海賊王の子供による海兵譚   作:ふくふくまる

36 / 41
第36話 海賊王のもう一人の子供

 

 

 

 まだ私がコルボ山にいた頃。

 あまりにもエースが麓の酒場にいるゴロツキ達とトラブルを起こすため、こっそり見に行ったことがあった。

 

 海賊王についてどう思うかと聞く幼いエースに酔っ払った男達は笑いながら答える。

 

『史上最悪の極悪人だよ!世界中の海を暴れ回っただけでなく死ぬ間際にした遺言のせいで、この最悪な大海賊時代が来ちまった!』

『全く迷惑なもんだよな。おまけに南の海では奴の子供も潜んでるって噂だぜ』

『生まれてくること自体が罪だって言うのにな。もし見つかったら、ロジャーに被害を被った人間が好きにしても良いって法律を作るのはどうだ?』

 

 何を馬鹿なことを言っているんだろう。

 倫理観の欠けた前時代的な物言いに、他人事のように思ったのを覚えている。

 

 けれど海軍に入り、実父によって私の想像以上の被害が及んでいることを知ってしまった。

 

 ある海兵は自分の父親を海賊王との交戦で亡くした。

 ある島では海賊王の妻と子であるとの勘違いにより多くの母子が殺された。

 ある国は大海賊時代が始まってしまったがために海賊に滅亡させられた。

 

 数え切れないほどの罪の量に眩暈がした。

 

 海軍に保管されている映像記録の実父はいつも楽しそうだった。大きな口で笑い、歴戦の猛者のように海兵を薙ぎ倒す彼は神話の英雄みたいに見えたけれど、その実、正真正銘の『無法者』だ。

 

 海軍に入隊してから私はその映像越しの父を戒めるかのように、決して彼のようにならないよう見続けた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 白髭の一撃によって崩れかけた──海軍本部の裏から山のような巨体の男が現れる。

 ぬらりと現れた巨人の男は戦場には似つかわしくない呑気な声音で「見つかっちまった」とこぼした。

 

(あれは………)

 

 海賊『巨大戦艦』サンファン・ウルフ。

 インペルダウンLevel6の死刑囚で、おそらくルフィ達の騒動とともに脱獄してきたのだろう。

 

 しかし彼の出現と同時に複数の気配が私達の前に現れた。その瞬間、サンファン・ウルフ並びに()()が誰の傘下に下ったのか理解する。

 

「ゼハハハハッ!!!しばらく様子見しようと思っていたが………久しいな!死に目に会えそうで良かったぜ、オヤジィ!!!」

 

 黒髭海賊団の船長マーシャル・D・ティーチ。

 またラフィットなどの船員達と同じようにインペルダウンLevel6の脱獄囚が並ぶ。

 『悪政王』アバロ・ピサロに『大酒』のバスコ・ショット。『若月狩り』カタリーナ・デボン……と過去の事件の残虐性により世間から存在を消される程の海賊達がいる。

 おまけに何故かインペルダウンのシリュウ看守長まで、あちら側に立っていた。

 

「センゴク元帥!先程再び正義の門が開き、認証のない軍艦が一隻通ったという報告が!」

「そいつがコイツらか!!」

 

 呆気に取られ黒髭達を見ていると、背後から凄まじい覇気を感じた。振り返れば、白髭がぐっと拳を振りかぶっている。

 

「ティーチ!!!!」

 

 そして大気はひび割れ、黒髭に向かって砲撃のような衝撃波が放たれた。

 

「てめえだけは息子と呼べねえな!!ティーチ!俺の船のたった一つの鉄のルールを破り、お前は仲間を殺した!───4番隊隊長サッチの無念!この馬鹿の命を取ってケジメを付ける!!」

「おいおい!エースが今にも死にそうなんだぜ!?俺に構ってる暇があるなら、そこにいるモンキー・D・アン………いや、この『大嘘吐き』を殺しちまった方が良いんじゃねえか!?」

 

 その言葉に青褪める。

 黒髭が私を指差し、まるでプレゼントを開ける子供のような笑みを浮かべて口を開く。

 

 この男は、まさか───

 

「エースの血統因子を渡すついでに、政府に麦わらと小娘の血も調べてみろと言ったんだよ!年近い同郷の子供!怪しいだろ!?…………そしたらどうだ!麦わらはともかく、小娘の血統因子はエースのものとピタリと当て嵌まっちまった!!」

