猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第9話・動きだす歯車

 

 

 

 

「ッあ゛〜⋯⋯⋯」

 

 

──ギシィッ⋯

 

 

後ろへ倒れる様に椅子に座った俺は、低く溜息を吐いた。

 

 

会議での精神的疲労に加えて、昼間の件で何故笑われていたのかを考え続けた結果、大して動いていないのに彼は疲れ切っていた。

 

 

それはもう、並のクエストよりも。

 

 

 

「⋯⋯その椅子、もうそろそろ買い替え時ですかね。」

 

 

俺に複数枚の書類を手渡してからグレイスが言った。

 

 

「ん〜⋯そうだなぁ、結構古いよなぁ、コレ。」

 

 

トントンと、肘掛けを指で叩きながら俺は渡された書類に目を通した。

 

 

サンクイラとの昼食後、会議ではパーティ編成や、各魔物に効果的な魔法、ツエンとの連携等、様々な作戦が練られた。

 

 

 

 

ツエン、というのは10あるギルドランクの中で最低ランクの冒険者の事だ。

 

 

まぁ『最低』と言ってもギルドランカーというものは簡単に言えば一つ一つがグループのようなもので、冒険者の間で組織された『チーム』みたいなやつだ。

 

 

別にギルドランクを獲得したくなければ、それも出来る。

それがフリーの冒険者達だ。

 

 

ギルドランクを獲得しないことで起こるメリットは、実力に問わず全てのクエストに赴ける事。

 

そして、クエスト成功後に受け取る報酬が若干増える事。

普通のギルドランカーはギルドに『所属』している為、報酬からダンジョンへの往復移動費だの、討伐した魔物の後処理費用だので結構取られる。

 

 

だが、無所属の場合は移動は実費だが、後処理費は掛からない。

 

というか、ギルド所属の冒険者からも普通は取られなくてもいい筈なんだがな⋯?魔物の死体は魔物が食べて処理するし。

 

 

まぁ、そこら辺はギルドが企業として成り立つ為のグレーマネーって所か。

 

 

 

 

 

 

 

デメリットは、先程の様に実力を問わずクエストを受けれる事。

自分の実力に見合った正しいクエスト選択が出来なければ、格上の魔物に殺られて終わるだけだ。

 

 

まだある。無所属の冒険者達の決定的な欠点。それは『国事に参加出来ない事』『称号を獲得出来ない事』だ。

 

 

先ず『国事』と言うのは国が発注する特別なクエストの事だ。

内容としては大規模な討伐戦、滅多に出回らない新種の魔物の討伐・捕獲とかだな。

 

新種の魔物の件に関しては、クエストを成功させた冒険者『が』所属するギルドがある国、が記事一面に載ることになる。自国アピールの絶好のチャンスって訳だ。

 

 

で、称号を獲得出来ない、というのはそのままだ。

ギルドに認められ、国に認められて称号ってのは授けられるからな。

 

 

 

 

 

 

それらを踏まえての『ギルドランク最低』。

そもそも、ギルドランク獲得にはある程度の実力がいる。ダセェ言い方をすれば『精鋭の10組』、だ。

 

 

んで、ツエンは俺を含めたゼクスたちより4つ下の階級の冒険者。

言うなれば駆け出しだな。全ての階級の中で1番人数と活気に満ちている。

 

 

 

 

 

 

今回の合同作戦はこう。

 

 

ツエンたちが前線を張り、遠距離からの攻撃魔法で足止め。

動きが停止した所を両脇から俺たちゼクスが攻撃。俺たちの攻撃開始と共にツエンも前進、魔物達を袋叩きにする。

 

数を減らしていってある程度になったら全員撤退。

あとは残党討伐としてフリーの冒険者たちにクエストが回る。

 

 

ツエンを含め、人間側の数は150(ゼクス20、ツエン130)

 

魔物はおよそ500強。

 

 

 

数だけで言ったら相手の方が圧倒的。

だが敵が『数』で来るなら、こちらは『質』で行く。

 

 

策、力、連の総力戦だ。

 

 

 

 

「⋯⋯⋯考えれば、移動時間と戦闘時間を含めると5日間もこの家を開けるのか⋯⋯グレイス頼めるか?」

 

 

「私はヴィルジール様の下僕でございます。ご命令とあらば⋯⋯」

 

 

「あ〜硬ぇ硬ぇ。なんでも命令聞くってんなら、その硬い口調何とかしてくれよ⋯⋯」

 

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」

 

 

 

あ、やべ。黙っちまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯⋯⋯あ、あ〜⋯書類ありがとな〜グレイス〜?んー?どれどれー?」

 

 

 

これは、気まずい。

適当に書類の内容でも読んで気逸らし⋯─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──⋯ん?

