アリオンの街に、雨が降り始めた。
大地へと落下する雨粒は、花が開く様に形を変える。
冷たい雫に映るのは、冒険者達と謎の
──戦場は、更なる変化を遂げようとしていた。
「ウヴォアアアァ──ッッ!!」
「「「「!!?!?」」」」
冒険者達は、一斉に飛び退く。
上空に現れた“謎の
攻撃の衝撃波に備え、万全の構えを取る冒険者達。
彼らに対し、謎の
直後、
そして──
「ひッ、
真っ先に、ヴィルジールが叫ぶ。
攻撃に備えて距離を取った筈が、相手にとっては未だ命中範囲だという事に気付いたのである。
ヴィルジールの咄嗟の指示により、冒険者達は即座に後方へと跳ねる。
だが、彼らが次に地面へ足を着けるよりも早く、
「ヴァッッッ!!!」
振りかぶり、そして振り下ろす様に。
まるで太陽が迫ってくるかの様な光景に、冒険者達は絶句し、硬直する。
──飲み込まれれば命はない──
その事実が、唐突に突き付けられる。
あまりに強大な力の前に、冒険者達は立ち尽くす事しかできなかった。
──ただ一人を除いて。
「結界だッッ!!」
ヴィルジールは、素早く指示を飛ばす。
しかし、落下した火球が、地面を削りながら迫って来ている現状。
冒険者達は、暗い表情で首を横に振った。
「無理だ⋯⋯アレは、街に結界を張った所で──」
「違う、俺に張れっつってんだ!!」
一斉に、冒険者達は顔を上げる。
一見すると、自己憐憫が故の言葉に聞こえる、ヴィルジールの台詞。
だがこの時、彼の周囲にいた冒険者達は、即座に言われた通りの行動を起こした。
それは、冒険者達にヴィルジールへの絶大な信頼感があったからである。
事実、誰一人として、“考えがあっての発言だろう”と信じて疑っていないのだから。
「⋯⋯考えは、あんのか?」
「ある。お前らは、俺に結界を張り続けてくれ⋯⋯!!」
強い決意を目に、ヴィルジールは駆け出す。
迫り来る巨大な火球へと、真正面から。
──ズズンッッ!!
そして、火球の動きが鈍足化する。
冒険者達は、再び絶句していた。
真っ直ぐと突撃したヴィルジールが、10メートル程もある火球を受け止めていたからだ。
「ぐッ⋯⋯あああッッ!!」
結界が張られていて尚、ヴィルジールの掌には約200℃の熱が伝わっていた。
屈強な冒険者といえど、その熱を継続的に、そして押し当てる形で触れていれば、苦痛は相当なものだ。
それでも、彼がその場で踏み留まり続けるのは、護りたい存在があるからである。
「ぬああぁぁァァ──ッッ!!」
ヴィルジールは叫ぶ。
だがそれは、痛み故の叫びではない。
言うなれば、それは“根性”。ゼクスではなく、冒険者ではなく、男としての気迫であった。
(いけるッ! このまま着弾地点を逸らす⋯⋯!!)
彼の努力は、無駄では無かった。
僅かだが、確実に火球の移動方向が変化し始めたのである。
そして、遂に──
「うオアアーーッッ!!!」
バチン! と弾ける音と共に、火球が上空へと打ち上げられる。
数秒後、火球は遥か彼方で炸裂。眩い光を放ち、ゆっくりと収束していった。
ヴィルジールの勇姿に冒険者達は感嘆し、よろめく彼の身体を抱えた。
「よくやったぜ、ヴィルジール」
「どうって事⋯⋯ねぇ、よ⋯⋯」
軽く笑って見せ、ヴィルジールは空を見上げる。
一度攻撃を跳ね飛ばしたとはいえ、相手の
冒険者側も士気は大幅に上がったが、それでも戦線を保てるかは不明であった。
「ヴォ⋯⋯? ヴァ。ウ、ウ⋯⋯ヴァウウ」
その時、上空の
左右に首を傾け、疑問げな声を上げるその行動に、冒険者達の警戒は高まる。
だが、直後にこの
「──ヴゥゥオオォォオオオァァァアッッッッ!!」
“それ”は、最悪の結果であった。
この時、
その作戦に移行する為、
次の瞬間、今まで静観する様に停止していた黒異種達が、一斉に暴れ始める。
悲鳴にも似た声を上げ、その場でのたうち回る黒異種に対し、
「ゴハン」
と、
その直後、無数にいた全ての黒異種の肉体が崩壊する。
例えるなら、初めから砂や灰の様な小さな粒で創られていたかの様に。
「⋯⋯クソッタレめ!」
冒険者の1人が、そんな台詞を吐き捨てる。
ただでさえ莫大な魔力量だった
その魔力量を更に底上げし、作戦の実行に移った。
「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯!!
