海賊王の子供による海兵譚   作:ふくふくまる

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第26話 エースの処刑

 

 

 

「黒髭マーシャル・D・ティーチにより火拳ポートガス・D・エースを捕縛。黒髭は火拳を手土産に七武海入りをし、今後の予定として火拳はマリンフォードの処刑台にて斬首することとなった」

 

 センゴクさんの言葉が遠くに聞こえる。

 

 私と彼以外誰もいない執務室で、窓の逆光によって表情の見えないセンゴクさんが淡々と告げた。

 

「そして処刑人としての役割を───モンキー・D・アン大佐に一任させると世界政府によって決まった」

 

 センゴクさんから感情の揺らぎが見えない。

 私に見聞色の覇気で感知されないよう、きっと意識を制御しているんだと思う。

 

 それが、つらい。

 

 この人が私に対して情のようなものを抱いてくれているからこそ、こうして一上官として話してくれている。

 

 その配慮が余計私にはつらかった。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

「何で自分なんでしょうか」

 

 センゴクさんからの話によると、すでにエースはインペルダウンへ輸送されているらしい。

 エースが捕まったことといい黒髭の七武海入りといい、ガープさんら海軍上層部には知れ渡っているそうだ。

 

 それにしてもどうして自分が処刑人に。

 そう聞けば、センゴクさんは口を開く。

 

「ガウェス王国での王族救出に、先のアラバスタ王国での活躍。更にはこれまでの海賊討伐数と捕縛数、世間からの印象を鑑み、政府はお前を海軍の新たな『英雄』とすることを考えている」

「新たな英雄って………。でも私は」

「生ける伝説の海兵と呼ばれるガープもそしてワシやおつるもとっくに老い、いずれ引退する。それまでに海賊への抑止力と新たな海軍の象徴を社会全体に知らしめなければならないというのが政府の見解だ」

 

 そんなことを言われたって、私が新たな『英雄』としてアピールするのは無理がある。

 だって私はかの海賊王の血を引いているのだから。

 ガープさんの身内ということになっているけれど、その事実が露呈した途端海軍への信用は失墜する。

 

 けれど、その事実を世界政府が知らないからこそ、私の名が挙げられてしまったのだろうか。

 

 その時、ふと嫌な予感がした。

 

 これが海軍の新たな英雄を作るための処刑だとしたら、白髭海賊団二番隊隊長としてエースを処刑するのはわずかに役不足である。

 

 それを考えた時、最悪の予想が脳裏を過ぎった。

 

 エースは、どちらの存在として処刑されるのだろう。

 

 白髭海賊団の二番隊隊長としてか。

 それとも───

 

「まさか、エースの出自が………」

「ああ、火拳ポートガス・D・エースが海賊王の息子であることが世界政府に暴かれた」

「…………どうして」

「海賊捕縛時、感染病検査や血液検査を一通り行うのは知っているな?今回火拳から採取した血液を黒髭海賊団ラフィットが海軍の目を盗んで、世界政府に直接送りつけた。政府直属の研究機関に登録された海賊王の血統因子と奴の血統因子が一致し、火拳の出自が顕になったというわけだ」

 

 海賊王の処刑当時はまだ科学技術が発達していなかったが、ここ数年で遺伝子技術が飛躍し政府や海軍でも遺伝子検査が運用され始め出したことは知っていた。

 私も血液検査を行う際は身元がばれないよう、センゴクさん達が用意してくれた赤の他人のものを提出している。

 

 もしラフィットが世界政府に送りつけなければ、センゴクさん達はその出自を隠し『白髭海賊団』のエースとして処刑をする予定だったのだろう。

 

 『海賊王の息子を処刑する』となれば、20年前に海賊王の血縁とされる子供やその母を殺し回ったあのおぞましい出来事が、全く無駄であったということを社会全体に知らしめる結果になるのだから。

 

「『海賊王』ゴールド・ロジャーの息子であるポートガス・D・エースを『伝説の海兵』ガープの孫娘であるお前が手を下し、海軍の新たな英雄を生む。───海軍の新時代の幕開けの象徴として、世界政府はお前に目を付けたんだ」

 

 納得はできないものの、私が処刑人として何故選ばれたのかということは理解した。

 

 しかし感情の方が追いついていない。

 

 私がエースを殺す?

