海賊王の子供による海兵譚   作:ふくふくまる

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終章
第40話 これから①


 

 

 目を覚ますと煙草焼けしたクリーム色の天井が映った。

 首からお腹にかけて引き攣るような痛みを感じ、起き上がろうとしても体が動かない。

 ふと視線を横にやれば、傍らに黒髪ボブの女性が煙草を吹かして窓の外をぼんやりと見ていた。

 

(誰だろう………)

 

 そしてその女性とは反対側の隣にも気配を感じ、首だけ動かして見てみれば、そこには包帯とガーゼに包まれたエースが横たわっていた。

 

 生きてる。

 

 それに何故か堪らなくなって涙が出そうになる。

 

 すると、そんな私に女性が気付いた。

 

「あら、目を覚ましたのね。私はシャクヤク。シャッキーって呼んでちょうだい」

 

 シャッキーさん。

 海軍関係者の人だろうかと思ったが、こんな人はいなかった気がする。

 不思議そうにしているとシャッキーさんはくすりと笑って口を開いた。

 

「海軍と白髭の戦争からもう一ヶ月経っているわ。あの戦争でうちのレイさんがハチ──魚人の坊やに頼んで様子を見に行かせたの。そしたら海に貴女とそこのエースちゃんが落ちてきたものだから、ここまで連れて来たってわけ」

「あの、ここは………?」

「ここはシャボンディ諸島13番GRにある酒場『シャッキー'S ぼったくりBAR』よ。ようこそ、海賊王の双子ちゃん」

 

 彼女の様子を見るに敵意は感じられない。

 見聞色の覇気で見ても、シャッキーさんからは純粋な善意しか感じられず、だからこそ何故自分達を助けたのか理解できなかった。

 

 そこでふと気付く。

 シャッキーさんの言う『レイさん』という人物に。

 シャボンディ諸島にいるレイさんは、もしかして私も会ったことがある人じゃないだろうか。

 

 その時、部屋の扉がガチャリと開いた。

 見るとそこには、頭に思い浮かべていた人が現れる。

 

「やあ、起きたか」

 

 白髪に眼鏡をかけた老人──以前、私がシャボンディ諸島で出会ったおじいさんと、その後ろにはタコの魚人らしき男が控えている。

 おそらく彼らがシャッキーさんの言うレイさんとハチさんなんだろう。ハチさんも「起きたか!」と安堵した様子で私を見ていた。

 

 段々と思考が覚醒していき、動かないと思っていた体も少しずつなら動かせると分かる。

 ゆっくりと上体を起こせばシャッキーさんが「無理しちゃ駄目よ」と慌てて止めたが、首を振った。

 

 そして集まった三人に頭を下げる。

 

「理由は分かりませんが………助けていただき、ありがとうございます。ですが、貴方達は一体………」

「私はシルバーズ・レイリー。ここではコーティング屋のレイさんで通っているが───かつて君達の父親と旅をした老兵だよ」

 

 『冥王』シルバーズ・レイリー。

 海賊王の右腕と呼ばれた名の知れた海賊。実父の相棒だった男を前に、私は思わず言葉を失ったのと「ああ、これは助けたんじゃなくて自分の手で私を殺したかったのか」と納得してしまった。 

 

「私を、その手で殺すつもりですか?」

「いや?何故そう思う」

「…………実の父親の意思を受け継がず、自分の身可愛さに海軍に下った私なんて『海賊王の右腕』の貴方からすれば卑怯極まりないでしょう。それに、私は海賊であるエースを殺そうとしましたから」

 

 父親に似ているエースに、かつての相棒の姿を重ねているんじゃないだろうか。そんな彼を殺そうとした裏切り者の私を殺そうとしてもおかしくない。

 

 すると冥王はゆっくりとベッドに近付き、私に手を伸ばす。そして何故か私の頭をぐしゃぐしゃと撫でて肩を抱いた。

 

「あの………?」

「君は、本当に………。私はね、君達とロジャーが違う人間だと思っている。火拳の顔に奴の面影を見たり、君が戦争で使った奴の技を見て懐かしく思えど、決してロジャーと重ねたりはしない」

「………………」

「だから君が思うような真似はしない。ただ、そうだな。君達にロジャーを重ねたりはしないが………───やはり可愛いものなんだ。かつての相棒の子供を何とかしてやりたくて堪らない。海賊になった火拳にも、海兵になった君にもね」

 

 低くて優しい声が染み渡るような感覚がした。

 見聞色の覇気を使い探れば、敵意のかけらもない。ただ私達双子の姉弟を心から心配するような感情が向けられている。

 

 するとその時、隣のベッドがもそりと動いた。

 見ればエースがぼんやりとした様子で目を覚ましている。

 

「おお!目を覚ましたか。同じ日に目を覚ますなんて流石双子といったところか」

 

 上体を起こし辺りをきょろきょろと見渡すエースに冥王──レイリーさんが笑う。

 そしてエースはぱちんと私と目が合うと指を指しながら叫んだ。

 

「お、お前!包帯だらけじゃねえか!大丈夫なのかそれ!」

「エースにやられたんだけどね」

「いや、まあ、そうなんだが………って俺も傷だらけじゃねえか!」

 

 すごい。起きた瞬間ここまで元気に話せるエースの生命力にもう引いてしまう。こうなれば彼のことだ。すぐに回復するだろう。

 

「ん?それより誰だ?ここは?」

 

 そしてエースがレイリーさん達を見て首を傾げる。

 そんな彼に三人は吹き出した。空気が一気に和らぎ、楽しげなものとなる。

 

 何だろう。私が目を覚ました時とは違う和やかさに、エースとの格の違いを見せ付けられているようだった。

 流石、海賊。流石、元船長。集団生活にうまく溶け込む気質を持った彼に私は改めてエースの凄さを実感したのだった。

 

