目を覚ましてから、私の見聞色の覇気は大きく変わっていた。
人の気配はもちろん、上空を飛ぶ鳥や森に生きる小さな動物達の気配まで、今まで意識的に感知しなければ感じ取れなかった気配が自動で感じ取れるようになったのだ。
おまけに気配だけでなく、人の感情までもぼんやりと読み取れてしまう。
そのため慢性的に頭はキリキリと強く痛み、常に調子が悪くなってしまった。
『大方、お頭の覇気に当てられたんだろう』
そう推測するのはベックマンさんだった。
近海の主に向けられた覇気を、私が見聞色の覇気で感知していたがために当てられてしまったとのことらしい。
見聞色の覇気を抑えるコツなど教わったが………残念なことに彼らが拠点を変えフーシャ村を出る日までに、うまくコントロールすることはできなかった。
先天的に見聞色の覇気を身に付けているのに、自分のキャパを超えた途端コントロール不全になるセンスの無さ。そんな私に赤髪海賊団の人達が微妙な顔をしていたのが忘れられない。
そして、長期的な訓練を必要とする覇気のコントロールをどうにかすべく、とりあえずその旨と、またルフィがゴム人間になってしまったという手紙をガープさんに出しておいた。
◇
ダダンさんの根城で一人伏していると、エースがやって来た。
見聞色の覇気の暴走でダウンしているところ、エースがそんな私を一瞥して口を開く。
「おい、平気なのか?」
床に適当に敷いたブランケットの上でごろりと寝返りを打てば、エースがむすっとした顔で立っている。
エースには『覇気』の説明とともに、私がこうなったわけをすでに話していた。半信半疑で、どこまで信じてくれているかは分からない。けれどこうして心配してくれるあたり、全てを疑っているわけではないのだろう。
というか、珍しい。あのエースが私の心配なんて。
上体を起こせば、エースが私の横にどかりと座る。
「お前、海賊の奴らにやられたんだよな?」
「いや、あの人達のせいというか。不可抗力でこうなっただけだよ」
「でも海賊の殺気に当てられて倒れたんじゃねえのか?」
「殺気………」
覇気と殺気が似て非なるものであることは何となく分かるが、最近覇気を知ったばかりの私にそこら辺の微妙な違いを10歳の子供相手に説明するのは難しい。私だって理解しきれていないのだ。
とりあえず彼らのせいではないと誤解を解けば、エースは「ふうん」とだけ言って興味を失ったようにそっぽを向いた。
まあ、一応心配してくれているんだよね。エースの感情から、私を心配してくれる気持ちがぼんやりと伝わってくる。
将来海兵になる私にあまり良く思っていないのは確かだ。
しかし血の分けた双子であるということから、情があるのも事実なのだろう。
「でもやっぱり海賊の人達と進んで関わるのは良くないね。覇気とかよく分からないし、普通に関わっているだけで危険なことに巻き込まれそう」
「…………」
「エースもこれから海賊の人達と関わらない方が良いよ。何というかさ、同じ人間だけど別の世界を生きている感じがあって少し近寄り難いし」
とは言え、自分達の生物学上の父親は『海賊王』であるが。しかしきっとエースも私と同じく『海賊』に対して良い印象を持ってないだろう。
普段中々近寄ってきてくれない双子の弟との話を盛り上げようと呑気にそう言ってみせれば、何故かエースは何とも言えない顔をしていた。あ、あれ?
しかしそこで、エースから発せられる感情の波が揺らいだのに気付いた。
私に対する心配やほんの少しの照れ臭さ、そして何故か何かに対する憧憬がない混ぜになっていたのだ。
…………え、ちょっと待って。
『海賊』と聞いてまだ見ぬ彼らへの羨望と焦り。
そしてそれを感じ取った瞬間、いくら鈍い私でも察してしまった。
え、待って。
エースって、海賊になりたかったりするの?