 

 

『銀灰竜』。以前どこかで見覚えのある文字が俺の目に飛び込んできた。

 

内容は、そいつの生息地域でガムナマールの群れが全滅した事。そして、それらの死体から僅かだかグレイドラゴン種の魔力が検出された事。

 

 

「⋯⋯⋯⋯。」

 

 

思わず見入る。

今度、討伐戦の為に向かうベルトンの街から、そう遠くない場所に位置する大森林。そこにとんでもない魔物が潜んでいる。

 

 

いや、まだ決まった訳では無い。

 

 

焦りは禁物。それに人間への被害が出ていないのなら問題はない。

生態系を破壊するレベルでも無い限り、冒険者が動くことでは無い。

 

 

魔物一体 対 魔物の群れで、群れの方が全滅するのは珍しい事だが、滅多にないという程でもない。

 

 

⋯⋯⋯⋯しかし『未だ幼体』という文章には興味をそそられる。

 

 

 

 

 

魔力を使い、書類の端に書いてある魔法陣を起動させる。

 

 

 

映し出された姿。

 

 

 

 

碧瞳に『銀灰竜』の名に恥じない銀色の皮膚、しなやかな体躯に、頭上に生える2本の角。

 

 

「なぁグレイス。」

 

 

「はい⋯⋯⋯────⋯⋯ッ!?」

 

 

ドッと、背中から冷や汗が逆上る様な感覚に襲われた。

 

 

 

 

 

自身の名を呼ばれて振り返る。

見上げて見ると、主人はその顔に幼い少年の様な無邪気な笑みを浮かべ、瞳には狂気的までの闘志の焔を宿らせていた。

 

久し振りに見る『貌』

 

 

「やっぱ⋯⋯⋯5日じゃなくて1週間開けてもいいか?少し急用が出来たみたいでな⋯⋯。」

 

 

「⋯⋯⋯はい⋯ッ。」

 

 

鼓動で心臓が痛い。

矢張、自分が対等として扱うには遠すぎる存在だと今更ながら気が付いた。

 

 

 

主人が立ち上がり、この部屋を出てから、グレイスは自分が呼吸を止めていたことに気づいた。

 

 

(怖い 怖い 怖い 怖い 怖い⋯⋯)

 

 

本能が警鐘ならしている。

 

 

()()は魔物にとっては『駄目』なやつなのだ。

 

 

 

人間の、魔物に対する闘争心を全開にしたあの貌は──⋯

 

 

 

 

 

 

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──ジュウゥゥゥゥゥ!!!

 

 

「クエエェ!!」

 

「お、落ち着け虎徹。もう直ぐ出来るから⋯⋯全く。」

 

 

興奮した様子で駆け回る虎徹を宥めながら、俺はフライパンから焼けた肉を皿へ移した。こんがり、綺麗なきつね色に焼き上がっている。我ながら中々の出来栄えだと思う。

 

 

うん、美味しそう。

 

 

手頃な大きさに切り分けて、いただき⋯⋯

 

 

「ピェッ」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」

 

 

いや、駄目だ。決して。

つい数秒前に切り分けた筈の虎徹分の肉が既に消えていたとしても、これ以上食べさせては駄目だ。上目遣いで、甘えた声出しているが、駄目だ。

 

 

やらないぞ、と目線を送ると『クェ⋯』と小さく鳴いて部屋の隅で丸くなった。⋯⋯多分、寝た⋯かな?

