海賊王の子供による海兵譚   作:ふくふくまる

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第38話 最後の闘い(一部第三者視点)

 

 

 時を遡って、黒髭によりアンの出自が明かされた直後。

 あまりの恐怖から意図的にアンが見聞色の覇気を抑えた同時刻。エースの側に忍び寄る一つの影があった。

 

 男は赤犬のマグマによって灯した火を蝋で燃やして手枷の氷を溶かす。

 そして蝋の鍵で開錠させた。

 

「───アンタ、何者だ?ルフィの仲間か?」

「仲間なものか。亡き同胞の弔いのためにやっただけに過ぎん」

「………そうか。ありがとう」

 

 自由の身になった途端、エースはぶわりと燃え上がる。

 3の形をした奇妙な髪型の男は足早に去っていき、代わりに切羽詰まった表情のアンが弾丸のように飛んできた。

 

「アン、お前と闘うことになるとはな」

「そうだね」

 

 武装色の覇気で黒く染め上げた愛刀を構え、凄まじい殺気を放つアンにエースは苦笑する。

 

 本人は気付いていないかもしれないが、覇王色の覇気を放っていた。身体中から黒い稲妻を瞬かせながら迫るアンに乾いた笑みが浮かぶ。

 無理矢理連れて海軍から逃がそうと思ったが、この様子だと難しいだろう。

 

 自由となったエースに周囲の海賊達が「早く逃げろ」と叫ぶ。

 そして同時にアンの刀が襲いかかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 サカズキさんの言葉に背を押されるようにエースに向かう。

 いつの間にか自由の身となったエースの炎は熱く、今にも焼け爛れそうではあるけれど、身体や刀に武装色の覇気を纏いながら応戦する。

 

 きっと私は、許されたわけではない。

 海賊王の娘であることが明かされたのだ。エースの処刑が終わったら私も海軍から何らかの沙汰が下されるだろう。

 

(それでいい。元々エースを殺したら私も死ぬつもりだったから)

 

 けれど、まるで許されたような気持ちになってしまう。

 今から家族を殺し、その後処罰されるかもしれないのに。海賊王の娘であるのに「それでも良い」とサカズキさんが認めてくれたように思えてしまった。

 

 そして全身炎となってマリンフォードから逃げようとするエースを捕える。

 彼の首に向かって刃を下ろそうとした瞬間、白髭の海賊に妨害されてしまったが、それを一人の海兵が受け止めた。

 

「モモンガ中将!」

「アン、ここは私が抑える!早く仕留めろ!!」

 

 突如現れたモモンガ中将が海賊達の相手を引き受けてくれる。周りを見れば他海兵達も白髭の海賊に応戦していた。

 その中にはかつて幼い私の修行を見てくれた人達もたくさんいる。

 

 するとその時、目にも止まらぬ速さ──剃でエースに飛び込んできた赤毛の女海兵が現れた。

 

「イスカ少尉!」

「エース貴様!!アン大佐が今までどんな思いで海兵として働き、処刑の役目を背負ったか!!腹を切って詫びろ!!」

「イスカ少尉!?」

 

 しかしエースはそれをするりとかわし(「イスカごめん!」と叫んでいた)湾岸で待機する船に向かって走り出す。

 

 ───そうはさせない!

 

「アン!!」

「絶対に逃がさない!!」

 

 エースを武装色の覇気を纏った腕で捕らえ、そのまま首に向かって刀を振るう。が、間一髪のところで避け、エースは自身から無数の火の弾を放った。

 

「火銃!!」

 

 それを避け、間合いを詰める。

 しかし次の瞬間、エースは爆発的に燃え上がった。武装色の覇気を纏っていても爛れそうな熱と放出される火の威力に弾かれる。

 

(ロギア系は面倒だな)

 

 唯一燃えていないエースの髪を咄嗟に掴み上げ、彼の頭を地面に叩き付けた。

 するとエースは地面に伏したまま、戦場に火の海を浮かべる。直後嫌な予感がして退けば、火の海から巨大な火柱が上がった。

 

