海賊王の子供による海兵譚   作:ふくふくまる

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頂上戦争編
第30話 開戦


 

 

 

 エースの処刑が3時間後に控えている。

 海軍本部のあるマリンフォードでは厳戒態勢がとられており、総勢約10万人の海兵達が白髭海賊団の襲撃に備えていた。

 処刑台の最前面には海軍大将の3人が控え、その後ろ──高く聳える処刑台の上に私はいた。

 視線を下げれば、膝立ちで俯くエースの姿がある。そしてその横にはセンゴクさんとガープさんが佇んでいた。

 

 いよいよ、処刑が始まってしまう。

 センゴクさんはともかく、ガープさんの顔がまともに見れない。けれどガープさんに話さなければならないことがあった。

 

「ガープさ………ガープ中将」

「何じゃ」

 

 この人にはけじめとして言っておかなければ。

 

「私は、望んで一人の海兵として海賊であるエースを殺します。なのでドーン島の皆さんには私が処刑人を希望したと言ってください」

 

 唯一の血の繋がった家族を殺すのだ。家族と呼べるほどの大切な存在を殺すのだから、それくらいの罪は被らないといけない。

 

 それに私やエースのせいで、ガープさんはおそらく責められるだろう。海賊王の実父である男の無責任な頼みで、これ以上ガープさんの人生が振り回されるのは嫌だった。

 

 そう言えば彼はぐっと眉を寄せる。

 そして深く息を吐き、私の頭を撫でる。それに「え?」と思わず驚いてしまった。

 

「あの、ガープ中将?」

「もう良い。今はもう、何も考えるな」

 

 ガープさんが驚く程優しい目で見つめてくる。

 そんな風に見てもらえる資格は私にはないのに。

 

 だって私はエースを殺すのだ。小さい頃のエースはとにかく手が掛かったけれど、その分ガープさんはエースを目にかけていた。

 それこそ、本当は私よりも潜在的な才能に溢れたエースを海兵にしたかっただろう。

 

「アン、お前がエースを処刑したとしても、それはお前のせいではない。ワシら上の世代の人間の責任じゃ」

「……………そんなことは、」

「ワシも覚悟を決めておる。だからお前は自分の任務だけに集中しなさい。フーシャ村やコルボ山のことも、来るであろう白髭の海賊達のことも考えんで良い」

 

 その言葉に素直に頷くことはできなかった。

 ふとエースを見れば、彼も呆然とした様子で俯いている。

 

 私達姉弟はどれだけこの人に負担をかけさせるのだろう。

 

「ガープ、そろそろ」

「ああ、分かっておる」

 

 するとセンゴクさんはガープさんに持ち場に戻るよう言う。

 そして拡張機型の電伝虫を手の平にのせた。

 

 いよいよエースの処刑が始まる。

 

 

 

 ◇

 

 

 

『───諸君らに話しておくことがある。ポートガス・D・エース、この男が今日ここで死ぬことの大きな意味についてだ』

 

 拡張機型の電伝虫を通して、センゴクさんが静かに語りだす。

 それをマリンフォードに集まる10万人の海兵達や七武海、そして映像電伝虫越しに窺う世界中の人間が耳を傾ける。

 

『エース、お前の父親の名前を言ってみろ』

「俺の親父は………」

 

 そこでエースは言葉を止め、不意に私を見つめた。

 きっと彼のことだから、ここで白髭なんて答えたら私が傷付くかもしれないと心配しているのだろう。

 

 もうそんなことで今更いちいち傷付いたりはしない。

 それにこっそり首を振ってやれば、エースは暫し沈黙した後「白髭だ」と答えた。

 

『違うだろう。お前は───』

 

 しかしそれをセンゴクさんは否定する。

 

 そして彼の口からエースの出自が語られた。

 南の海のバテリラという島で、世界政府を欺いて命懸けで私達を産んだ母のことを。

 

 センゴクさんが忌々しげにエースを見下す。

 

『父親の死から一年三ヶ月を経て、世界最大の悪の血を引いて生まれてきた子供………!───お前の父親は【海賊王】ゴールド・ロジャーだ!!』

 

 その瞬間、海兵達の動揺は明らかでエースを見る目が明らかに変わった。

 まるでおぞましいものを見るような、引き攣った顔の数々を見て「やっぱりこうなるか」とぼんやりと思う。

 

 ただの海賊じゃない。【海賊王】の血を引いていることが重要なのだ。きっと私も出自をばらしたらこんな風に見られるのだろう。

 

 海兵達の騒めきをなるべく聞かないようにして、見聞色の覇気で周囲の気配を探る。

 海の向こうの海底からチリチリと嫌でも気配を感じるのだ。殺気に満ちているけれどエースを助けようとする気配が、何百も。

 

 白髭の海賊達が迫っている。

 けれどそれは海の向こうからだけではなく、湾内の海の底からも感じた。

 白髭を慕う魚人達の気配だろうか。

 

(───違う。これは………)

 

「報告します。たった今白髭海賊団が迫っています。コーティングで海中に潜んでいるんでしょう。湾岸からおよそ四十、湾内の海底からも数隻気配を感じます」

「何?」

「湾内の海底にいる気配はおそらく白髭本人だと思われます」

 

 四、いや五隻。このままだと湾内の中心に現れる。

 

「浮上する前に赤犬のマグマを降らせてコーティングを割るか………アン大佐、お前はどう思う」

 