 

 

正直、あげたい。

出来うる限り甘やかしたい。でも、虎徹は俺の子どもでなければ、兄弟でもない。虎徹の、本当の仲間を見つけた時に出来るだけアイツが悲しまないように、そして自然界の厳しさに順応出来るように『部外者』である俺が

虎徹を甘やかしてはいけないのだ。

 

 

と言うか、それ以前の問題なんだが『肉』という食べ物をコイツに食べさせても大丈夫なのか?って話だ。

 

 

⋯だって、鶏に肉ってあげなくない?穀物とかだよな、普通。

 

 

虎徹と出会ったあの日から、食べ物は基本適当にあげていて今まで一度も体調不良であったり、栄養失調とかはなかったが⋯⋯

 

 

「⋯⋯⋯zzZ⋯⋯zzZ⋯」

 

 

免疫が強いんだか、何か特殊な胃袋でも持ってんのか、それとも他に何か⋯⋯⋯

 

 

 

 

 

 

⋯ま、そこん所は気にしなくていいか。

今まで問題無いなら、別にいいよな。

 

 

「⋯さて、昼も済ましたし⋯軽い運動でもしにいこうかね。」

 

 

首の骨を鳴らしながら、家を出る。ゆっくりと虎徹を起こさない様に。

 

 

深呼吸を1度してから、俺は歩き出す。

 

 

空高く煌めく太陽が、湖を眩しく輝かせていた──⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⋯──同じ森のそう、遠くない場所にて。

 

 

辺り一体に飛び散った血液、無惨に転がる魔物の死体。

それが、まるで道を作る様、薄暗い森の中に一直線に続いていた。

 

 

そして、その血と死体の道を辿った奥。

以前、酒場で銀灰竜の話をしていたあの3人組が歩みを進めていた。

 

 

「ケッ!なんだぁ なんだぁ!雑魚ばっかじゃねぇかよ!?」

 

「銀灰竜ーッ!!さっさと出て来やがれーッ!!」

 

 

 

片や木々を薙ぎ倒しながら、片や炎魔法で森を焼き払いながら、向かってくる魔物を種族、家族、子どもに関わらず全て皆殺しにしながら、前進する。

 

 

「おい、お前ら少し抑えろ。他の魔物に害は無いし、獲物に逃げられたら元も子もねぇだろ。⋯⋯⋯それに⋯フィールドを荒らし過ぎるとギルドの連中が黙ってねぇぞ。」

 

 

「「⋯⋯⋯⋯!!」」

 

 

(やれやれ、やっと黙ったか。)

 

 

 

 

⋯ったく、こんな野蛮コンビとなんて組みたくなかったぜ。

魔物に同情するつもりはねぇが、ギルドに目をつけられるというのは極めて面倒臭い。行動1つ1つが監視される様になるし、なにより発注できるクエストが限りなく制限されるからな。

 

 

それでも俺がこのクエストを受けた理由は2つ。1つは報酬の良さだ。

 

 

ぶっちゃけ俺は強い。冒険者の中ではそこそこ。今回のクエストでこの2人と組ませられた理由は純粋にこいつらの『護衛』。それもこいつらの親⋯⋯まぁ言えばギルドにとっての『太客』からの直接の依頼。勿論、この2人には秘密にしての、だ。

 

 

名家ってのは、自分の家系に『キズ』をつけるのを物凄く嫌う。

例え何かを切り捨ててでも、俺みたいな凡人には理解不能なプライドを守ろうとする。そこで、今回の様な事案が発生する訳だ。

 

 

名家の一員が死亡すれば『キズ』がつく。

裏で子供への信用を切り捨て、真に実力の有る物を雇う。

正直、こういった案件は結構多い。迷惑なモンだ。

 

その分、カネは入ってくるが。

 

 

 

 

2つ目は⋯⋯⋯⋯『ソソられた』から。

俺なりに例えれば性欲に近いだろうか。一目見ただけで、胸が疼く様なあの感覚。

 

 

今回の間抜けコンビ護衛クエスト。

『護衛』だけが目的なら、俺はこのクエストを絶対に受けなかった。⋯⋯だが、標的が()()銀灰竜と聞いて速攻で受注した。

 

殺意、怒り、好意、好奇心⋯これらとは少し違う感覚に襲われた。

ただ、実際に会いたいと。基本、今回の様な場合を抜いて、報酬さえ手に入ればクエスト内容はどうでもいい俺が。

 

 

初めてだった。こんな感覚は。

 

 

 

「チェッ!!退屈で仕方ねぇなぁ!!さっさと現れろ雑魚!!」

 

