猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第99話・底知れぬ力

 時は、少々(さかのぼ)る。

 魔王城にて、猛紅竜がテュラングルとの再会を果たす直前。

 幼女が、地下の資料部屋へと向かっていた時の事だった。

 

「──()()()?」

 

 片眉を吊り上げ、幼女は振り返る。

 足を止め、ぱちくりと瞬きをする幼女は、後ろにいる相手へと近寄る。

 “妙な説明”を受けた幼女は、真実の追求をするべく口を開いた。

 

「⋯⋯テュラングル、隠し事は良くないよねぇ?

 タンコブ、もう1コいっとく?」

「は、話を最後まで聞いてください。

 いいですか? 私が()にやった事というのは─⋯」

 

 

 ⋯─端的に言うなら、“力の制限”です。

 先程説明した通り、彼の口から貴女らしき存在の事を私は聞きました。

 そこで私は、彼に力を付けさせる為に自身の角を折り、喰わせたのです。

 まぁ、私の勘違いという可能性もありましたので、極僅かですが⋯⋯。

 それでも、当時の彼にとって莫大な魔力量だった事には変わりありません。

 そこで、私は与えた力の一部を“隠した”のです。

 具体的に説明しますと、【魔力式】の切断ですね。

 私が与えた力を、彼なら「放出」の様なブレス系統ではなく、「凝縮」⋯⋯つまり、“身に纏う使い方”をする筈です。

 そうなった場合、“力”の出力を見誤れば、彼の肉体は必ず負荷に耐えかねます。

 ですから私は、彼に角を喰わせた直後、魔力中毒で気を失っている隙に─⋯

 

 

「⋯─紅志(あかし)の中で生まれたばかりの、“炎系”の【魔力式】の一部を切断。

 一定以上の出力が出せない様にしたワケだ」

「その通りです、アリア様。

 弊害として、少しの間だけ炎の調整に手こずる時期はあったでしょうが⋯⋯」

「ふむ、よく理解した。

 ──ナイス判断だったね、テュラングル♪」

 

 テュラングルの頭を撫で、幼女は微笑む。

 実の所、彼女はテュラングルがそこまで考えているとは思っていなかった。

 だからこそ、既に一発のゲンコツを食らわせてしまった訳だが。

 しっかりと計算された上での行動だったと知り、早急に誤魔化そうとしてる状態なのである。

 

「いや〜ホント! 私が見込んだだけのコだよ、君は♪」

「お褒めの言葉、有難く頂戴致します。

 ⋯⋯ところでですが、“紅志”というのが彼の名前。

 “炎装”というのが彼の力の名前⋯⋯という事でよろしいですか?」

「ん? あぁ、そうそう。

 えーっと。それじゃあ、私は色々忙しいから行くね!

 久し振りだし、紅志にもあって行けば?」

 

 スタコラセッセと早足で幼女は立ち去る。

 広間の奥へと向かう彼女の背を見て、テュラングルは静かに言った。

 

「──えぇ、そのつもりです」

 

 

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「⋯⋯⋯⋯。」

 

 テュラングルは、猛紅竜に施した策を思い返していた。

 ──魔力式の切断──

 それは、“魔力の操作を根底から不可能にする”という技術である。

 そもそも、“魔法”と“魔力の操作”という2つの間には、明確な違いが存在する。

 

 魔法とは、「人間が創り出した」、「魔法陣によって」、尚且つ「体外で発動する魔力」の事。

 

 魔力の操作とは、「魔族や魔物が行う」、「体内の器官で行われる」、「魔力への干渉」の事である。

 

 この2つを端的に分けるのならば、「魔法陣の有無」だ。

 本来、魔法陣とは、魔族や魔物の“魔力変換器官”を模倣して作られている。

 形状に違いはあれど、“仕組み”自体は全く同じなのだ。

 「魔力が流れる回路」=「魔力式」があり、そこを 「魔力が流れる」事で、初めて“効果が発動する”という訳である。

 だが、「発動ごとに生成できる魔法陣」と違い、「臓器の一部」である魔力変換器官は、一度破損をすると回復するまで使用は不可能になる。

 ──そして。

 ()()()()()()()()となれば、回復をさせない様に工夫しているのは当然。

 現状の猛紅竜の炎装は、40%程の出力しか発揮出来ない様になっていた。

 

「──ハァ"ッ!!  ハァ"ッ⋯⋯!!」

 

 ⋯⋯だが、しかし。

 それ程までに力を制限されて尚、

 

 「どうだッ、ティガァッ!」

「へッ、やるじゃねえか紅志! それでこそ漢だぜ!」

 

 猛紅竜はティガから逃げ切った。

 時間にして約1時間。危うい場面こそあったものの、間合い3m以内には決してティガを入れなかったのである。

 圧倒的に格上に、様々なルールの上だった事はあるが、勝利したという事実。

 テュラングルは、思わず口角を上げていた。

(“隠した力”を解放してやる日も、そう遠くは無いか⋯⋯)

