海賊王の子供による海兵譚   作:ふくふくまる

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第33話 覚悟(第三者視点)

 

 

 白髭がいよいよマリンフォードの地に降り立った。

 しかし海軍はその時を待っていたかのように防御壁を作動し、海賊達を包囲する。その上からサカズキのマグマが降り掛かり場は地獄と化していた。

 

『───これより、ポートガス・D・エースの処刑を執行する』

 

 センゴクの声が戦場に響き渡る。

 ガープは振り返れば、アンがエースの首に刃をかけていた。その光景に言葉を失う。

 

 そしてこの戦争が始まる前、アンがガープに向けて言った言葉が過った。

 

『私は、望んで一人の海兵として海賊であるエースを殺します。なのでドーン島の皆さんには私が処刑人を希望したと言ってください』

 

 ガープのもとにはフーシャ村やコルボ山から何通もの嘆願書が来ていた。エースの処刑中止ではなく、アンに処刑させるなという内容がいくつも来たのだ。

 二人の事情を知る故郷の人々からすれば当然のことだ。

 アンもガープ一人が悪者にならないように、先の言葉を言ったのだろう。

 

 するとその時、海軍の防御壁を海水の渦が乗り越えて何者かが処刑台の前に降り立つ。

 

 ───ルフィだ。

 

 白髭の海賊達も力尽きたと思われたはずのオーズJr.や新たなコーティング船の出現によって、続々と防御壁を超えて湾内に侵入していく。

 そしてルフィは革命軍や白髭の海賊達に後押しされる形で、処刑台の上に向かって行った。

 その前に、ガープは静かに立ち塞がる。

 

「ッ!? じいちゃん!どいてくれ!!」

「お前は…………」

 

 お前も知っているだろう。

 アンとエースが血の繋がった家族だということを。同じ父親から産まれた子供だということを。

 そんなアンが、弟であるエースを自らの手で処刑することに相当の覚悟をもって挑んでいると理解しているはずだ。

 それを止めようとするのか。

 

「じいちゃん!どいてくれ!こんなの間違っているって分かってんだろ!?アンがエースを殺しても本当に良いのかよ!?」

「ルフィ」

「見てみろよ!アイツがどんな顔してエースの首に剣を構えてるか!俺はエースを助けたいし、これ以上アイツを苦しめたくない!!」

 

 ガープをも思っていた本心をルフィはいとも簡単に口にする。

 それはガープも思うところだった。

 けれど様々なしがらみが許さない。悲痛なアンの覚悟を前にガープは裏切れなかった。

 

 アンが海兵として海賊の弟を殺すならば、自分も一人の海兵として覚悟を決めなければならない。

 

 ルフィの、振り上げられた拳がすぐ目の前まで迫る。

 赤く滲み、無意識下からかすかに武装色をまとうそれは槍のようにガープを狙った。

 

「じいちゃんッ!!」

「───ルフィ!!!」

 

 ガープの脳裏に子供の頃のルフィの姿が蘇る。

 しかしそれと同時に、同じ孫であるアンの姿が過った。

 

 彼女が12歳の頃。海兵達にうまく馴染めず隅の方で一人訓練をしていたアンの、心配するガープに気遣った言葉が鮮明に思い出される。

 

『…………私も組織に入っている限り、今のままじゃ駄目なのは分かっています。今すぐには難しいかもしれないけれど、少しずつ馴染めるよう努力するつもりです』

 

 真面目で、人との交流が苦手な──小さな少女の言葉にガープは嬉しくなったものだ。

 その出来事を思い出した瞬間、ガープは胸が苦しくなり堪らなくなる。

 

 そして、決意は固まった。

 アンがこの処刑から「逃げたい」と言わない限り自分は全ての力をもって敵を討つ。

 

「お前にワシは倒せん!!!」

 

 武装色の覇気を一瞬で纏った漆黒の拳がルフィの顔面に突き刺さる。隕石のようなそれにルフィは放物線を描いて後方にまで飛んでいった。

 

 死んではないだろう。

 だが、しばらく動けないはずだ。

 

「麦わらボーイッ!だからアンタにゃまだ早いって言ったっちゃブルね!」

「オイッ!誰かコイツの手当てをしてくれ!白目剥いて動かんぞ!」

 

 向こうで革命軍のイワンコフに連れられていくルフィを確認する。ルフィはアンの出自を知っているのだ。早いところこの戦場から退場させた方が良い。

 そしてガープはぐるりと戦場を見渡し、そのままセンゴクに向かって叫んだ。

 

「センゴク!!ワシは前に出て白髭を抑える!!良いな!?」

 

 白髭とまともにやり合えるのは、海軍大将か自分くらいだろう。センゴクは頷き「行け」と言ってくる。アンを見れば心配そうにガープを見つめていた。

 

(身内殺しの罪はお前だけには背負わせん)

 

 そしてガープは白髭のもとへ飛んでいく。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「言わんこっちゃないったら!麦わらボーイ、アンタ死にたいのッ!?」

 

 処刑台から離れた後方。革命軍のイワンコフはガープによって飛ばされたルフィを介抱しながら叫んだ。

 脳震盪を起こしているかもしれない。死んではないが、意識はなく、白目を剥いて手足をぴくぴくと震わせていた。

 

(血の繋がった孫でも容赦なし。でも殺してない辺り温情はあるッチャぶるね)

 

 他の者なら確実に死んでいただろう。

 それにイワンコフはゾッと冷や汗が流れた。

 

「元々麦わらボーイにこの戦場は早すぎたんだわ!この子を早く下がらせて!今、私達が出来ることはルフィちんを死なせないことよ!」

 

 そして近くにいた者に指示を飛ばし、担架を持って来させようとする。

 しかしその時、ルフィの手はイワンコフの腕を強く掴んだ。

 

「ッ! 意識が……!?」

「…………待ってくれ、イワちゃん」

 

 ルフィの細い声が口から溢れる。

 息も絶え絶えになりながらも、イワンコフに縋りながら続けた。

 

「頭の中でガンガン聞こえんだ………!アンがこんなことしたくないって………!アイツ、ずっと悲鳴を上げてるんだよ!」

「ルフィちん、貴方まさか見聞色の覇気が………!?」

「ずっと苦しんでるんだ………!昔からアイツは真面目だから誰かが止めてやらないと、取り返しのつかないことでもやろうとしちまう………誰かが()()にしてやんねえといけないんだ………!」

 

 けれど、ルフィはそこで力尽き倒れ込んでしまう。

 息を切らしながらもたれ掛かる男にイワンコフは何も言えなかった。

 

 ルフィの姉ということは、おそらく同郷のエースとも仲が良かったんだろう。それを思うと、今彼の前で行われている処刑はあまりにも残酷過ぎた。

 自分の姉が義兄を殺そうとするなんて。

 

(それよりもこんな急に覇気に目覚めるだなんて………!差し迫った過酷な状況が才能を一気に目覚めさせたというの!?)

 

 しかしイワンコフはルフィの身体でもうひとつの異変が起きていたことに気付かなかった。

 聞き慣れない、ドラムの音のような心音が彼の身体の中で小さく響き始めていたことに。

 

 

 

 

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