猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

105 / 218
第104話・雨

 アリオンの街に、雨が降り始めた。

 大地へと落下する雨粒は、花が開く様に形を変える。

 冷たい雫に映るのは、冒険者達と謎の黒異人(コクト)の存在。

 ──戦場は、更なる変化を遂げようとしていた。

 

「ウヴォアアアァ──ッッ!!」

「「「「!!?!?」」」」

 

 冒険者達は、一斉に飛び退く。

 上空に現れた“謎の黒異人(コクト)”に、膨大な魔力の奔流を感じ取ったからだ。

 攻撃の衝撃波に備え、万全の構えを取る冒険者達。

 彼らに対し、謎の黒異人(コクト)は天を仰ぐ体勢を取る。

 直後、黒異人(コクト)は大きく開けた口から太陽の様な球体を生成。

 そして──

 

「ひッ、退()けえぇーーッッ!!」

 

 真っ先に、ヴィルジールが叫ぶ。

 攻撃に備えて距離を取った筈が、相手にとっては未だ命中範囲だという事に気付いたのである。

 ヴィルジールの咄嗟の指示により、冒険者達は即座に後方へと跳ねる。

 だが、彼らが次に地面へ足を着けるよりも早く、黒異人(コクト)が動いた。

 

「ヴァッッッ!!!」

 

 振りかぶり、そして振り下ろす様に。

 黒異人(コクト)は、生成した火球を大地へと放つ。

 まるで太陽が迫ってくるかの様な光景に、冒険者達は絶句し、硬直する。

 

 ──飲み込まれれば命はない──

 

 その事実が、唐突に突き付けられる。

 あまりに強大な力の前に、冒険者達は立ち尽くす事しかできなかった。

 ──ただ一人を除いて。

 

「結界だッッ!!」

 

 ヴィルジールは、素早く指示を飛ばす。

 しかし、落下した火球が、地面を削りながら迫って来ている現状。

 冒険者達は、暗い表情で首を横に振った。

 

「無理だ⋯⋯アレは、街に結界を張った所で──」

「違う、俺に張れっつってんだ!!」

 

 一斉に、冒険者達は顔を上げる。

 一見すると、自己憐憫が故の言葉に聞こえる、ヴィルジールの台詞。

 だがこの時、彼の周囲にいた冒険者達は、即座に言われた通りの行動を起こした。

 それは、冒険者達にヴィルジールへの絶大な信頼感があったからである。

 事実、誰一人として、“考えがあっての発言だろう”と信じて疑っていないのだから。

 

「⋯⋯考えは、あんのか?」

「ある。お前らは、俺に結界を張り続けてくれ⋯⋯!!」

 

 強い決意を目に、ヴィルジールは駆け出す。

 迫り来る巨大な火球へと、真正面から。

 

──ズズンッッ!!

 

 そして、火球の動きが鈍足化する。

 冒険者達は、再び絶句していた。

 真っ直ぐと突撃したヴィルジールが、10メートル程もある火球を受け止めていたからだ。

 

「ぐッ⋯⋯あああッッ!!」

 

 結界が張られていて尚、ヴィルジールの掌には約200℃の熱が伝わっていた。

 屈強な冒険者といえど、その熱を継続的に、そして押し当てる形で触れていれば、苦痛は相当なものだ。

 それでも、彼がその場で踏み留まり続けるのは、護りたい存在があるからである。

 

「ぬああぁぁァァ──ッッ!!」

 

 ヴィルジールは叫ぶ。

 だがそれは、痛み故の叫びではない。

 言うなれば、それは“根性”。ゼクスではなく、冒険者ではなく、男としての気迫であった。

(いけるッ! このまま着弾地点を逸らす⋯⋯!!)

 彼の努力は、無駄では無かった。

 僅かだが、確実に火球の移動方向が変化し始めたのである。

 そして、遂に──

 

「うオアアーーッッ!!!」

 

 バチン! と弾ける音と共に、火球が上空へと打ち上げられる。

 数秒後、火球は遥か彼方で炸裂。眩い光を放ち、ゆっくりと収束していった。

 ヴィルジールの勇姿に冒険者達は感嘆し、よろめく彼の身体を抱えた。

 

「よくやったぜ、ヴィルジール」

「どうって事⋯⋯ねぇ、よ⋯⋯」

 

 軽く笑って見せ、ヴィルジールは空を見上げる。

 一度攻撃を跳ね飛ばしたとはいえ、相手の黒異人(コクト)の余力は未知数。

 冒険者側も士気は大幅に上がったが、それでも戦線を保てるかは不明であった。

 

「ヴォ⋯⋯? ヴァ。ウ、ウ⋯⋯ヴァウウ」

 

 その時、上空の黒異人(コクト)が奇妙な反応を見せる。

 左右に首を傾け、疑問げな声を上げるその行動に、冒険者達の警戒は高まる。

 黒異人(コクト)のその行動が、“どうして攻撃が跳ね飛ばされたのだろう?”という疑問から来ている点については、冒険者達も知る由がない。

 だが、直後にこの黒異人(コクト)に思い浮かんだ“解答”は、冒険者達を更に追い詰める事となる。

 

「──ヴゥゥオオォォオオオァァァアッッッッ!!」

 

