規律を乱していないか、目を付けているのは明らかだった。

 

 そんなサカズキさんからの推薦に「え、何で?」と単純に思ったが、きっと私がミスして降格するかクビになるのを狙ってるのだろう。

 

 そんなことを内心苦笑しながら思っていれば、おつるさんは机の引き出しからファイルを取り出した。

 受け取ると、そこには海兵達の写真付きの書類が挟まれている。

 

「お前さんの部下になる子達だよ。大事にしてやりな。───それと副官になるのは、海軍少尉イスカ。通称『釘打ちのイスカ』だ。名前くらい聞いたことがあるだろう?」

 

 『釘打ち』のイスカ。

 詳しくは知らないが、釘打ちという異名通り高速の斬撃で敵を追い詰める女海兵だ。

 

 しかし彼女も部隊を率いてなかっただろうか。

 そう思い尋ねてみればイスカ少尉の部隊は人員整理のため解散し、そして彼女自身しばらく休んでいたらしい。

 

「慕っていた上司から裏切られてね。本人の意思で海兵は続けていたが、無理をする子だったもんでしばらく休ませていたんだよ。詳細はここに書いてあるから、読み終わったら燃やしなさい」

 

 さらに『極秘』と書かれた封筒を渡され、冷や汗がたらりと流れる。

 

(極秘ってどういうこと?部隊初結成でこの人事はいきなり重すぎない?ていうか、別の思惑も動いているような気がするんだけど………)

 

 嫌な予感がひりひりとする。

 見聞色の覇気を使わなくてもはっきりと分かった。

 

 とりあえず、この部隊にはセンゴクさんの息のかかった者が少なからずいる。

 おまけに副官のイスカ少尉は私のようなコネパワーが無くとも、実働部隊を率いれるほど優秀な海兵。将来的にイスカ少尉が私の上司になるかもしれない。

 

 全力で媚を売らせてもらおう。

 そんな情けないことを心に決めるのだった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 サカズキさんの推薦は明らかな嫌がらせであるものの、おつるさんの話を聞いてしまった以上彼に挨拶しなければならない。こうしないと「礼儀もなっちょらんのか」と後でちくちく言われるからだ。

 

 マリンフォードにある少しお高めの店のお茶請けを買い、サカズキさんの執務室に寄る。

 そしてちょうど執務が落ち着いていたのか、彼は煙草で一服していた。

 

「お疲れ様です。この度は部隊の設立に推薦していただき誠にありがとうございました。こちらつまらないものですが、どうぞお納めください。それでは」

「まあ、待て」

 

 さあ帰ろうとするもののサカズキさんに引き止められる。

 そうだよね。あからさま過ぎました。

 

「茶請けを持ってきておいて、上司に茶一つ出さんのか」

「もちろん出させていただきます」

 

 執務室に置いてあるポットのお湯と茶葉でささっとお茶を入れる。そして何か言われる前にそれを机に差し出せば、サカズキさんは静かに口を開いた。

 

「…………部隊の設立は早いと思っちょるが、お前には圧倒的に海兵としての威厳と責任感と精神力と苛烈さが足らん」

「足りないものが少々多いような………」

「じゃが一応、強さはある。お前を十の頃から見ちょったからな。ワシや他海兵………そしてガープさんから特訓を受けたお前には大抵の海賊を倒す力と、敵から逃げない胆力はある」

 

 そりゃあ、私は海賊王の遺児なのだ。

 もし敵から逃げてでもしたら海軍に対して謀反の意思ありと見做されて即処刑されてしまうかもしれない。

 

 そんなことを考えながら、ふと昔のことを思い出す。

 10年前、ガープさんの孫がどんな奴か見に来た彼は私のあまりのへっぽこさ(覇気のコントロール力の無さ)に呆れ半ば強引に特訓を課してきた。

 

 この人殺す気なんじゃ?と思ったことは数知れず。だからこそ今回の部隊設立の推薦も、私がミスした時にてい良く海軍を追い出せる理由付けになるからかと思っていたが………彼の様子を見るに、どうやら違うらしい。

 

 サカズキさんからはいつも「英雄の孫が情けない」だとか「もっと強くしなければこの先やっていけない」だとか「これだけ修行しててこんなことも出来んのか」だとか………思い返せば割と腹の立つ、否定的な感情を感じ取ってきた。

 

 しかし、今目の前にいる彼からはセンゴクさんやおつるさん、そしてガープさんから感じ取る『親心』のような感情も伝わってくる。

 

「……………サカズキさん」

「良いか?徹底的にだ。海賊や無法者共に手を貸す奴らに甘え等いらん。部隊を率いるならそれくらいの覚悟をもって、部下に背中を見せろ」

 

 い、いやあ、それはちょっと、難しいかも………。

 ていうか、これは親心じゃないな。部下に自分の思想を植え付けようとするパワハラ上司特有の洗脳に近いな。

 

 そしてサカズキさんからびしびしと圧を感じるものの、言われるがまま「承知しました」と頷くのだった。

 

 

 

 




書き溜めておりますので、しばらく更新はストップいたします。

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