水に流されながらも何とかカジノから脱出した私達は、麦わらの一味を一時的に見逃すこととなった。
クロコダイルの捕縛を最優先事項とすると彼らを捕まえる余力がないからだ。
とりあえずスモーカー大佐は海軍本部に連絡後、人工降雨船の捜索。そして彼の部下であるたしぎ曹長は海兵を招集次第、アルバーナへ。
私はというと、麦わらの一味やビビ王女とともに特急ガニに乗っていた。
◇
「───つまり、クロコダイルがバロックワークスという組織を率いて、アラバスタ王国の反乱を秘密裏に扇動していたわけだね」
事情を詳しく知っているらしい彼らと情報を共有したかったし、何よりアルバーナに迫っている反乱軍を止められる可能性がビビ王女にあるということで、王女の護衛という名目で私が付いて行くことになったのだ(ちなみにスモーカー大佐は海賊なんかと行動できるかと難色を示したのもある)。
このこと、サカズキさんにばれたら殺されるなあと思いスモーカー大佐に口止めを頼んだのはここだけの話である。
そして喋るトナカイとぐる眉の青年と合流し、特急ガニという巨大な蟹に乗って向かっているわけだが………ルフィやビビ王女(あとぐる眉の青年)以外の人達は怪訝そうな顔で私を見つめていた。
「そうなんだけどよ。ルフィの姉ちゃんは海兵なんだろ?良いのかよ、俺達みたいな海賊と手を組んで」
「まあ、今は緊急事態というか………。余計な血が流れないのなら、多少のことは目を瞑りますよ。今はクロコダイルのことで手一杯ですし………」
「つまり面倒ってわけか」
「め、面倒って言うか……何と言いますか……!」
長鼻の青年──ウソップ君の言葉にそう返せば、緑髪の剣士(確かゾロ君)が呆れたように溜め息を吐く。
そして彼のひんやりとした視線に目を逸らしながら、ビビ王女に話しかけた。
「ところでビビ王女、クロコダイルのことはもうコブラ国王に?」
「ええ、カルーにメモした紙を預けて届けてもらったわ」
「(カルー?)そうですか。こちらもクロコダイルが国盗りを目論んでいると別部隊からコブラ国王に報告しています」
───ただ、小電伝虫で先程イスカ少尉に連絡したところ、目を離した一瞬の隙にコブラ国王の姿が消えたという報告があった。
その上さらに、コブラ国王であろう人物による港町ナノハナの襲撃、反乱軍の侵攻。そしてそれを全面的に迎え撃つ方針を決めた王国軍と、事態は混沌と化していた。
(イスカ少尉達には市民の避難をさせているけど、ビビ王女の話が本当なら王国軍に紛れ込んでいるだろうバロックワークス社員も探さなきゃいけない)
(そこら辺は軍の上層部と連携してやってもらう?でもコブラ国王の行方の捜索もしているだろうし………)
(おまけにオフィサーエージェントって奴らもアルバーナに潜んでいるらしいから、そいつらの捕縛もしなきゃいけなくて………)
人手が!人手が圧倒的に足りない!
こんなんルフィ達を捕まえられるわけないでしょ!
