海賊王の子供による海兵譚   作:ふくふくまる

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間章
第24話 海軍本部


 

 

 件のアラバスタ王国について、スモーカー大佐の代わりに大量の書類(報告書、是正処置書etc…)を捌き切り、それをようやく本部へ提出できた。

 

 イスカ少尉や部隊の皆はもちろん、たしぎ曹長にも協力してもらい何とかやり切ったのだが……スモーカー大佐では婉曲的なニュアンスをすることはせず、そのまま報告書を書いてしまいそうなのだ。

 

 また今回の騒動で、彼は海兵としての不甲斐なさを痛感したのか。

 最近は海賊の捕縛に精を出し過ぎているせいで、そちらの報告書も捌かなくてはならず、比較的キャパのある私が担当することになったわけである。

 

 スモーカー大佐は人工降雨船を見つけたというファインプレーをしているにも関わらず、今回特に目立った功績を立てていない私が手柄を立てたみたいな感じになっているのは正直居た堪れない。

 たしぎ曹長やイスカ少尉も市民の避難をしたというのに、上司の私がこんな感じで立場がなかった。

 

 そんなへろへろになりながら本部の通路を歩いていると、目の前からよく知る人の気配がする。

 

 げ、海軍大将──赤犬のサカズキさんだ。

 

 一部の上層部のみ麦わらの一味がクロコダイルを倒したということは周知されているが、私と彼らが何やかんや手を組むことになったという事実は話されていなかったりする。

 スモーカー大佐も流石にそこら辺の顛末は不味いと思ったのか、報告しないでくれたらしい。

 

 だから海賊と手を組んだという証拠はないので、サカズキさんに対して堂々としていれば良いのだ。

 けれど海賊に出し抜かれるとはどういうことだと問い詰められ、もしかしたら最悪殺されるかもしれない。

 

 …………よし、逃げよう。

 

 そして私はくるりと踵を返し、本部の窓から身を投げようとする。

 

 こういう時、見聞色の覇気って便利だな。

 苦手な相手から逃げるための手段としてかなり使える。

 

 しかし見聞色の覇気を使えるのは相手も同じで。

 いつの間にか背後に現れたサカズキさんによって、がしりと首根っこを掴まれた。

 

 お、終わった。

 

「此度のアラバスタ王国の任務ではうまくやったようじゃのう。運の良さはガープさん譲りか」

「え、ええ、そうですね。またスモーカー大佐のお力添えもあり何とか任務をこなすことができました。それに優秀な部下のおかげです」

「そうか。噂によると、ある海賊の小童どもがアラバスタをうろついとったらしいが…………まさかお前も祖父のように手を組んじゃあるまいな?」

「当たり前じゃないですか〜〜!そもそもどんな流れで海兵と海賊が手を組むことになるんですか!」

 

 こ、怖ーー!

 きっとサカズキさん、ガープさんがロックスの件でゴールド・ロジャー(実父)と手を組んだことを引き合いに出してるんだ。

 

 まっさか〜!と誤魔化してみるものの、サカズキさんの顔があまりにも怖すぎて直視できない。

 

 もしかして私がルフィ達と一時的に手を組んだのバレていたりする?

 もしかしてアラバスタ王国のコブラ国王やビビ王女辺りからリークされてる?でもこのこと、話さないって約束してくれたんだけどなあ………!

 

 そんなことをぐるぐると考えながら棒立ちのように立ち尽くしていると、サカズキさんが大きな溜め息を吐いた。

 

「お前のことじゃからワシに嘘を吐けるほどの度胸は無いだろうが………もし海賊と手でも組んでみろ。ワシが責任持ってお前を殺す」

「え!?も、もちろん!そんな心配はご無用かと思いますが!」

 

 そしてサカズキさんが私の首根っこをぽいとはなす。

 死期が延びただけなような気もするが、とりあえずこの場を乗り越えられたことに安堵した。

 

 しかしこのままだとサカズキさんの説教が始まりそうだぞと思っていると、ふと彼の持っている茶封筒が目に入る。

 

「センゴクさんへの書類の提出ですか?サカズキさん自らされるのは珍しいですね」

 

 分かりやすく話を変えた私にサカズキさんが眉を顰めるものの、彼はしばらく思案した後口を開いた。

 

「今暇じゃろう」

 

 何でそんな断定的な話し方をするんだ………?