 

転がる魔物の死体を蹴り飛ばしながら、片方の男が叫ぶ。

見ていて気分のいいものではないが、指摘すると煩そうなので放っておく。

 

 

そんな事より厄介な事がある。

炎魔法を辺り構わずブチ撒けた阿呆がいるた為、森に炎が広がりはじめているのだ。

 

 

⋯⋯少し面倒だが、久し振りに魔法を使おう。

さっきも言ったが、ギルドに目をつけられるというのは冒険者として致命的なんでな。

 

 

 

 

 

 

激しく燃える木々に手の平を向け、呪文を唱える。

 

 

 

「⋯⋯☾ドラッヘ・オーデム(竜の吐息)。☽」

 

 

 

直後、伸ばした手の少し前。何も無かった空間に金色の魔法陣があらわれる。

 

更にその直後、魔法陣から白い塊が燃え盛る炎に向けて放出される。

 

その正体は空気。吹き荒れた突風は、数十メートルに渡って広がっていた炎を一瞬で鎮火した。

 

 

 

「山で火を扱う時は慎重に。習わなかったか?」

 

 

 

軽く睨んでから、2人より先に進む。

⋯魔法ってのは、やたら疲れるからあまり使用したくない。俺に手間をかけさせやがって。

 

あー、やだやだ。これ以上の尻拭いは御免だ。

 

 

「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」」

 

 

 

先を進む彼を後ろから見つめる2人。

その額には一筋の汗が滴っていた。

 

 

(き、金色の魔法陣だとぉ⋯!?ありえん⋯あんな雑魚装備のクセに⋯!!)

 

 

(馬鹿な⋯⋯アレは熟練した冒険者しか扱えないハズ⋯⋯オレの親父だって白色なのにアイツが⋯!?)

 

 

魔法の強度、というのは魔法陣の『色』によって段階分けされる。

基本的な魔法は、その属性の特色になる。

 

 

 

五大元素⋯⋯というものは知っているだろうか?

 

空、風、火、水、地⋯この5つがそう呼ばれている。魔法、という物の本質は、この世では有り得ない、摩訶不思議な現象を起こす事では無く、元からこの世に存在するこの5つを様々な形で『操り・発生させる』事だ。

 

 

それ以外、つまり『どの様にして操っているか』というのが、我々の住む世界にとって謎であり、こちらのモノサシ(物理法則)では測れない不思議である。

 

 

まぁ、そこはどうでもいい。

 

 

話を戻そう。

 

 

 

『基本的な魔法は、その属性の特色になる』という所。

 

例えば炎。これを発生させようとすると魔法陣は赤く、水を発生させようとすれば青く、魔法陣は発光する。

 

 

五体元素の特色にあわせて魔法陣の色は変化するのだ。

ただ、これは基本的な魔法の話。

 

 

では、炎を掻き消したあの魔法。

何故あれは金色の魔法陣だったのか?

 

 

先程の魔法の強度、というものは文字通り『魔法の強さ』であり、それによって魔法陣の色も変化するのだ。詳しい話は(物語の流れ的にまだ)お話出来ないが、彼が使った『金色』という魔法陣は、最上級の魔法である事の証である。

 

 

この世界で『魔法』という概念を生み出し、創造した先人がソレを区別する為にその様な色分けをした⋯⋯⋯と、一説では言われている。

 

 

 

 

何が言いたいか、簡潔に言おう。

 

 

『彼は強い』これ以上は、無い。

 

 

 

そして、その事実を目の当たりにした2人は、初めてこの男の実力に気が付いたのだ。⋯⋯⋯だが

 

 

 

(⋯フン、雑魚と思ってた奴が、少し特別な魔法を出しただけだ。)

 

 

(俺様の最強の装備には及ばねぇが、まぁ戦力にはなるって所か。)

 

 

 

 

 

 

 

馬鹿である。間抜けでもある。オマケに阿呆である。

 

 

実力の差も分からないから、装備に頼り切って延々と雑魚狩りをしているのである。

 

 

 

悔しいのは、それでも尚『弱者』にとっては紛れも無い脅威である事。

 

 

例えばFPSをプレイしているとして、此方はナイフ。相手はスナイパーライフルで、しかもオートエイム。ステージは障害物のない一直線状、とする。

 

