エースと私は基本的に性格が合わない。
無鉄砲なところはあれど勇敢なエースと、事なかれ主義で長いものには巻かれる自分。
とはいえこちらは人生2回目の転生者であり、相手は10歳の子供。
元大人としてエースに合わせたり世話を焼いたり、彼の喧嘩っ早さが落ち着くよう、やんわりと導こうとしていたものの………それは全く上手くいかなかった。
本能的に「コイツは駄目だ。根本的に合わねえ」とでも思われているのか。
今世の双子の弟──エースとは、血の繋がった姉弟と思えないほど冷めた関係を築いていた。
◇
そんな私だけれど、やっぱり彼が10歳の子供である限り完全に距離を置くことはできない。
この過酷なコルボ山で暮らしているものだから流石に普通の子供にするような心配はしていないが、彼が怪我をした時はなるべく手当てし付き添うようにしていた。
「───で、一方的にやられたの?」
コルボ山近隣にはフーシャ村以外にも町がある。
そこの酒場かどこかで荒くれ者達の世間話をこっそり聞いてしまったそうだ。
「もしあの海賊王に身内がいたら、悪魔の化身に違いない」と。
ダダンさんの根城で腕に怪我をしたエースを無理矢理手当していると、彼はそっぽを向きながらぼやく。
「やられてねえよ。この傷だってかすり傷だ」
「私達のバックにあのダダンさんがいるから、大事にはなんないだろうけど………。一々カッカしてたらキリがないよ」
海賊王の子供については、この大海賊時代でまことしやかに噂されていた。
海軍が正式に『存在しない』と表明しているものの、私達が産まれる前に大規模な調査をしたことから信憑性は増し、話の種として度々話題となるのだ。
海賊王の子供は、鬼の子。
生まれてきてはならない存在。
口さがのない者達の言葉は私の耳にも入った。
「…………お前は悔しくねえのかよ」
そしてそれは、エースの心を確実に傷付けてきた。
正直私はそれよりも、海賊王の子供だと疑われた無関係な命が消えていった事実に心が痛む。そんな所業を行った海軍に入るのだから、救いようはないけれど。
「私達のことを知らない人に言われても何とも思わないよ」
「…………アイツら、海賊王の子供がいたら殺すべきだって」
「それは、」
エースはたまに、自身の存在の意義について問うことがある。「俺は生まれてきて良かったのか」と聞いてくるのだ。
「それは、極論すぎるよ。親の罪を子供が背負うなんてあってはならないし、私は生きていても良いと思う。そもそも、そこに良いとか悪いとか無いでしょう?」
昔からエースに問われるたびに、私はそう返してきた。
「それに、私はエースがいてくれて良かったって思うよ」
「……………そんなわけねえだろ。お前は俺なんかいなくてもやっていける」
しかしこれが、エースに響いているという実感は全くない。
私が彼にとって信用ならないというのもあるだろうけど、結局同じ海賊王の子供として生まれたのだ。
ただの『傷の舐め合い』だと思われているのかもしれない。
◇
エースには、自分とは正反対の双子の姉がいた。
ポートガス・D・アン。
生まれも育った環境も同じだというのに、大人達の前で行儀良く振る舞い、不自然なほど物分かりの良い子供。
そんな彼女が弟であるエースを気にかけ、親切にしてくれているというのは分かっていた。時に慰め、自分の存在を肯定し、必要としているとまで言ってくれるのだ。
しかし本当はそうではないのを、エースは幼いながらひしひしと感じていた。
出自の理不尽さに折り合いをつけ、大人みたいに感情をコントロールするアン。
彼女は自分なんていなくても生きていけるだろう。周りの環境に適応し、正しく立ち振る舞い、器用に生き抜く様を容易に想像することができた。
自分とは違い過ぎる姉の存在が、よりエースを孤独にさせる。
血を分けた双子であるというにも関わらず、アンとエースは互いに、どこまでも、分かり合うことはできないでいた。
実際に双子の兄弟が転生者ならば気味が悪いだろうなと思い……