「──ン⋯⋯」
部屋の明かりが、
眩しい。ここは何処だ? 俺は⋯⋯確か⋯⋯?
──答えを教えてやる──
⋯⋯あ。
「うッ⋯⋯お"ぇッ!!」
そうだ。俺は、グレンデルに首を折られたんだ。
話を⋯⋯話を聞かされて、その後に⋯⋯
「はぁっ! はぁっ!」
心臓が、激しく鼓動する。
呼吸が凄く苦しい。嫌な汗が止まらない。
⋯⋯だが、グレンデルの話、何も間違ってはいなかったな。
俺はただの人間だったのに、今まで平気な顔で殺しをしてきた。
その瞬間になったら、生きる為だ、死なない為だと言い聞かせていただけだ。
いや、それだけじゃない。
共食い⋯⋯。同じドラゴン種である魔物を喰った時だって、ただただ興味があっただけだった。
それだけの理由で、何の躊躇も無く同族を悦んで喰らってたんだ。
「う、うう⋯⋯」
吐き気が止まらない。
俺は⋯⋯俺は一体、何なんだろうか?
本当の魔物であれば、割り切れたのかもしれない。
だが、俺は人間だ。それなのに──
「紅志、大丈夫?」
「⋯⋯幼女」
部屋に、幼女が入ってくる。
此方を心配するその目に、俺は思わず顔を逸らした。
「グレンデルは、お説教しておいたよ。多分、ゼルにもされてるかな」
「⋯⋯いや。アイツの言っていた事は、正しかった。
おかしいのは俺で、アイツはそれを気付かせてくれただけなんだよ」
「⋯⋯⋯⋯。紅志、」
「悪い、少し寝かせてくれ」
今は、どんな言葉も聞きたくない。
俺は、そう態度で示した。
「──そうだね。あの子の言っていた事は、確かに正しいよ。
だけどね、紅志。それは、当たり前の事だ。
生きる為に、死なない為に、糧を得る為、自身を守る為⋯⋯
誰だって、他の命を殺すんだ。何故なら、それが必要な事だからだよ」
「⋯⋯⋯⋯それは、」
「生きる為に殺す。前世でも、それは当たり前だった筈だよ?
多くの人々が目を背け、若しくはただ無知である中でも、他の命を絶つ場合っていうのは無数にある。それが、必ず誰かに必要とされるからだ。
君だってそうでしょう? 殺し、そして糧にしてきた。
だからこそ、今日もこうして生きてる」
「⋯⋯⋯⋯!!」
「──私は知っているよ。君が今まで絶ってきた命、その全てが、君の糧に、力に、手助けになっている事を。
君は、初めて自分の行いを自覚しただけだ。
人間が、普段 目を背けている事と向き合って、そして葛藤している」
⋯⋯⋯⋯胸が苦しい。
否定して欲しかった。肯定して欲しかった。
“残酷な化け物”を真正面から否定し、その事実をひたすら肯定して欲しかった。
それなのに──
「前を向いてよ、紅志。君は人間なんだから」
アリア。君はどうして、人を励ますのが上手いんだ?
暖かく、柔らかく、包み込まれる様な、そんな言葉の数々がどうして自然と出てくる?
──何故、こんな俺を否定してくれないんだ。
「うっ⋯⋯ううっ⋯⋯!!」
「うんっ、泣いていいんだよ。──おいで」
両手を広げるアリアに、俺は縋り付く。
回された腕はどこまでも暖かく、頭を撫でる手はどこまでも柔らかい。
俺の涙が止まるまで、彼女はずっと胸を貸してくれたのであった。
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「──グレンデル」
玉座に肘を付くゼルは、低い声で切り出した。
「お前がやった事⋯⋯まぁ、全ては否定しない。
アリアの話では、紅志の中に二つの魂があるという事だったし、それがアイツにとって欠点になるのも事実だ。
別々の意識とはいえ、同じ脳みそである以上は、何かの行動する時に“それぞれの思考”が関わってくるしな」
やれやれといった表情で、ゼルは言葉を続ける。
ゼルが強くグレンデルを叱責できない理由は、彼の行動によるメリットが大きかったからである。
──別の意識とはいえ、同じ脳である以上、
何らかの行動時には“それぞれの思考”が関わる──
例えば、こんなシュチュエーション。
紅志が魔物と戦闘を行う際、攻撃をしようとした。
紅志としては、“腹に”、“めり込ませる勢いで”、“拳を打ち出す”と思考している。
だがこの時。グレイドラゴン側の意識は、“なぜ腹を?”、“もう少し弱くてもいいのでは?”、“拳を作る意味とは?”という思考をしているとする。
そうなってくると、実際の効果として現れるのは、「両者の思考の中央値」が必然となる訳だ。
“殴ろうとしている意思”と“殴ろうとしていない意思”。
“炎装を発動する意思”と“それの仕組みを理解していない意思”。
その2つがあれば、紅志が本来出せる筈の“100%の能力”は当然 完全なモノではなくなってしまう。
──それ踏まえてのグレンデルの行動は、必ずしも不必要であったとは言えないのである。
「後悔はしてません。処断は、魔王様のご意思のままに」
「⋯⋯ハァ。全く疲れるぜ、お前ってヤツぁよぉ」
頭を抱え、ゼルは溜息を零す。
彼が思い返すのは、数日前のアリアとの会話であった。
紅志の育成について、今後の予定を組んでいた時の事。
アリアから、『あのコの中に別の魂がある』という旨の説明を受けたゼルは、ふと口にしてしまったのだ。
『そりゃあ面倒だ。どうにかしねぇとな』と。
そして、それをたまたまグレンデルが聞いていた事が、今回の事の顛末なのである。
「──お前、しばらく紅志には関わるな。破ったら
「ッ!? 承知致しました、魔王様⋯⋯!!」
血相を変え、グレンデルが平伏する。
そのあまりの
「よし、下がっていいぞ」
「失礼致します⋯⋯ッ!!」
強ばった表情のまま、グレンデルが退室する。
玉座に付く肘を右肘から左肘に変え、ゼルは改めて溜息をついた。
(──もう1つの意思も“魂”である以上、破壊は不可能。
まぁ、いずれは復活するだろうが⋯⋯現状としては封印してる様なモンか。
⋯⋯さて、これから
トントンと、ゼルは人差し指でこめかみを叩く。
ゆっくりと足を組んだ魔王は、“先”を見据えて静かに口角を上げるのであった。