(直接トドメをさすのは難しいか)

 

 見聞色の覇気を最大まで研ぎ澄ませてみるが、エースに隙はなく広範囲に燃え上がる彼には死角もない。

 逃亡を阻止することは辛うじて出来るものの、白髭が放つ衝撃波やガープさんの技のような強大な一撃でないと討つことはできないだろう。

 

「お前、本気で俺を殺すつもりなんだな」

「うん」

「俺達は………あの男の血が流れてるんだぞ。海軍側にいて無事で済むわけないだろ」

 

 その言葉に苦笑する。

 彼を処刑したら私も死ぬつもりだ。だからある意味この後のことなんて考えなくても良い。

 

 それにたとえ鬼の血が流れていようと、それが海軍を裏切る理由にはならないから。

 

「この血のせいで、きっと私に裏切られたと思う市民は多くいると思う。私なんかに助けてもらいたくなかったとか、殺せば良かったなんて思う人もきっといる。…………でも、もう良いの」

「アン」

「海兵はそういう人達を含め、救わなければならない。理不尽な目に遭っても、辛くても。その先に平和があるのなら、自分の正義に反しないのなら………誰かが助けを求めているなら、どんな敵からも逃げちゃ駄目だと思う」

 

 私に対してエースが「頑固者」とぼやく。

 

 あと少し。あと少しだけ成長しなければならない。

 その時、ぐるりと身体の中で覇気が流転するような感覚がした。今まで感じたことのない覇気のエネルギーが身体の中で燻り続ける。

 

(………───そういえば、ガープさん言ってたっけ)

 

 覇気使いの、特に選ばれた者達は武装色ではなく覇王色の覇気を放出し技に昇華すると。ガープさんの『拳骨衝突(ギャラクシー・インパクト)』しかり、実父である海賊王の『神避(かむさり)』しかり。

 

(『神避(かむさり)』なら使い方を知ってる)

 

 最大限まで極めた覇王色の覇気を剣にまとい、敵に振るったタイミングで覇気を放出する斬撃。

 映像電伝虫に遺されたゴールド・ロジャーの戦闘記録でこの技を見た時、そもそも覇王色の覇気が使えない私には無縁の話だと思った。

 

 けれどもし誤って似たような技を使ってしまったら、余計に海軍から目を付けられてしまうかもしれない。

 そんな思いで間違っても同じような技を使わないよう、戦闘記録を何度も確認し研究してきたのだ。

 

 ───だからこそ、分かってしまう。

 覇王色の覇気をどのように武器に纏わせ、どのタイミングで放てば良いかを。

 

 ふと顔を上げれば、火柱で集めた炎を巨大な球体状にして掲げるエースの姿があった。

 まるで手の中に太陽があるみたい。

 

 それを見た白髭の海賊達が「巻き込まれるぞ!」と言って蜘蛛の子を散らすように逃げていく。おそらく、それ程までの大技なんだろう。

 

「アン、俺はここで逃げる。これを喰らいたくなかったら、お前も一緒に『逃げる』と言ってくれ」

「……………私は逃げないよ」

 

 私の身体に黒い稲妻のような覇気が流れる。きっとこれは覇王色の覇気だ。私には到底使えないと思っていたものの、海賊王の血が流れているためか素質はあるようだった。

 

 覇王色の覇気を刀に纏わせる。

 黒く染まった刀身から無数の稲妻が弾ける。

 身体中の血潮が沸騰するように煮えくり返り、視界には太陽を掲げるエースしか見えない。

 

 実戦で使うのは初めてだけれど、何故かやれる(・・・)という自負と高揚感が湧き上がった。

 

(海賊王の技を使ったら、彼の脅威に怯えていた人達は嫌な気持ちになるかな。………───いや)

 

 この技をもって『大海賊時代』を終わらせる。

 

 エースが動く。

 掲げていた太陽が迫る。

 

 身体中のエネルギーを刀に込める。

 愛刀の刀身が黒い稲妻で爆発するかのように瞬く。

 

 