 

ここで問題。

どっちが勝つでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チクタク、チクタク⋯⋯⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チーン。

 

 

 

 

 

 

⋯⋯⋯⋯まぁ、オートエイムを潜り抜けられる猛者は放置するとして『普通』は後者の方だろう。

 

 

 

 

 

 

そう、実力云々関係無く、強いのだ。

下手をすればチーター対一般人、というレベルかもしれない。

 

 

 

そして、そんな本当の実力者1人と、唯の強者2人。

 

 

 

 

 

 

 

着々と、確実に銀灰竜との距離は狭まっていた──⋯

 

 

 

 

 

 

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ある場所、ある時、深い洞窟の最も奥──⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⋯──蠢く巨大な影。

 

 

「⋯⋯⋯⋯⋯大気が、揺れた⋯」

 

 

 

低く、響く声で『それ』が言葉を発する。

 

 

 

「クククッ 面白い。暫く退屈しておった所だ。ちと、我の遊び相手になってもらおうか⋯」

 

 

 

影がゆっくりと形を変える。

それは翼、巨大な翼であった。ギラリと鈍く光ったのは鋭い牙。そして、緋色に輝く両眼。

 

 

神話や伝説で語られるような、ドラゴン。

堂々と四足で地に立つその姿はまさに『龍』と呼ぶに相応しく、神々しい雰囲気を放っている。

 

 

 

やや黒ずんだ赤色の甲殻は、まるで騎士の鎧の様な重厚感とその見た目以上の堅牢さを誇っていた。

 

 

 

──ッ⋯──ドオォォォオォォオオォォオンンンッッッ!!!!

 

 

爆音。

一瞬、赤龍のアギトに焔が見えたかと思えば、辺り一帯が()()()()、洞窟の中に佇んでいた筈のその巨躯は陽の光を浴びて、淡く輝いていた。

 

 

「ぬぅ⋯⋯ッ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯!!」

 

 

 

赤龍が軽く唸る。

この巨体が全身に力を込めたのか原因なのか、立っている箇所から稲妻の様な地割れが無数に発生する。

 

 

そして一層力んだかと思うと、赤龍の身体から大量の何かが崩れ落ちる形で大地にめり込んだ。崩れ落ちたそれは『甲殻』。それも古く、傷のついた物。

厚さ1cmはあるだろうか。

分厚い甲殻が、無数に散らばっている。

 

 

全ての古い甲殻が落ちる頃には、龍は赤い光沢を持った美しい身体へと更新されていた。

 

 

所謂、脱皮。古くなり邪魔だった物を退かしたのだ。

 

 

 

「フンッ、流石に訛っておるわ。」

 

 

 

愚痴を零しながら、身体を伸ばす。

あらかたストレッチを終えた後、その巨翼を大気に叩き付ける。

たった一度の羽ばたきで、10tは下らないであろう巨躯が上空へと浮き上がる。

 

 

その巨体からは想像できない様な動きを空中で始める赤龍。

ウォーミングアップのつもりだろう。戦闘機なんて比ではないレベルの機動力で『準備運動』をまるで見せ付けるように行う。

 

 

傍から見れば、まるで一体の巨龍が空で舞を舞っている様にも見えるだろう。一種の美も見い出せるであろう、動き振り。

 

 

一連の運動を終えて、そのまま急旋回。真っ直ぐと『獲物』に向かって加速する。

 

 

生物ながら、生物ならざる能力を遺憾無く発揮。音の速さまでものの数秒で到達する。そして発生するソニックブーム。戦闘機などが、音速の速度に迫った時、また音速と同じ、それを越える時に起きる現象。

 

 

赤龍の前方、そして両翼の後ろ辺りに白い塊が現れる。

 

 

 

 

 

 

幸いだったのは、赤龍の飛行高度が高かった事。

物体が音速に到達すると、それに伴い衝撃波が発生する。衝撃映像とかでもあるだろう。戦闘機が低空を音速で通過したあと、地上の建物のガラスが全て割れる⋯⋯といった感じの動画が。

 

 

戦闘機ですら音速を越えただけでそこまでの威力が起こる衝撃波。

 

 