 彼が(ドラゴン)として、初めて猛紅竜を認めた瞬間であった。

 

「──よォし! 今日のトコは、もう終いだ。

 しっかり休めよ? 明日はもっと上げてくからなッ!」

「ハァッ、ハァッ⋯⋯。上等じゃねえか⋯⋯」

 

 地面に大の字で仰向けになり、猛紅竜は拳を掲げる。

 大量の汗を全身から流す彼に、テュラングルは歩み寄る。

(──出会った瞬間は眼中にすら無かった幼竜が、今やここまで力を付けているとはな)

 湧き上がる高揚を堪え、テュラングルは猛紅竜の隣に腰を下ろした。

 

「へへッ。見てたかよ、テュラングル?」

「あぁ、(しか)とな。逞しくなったものだ」

「⋯⋯! アンタ、また変わったか?」

「ふん、我も火龍の王だ。

 己が認めた者であれは、順当な評価とそれに見合った態度で応じるさ」

 

 ドラゴン、2匹。

 腹を割って話す両者は、静かに笑った。

 

「──紅志よ。お前、今回の件を終えたら、我らの住処(すみか)に来る気はないか?」

「ハッ、またまた。何を企んでんだ?」

「⋯⋯いや。お前ほどの男なら、“次代”を任せてもいいかも知れぬと思ってな」

 

 空を見上げ、テュラングルは語る。

 “新たな可能性”に目を輝かせる彼は、猛紅竜へと首を動かす。

 不思議そうな表情を浮かべる猛紅竜に対して、テュラングルは言葉を続けた。

 

「我らドラゴンは、主に下位種と上位種に分けれる。

 “竜種”と“龍種”だ。無論だが、文字だけの違いでは無いぞ?

 れっきとした、“進化による違い”が存在してるのだ」

「進化による違い」

「そうだ。分かりやすく言うなら、“より原初に近いドラゴン”が龍、“そうでない者達”が竜だ。

 まぁ、難しい話は省略しよう。

 ──ドラゴン族には、“王”という者が存在する。

 それというのは、先代の王が次代の王を“指名”する事で受け継がれてきた訳なのだが⋯⋯」

 

 テュラングルは、少々気まずそうな顔をする。

 大きな尻尾を左右に揺らし、数秒間を開けた彼が、再び口を開く──よりも早く、猛紅竜が彼へ問い掛けた。

 

「今の“王”は、アンタって事か?」

「ウム、その通りだ。そこで──」

「あぁ、待った。話が見えたぞ。

 先に言っておくが、俺は“王”になる気は無いぜ?」

「⋯⋯そうか、残念だ」

 

 先手を打たれたテュラングルは、静かに俯く。

 だが、要求を拒まれたにも関わらず、彼の表情に曇りは生まれていない。

 そんな様子が気になった猛紅竜は、テュラングルの顔を覗き込んだ。

 

「──俺はてっきり、粘られるモンだと⋯⋯」

「ハッハッ。“自分だけが特別”だとでも?

 我らの住処にも、お前に劣らぬ“次代”はいるさ」

「へぇ⋯⋯」

「それに、先の回答は予想通りさ。

 お前は、“王”には向いていない。──良い意味で、な」

「⋯⋯はは、分かるか?」

 テュラングルの言う、『良い意味』。

 それは猛紅竜という魔物の性格を踏まえた表現であった。

 “群れるのは好きではない”だが、“孤独は嫌い”といった、一見すると矛盾した様なその性格。

 しかし、目の前の猛紅竜(紅志)は、その性格が最もよく現れた事を好んでいた。

 

「──俺はさ、旅をするのが好きなんだ。

 色んな景色を観て、色んな奴と出会って、色んな経験をする⋯⋯。そんな旅が」

「知っている、好きにするがよい」

 

 テュラングルは立ち上がる。

 大きな翼をはためかせ、その場を去ろうとする彼の表情は、とても満足気なものであった。

 

「──テュラングル! 聞いておきたい事がある!」

「なんだ?」

「さっきの俺にも劣らない“次代”ってのは、どんなヤツなんだ?」

 

 巨躯が浮き始めるテュラングルは、小さく微笑む。

 故郷の地を思い出す彼の脳裏には、美しい翼を持つ幼い(ドラゴン)の姿があった。

 

「彼奴は、まだ小さく、弱く、若い。

 だが、その器量は間違いなく、次なるドラゴン族を託すに相応しいものだ」

「⋯⋯そいつの名前は?」

 

 猛紅竜の質問に、テュラングルは。

 巨翼を空気に打ち付けてから答えた。

 

 

 

 

「──バハムート」

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