「─────炎帝!!」

 

「─────神避(かむさり)!!」

 

 

 太陽と黒い稲妻を纏った斬撃が直撃する。

 信じられない程の熱の塊を切り裂くが、同時に身体が蒸発していくような感覚がした。

 

 瓦礫は粉々に崩れ、地面は海面が見える程に割れていく。

 凄まじい轟音に鼓膜は破れ何も聞こえない。

 

 その時、ふと走馬灯のようなものが脳裏を過った。

 

 うまく付き合えなかった幼い頃のエース。

 ダダンさんや山賊達とのコルボ山での暮らし。

 子犬のように明るいルフィと長閑なフーシャ村との交流。

 ガープさんに連れて行かれたマリンフォードではいつまで経っても慣れなかったけど、それでも世話を焼いてくれた海軍の人達。

 そして私を慕ってくれたイスカ少尉や部下の海兵。

 

 出自は最悪だったけれど、出会う人には恵まれていた。

 良い人生だったと胸を張って言える。

 

「ああああああああッ!!!」

 

 最後の最後で力を振り絞り、研ぎ澄ませた覇王色の覇気を刀に纏わせ叩き斬る。

 灼熱の太陽が真っ二つに割れる。

 そして足場が崩れた。

 

 同時に力が抜けていき、月歩で地上に戻る気力も湧かない。

 ふと横を見ればエースも力尽きたのか、瓦礫と共に地面の割れ目に吸い込まれていく姿が目に入った。

 

(……………相打ちか)

 

 私も割れた地面の、深い闇にゆっくりと落ちていく。

 頭はぼんやりとし、身体の感覚はもうない。

 海面がどんどん迫ってくる。

 

 そのまま私は目を覚ますことなく、海に沈んだ。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 微睡む意識の中、ふと気が付けば私は一面真っ白な空間にいた。

 

 戦争をしていたはずなのに、と思うこともなく、ただぼんやりと辺りを見渡すと、少し離れた場所に熊のような巨体の男とエースが立っていた。

 

 立派な髭に黒いざんばら髪。そして血のように真っ赤なコートを羽織った大男だ。

 その男にエースは頭をワシワシと楽しげに撫でられている。

 エースは嫌そうに手で振り払っているが、それでも子犬と遊ぶように男が撫でるから「助けなきゃ」と走り出した。

 

 しかし後ろからちょん、と触れられて動きが止まる。

 振り返ってみれば、そこには長い金髪の女性がいた。

 

 誰だろう。

 

 気付けばエースも私の隣に並んでいて、熊のような男は目を細めて私達を眺めていた。

 

 そして女性は両手を広げて、私とエースの首に腕を回した。されるがまま抱きしめられた私達は呆然と立ち尽くしてしまう。

 そんな私達に女性は囁いた。

 

 ────生まれてきてくれて、ありがとう。

 

 その優しい声に何故だか分からないが泣きそうになる。

 ずっと言われたかった言葉を言われたようで胸が痛い。

 

 女性の体温が温かくて、心地よくて、もう離れたくない。

 

 そう思っていると、後ろからガシリと首根っこを掴まれた。

 雰囲気も何もかも台無しにする暴挙に「え」と驚けば、熊男………もといゴールド・ロジャーがにんまりと笑う。隣のエースは小脇に抱えられ暴れていた。

 

 父は私達をべしゃりと地面に落とす。

 そして私を指差して悪戯っ子のように笑った。

 

 ────俺の神避はあんなもんじゃねえぞ。

 

 だから何だと言うんだ。

 女性、もとい母との再会に浸っていたのに。

 エースなんかは今にも掴みかかりそうだし、母もいつの間にか父の隣に立っていて彼の背中をべしッと叩いていた。

 

 すると次の瞬間、急激な眠気に襲われる。

 私もエースも目を開けられなくて倒れ伏してしまう。

 

 ────ここに来るのはまだ早えよ。

 

 不意に父の声が聞こえた。

 

 ここで何が起き、誰と再会したのかも忘れていく。

 

 そして、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

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