 

 海軍と海賊の立場に別れたのだから、いずれこうなってしまうのは覚悟していたつもりだった。

 

 しかも、海賊王の息子として処刑するのだ。

 

 コルボ山にいた頃、「俺は生まれてきて良かったのか」と自問するエースに「親の罪を子供が背負うなんてあってはならないし、私は生きていても良いと思う」と何度も言ったくせに。

 

 私も同じ、海賊王の血を引くのに。

 

「だったら私も───」

 

 死ぬべきなんじゃないか。

 

 そう口走ってしまいそうになった時、センゴクさんが息を呑むのが分かった。

 

 その一瞬で、かすかに彼の感情の揺らぎを感知する。

 

 世界政府と自分自身への強い憤り。

 板挟みとなってままならない状況への焦燥感と、私に対して深い悲しみと同情を感じる。

 

 海軍元帥という立場であるものの、10年も彼は私のことを見てくれていたのだ。

 監視目的もあるが、たまに親のような目で見守ってくれていたことをもう知っている。

 

 そんなセンゴクさんに思わず私は「ごめんなさい」と言っていた。

 

「───何故謝る」

 

 分からない。

 

 けれど昔から世話になってきた人が私のことでこうも苦悩し感情を揺さぶられているのを察知してしまった瞬間、謝らずにはいられなかった。

 

 私のせいで困らせてしまい申し訳ありません、と部下として話そうとしたが、言葉がうまく出てこない。

 

 代わりに私の口から自然に出たのは、まるでかつての、幼いエースが言っていたような言葉だった。

 

「───わ、私が生まれたから、そもそも海軍に入らなければ、こんなことに、」

 

 エースの気持ちを今、ようやく理解したような気がした。

 

 多くの人が否定し、時に困惑するこの血は自分の存在価値を激しく揺るがす。

 産まれてきた子供に罪はないと言い切れるけれど、やはり辛い。これはもう、無理だった。

 

 あまりにも辛くて、そう口に出した方が楽である程に。

 

 そもそも私は転生して産まれた身なのだ。

 もしかすると、私の存在はイレギュラーで本来ならば存在しなかったかもしれない。

 

 するとその時、センゴクさんの目から大粒の涙が溢れているのに気付いた。

 

 ぼとぼとと涙を流す彼の姿に困惑し、思わず立ち尽くす。

 

 センゴクさんから深い悲しみが押し寄せた。

 そんな彼に何て声をかけたら良いか分からず、私は彼を見つめることしかできなかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ガープさんやおつるさんは私がエースの処刑に関わることを知っているのかと聞けば、すでに彼らには伝えていると言われた。

 おつるさんはともかく、ガープさんはひどく暴れたそうでマリンフォードの自宅で現在謹慎しているらしい。

 

 センゴクさんの執務室から出て、ぼんやりとしながら本部の廊下を歩く。

 

 …………今このタイミングで海軍を裏切ってしまおうか。

 

 元々殉職を偽造して海軍を辞めるつもりだったんだ。

 病院かどこかで適当な遺体を拝借し、自殺して死んだことにするか。

 

「………………今から間に合うかな」

 

 いや、無理だろう。

 

 そんなすぐには遺体を用意できないし、私がエースの処刑人になったということで何か仕出かさないか。海賊王の身内だからということを差し引いても、処刑人として白髭側に情報を漏洩させないか、世界政府かセンゴクさんの子飼いの部下から監視の目が付くだろう。

 

 ずるずると海軍を続けていたことに後悔する。

 ガープさんへの恩を返せたタイミングで去ろうと思ったけど、こんな風に後悔する日が来るだなんて。

 

 するとその時、前方から見知った気配がやって来るのに気が付いた。

 

「何じゃあ、今にも死にそうな顔をしおって」

 

 じりじりとひりつくような気配に顔を上げれば、そこにはやはりサカズキさんがいた。

 

 そんな彼の言葉に苦笑する。

 指摘されずとも、きっと私の顔は最悪なことになっているだろう。

 

「ワシの執務室に来い。話しておきたいことがある」

 

 何だろう。

 怪訝に思い顔を顰めれば、サカズキさんは珍しく言いづらそうに口を開いた。

 

「……………お前の出自についてじゃ」

 

 その言葉に私は思わず固まってしまった。

 

 

 

 

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