もし、この赤龍が低空で音速の壁を突破したら。

答えは単純。通過した軌跡に沿って一直線にデカい道ができる。おまけに地上の生物は全滅。草木一本残らず、綺麗な道ができるのである。

 

 

多分、此方の世界にこんな生物が居たら、何らかの方法で誘き出し、低空音速越えを狙って出させ道を造り、その後塗装してあっという間に高速道路の完成である。

 

 

⋯⋯⋯⋯いや、どうだろうか?もしかしたら大地ごとめくれ上がるかもしれない。(筆者は無知です。)

 

 

 

 

まぁ、そう、赤龍が高い所を飛んでいるので地上への被害は爆音だけ、という事で済んでいるってワケだ。

 

 

 

コホン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凶悪なアギトを剥き出しにして、赤龍は嗤った。

退屈だったのだ。魔物という括りの中でも、比較的長生きな竜種。100年単位で生きている個体は珍しくない。現にこの龍もそうである。

 

 

 

(なんと久しい事よ。我の遊び道具に足り得る力を持った生き物が現れるのは⋯⋯)

 

 

 

 

 

⋯⋯しかし、この感覚⋯妙だ。もしや人間か⋯?

 

人間でここまでの魔力とは⋯⋯フフン、俄然昂ると言うものよ⋯!!!

 

 

 

 

魔物は全てとは言えないが、殆どは人間に対して本能的に敵意を持っている。強い人間を潰す事は魔物にとって、素晴らしい快感になる。

 

 

龍は嗤った。

 

 

これからは始まる、恐らく素晴らしいであろう事を思い──⋯

 

 

 

 

 

 

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「⋯⋯そう言えば。」

 

 

呟いたのは、布団の上で仰向けに寝転んだヴィルジール。

片手を頭の後ろに置いて『全魔物攻略・上』というタイトルの分厚い本を広げている。

 

 

見ていたのは竜種の科目。

勿論、先程見たグレイドラゴンの詳細な情報が書かれたページ。

 

 

開いた本をそのまま自身の胸に置く。

 

 

 

 

彼が思ったのは、昔の記憶。

 

 

 

 

 

 

「あの森の近くには『アイツ』が⋯⋯」

 

 

 

⋯⋯忘れていたな。あの龍の存在を。

 

 

何時だったか、俺が冒険者になって間も無い頃に出会った魔物──⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▶ 十数年前 ◀

 

 

 

 

 

 

「おいッ!!何だあのバケモノはッ!?」

 

「お、俺が知るかッ!!とにかく撤退だ!!急」

 

 

 

男の声を掻き消したのは爆音。

⋯⋯いや、声を掻き消した、となると語弊がある。正確には2人の冒険者ごと、業火が一瞬で灰燼に変えたのだ。

 

 

轟々と燃え盛る炎。

それを少し離れた場所から見ていた、全身を鉄製の防具て身を包んだ1人の冒険者。

 

 

 

「あ⋯⋯ぅあ⋯⋯⋯ッ⋯」

 

 

 

彼が、昔のヴィルジールである。

恐怖で足が震え、真面に呼吸も出来ない。頭の中は『絶望』の2文字で埋め尽くされていた。

 

 

 

「フン、つまらぬ。所詮、雑魚は雑魚。我が炎の前に灰となるがいい⋯⋯」

 

 

人間の自分でも理解出来る言葉を発しながら、空から舞い降りて来たのは、真っ赤な龍。

 

 

 

 

 

──死ぬ。⋯嫌だ。

 

 

 

 

 

 

────逃げたい。でも、絶対に逃げられない。

 

 

 

 

 

 

──────殺される。終わり。無理。不可能。⋯⋯無駄。

 

 

 

淡々と頭の中に言葉が湧いてくる。

 

 

 

ぼーっと炎を見ていた赤龍が此方に気付き、進んで来る。

 

 

最早、獲物してさえ見られて居ない。例えるならゴミを見るような冷徹な視線。それが真正面から全身に突き刺さる様に伝わってくる。

 

 

 

「ハァ⋯⋯⋯退屈よのぅ。世界と言うのは。」

 

 

自分に言ったのか、独り言だったのか⋯⋯

今となっては分からないが、確かに覚えているのは、その言葉を発した直後に赤龍の口から炎が溢れて火球を生成しだしたこと。

 

