アルバーナの中央にある宮殿。
宮殿前には大勢の海兵がいるため裏門から入ろうとすれば、そこにはすでに私を待つ兵士がいた。
「アラバスタ王国近衛騎士のチャカだ。コブラ国王より、モンキー・D・アン大佐を迎えに来た」
「貴方がチャカさんですか。これはご丁寧にどうも。海軍本部大佐モンキー・D・アンです。世界政府および海軍本部の代理として参上いたしました」
上背のあるおかっぱ頭の大男にそう言えば、何故かくすりと笑われる。その笑顔は何なんだ………怖いな………。
「そう肩肘を張らなくて良い。コブラ国王がお待ちかねだ」
そして断頭台に登るような気持ちで彼の後をついていった。
◇
「───ビビから話は聞いたよ。娘に協力して反乱軍の侵攻を止めてくれたそうだね」
宮殿の応接間にはコブラ国王とアラバスタ王国護衛隊長のイガラム隊長が待機していた。
コブラ国王に勧められ、向かいのソファに腰を下ろせば早々に言われる。
「いえ、反乱軍を止めたのはビビ王女ですよ。私は何もしていません」
「バロックワークスの残党の砲撃から守っただろう。あれが無ければ、反乱軍はそのままアルバーナへ侵攻していたよ」
そうだろうか。何やかんやビビ王女の声が届いて、反乱軍の侵攻は止まりそうでもあるが。
素直に頷くこともできず曖昧に首を傾げれば、コブラ国王はそんな私に苦笑する。
そして今後の動きについて説明した。
「───バロックワークスは政府の手によって解体。主犯のクロコダイルと社員達数百名は司法に預けた後、インペルダウンに収監されます。またバロックワークスの残党は見つけ次第、随時捕縛しております」
「ああ」
「それから政府の今後の基本方針ですが、アラバスタ王国に対する復興予算の捻出と世界会議での発言権を優遇するとのことです」
それにコブラ国王はしばらく沈黙する。
後ろに控えるイガラム隊長も顔色一つ変えていないあたり、政府の方針に何か思うところがあるのかもしれない。
「なるほど。政府の見解は理解した」
しかしコブラ国王がそれからあっさりと頷くものだから「あれ?」と拍子抜けしてしまった。
これまで起きたアラバスタの内乱は多くの犠牲を出してきた。クロコダイルを野放しにしていた海軍を非難すると思っていたが………。
しかしやはりというか、コブラ国王からある提案がされる。
「一つ私から頼みがある。アラバスタ王国に彼らがいる間、目を瞑っていてはくれないだろうか」
彼ら、というのはおそらく麦わらの一味だろう。
見聞色の覇気で宮殿内からルフィ達の気配がするのが分かる。
「…………海賊の秘匿は重罪ですよ」
「おや、あの時の謝罪は嘘だったのかい?」
コブラ国王がとぼけたように言うのに、思わず苦笑してしまった。
おまけにクロコダイルが倒された直後、ルフィを背負ったコブラ国王にした私の個人的な謝罪を引き出すとは。
ガープさん、この人やっぱりただのお人好しの王様じゃないですよ。
「…………せめて領土までで構いませんか?」
「まあ、良いだろう。彼らなら何とかして逃げていくさ」
「ありがとうございます」
陸ではなく、麦わらの一味が海を出たら捕縛する旨を後で伝えなければならない。
このくらいの譲歩なら、きっと上層部も許してくれるだろう。内乱の戦禍の爪痕が残り、また復興で慌ただしいアラバスタ王国内で派手に動くのは渋られたとでも誤魔化せば良い。
(麦わらの一味は無銭飲食と無許可の航海、それから海兵に対する威力業務妨害ってところかな。唯一の賞金首であるルフィもガープさんの孫だから、うまく口添えでもすれば軽い罪で収まる、か………?)
彼らにはアラバスタ王国を救ってくれた恩はあるが、これ以上麦わらの一味を特別扱いすることはできない。
しかし、ルフィ達を捕まえた暁には彼らも海兵になってくれたらなあとは思う。
「アラバスタ王国は君らに助けられたよ」
するとコブラ国王が静かに口を開く。
どこがとも思ったが、イスカ少尉やたしぎ曹長によって市民達は避難され、誰一人傷付くことなく無事である。
また国王軍と反乱軍、それから海兵達による砲撃の阻止は美談として語られていた。
そして私はというと、本当に何もしていないため居心地が悪い。そんな複雑そうな顔をしていれば、何故かコブラ国王に豪快に笑われてしまった。
「君はルフィ君の姉だそうだね。まだ眠っているが、彼に会っていくかい?」
「…………いえ、止めておきます」
ここで私が会いに行ったところで、ルフィ以外の麦わらの一味が気まずくなってしまうかもしれない。
海兵の私がいない方が良いだろう。
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「───海兵さん!」
コブラ国王との謁見の帰り、宮殿の長い廊下を歩いていると後ろから声をかけられた。
ビビ王女だ。後ろには白塗りのメイクをした男も控えており、おそらく彼がペル隊長だろう。
「もう行ってしまうんですか?貴方達にもまだ満足にお礼できていないのに………」
「お礼は必要ありませんよ。それにこれから後始末に忙しくなると思うので、そろそろお暇させていただきます」
そう返せば、ビビ王女は少しだけ肩を落とす。
そんな彼女に私はふと口を開いた。
「………ビビ王女、もしルフィが起きたら伝えておいてくれませんか?クロコダイルを倒してくれてありがとう、と」
今回の騒動に決着を付けられたのは、彼による功績が大きい。クロコダイルの討伐もアラバスタ王国の救済も全て海軍の功績になってしまい、懸賞金だけが上がる羽目になるだろう。
ルフィには申し訳なさを感じるとともに、感謝してもし切れない。
「ええ、もちろん!」
ビビ王女が晴れやかな笑みで頷く。
それに敬礼し、私は宮殿から去って行った。
これにてアラバスタ編は終わります。