 “それ”は、最悪の結果であった。

 この時、黒異人(コクト)が考え付いたのは、一つ。

 その作戦に移行する為、黒異人(コクト)は地上にいた黒異種(こくいしゅ)へと手をかざした。

 次の瞬間、今まで静観する様に停止していた黒異種達が、一斉に暴れ始める。

 悲鳴にも似た声を上げ、その場でのたうち回る黒異種に対し、黒異人(コクト)は、

 

「ゴハン」

 

 と、()()()()()()を発した。

 その直後、無数にいた全ての黒異種の肉体が崩壊する。

 例えるなら、初めから砂や灰の様な小さな粒で創られていたかの様に。

 

「⋯⋯クソッタレめ!」

 

 冒険者の1人が、そんな台詞を吐き捨てる。

 ただでさえ莫大な魔力量だった黒異人(コクト)は、黒霧の様に変化した黒異種達だった物を吸収。

 その魔力量を更に底上げし、作戦の実行に移った。

 

「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯!! ()()()()()かよ!!」

 

 “普通の攻撃に対応されたなら、より高い威力の攻撃を放てばいい”。

 それが、黒異人(コクト)が考えついた作戦であった。

 それに気付いたヴィルジールは、歯を食いしばる。

 すぐさま次なる手を考えた彼は、舌打ちをしながら周囲へ指示を飛ばした。

 

「──このままじゃ全滅だ⋯⋯。撤退するぞ!!」

「「「了解ッッ!! 」」」

 

 ヴィルジールの指示を受け、冒険者達は武器を構えた。

 “撤退”という指示を受けた者達が、“攻撃”の構えを取る。

 不可思議な光景にも見えるが、冒険者達には共通した意識があった。

 それは、「一般人の避難が終了してから」というものである。

 冒険者として、一般人を退かして先に逃げる事は許される事ではない。

 それが念頭にあるからこそ、彼らは即座に武器を構えたのであった。

 

「──そこのアンタ! ギルドに行って、“増援はいらない、俺達も退避する”と伝えて来てくれ!」

「分かったわッ!!」

 

 ヴィルジールの指示に、1人の冒険者が走り出す。

 彼女を見送った後、ヴィルジール達は改めて上空の黒異人(コクト)へと目をやった。

 

「ヴォ??」

 

 刹那。ヴィルジール達の背筋に、極大の悪寒が走る。

 黒異人(コクト)の視線が、武器を構えた自分達では無く、“別の方向”へ動いていたからだ。

 その方向とは、ギルドへと走って行く、仲間の冒険者に他ならない。

 ──そしてその冒険者は、たった今、ギルドへと入っていった。

 

「ヴァアッ!!」

 

 猿が(わめ)く様に、黒異人(コクト)は片手をギルドへと向ける。

 手の先に紅い光が凝縮されていく様子を見て、ヴィルジールは思わず絶叫した。

 

「逃げろーーッッ!!!」

 

 その声が届く事は無かった。

 紅い光が、レーザーの様に街一帯を薙ぎ払い、直後に爆発。

 その一直線上にあったギルドは、跡形もなく消し飛んだ。

 住民の避難もまだ終わっておらず、彼らを誘導する仲間の冒険者や、ギルドの職員も建物内にいた。

 撤退に使う筈の転移装置までも、全てが丸々消し飛ばされてしまった。

 

「う⋯⋯く、あぁッ!!」

 

 最早、言葉になどならなかった。

 湧き上がってくる感情が、悲しみなのか怒りなのかさえ理解できぬ状況。

 冒険者達は、焼け落ちるアリオンの街を眺める事しかできなかった。

 

「もう、終わりだ⋯⋯」

 

 ヴィルジールは崩れ落ちる。

 絶望と、何より無力感が、彼を押し潰していた。

 だが、悲嘆暮れる間もなく、更なる脅威が迫る。

 

「ヴァオオオオ──ッッ!!」

 

 黒異人(コクト)は、先程よりも巨大な火球を生成。

 大きく振りかぶり、そして──

 

 

 

 

 

 

「──ヴィルジール様ッッ!!」

 

 その時だった。

 聞き馴染みのある声に、ヴィルジールは振り向く。

 そこには、全身が傷と(すす)だらけのグレイスの姿があった。

 彼女は、背後に“謎の魔導具”を引きずっており、酷く疲労している様子。

 そんな彼女を見て、ヴィルジールは思わず怒鳴った。

 

「な、なんで逃げてねぇんだよ、グレイス!?」

「そんなの!! 決まってるじゃないですかッ!!」

「何ィ!?」

「私は! 貴方の! 下僕なんですッッ!!

 私が! 主を置いて逃げる下僕に見えるとでも!?」

 

 バカな。 

 ヴィルジールはそう思った。

 この期に及んで、笑みさえ零れてきそうな遣り取りに、彼は再び立ち上がる。

 攻撃の溜めに入ってる黒異人(コクト)を見上げながら、彼はグレイスへと質問をした。

 

「⋯⋯どうする気だ?」

「見くびらないで下さい。私の“生涯”をお見せ致します」

 

 ヴィルジールは、グレイスへと振り返る。

 大砲の様にも見える魔導具の後ろでは、グレイスがレバーの様な物に手を掛けていた。

 

「『都市防衛結界・試作型』──」

 

 レバーを引き下げ、グレイスは呟く。

 直後、魔導具の頂上に装着された巨大な魔力石が、虹色の発光を見せる。

 膨大なエネルギーが砲身へと装填され、放出の段階へと移行した。

 

「起動ッッ!!」

 

 翠色のエネルギーが、黒異人(コクト)へ向け、真っ直ぐと放たれた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。