“普通の攻撃に対応されたなら、より高い威力の攻撃を放てばいい”。
それが、
それに気付いたヴィルジールは、歯を食いしばる。
すぐさま次なる手を考えた彼は、舌打ちをしながら周囲へ指示を飛ばした。
「──このままじゃ全滅だ⋯⋯。撤退するぞ!!」
「「「了解ッッ!! 」」」
ヴィルジールの指示を受け、冒険者達は武器を構えた。
“撤退”という指示を受けた者達が、“攻撃”の構えを取る。
不可思議な光景にも見えるが、冒険者達には共通した意識があった。
それは、「一般人の避難が終了してから」というものである。
冒険者として、一般人を退かして先に逃げる事は許される事ではない。
それが念頭にあるからこそ、彼らは即座に武器を構えたのであった。
「──そこのアンタ! ギルドに行って、“増援はいらない、俺達も退避する”と伝えて来てくれ!」
「分かったわッ!!」
ヴィルジールの指示に、1人の冒険者が走り出す。
彼女を見送った後、ヴィルジール達は改めて上空の
「ヴォ??」
刹那。ヴィルジール達の背筋に、極大の悪寒が走る。
その方向とは、ギルドへと走って行く、仲間の冒険者に他ならない。
──そしてその冒険者は、たった今、ギルドへと入っていった。
「ヴァアッ!!」
猿が
手の先に紅い光が凝縮されていく様子を見て、ヴィルジールは思わず絶叫した。
「逃げろーーッッ!!!」
その声が届く事は無かった。
紅い光が、レーザーの様に街一帯を薙ぎ払い、直後に爆発。
その一直線上にあったギルドは、跡形もなく消し飛んだ。
住民の避難もまだ終わっておらず、彼らを誘導する仲間の冒険者や、ギルドの職員も建物内にいた。
撤退に使う筈の転移装置までも、全てが丸々消し飛ばされてしまった。
「う⋯⋯く、あぁッ!!」
最早、言葉になどならなかった。
湧き上がってくる感情が、悲しみなのか怒りなのかさえ理解できぬ状況。
冒険者達は、焼け落ちるアリオンの街を眺める事しかできなかった。
「もう、終わりだ⋯⋯」
ヴィルジールは崩れ落ちる。
絶望と、何より無力感が、彼を押し潰していた。
だが、悲嘆暮れる間もなく、更なる脅威が迫る。
「ヴァオオオオ──ッッ!!」
大きく振りかぶり、そして──
「──ヴィルジール様ッッ!!」
その時だった。
聞き馴染みのある声に、ヴィルジールは振り向く。
そこには、全身が傷と
彼女は、背後に“謎の魔導具”を引きずっており、酷く疲労している様子。
そんな彼女を見て、ヴィルジールは思わず怒鳴った。
「な、なんで逃げてねぇんだよ、グレイス!?」
「そんなの!! 決まってるじゃないですかッ!!」
「何ィ!?」
「私は! 貴方の! 下僕なんですッッ!!
私が! 主を置いて逃げる下僕に見えるとでも!?」
バカな。
ヴィルジールはそう思った。
この期に及んで、笑みさえ零れてきそうな遣り取りに、彼は再び立ち上がる。
攻撃の溜めに入ってる
「⋯⋯どうする気だ?」
「見くびらないで下さい。私の“生涯”をお見せ致します」
ヴィルジールは、グレイスへと振り返る。
大砲の様にも見える魔導具の後ろでは、グレイスがレバーの様な物に手を掛けていた。
「『都市防衛結界・試作型』──」
レバーを引き下げ、グレイスは呟く。
直後、魔導具の頂上に装着された巨大な魔力石が、虹色の発光を見せる。
膨大なエネルギーが砲身へと装填され、放出の段階へと移行した。
「起動ッッ!!」
翠色のエネルギーが、