 確かにやることはやったため、後は自分の部隊に戻ってイスカ少尉達に六式の訓練を見るくらいだが………。

 

 そしてサカズキさんは私にその厚さのある茶封筒を押し付ける。

 

「シャボンディ諸島に常駐しているワシの部下に渡してこい」

「お、お使いですね。承知しました」

「それから島にいる海賊どもを一掃してこい。それが終わったら鍛錬だ。そのだらけきった性根を叩き直しちゃる。良いか?お前はただでさえ、出…………」

「しゅつ?」

 

 けれどそこでサカズキさんは沈黙する。

 

 ただでさえ……ただでさえ、しゅつって何……?

 きっと精神的にだらしないとか才能がないとか言おうとしてるのは分かるけど、あのサカズキさんが言葉を選んでいるのは珍しい。

 

「……………」

「あ、サカズキさん!ちょっと!」

 

 するとサカズキさんは制止する私を気にも留めず、そのままのしのしと立ち去って行ってしまった。

 

 な、何だったんだろう。一先ず助かったかな?と思ったものの、シャボンディ諸島から帰ってきた後に待ち受ける彼主導の訓練に吐きそうになる。

 

 あの人、私の直属の上司じゃないんだけどなあ。

 私の管轄はどちらかと言うとおつるさんになるのだが、部隊の設立に推薦したのがサカズキさんというのもあって、彼の派閥に片足を突っ込んでいる状態だ。

 

(私が海賊王の娘って知ったら、サカズキさんどうなるんだろう)

 

 いや、考えるまでもなくノータイムで殺すだろう。

 そもそも海賊と手を組んだだけで殺すとか言ってたし。

 

 ………それよりも、シャボンディ諸島かあ。

 あの島は人攫いや奴隷などがたくさんいて嫌な気持ちになる。おまけに運が悪ければ『天竜人』もいるのだ。

 そんな場所に長々と居座れば居座るほど厄介ごとに巻き込まれるだろう。

 

 とりあえずさっさとサカズキさんのお使いを終わらせて海賊達を捕縛しよう。

 その後待っているのは地獄であるが、天竜人に目をつけられるよりも遥かに良い。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「───あの!」

 

 イスカ少尉に子伝電虫でシャボンディ諸島へ向かうと伝えていると、本部の廊下で後ろから声を掛けられた。

 

 ふと後ろを振り向けば、ピンク髪に丸眼鏡を額にかけた青年とそんな彼に慌てた様子で「止めろって!」と止めに入っている特徴的な顎の青年がいる。

 

 誰だろ、と一瞬思ったが、そういえばガープさんのもとで話題になっている若い海兵コンビが二人みたいな容姿であったのを思い出した。

 

「ガープ中将部隊所属海軍本部曹長のコビーです!たまたまアン大佐のことをお見かけしましたので、無礼かと思いましたがご挨拶に伺いました」

「それはどうもご丁寧に。すでにガープ中将から聞いているかもしれませんが、海軍本部大佐のモンキー・D・アンです。そちらの方は?」

「か、海軍本部軍曹ヘルメッポです」

「ヘルメッポ軍曹ですね。よろしくお願いします」

 

 こうやって私にわざわざ話しかけてくれる人はかなり珍しかったりする。

 昔から私と関わり合いのある海兵達(覇気や六式の修行に付き合ってくれた人達)は「鍛錬してるか?」と割と声をかけてくれたりするが、関係性の薄い人達からはあまり話しかけられない。

 

 英雄の孫であり、コネ昇進でのし上がった三世として見られているからなのだが………チクチクと突き刺さる妬みや軽蔑の視線に居た堪れなくなって、私から逃げていたりもするのだった。

 

(何だろう。見聞色の覇気からするに嫌な感じはないんだけど………。あれかな、ゴシップ的に気になるとかそういった感じで話しかけてきたのかな)

 

「それでですね………!アラバスタ王国にルフィさんがいたという噂を聞いて、何か知っていないかと」

「…………ルフィ?ルフィと知り合いなんですか?」

「ええ!彼は僕の恩人なんです」

「馬鹿野郎!相手はルフィの姉とは言え赤犬の秘蔵っ子なんだぞ!そんなこと言ったら………!」

 

 秘蔵っ子?