 

 

 ───そして後に『マリンフォード頂上戦争』と呼ばれる先の戦争で、海軍は私とエースの相打ちではあるが処刑は成功したとして『勝利』を公表したらしい。

 

 世経によると白髭はガープさんとの闘いで再起が難しい程疲弊し、傘下を含めた白髭海賊団全体の戦力を削ぐことが出来たと書かれていた。

 また私の出自を明かした黒髭は海軍側の発表だと、サカズキさんの手によって討伐されたそうだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 それから数ヶ月間、私達はレイリーさん達のもとで世話になった。

 話を詳しく聞くとハチさんは病み上がりであるにも関わらず、レイリーさんの頼みを聞き、海に沈む私達を助けてくれたらしい。

 改めて礼を言えば、どうやらルフィに大恩があるそうで「気にすんな」とゆるく返してくれた。

 

 そしてエースは数週間で(何故か)怪我を治してしまったわけだけれど、私の回復は時間がかかり長引いた。

 

 ………いや、やっぱりおかしい。

 エースの炎帝を喰らってこのくらいの傷で済んでる私のポテンシャルは凄いはずなのだが、それを上回るほどのエースの回復力に完全に霞んでしまってる。

 

 ちなみにその間、レイリーさんがアマゾン・リリーに行ってルフィの様子を見たり、ハチさんが魚人島に行ったりしたが大方長閑に過ごさせてもらった。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

「…………あのさ、何も私が回復するまで待たなくて良かったんじゃない?」

 

 変装として染めた金髪を鏡でチェックしながら、後ろでぼうと私を観察するエースに言う。

 

 私が付けたエースの傷は胸からお腹にかけてがっつりと残ってしまった。しかし私もエースに首からお腹まで火傷の跡が付けられたのでおあいこである。

 

「ルフィや白髭に会いたいんだよね?なのに自分の無事を知らせないでほしいって、レイリーさんやハチさんに言ったんだって?」

 

 シャッキーさんがこっそり教えてくれたのだ。

 

 レイリーさんはルフィと会っているし、ハチさんは白髭の関係者がよく出入りする魚人島に通っている。

 頼めばすぐに仲間と会えるというのにどういうことかと尋ねれば、エースは頬をぽりぽりとかきながら口を開いた。

 

「下手にここの居場所を知らせたらルフィや白髭の仲間が真っ先に来るだろ。それでお前と鉢合わせしてみろ。とんでもない目に遭うぞ」

 

 確かに殺されるだろう。

 エースは大きな溜め息を吐いた。

 

「…………それに、お前が心配なんだよ。今回の件で分かったけど、やっぱりおかしいぞ。逃げようっつったのに何だよ。何であそこで決意固めて自己犠牲に走るんだよ」

「そ、そうかな。でも嫌々だったけど長年海兵として勤めたからにはやっぱり市民の気持ちは裏切れないし………。そもそもやむをえない事情があるならともかく。なりたくて海賊やってるエースは犯罪者なんだから、身内の自分こそが許しても良いのかって思ったりして………」

 

 エースの顔が渋くなった。

 納得していないが言い返せないといった様子だ。

 そして彼は「まあ、それは置いておいて」と勝手に話を変える。

 

「ルフィや仲間の件だが………ビブルカードがあるからアイツらには俺の無事は伝わっている。会いに来ないのも何か理由があると察してくれてるさ」

「ビブルカード………あ」

 

 そこでふと思い出す。

 私もガープさんに自分のビブルカードを提出していることを。

 

 けれど半年間音沙汰もなく、海軍側は私(とエース)を死亡扱いにしたのだ。何故そうしたのかは分からないが、もう海軍から私に関わることはないのだろう。

 

(見逃してくれたのかな)

 

 色々とあったが、センゴクさんやガープさん、おつるさんには世話になった。そのくらいの情をもって私を自由にしてくれたのかもしれない。

 

 それに、私はもうエースを殺さなくて良い。

 海軍で正式に死亡認定されたのだ。あの処刑の場で任務を放棄する姿は見せなかったし、組織に対して義理は果たせたと思う。

 おまけにエースの今後の身の振り方にもよるが、表向き海賊王の血は絶えたのだから。

 

(自由に生きても良い、ってことかな)

 

 真相は分からないけれど、もしそうなのだとしたら頭が上がらない。

 

 勿論モンキー・D・アンとして過ごすのは無理だろうから今後は別の人間として生きるつもりだ。

 その一歩として髪の色。顔も変えたいが整形外科について何も知らないし、それは追々となるだろう。

 

 鏡に映った自分を改めて見る。

 金髪の癖っ毛。半年間で髪は伸び、パッと見、私がモンキー・D・アンだということは分からない。うん、良いんじゃないかな。

 

「その髪…………めちゃくちゃ馴染んでるな」

「うん。黒の真逆だからどうかなって思ったけど、自分でも意外と似合ってると思う」

 

 何故だろう。既視感を感じる。

 

 するとその時、部屋の扉がノックされる。

 どうぞと声をかければ、レイリーさんが現れた。

 

「ちょっと良いかな。君達の出立の日についてなんだが…………」

 

 そして彼は何故か私を見て固まる。

 

 何だろう。エースと顔を見合わせて首を傾げていると、レイリーさんは私とエースの顔をまじまじと見つめて大笑いしだした。

 

「ははははは!なるほど!そういうことか!ロジャーの奴、あの時の彼女に惚れたのか!」

 

 ヒイヒイ笑いながら私とエースの肩をバシバシ叩くレイリーさんは今までになく楽しそうだった。

 

 

 

 

 

 




次回で完結となります。
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