猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第106話・激動

 ──死者数、不明。

 行方不明者数、3万人以上。  

 襲撃を受けた街、推定300以上。

 壊滅した街、推定70以上。

 

 辛うじて生きのびた人々の中では、避難先の逼迫(ひっぱく)した状況に不満を持ち、暴動が発生。

 街の復興の目処は立たず、また捜索・救助活動においても、圧倒的な人員不足から決行は困難とされている。

 被害に遭った多くの人々は、各冒険者ギルドの集会所前でデモ活動を開始。

 “今回の一件”について、早急な事実の公表を求めた。

 

──ドンッッ!!

 

「クソッ⋯⋯!!」

 

 机を拳で叩き付け、老人は憤慨(ふんがい)する。

 彼の名は、エスキラ・ガルディオ。

 全ての冒険者達が所属する組織、『冒険者ギルド』においての“最高責任者”である。

 

「各国の都市機能は壊滅⋯⋯

 更には、迎撃を行った冒険者の殆どが死亡だと⋯⋯!?」

 

 長く伸びた白髪を揺らし、エスキラは席を立つ。

 懐から葉巻を取り出した彼は、苛立ちで手が震える中、ゆっくりと火をつけた。

 丁寧に整えてる白い顎髭が、火の粉で僅かに焦げている事にも気付かないエスキラ。

 手や、葉巻を持つ指先を含め、全身を怒りで震えさせる彼に対し、書記官の男が口を開いた。

 

「大都市以外にも、主要な路線や街道が襲撃に遭ったとの報告です。

 その内、迎撃戦を終えた王都から帰還中だった、ファリド・ギブソンとニナ・ソルディが死亡。その他──」

「黙れッ!! 今、私にそんな話を聞けるだけの余裕があると思うのか!?」

「し、失礼致しました⋯⋯」

 

 部下を怒鳴りつけ、エスキラは書類を投げ飛ばす。

 金色の鋭い眼光に睨まれた男は、即座に視線を床へと逸らした。

 

「──魔王ゼルが、ついに動き出したか⋯⋯

 我々も反撃に出る。直ちに戦力を集めろ!!」

「しかし!! 未だ魔王軍の仕業と確定した訳では──」

「これだけの所業が出来る連中が、魔王軍以外にあるか!!」

「そ、それは⋯⋯」

 

 黙り込む書記官に背を向け、エスキラは葉巻を吹かす。

 大きなアーチ窓から見える景色は、今のエスキラにとって酷く眩しく見えていた。

 

「──『三最』に招集を掛けろ、今すぐ!!」

「彼らを⋯⋯!?」

「くどいぞッッ!!」

「しょ、承知しました!!」

 

 慌てて部屋を出る部下を背後に、エスキラは新たに葉巻に火をつけた。

 

 本格的に動き出した、冒険者ギルド。

 だが、それは大きな勘違いから始まった出来事だった。

 人類の強豪達。

 それが、打倒魔王軍を掲げて蠢く。

 時代は、激動の流れに揉まれる事となる──⋯

 

 

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 ⋯──そして、その中心にいるのが猛紅竜。

 本件の黒幕である“偽神オーガ”を、撃破出来る可能性を持った存在である。

 そして、そんな彼を支援する者達の間では現在、重要な遣り取りが行われていた。

 

「人類は、間違いなく魔王軍(俺ら)がやった事だと考えるだろうな」

「だねぇ〜」

 

 魔王城、屋上。

 城下町を含め、辺り一帯が見渡せる場所で、魔王と幼女は円卓を囲っていた。

 

「──“未知の強力な人型種族”なんて、人類にとって該当対象となるのは、魔族だけだし。

 そんな奴らが同時多発的に⋯⋯。まるで、“誰かに指示された様に”街を襲撃したとなるとねぇ」

「あぁ⋯⋯そこなんだよなぁ〜っ。

 魔王軍(こっち)()()()()()()()し、下手に人類に動かれるとなぁ⋯⋯」

「そうだねぇ。『人類の最高戦力』の相手は、グレンデル達には厳しいからねぇ。

 とはいえ、貴方が動くとなると、魔族の中での“不穏因子”が⋯⋯」

 

 腕を組み、口をへの字にして悩む2人。

 しばらく悩んだ後、先に腕組みを解いた幼女が、人差し指をピンと立てる。

 緋色の目を(まある)く輝かせた彼女に対し、魔王は片眉を吊り上げて尋ねた。

 

「⋯⋯()()を聞かせて貰おうか?」

「よしきたっ。手っ取り早く済む話があるんよ」

「ほう?」

「向こうが手を打つ前に、それを阻止すればいいんだよ。

 勿論、出来る限り穏便に済ませたいからね。

 冒険者ギルドで一番偉い人に、直接“取り合ってもらう”ってワケ♪」

 

 どうやって? と、普通なら聞き返す所だが。

 幼女と向かい合っているのは、魔王と呼ばれる男である。

 その作戦に疑問は生まれず、寧ろ『その手があったか!』といった表情で互いに顔を見合わせた。

 

「──成程、“取り合ってもらう”か。そりゃいいぜ。

 まぁ、無論だが、刺激するのはマズいしな。“穏便”にいくのがベストってワケだ」

「そうそう。“穏便に”、ね〜??」

 

 邪悪な笑みを浮かべ、魔王と幼女は席を立つ。

 だが、早速“その考え”を実行に移そうとした時だった。

 

──ドガガガガッッ!!

 

 眼下に広がる無数の建物が、一直線に倒壊する。

 原因となった物の正体とは、他ならぬ猛紅竜であった。

 ギルルと鍛錬中の猛紅竜が、数km先の荒野から魔王城までぶっ飛ばされたのである。

 

「派手にやっている様だな」

「まぁね。紅志なりに、頑張ってるみたい」

「アイツに、最近の世の中の状況は教えたのか?」

「⋯⋯うん。被害状況も含めて、全部教えたよ」

 

 魔王は、少しだけ目を見開いた。

 彼から見た紅志とは、この後に及んで鍛錬を続行出来る程の精神力(メンタル)を持っている存在では無かったからだ。

 大いにショックを受け、しばらくは動けなる様な奴だと、そう思っていたのである。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯。」

 

 ただ黙々と、それでいて、鬼気迫る表情で。

 紅志は鍛錬を続ける。

 魔王ですらその様子に疑問を持つ中、紅志自身の内心とは、意外にも静かなものであった。

(──アリアの“あの話”が本当なら、まだ希望はある。

 だが、どの道、俺がオーガを倒せるようにならなければ、全ては始まらない⋯⋯!!)

 城下町を駆け抜け、猛紅竜は荒野へと戻る。

 音速を超え、更に加速し──

 

「はぁッ!!」

 

 紅志は炎装を発動する。

 全身に纏う紅い炎と共に、二本角の先端には蒼い炎が揺らめくのであった──⋯

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