ともかく、市民の人命が第一なのだ。
イスカ少尉達にそれを任せるとして、これ以上状況が悪くならないよう王国軍と反乱軍の衝突は避けなければならない。
しかしこんな状況でも朗報がある。
「クロコダイルの国盗りですが、たとえそれが成功したとしても世界政府はクロコダイルを認めることはないでしょう。これから自供の証拠品を提出しますし、すでにスモーカー大佐から本部へ連絡していると思います」
たとえクロコダイルがネフェルタリ家を滅ぼしたとしても、彼が王として政府に認められることはまずないだろう。
それをビビ王女も理解しているのか、覚悟はすでに決まっているような表情で頷く。
「ちなみに反乱軍を止めると仰っていましたが、勝算は?」
「反乱軍のリーダーが私の幼馴染なの。だから、もしかしたら、私の声が届くと思って………」
確かに一国の王女であり幼馴染の少女が、健気に止めようとすれば多少話を聞いてくれるかもしれない。
「反乱軍の中にもバロックワークスの人間が潜んでいるかもしれません。私も貴方の説得に付いて行き、お守りしますよ」
「あ、ありがとう………!」
「それから王国軍にもバロックワークスの人間がいるのでしょう?アルバーナにいる私の部隊に任せても良いですが、国に所属する者に調べさせた方が確実です。
今から宮殿に残している海兵に電伝虫を繋ぎますので、信用に足り得る方の名前を教えてください」
「それなら、チャカやペルに!」
ビビ王女に頷き、宮殿の待機組に小電伝虫をかける。
部隊を二つに分けといて良かった。
しかし電波(?)が悪いのか中々繋がらない。
「……………ねえ、ルフィ。本当に、本当にあの人アンタのお姉さんなの?」
「前に会ったエースって奴は百歩譲って分かるとして、似てないにも程があるだろ」
「アンとは血が繋がってねえからな」
オレンジ髪の少女──ナミさんとウソップ君にルフィがあっけらかんと答える。
海賊と協力する海兵なんて中々いないし、不審そうに見られるのは分かる。現にゾロ君なんて隠しもしないで私を警戒して睨み付けていた(何故サンジ君だけ歓迎モードなのは分からないが………)
「───なあ、アン。何でクロコダイルをぶっ飛ばせたんだ?」
するとルフィが尋ねてくる。
もしかしてガープさんから覇気のことを教わってない?
そう聞けば「はき?」と首を傾げたため、おそらく伝授されていないのだろう。
「覇気っていうのは、ええと……簡単に説明すると『意志の力』を戦闘技能として使う一種の能力みたいなものかな。ほら、殺気とか気合いとかあるでしょ?あれを最大限まで研ぎ澄ませれば、相手の攻撃を防いだり動きを先読みすることが、」
「気合いでどうにかなんのか?」
「ううん、そうだけど、そうなのかな……?」
ルフィの言葉にどうしたものかと悩む。
改めて覇気について分かりやすく説明するのは難しいな。
「ともかくそういった技能があるのよ。でもクロコダイルを倒したいなら覇気なんて使わなくても色々あるんじゃない?水責めとか………」
「水?」
「うん。相手は砂だし」
というかルフィ、まさかクロコダイルを倒すつもりなのだろうか。………ん?あ、あれ?
「そういえば何でルフィ達ってビビ王女と一緒にいるの?」
「言ってなかったか?クロコダイルをぶっ飛ばすためだよ」
「ルフィのお姉さん!聞いて!私達はビビをアラバスタに無事送り届けるために一緒にいるだけなの!」
「そうそう!あわよくばクロコダイルの野郎もぶっ飛ばせたらなーって思ってるだけで、決してビビを誘拐していたというわけではなく!」
ナミさんとウソップ君が私達の会話に慌てた様子で割って入る。
それを聞いて何となく状況を理解した。
そして同時に、彼らのお人好しな性質に思わず苦笑してしまう。
ガープさんからルフィが海賊になったと聞いた時、どうしたものかと不安に思っていたのだ。
けれど彼は良い仲間を見つけたらしい。
クロコダイルは海軍の方で処理するつもりだけど、ルフィの気持ちも汲んでやりたくなる。
「…………ルフィ、もし私達よりも先にクロコダイルに会っても逃げた方が良いよ。海兵部隊で彼を捕縛するか。七武海を正式に除名後、中将を派遣してクロコダイルを捕まえるから何もルフィが手を下す必要はない」
「やだね。俺がアイツをぶっ飛ばすのと関係ねえじゃねえか」
「いや、まあ、それはそうかもしれないけど………」
けれどその瞬間、絶対にあり得ないはずなのに、何故かルフィがクロコダイルを倒すという予感めいたものを感じた。