猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第122話・意味、能力、封印。

「──ン⋯⋯」

 

 部屋の明かりが、(まぶた)の隙間から入ってくる。

 眩しい。ここは何処だ? 俺は⋯⋯確か⋯⋯?

 

 ──答えを教えてやる──

 

 ⋯⋯あ。

 

「うッ⋯⋯お"ぇッ!!」

 

 そうだ。俺は、グレンデルに首を折られたんだ。

 話を⋯⋯話を聞かされて、その後に⋯⋯

 

「はぁっ! はぁっ!」

 

 心臓が、激しく鼓動する。

 呼吸が凄く苦しい。嫌な汗が止まらない。

 ⋯⋯だが、グレンデルの話、何も間違ってはいなかったな。

 俺はただの人間だったのに、今まで平気な顔で殺しをしてきた。

 その瞬間になったら、生きる為だ、死なない為だと言い聞かせていただけだ。

 いや、それだけじゃない。

 共食い⋯⋯。同じドラゴン種である魔物を喰った時だって、ただただ興味があっただけだった。

 それだけの理由で、何の躊躇も無く同族を悦んで喰らってたんだ。

 

「う、うう⋯⋯」

 

 吐き気が止まらない。

 俺は⋯⋯俺は一体、何なんだろうか? 

 本当の魔物であれば、割り切れたのかもしれない。

 だが、俺は人間だ。それなのに──

 

「紅志、大丈夫?」

「⋯⋯幼女」

 

 部屋に、幼女が入ってくる。

 此方を心配するその目に、俺は思わず顔を逸らした。

 

「グレンデルは、お説教しておいたよ。多分、ゼルにもされてるかな」

「⋯⋯いや。アイツの言っていた事は、正しかった。

 おかしいのは俺で、アイツはそれを気付かせてくれただけなんだよ」

「⋯⋯⋯⋯。紅志、」

「悪い、少し寝かせてくれ」

 

 今は、どんな言葉も聞きたくない。

 俺は、そう態度で示した。

 

「──そうだね。あの子の言っていた事は、確かに正しいよ。

 だけどね、紅志。それは、当たり前の事だ。

 生きる為に、死なない為に、糧を得る為、自身を守る為⋯⋯

 誰だって、他の命を殺すんだ。何故なら、それが必要な事だからだよ」

「⋯⋯⋯⋯それは、」

「生きる為に殺す。前世でも、それは当たり前だった筈だよ?

 多くの人々が目を背け、若しくはただ無知である中でも、他の命を絶つ場合っていうのは無数にある。それが、必ず誰かに必要とされるからだ。

 君だってそうでしょう? 殺し、そして糧にしてきた。

 だからこそ、今日もこうして生きてる」

「⋯⋯⋯⋯!!」

「──私は知っているよ。君が今まで絶ってきた命、その全てが、君の糧に、力に、手助けになっている事を。

 君は、初めて自分の行いを自覚しただけだ。

 人間が、普段 目を背けている事と向き合って、そして葛藤している」

 

 ⋯⋯⋯⋯胸が苦しい。

 否定して欲しかった。肯定して欲しかった。

 “残酷な化け物”を真正面から否定し、その事実をひたすら肯定して欲しかった。

 それなのに──

 

「前を向いてよ、紅志。君は人間なんだから」

 

 アリア。君はどうして、人を励ますのが上手いんだ?

 暖かく、柔らかく、包み込まれる様な、そんな言葉の数々がどうして自然と出てくる?

 ──何故、こんな俺を否定してくれないんだ。

 

「うっ⋯⋯ううっ⋯⋯!!」

「うんっ、泣いていいんだよ。──おいで」

 

 両手を広げるアリアに、俺は縋り付く。

 回された腕はどこまでも暖かく、頭を撫でる手はどこまでも柔らかい。

 俺の涙が止まるまで、彼女はずっと胸を貸してくれたのであった。

 

 

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「──グレンデル」

 

 玉座に肘を付くゼルは、低い声で切り出した。

 

「お前がやった事⋯⋯まぁ、全ては否定しない。

 アリアの話では、紅志の中に二つの魂があるという事だったし、それがアイツにとって欠点になるのも事実だ。

 別々の意識とはいえ、同じ脳みそである以上は、何かの行動する時に“それぞれの思考”が関わってくるしな」

 

 やれやれといった表情で、ゼルは言葉を続ける。

 ゼルが強くグレンデルを叱責できない理由は、彼の行動によるメリットが大きかったからである。

 

 ──別の意識とはいえ、同じ脳である以上、

   何らかの行動時には“それぞれの思考”が関わる──

 

 例えば、こんなシュチュエーション。

 紅志が魔物と戦闘を行う際、攻撃をしようとした。

 紅志としては、“腹に”、“めり込ませる勢いで”、“拳を打ち出す”と思考している。

 だがこの時。グレイドラゴン側の意識は、“なぜ腹を?”、“もう少し弱くてもいいのでは?”、“拳を作る意味とは?”という思考をしているとする。

 そうなってくると、実際の効果として現れるのは、「両者の思考の中央値」が必然となる訳だ。

 “殴ろうとしている意思”と“殴ろうとしていない意思”。

 “炎装を発動する意思”と“それの仕組みを理解していない意思”。

 その2つがあれば、紅志が本来出せる筈の“100%の能力”は当然 完全なモノではなくなってしまう。

 

 ──それ踏まえてのグレンデルの行動は、必ずしも不必要であったとは言えないのである。

 

「後悔はしてません。処断は、魔王様のご意思のままに」

「⋯⋯ハァ。全く疲れるぜ、お前ってヤツぁよぉ」

 

 頭を抱え、ゼルは溜息を零す。

 彼が思い返すのは、数日前のアリアとの会話であった。

 紅志の育成について、今後の予定を組んでいた時の事。

 アリアから、『あのコの中に別の魂がある』という旨の説明を受けたゼルは、ふと口にしてしまったのだ。

 『そりゃあ面倒だ。どうにかしねぇとな』と。

 そして、それをたまたまグレンデルが聞いていた事が、今回の事の顛末なのである。

 

「──お前、しばらく紅志には関わるな。破ったら魔王城(ウチ) 出禁」

「ッ!? 承知致しました、魔王様⋯⋯!!」

 

 血相を変え、グレンデルが平伏する。

 そのあまりの平伏速度()により、猛烈な風が発生した。

 

「よし、下がっていいぞ」

「失礼致します⋯⋯ッ!!」

 

 強ばった表情のまま、グレンデルが退室する。

 玉座に付く肘を右肘から左肘に変え、ゼルは改めて溜息をついた。

(──もう1つの意思も“魂”である以上、破壊は不可能。

 まぁ、いずれは復活するだろうが⋯⋯現状としては封印してる様なモンか。

 ⋯⋯さて、これから紅志(あいつ)はどうなるかね)

 トントンと、ゼルは人差し指でこめかみを叩く。

 ゆっくりと足を組んだ魔王は、“先”を見据えて静かに口角を上げるのであった。

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