 

 戦場中にいる海賊や革命軍、そして海兵達が動きを止め、立ち尽くす私を見つめる。

 

「結果は教えられなかったが、政府の目を盗んで情報を得た甲斐があったぜ!」

 

 いやだ。

 

 止めて。

 

 

「なんせそこにいる小娘はエースと血の繋がった───あの海賊王ゴールド・ロジャーの娘なんだからな!!!」

 

 

 血の気が一気に引くのが分かった。

 

 ───ルフィなら、構わないと思っていた。

 エースや私を出自関係なく慕ってくれた彼ならば、たとえ全世界にバレたとしても構わないと。

 でもルフィはそんな出自のことなんてどうでも良いと言ってくれた。だから安心し切っていたのだ。

 

 けれど、突如現れた黒髭による悪意ある暴露に心がついていかない。

  

 周囲が騒めき、一瞬にして私を見る目が変わる。

 あまりにも恐ろしくて、周りの感情を察知しないよう咄嗟に見聞色の覇気を抑えてしまう。

 

 一度覚悟はしていたはずなのに、いざ晒されると怖くて途方に暮れる。

 

 どうしよう。

 怖い。

 顔が上げられない。

 身体が動かない。

 

「『英雄』と持て囃されて世界中を騙すのはどんな気分だった!?しかも血の繋がった、たった一人の家族をその手で殺すと来たもんだ!流石は海賊王の娘!血も涙もねえ、出世欲に目の眩んだトンデモねえ女だよ!!」

 

 黒髭の声が頭から降り掛かり、肩が震える。

 

 けれど、これも自業自得だと思った。

 出世のために殺すわけではないけれど、黒髭の話しているのは大方事実だ。

 世界中の人を騙していたのも、たった一人の家族を殺そうとしているのも事実だから。

 

「どうだ親父!俺に構ってる暇があるなら、先にそこの卑怯者を殺るべきなんじゃねえか!?海軍もそうだろ!存在してはならない子供がいるんだ!嘘の正義を語るコイツをここで始末しておいた方が良いんじゃねえか!?」

 

 存在してはならない子供。

 彼の言う通り、こうなってしまえば私は殺される。

 白髭の海賊からも海軍の人達からも。

 

 そっと辺りを見渡せば、海賊も海兵も茫然と私を見つめていた。

 そしてその中で唯一、こちらに真っ直ぐ向かってくる影がある。

 

 ───サカズキさんだ。

 

 帽子のツバで表情は分からないが、身体のマグマを滾らせながら私の方へやって来る。そんなサカズキさんにいよいよ始末されると理解した。

 

(………………そうだよね。そりゃ、殺すよね。サカズキさんなら)

 

 あれだけ世話になっておいて、裏切ったのだ。

 それを思えば彼自身の手で私を始末しようとするだろう。

 逃げようかとも思ったが、もうする気も起きない。

 

 サカズキさんが近くまでやって来て、マグマを滾らせた拳を振り被った。

 ぐっと目を瞑り、衝撃と熱に備える。

 

 怖い。本当に死ぬんだ。

 でも、自業自得だから。

 

「───アン!!!」

 

 エースの叫び声が聞こえる。

 熱をすぐそばまで感じる。

 

 しかし、衝撃はいつまで経っても来なかった。

 同時に蛙が潰れたような断末魔が耳に飛び込んでくる。

 

「……………?」

 

 おそるおそる目を開けば、サカズキさんは目の前にいなかった。

 見れば彼は私に背を向けており、拳から放たれたであろうマグマは黒髭の腕に当たったらしく奴を燃やしていた。

 

「グアアアアアッ!!赤犬!!ちげえだろ!?俺じゃねえだろ!!?」

 

 マグマによって失った右腕に苦悶し絶叫をあげる黒髭にサカズキさんは何も言わない。正義と書かれた真っ白なコートが靡くだけである。

 

「あの、サカズキさん………?」

 

 何が何やら分からなくて立ち尽くしていると、サカズキさんは再びマグマを滾らせる。

 そして凄まじい熱を放ちながら、彼はそのまま黒髭海賊団に向かって飛んで行った。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。