海賊王の子供による海兵譚   作:ふくふくまる

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第5話 見聞色の覇気

 

 

 最近、隣山を拠点とする山賊──ヒグマ達一味の活動が活発化しているらしい。

 

 奴らはコルボ山にまで活動範囲を広げており、賞金首としてビンゴブック入りしたことから調子に乗っているそうだ(ダダンさん談)

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「…………あれ」

 

 その荒々しい人間の集団の気配を感知したのは、ちょうど村長さんの授業を終え、コルボ山に帰る道中のことであった。

 

 生まれつきか、それともコルボ山という過酷な環境で育った影響か。

 

 昔から視界に入れずとも人や動物の気配がぼんやりと把握できるのだが、ダダンさん達一味ではない、野生の獣のような人間の気配にゾッと背筋が凍る。

 同時に禍々しく、強すぎる人の気配にズキズキと頭が痛んだ。

 

 そしてその気配がマキノさんの酒場へ向かうのに気付き、思わず立ち止まる。

 

(これ、もしかしなくても、やばいよね?気配からして堅気じゃない感じの集団だし、それに、マキノさんは女性だし………)

 

 この世界の、この時代の女性が無法者達からどんな目に遭うか嫌でも想像できてしまう。

 それを考えた瞬間、私の体はくるりと踵を返しマキノさんの酒場へ向かって走り出していた。

 

 ───そして近道を通り、奴らよりも先に酒場まで辿り着く。

 

「マキノさん!」

 

 しかしそこにはすでに先客達がいた。

 

 赤髪海賊団の海賊達。彼らの気配に気付いたのは、酒場の扉を開くのとほぼ同時で。突然やって来た10歳の女児の姿に男達は目を丸くし、私も彼らと同じようにギョッとしている。

 

 さ、最悪だ。

 酒場にやって来るのは多分山から下りてくる無法者だろうし、ここで海賊とバッティングしたら乱闘騒ぎになるかもしれない。

 

「あら、アンちゃんじゃない。こんな所まで珍しいわね」

「どうしたんだよ。そんなに焦って」

「ええと、その、何というか…………」

 

 カウンターにはマキノさんとルフィもおり、首を傾げていた。

 正直何の考えもないまま来てしまったため、どう説明をしようかと口籠ってしまう。

 

「急にすみません。変な集団が酒場に向かっているのを見て、マキノさんに伝えた方が良いと………」

「え?」

「もしかしたらトラブルが起こるかもしれないと思って………」

 

 もごもごと話す私にマキノさんが怪訝そうな顔をする。

 ルフィの隣にはシャンクスさんもいて、彼のその視線にますます居心地が悪くなった。

 

 ───するとその時、荒々しい気配が店のすぐ前まで来ているのに気付いた。

 

「ルフィ、ちょっとごめんね」

「ん?何だ?」

 

 とりあえずルフィの手を取り、マキノさんのいるカウンターの裏に身を隠す。

 

 そして、それと同時に酒場の扉が勢いよく開いた。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

「嬢ちゃんは見聞色の覇気が使えんのか?」

「見聞色の覇気?」

 

 酒場にやって来た無法者達──ヒグマ一味が暴れ去った後、マキノさんとともに割れた瓶などを片付けていると、シャンクスさんが聞いてきた。

 

 シャンクスさんはあのヒグマに頭から酒瓶を叩きつけられたというのに、笑ってやり過ごしたのだ。

 

 てっきり乱闘騒ぎが起こると思っていたが、そうなることもなく場が収まりほっと安堵する。

 ルフィが『ゴムゴムの実』という悪魔の実を食べてしまったこと以外、うん、丸く収まったはずだ。た、多分。

 

 そんなシャンクスさんに首を傾げると、黒髪を一つ結びにした鋭い眼光の男の人が口を開く。

 

「見聞色の覇気っていうのは、相手の気配を感じることのできる力さ。他にも覇王色や武装色ってのがあるがな」

 

 男の人──ベックマンさんの話によると、人には潜在的に『覇気』というものを備えており、見聞色の覇気は相手の気配や、感情、果ては未来をも先読みすることのできる力らしい。

 ───所謂、特殊能力というやつだろうか。

 

「山賊達が店に入る前に気付いただろ?」

「そういや、ルフィと一緒にカウンターに隠れていたな」

 

 彼らの言葉にどうしたものかと思案する。

 ふとマキノさんの方を見れば、初めてそんな話を聞いたとでも言うような顔をしていた。

 

 自分に見聞色の覇気が使えているのか、はっきりとは分からない。気配に敏感なだけかもしれないし。

 

「耳が良いだけなんです。店の外から声が聞こえたし……。それよりもシャンクスさん、お酒で濡れて風邪ひかないですか?船でシャワー浴びてきた方が良いですよ」

「ん?ああ、そうだな」

 

 分かりやすく話を変えれば、シャンクスさんは思い出したように自身のシャツを摘んだ。

 そして何故か私に向かって興味深そうに見つめてくる。

 

「な、何でしょう」

「いやあ、話してくれるようになったと思ってな」

 

 確かに、今まで私はシャンクスさん、いや赤髪海賊団の海賊達とはあまり話さないようにしていた。

 

 けれど今回、ヒグマ達の横暴にも笑って流すほどの懐の広さを目の当たりにしたのだ。

 ルフィはそんなシャンクスさんに怒ってどこか行ってしまったけれど、彼らへのイメージは自然と良くなる。海賊であることには変わりないため、警戒は解けないが。

 

「だが嬢ちゃん。どんなに良い奴だと思っても、海賊には気を許さない方が良いぜ」

 

 シャンクスさんもそう思ったのか私に釘を刺す。

 

 それにおそるおそる頷けば「ま、嬢ちゃんはしっかりしてそうだし大丈夫か!」とからりと笑われた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「ルフィ、この間悪魔の実を食べちゃったけど、本当に大丈夫なの?」

「ああ、平気さ!それに見てみろよ!こんなに体が伸びるんだぜ?すっげー面白くねえか!?」

「ワア………」

 

 ───後日。

 シャンクスさんの所有していた悪魔の実『ゴムゴムの実』を食べてしまったルフィが心配になり、私は彼のもとへ訪れた。

 

 しかし予想に反して、ルフィは現状を楽しんでいるようで。びよーんと伸びるルフィのほっぺに思わず気が遠くなる。

 

 まあ、ルフィが良いなら良いのだけど………。

 

 悪魔の実に、ゴム人間に、海賊に、『覇気』とかいう能力。

 

 ここって紛うことなきファンタジーの世界なんだな、と改めて実感したのだった。

 

 

 

 

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