 

 ヘルメッポ軍曹の言葉に首を傾げながらも、コビー曹長の口から出た義理の弟の存在にふと納得する。

 

 ああ、なるほど。ルフィ関係か。

 アラバスタ王国のビビ王女といい、きっと彼も海兵でありながらルフィに救われた一人なんだろう。だから表向き姉である私に声をかけたということか。

 

「申し訳ありません。アラバスタ王国にいたとはいえ、彼とはあまり関わることがなかったので………」

「そ、そうなんですか」

「また何か彼の情報を掴んだら貴方に教えますよ。ただ相手は海賊ですので表立って話せませんが」

 

 そう返せば、コビー曹長はぱっと表情を明るくする。

 

 うんうん。ルフィのファンって感じだな。反対にヘルメッポ軍曹は複雑そうな顔をしているが。

 

 イスカ少尉も待っているだろうしこの辺りで踵を返そうとすれば、コビー曹長は朗らかに口を開いた。

 

「それから、是非とも貴方とお話が出来たらと思いまして」

「…………私と?」

「はい!幼い頃から覇気や六式をマスターし、若くして活躍されるアン大佐は同世代からの憧れですよ」

 

 え、ええ、え?そうなの!?

 …………いや、そんなわけないな。

 

 私が10歳の頃にマリンフォードに来て、今の今までボンクラ三世として見られない日はなかったりするのだ。

 私のコミュニケーション能力の低さも相まって軍学校でも基本的にぼっちだったし、海軍に入隊してからも同じくぼっちしていた。

 それに、同世代からの視線なんて大抵良くないものが多い。

 

 まあ、彼が本当に私に対してプラスの感情を持っていたとしても、上官であるガープ中将の孫として見ているだけに過ぎないだろう。

 簡単に浮かれてはいけないなと思いながら一人頷いていると、コビー曹長は静かに話しだす。

 

「よく話を聞くんです。アン大佐のことを」

「話?」

「ええ。最近アン大佐の部隊の方々が本部にいらっしゃるでしょう?彼らから貴方の話を聞くんです」

 

 上司の話と言ったら陰口くらいしか無いよね?

 そう思ったものの、コビー曹長の口ぶりからしてそういった類のものではないと察する。

 

「前線に自ら立ち、市民の命を優先される海兵の鑑だと」

「それに意外と取っ付きやすくて良い上司だってな。修行だって見てやってるんでしょう?」

 

 コビー曹長に続き、まるで苦虫を噛み潰したようにヘルメッポ軍曹が話す。

 確かにアラバスタ王国の騒動が終わって、本部では書類業務の合間に部下達に六式の訓練を見ていた。

 

「世間にはボンクラ二世や三世どもがうろうろいますが、アン大佐がそいつらとは違うって分かるっすよ」

 

 そんなヘルメッポ軍曹に何故かコビー曹長は苦笑する。

 

 そういえば彼らの言う通り、思い返してみれば最近自分に対する視線の種類が少し違うような気もする。

 むず痒いような。見聞色の覇気で察知してもそれが何なのか分からない感情を向けられ、不思議に思っていたのだが………。

 

 しかし今思えば、あれは部隊の部下達が私に向けてくれる信頼の感情に近かったかもしれない。

 

 何だろう。こんな身の上だけど、海軍で少しずつ居場所が出来つつあるのかな。

 相変わらず綱渡りな現状でも、こうも他人から褒められると嬉しくなる。

 

「あ、ありがとうございます…………」

 

 そしてどぎまぎしながら礼を言えば、若い海兵二人は一瞬きょとんとした後どこか微笑ましそうに笑った。

 

 

 

 

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