 

 

もう、駄目だと思った。

恥ずかしい話だが、あの瞬間に俺は死を覚悟した。⋯⋯だから、どうせならと思って赤龍に大声で言った。

 

 

 

「ぉ、お前は!!お前らは!!どうして罪もない人間を大勢殺すッ!?」

 

「⋯⋯⋯⋯?」

 

 

言葉は理解してるのだろう。火球の生成が止まった。

ただ、意味は理解していない。絶対に。目を見れば分かる、あれは『何を言っているんだ』と思っている目だ。

 

 

当たり前だ。魔物には人間を殺す事に理由なんて要らないのだから。

ただ無粋に自身の本能に従っているだけ。それだけ。

 

 

そんな事は分かっていた。

でも、この瞬間だけは思いの丈を全てぶつけたかった。

 

 

 

「俺は⋯ッ、誰かを護れる様な人間に成りたいと思って冒険者になった!!今!!俺は俺が情けない!!」

 

「⋯⋯⋯。」

 

 

興味ない、と言わんばかりに再び火球が巨大化してゆく。

 

 

 

「⋯⋯俺は貴様ら魔物を決して許さない⋯⋯やるならやるがいい!!覚悟は出来ている!!」

 

 

 

これで、いっぱいいっぱいだった。

溜めが終わったのか、火球が徐々に此方へ向かってくる。

 

 

逃げる気は更々ない。

 

 

 

赤龍の姿は巨大な火球で既に見えなくなっていたが、俺は怨嗟を込めて、真っ直ぐ前を睨みながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯⋯⋯⋯⋯絶対に、生まれ変わってでもお前を殺してみせる⋯。」

 

 

 

 

そして、俺は目を閉じて自身の『死』を待った。

 

 

 

 

 

 

──────悔いは有る。未練も有る。⋯⋯完全に俺の力不足だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────⋯⋯母さん、ごめん。俺じゃ無理だったみたい⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

──⋯⋯⋯⋯。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『お前を殺してみせる』⋯⋯カッコイイ事言うじゃねぇか小僧。」

 

 

 

突然の声に驚いて目を開く。

目にしたのは、自身と迫り来る火球の中間に仁王立ちする人。背に刀を携え、腕を組んでいる。

 

 

冒険者なのか⋯?

いやそんな事はどうでもいい。危険だ、助けなければ。

 

 

身体を動かそうとしたが思うように動かない。

自分の身体はとっくのとうに竦んで真面に動けなくなっていた。

 

 

 

 

そして、叫ぼうとした次の瞬間。

声が出るより早く、その人物は背中の刀に手を伸ばす。

 

 

刹那、抜刀。

 

 

 

 

 

 

 

 

──斬。

 

 

 

縦一閃に世界がズレた。

火球は2つに割れ、その人物と自分には被弾すること無くすり抜けていった。

 

 

 

「⋯⋯⋯ほう。やるな。」

 

 

 

感心する様に龍が言った。

 

 

 

「先に言っとくぞ。俺は強い。」

 

 

 

 

 

 

 

⋯⋯最後に俺が見たのは、刀を構えて突進するその人物と鉤爪を突き立てそれを迎え撃つ赤龍の姿だった──⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯⋯⋯⋯⋯今思えば、名前くらい聞いておくべきだったな。」

 

 

1つ呟いて、再び本を読み始める。

 

 

 

 

 

 

⋯⋯⋯あの人は男だったってのと、結局あの赤龍は生きてるって事だけが確かな事実だな。決着の行方は誰も知らない。

 

 

ただ、後日発見されたのは業火に飲まれた二人の冒険者の骨と荒れ果てた地形だった、というのは聞いている。それ以上はない。

 

 

 

声からして歳はそこまで離れていないと思ったんだが⋯『小僧』って呼ばれたしな⋯⋯

 

 

 

 

 

 

 

⋯⋯ってクソ、思い出話のせいで集中できねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴロンと寝返りをうって、文章を小さく声に出しながら読む。

 

 

 

 

 

 

 

まぁ、なんだ⋯⋯⋯⋯⋯⋯もしも生きていて、何処かで出会えたら礼でも一つ⋯⋯な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クシュッ!!」

 

 

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