「──ごめんなさい」
帰ってきた幼女は、俺に向かってそう言った。
直前に、『全ての人は救えなかった。救えたのはごく一部だけだった』という旨の説明を受けた後の事だった。
「何人、死んだ⋯⋯?」
「私が把握している限りで、5万人以上。
⋯⋯だけど、多分、もっと多くいる」
⋯⋯分かっていた事だ。
分かっていて、ちゃんと理解して、覚悟を決めていた筈だった事だ。
オーガが、俺を匿う幼女を誘い出す為に、民間人に手を出す事は予想出来ていた。
そして、必ずどこかで犠牲者が出る事も⋯⋯
「⋯⋯⋯⋯。」
⋯⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯本当に、分かっていたのだろうか?
自分のせいで、自分がこんなにも弱いせいで、無数の犠牲者が出てしまう事を。
何にも知らない人々が、突如として日常を焼き尽くされる事を。
何が理解して、だ。何が覚悟を決めて、だ。
結局俺は、何処かで苦しい思いをする奴らを、直接見る事もせず、こうして“そうなった”と聞くだけだ。
俺は、まるで分かっていなかった。
何も理解していなかったし、しょうもない覚悟を決めていただけの、約立たずだったんだ。
⋯⋯そもそも、覚悟ってなんだよ。
“他人が苦しんでいるのを、見て見ぬふりをする覚悟”ってか? 笑えるな。
アリア達が救出を頑張っている中、俺は何してたんだよ。
せめて、1つでも成果を挙げれたか? 少しでも早くオーガが倒せる様になりでもしたか?
俺は⋯⋯
俺は⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
「──なんの為に、こんな事を⋯⋯」
俯き、俺は自分の影を見つめる。
こんなに小さい奴が、一体何を成し得るというんだろうか?
アリア、ゼル、ティガ、ギルル⋯⋯。こんなにも大きな奴らがいるのに、手が出せないオーガ。
それを、俺が倒すだって? バカバカしい。
それを達成するまでに、どれだけの人々が巨大な悪意に飲み込まれるってんだよ。
「──紅志、」
「⋯⋯⋯⋯なんだ」
「私は、最善を尽くした。今この瞬間、他の世界で戦っている人達も、きっと最善を尽くしている。
それでも、助けられなかった生命は数え切れない。
けどね? “最初から何もしなかった今日”と、“可能な限り命を救ってきた今日”っていうのは、違うんだよ」
うるさい。
そんな事は分かっている。分かりきっている。
当然だろう。アリア程の存在が最大限の努力をしてきたんなら、そりゃあ助けられた命は多いんだろうさ。
だが──
「俺は、お前じゃない」
「紅志、君ってコは──。⋯⋯いや、そうだったね。
君は、最初からそんなだった。
「⋯⋯そうだ。その通り──」
「だけど! それと同じくらい、楽観主義者でもある。
結局の所、それはその時のシュチュエーションによるって感じだ。
つまり、“ゲンキンな奴”だね♪」
⋯⋯??
さっきから、なんだ?
幼女のテンションが妙だぞ。
俺を怒らせてやる気を出させる、という訳でも無さそうだが⋯⋯?
「そんな君には、“対話よりも対価”だ。
君が頑張り続けれる様な、取っておきの情報をプレゼントしよう♪」
「⋯⋯とっておき、ね。
まぁどちらにせよ、オーガを倒さなければ行けないのは事実だし。鍛錬を欠かすつもりは無かったが⋯⋯その情報っていうのは?」
「うん。勿体ぶるのもアレだから言っちゃうね。
“ある目標”を達成すれば、死者の蘇生が可能なんだよ」
⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯うん? なんだって??
死者の⋯⋯えっ!? 生き返りが可能って事か!?
おいおいオイオイ!! なんでもっと早くソレを──
「『なんでもっと早く言わなかった』⋯⋯と。言いたい気持ちは分かる」
「じゃあ、なんで⋯⋯」
「話すと長くなるからね。
⋯⋯あ、『早く言わなかった理由』の方じゃなくて、『死者の蘇生が可能になるまでの説明』の方が、ね。
折を見て話すつもりだったけど⋯⋯たった今、その時が来たって感じだ」
⋯⋯ははっ、なんだよコイツ。
死んでも生き返るってんなら⋯⋯。
いや、それ以上先は駄目だな。“鍛錬に専念出来た”だなんてのは、誰かが死ぬのが前提になってしまう。
それは、外道の考え方だ。絶対に許されるものではない。
⋯⋯しかし、ゲンキンな奴か。
全く持って、その通りだったぜ。
「──さて、長話に付き合う準備はいい?」
「⋯⋯勿論だ」
「うんっ。じゃあ、始めようか。
オーガとはまた別の、“もう一人の神”について──⋯」