 その言葉に内心苦笑する。

 一海兵の意見を聞くなど元帥のすることではないからだ。

 つまりセンゴクさんは、私にエースの処刑だけでなくエースの仲間を殺す覚悟はあるか。本当に海軍側についているのか試しているのだろう。

 

 エースの処刑を私に命令した時、あんなに泣いていたのに。もう彼も覚悟が決まっているのだ。

 この先、私に対してもっと非情な任務を命令するかもしれない。私を『駒』として扱えるか見極める覚悟が。

 

「………。気配を探ったところ海底の船には練度の高い者達の気配を感じます。おそらく隊長格でしょう。その中にもし魚人のナミュールがいれば、火傷を負わない距離から海流の流れを変えてマグマを流すかもしれません」

「白髭の隊長格ならそれくらいできるだろうな」

「予めクザン大将の能力で湾内を凍らせても良いかもしれませんが、浮上するタイミングで白髭の能力によって氷は破壊されてしまう可能性もあります。………向こうが奇襲としてやって来るならば、こちらも白髭が浮上するタイミングを狙った方が良いと考えます」

 

 砲弾による集中砲火を備えても良い。

 またはクザンさんの氷で凍らせるかサカズキさんのマグマで船を焼いても良い。

 そもそも海中でコーティングを破るのが最も良いが、その手段が今の海軍にはなかった。

 

 しかし次の瞬間、不意に脳裏にマグマに焼かれる海兵達の姿が過った。直感というのか。そうなる予感がしてならない。

 

「……………もしクザン大将やサカズキ大将の能力をもって白髭を迎え打った場合、白髭の能力によって氷は割られ、マグマは弾かれる可能性もあります。最悪、湾内付近に待機する味方の海兵達に被害が及ぶかもしれません」

 

 一歩間違えれば味方に甚大な被害が及ぶ。

 そのことを含め提言すれば、センゴクさんは「砲撃の備えを。海上に現れた瞬間を狙う」と言って、小型電伝虫で砲台手達に指示を飛ばした。

 

 とはいえ、威嚇射撃にしかならないだろう。

 戦いの序盤で味方に甚大な被害が及ぶ可能性があるなら、クザンさんはともかくサカズキさんの能力は今の段階では使わないと決めたのかもしれない。

 

「相変わらず見聞色の精度が高いな」

「いえ」

 

 けれど、もっと何か大きな気配も感じるのだ。

 白髭海賊団には巨人族の海賊もいるだろうが、それじゃあない。緊張感の欠片もなく、この戦争をどこか楽しんでいるような不愉快な気配も近付いてきていることに違和感を覚えた。

 

 しかし、グンッと海上に白髭本人と思われる気配が急浮上してくるのに気付く。

 それをセンゴクさんも察したのか「砲撃用意」と小型電伝虫で指示した。

 

 ……───来る!

 

「撃て!!」

 

 湾内の海面が大きく膨れ上がった瞬間、同時に何百もの大砲が撃ち込まれる。真っ白な巨大な水飛沫と火の粉が上がり、中心のそれは爆発した。そう、見えたはずだった。

 

 見えないはずの大気の割れ目がピシリと広がり、雨のように降り注ぐ水飛沫の中から巨大な海賊船が現れる。

 

「挨拶もまだだって言うのに、随分と手荒な歓迎じゃねえか。なあ、センゴク」

 

 白鯨を模した巨大な海賊船の甲板に佇む大男が覇王色の覇気を僅かに発しながら威嚇する。

 

 大海賊『白髭』エドワード・ニューゲート。

 山のように盛り上がった筋肉とおそらく巨人族の血が混ざっているだろう人間離れした体躯。

 白鯨の海賊船は砲撃によって何箇所か破壊されており、彼の守備範囲外だった船員達は爆発に巻き込まれたのか。仲間に引きずられて船の奥に消えていった。

 続いて三隻の船も同時に現れる。

 

 威嚇射撃、と言ったが何百もの砲撃を放ったのだ。

 それをここまで封じる白髭の怪物っぷりに彼は何をしたら倒れるのかと恐ろしくなる。

 

(あともう一隻、海底にいる………)

 

 また海底に未だ沈む船の気配に不気味に思う。

 

「報告します。未だ海底に白髭の船が一隻潜んでいます。浮上する様子は今のところありません」

「そうか」

 

 私の報告にセンゴクさんが短く返す。

 

 するとその時、ふと白髭と目が合った気がした。

 きっと気のせいだろうけれど、ひりつくような殺気にゾッと冷や汗が流れる。

 

 そして次から次へと湾岸の付近から何十もの海賊船が現れた。いずれも新世界で名を馳せる海賊達で、エースを助けにここまで来たのだ。

 皆一様にエースの首に剣を構える私を見て、好戦的な笑みを浮かべて殺気を飛ばしてくる。

 

 それを見て、心臓を掴まれたようなヒヤリとした感覚になるものの、どこか他人事のように「すごいな」と思っていた。

 

(エースはこれだけの人に愛されてるんだ)

 

 反面、私はどうなんだろう。

 今まで考えないようにしていたことを、つい考えてしまいそうになる。

 

「おれの愛する息子は無事なんだろうな!!」

 

 白髭の言葉にエースが茫然とする。

 

 それを横目で見ながら、私は今回の戦争の流れと自分の優先すべき役目を整理した。

 

 

 

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