───あれから3年。
この長閑なフーシャ村に海賊が居座るようになってしまった。
「よう、嬢ちゃん!今日も村長のとこで勉強か!」
「偉いな〜!俺がガキの頃はもっと遊んでたよ!」
村長の家への道すがら、海賊達が楽しそうに絡んでくる。
それに内心怯えながらも「ありがとうございます」とへらへら言えば、海賊達は「おう!」と手を振ってマキノさんの酒場に入っていった。
赤髪海賊団。
数年前からこの村を拠点として航海する海賊達。
一見気の良さそうな連中に見えるものの、相手は海賊なのだ。
彼らに目を付けられないよう、私はこそこそと村長さんの家へ向かった。
◇
「なあ、アン!勉強ばっかしてないで、シャンクス達のところに行こうぜ!冒険の話をいっぱいしてくれるんだ!」
「それはちょっと難しいかなあ」
村長さんによる授業も終わりコルボ山に帰ろうとすれば、フーシャ村に住んでいる子供──ルフィに声をかけられた。
彼はガープさんの血の繋がったお孫さんであり、私より3つ歳下の少年である。
村に同い年くらいの子供がいないためか、度々こうして話しかけてくるようになったのだ。
「むずかしい?」
「相手はいくら優しそうに見えても海賊だからね。腰に剣や銃が差さっている限り、安心できないよ」
海賊達に懐いているだろうルフィに言うのは酷であるが、こればかりは仕方がない。
フーシャ村の人達は良い人ばかりだから口にしないものの、彼らの機嫌を損ねないよう遠巻きにしている人もいるはずだ(そしてそれは山賊一味の仲間である私にも言える)
「それに帰って家の仕事しなくちゃ」
「アンの家って他所の村にあるんだよな?俺も一回行ってみてえ!」
「遠すぎるから駄目だよ。マキノさんや村長さんが心配するだろうし………それに何も無いところだから、きっとつまらないよ」
村長や村の大人達にはあらかじめ説明しているが、ルフィには私がコルボ山の山賊達のもとで暮らしているのを話していない。
好奇心旺盛なルフィのことだから、それを知れば興味本位に山賊達に近付こうとするだろう。
気の良い人達だけれど、ルフィには普通に暮らしてほしかった。
「こっそりついてっても、何でかバレるんだよなあ」
「ルフィの気配はすぐ分かるからね」
たまにルフィは私の跡をついて行こうと尾行してくるのだが、彼の気配は分かりやすい。
野生動物が多く住むコルボ山で育ったからか。
またはあの海賊王の血か。
転生してから、生き物の気配をうっすらと感知できるようになっていたのだ。
分かりやすくむくれるルフィに苦笑する。
そして癇癪でも起こすのか、いよいよごね始めた。
「アンってば『だめ』ばっかじゃねえか!シャンクスのところに遊びに行こうぜ〜!そんで海賊になろうぜ〜!」
「海賊は大変だと思うよ。楽しい冒険だけじゃないだろうし。そもそも違法行為なんだから」
「そうだぞ、ルフィ。この嬢ちゃんの言う通りだ」
するとその時、後ろから割って入った男の声に勢いよく振り向く。
そこには赤髪海賊団の船長──シャンクスがいた。
「よっ」と軽やかに挨拶する彼に思わず冷や汗が流れる。
(あれ、いつもなら気配を感じるのに………)
シャンクスさんの登場にルフィが目を輝かせる横で、首を傾げる。
同時に先の会話について怒っていなさそうであるのと、腰に剣や銃が差さっていないことに安堵した。
「…………この嬢ちゃんがアンか。俺はシャンクス。船長をやっている」
「アンです。ご挨拶が遅くなって申し訳ありません」
とりあえず愛想笑いして会釈すれば、何故かツボったのか「随分と畏まった嬢ちゃんだな!」と笑われる。
何なんだ、この人。
そして気を取り直し「何か御用ですか?」と尋ねれば、シャンクスさんは首を振った。
「いや、ちっこい頭が二つ見えたもんでな。ちょっとばかし挨拶にしに来たんだ」
なるほど、つまり特に用はないということだ。
ふと周りを見渡せば人気があるし、庭先に出ている村人達が微笑ましそうにこちらを見ている。
シャンクスさんのことは何も知らないため、海賊の彼とルフィを二人きりにして大丈夫かと思ったのだが………周りに大人達の目があるなら平気だろう。
ルフィは彼に懐いているようだが、もう少し警戒心を持った方が良いのにと思った。
「ルフィ、そろそろ時間だから行くね。シャンクスさんも失礼します」
そう言って踵を返すと、ルフィが元気よく「またな!」と言ってくれる。
そしてふとシャンクスさんを見れば、彼はどこか仕方なさそうな笑みを浮かべて手を振っていた。
それに改めて会釈し、そのまま足を進めた。
◇
「いやあー!やっぱり女の子って難しいな!全然分からん!」
「お頭は大概、女心が分かんねえからなあ」
───その日の夜。
マキノの酒場にて、酔い潰れて顔を真っ赤にした赤髪が、笑いながら昼間の出来事を吐露する。
黒髪黒目の、子供にしては不自然なほど丁寧な物言いをする少女。朗らかな笑みを浮かべながらも、目の奥に警戒心を宿らせる彼女は懐かない小動物を連想させた。
しかし───
一見育ちの良い、良いとこの生まれに見える少女に、シャンクスは既視感を覚えるのだった。