猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第124話・“魔力操作”

「──いいか? 大切なのは“循環”だ」

 

 そう言うと、アインヘルムは空中に俺と思わしき絵を描く。

 続けて、俺(の絵)の周囲に炎の様な絵を書くと、更にそこへ外側に向かう矢印をいくつか加えた。

 

「⋯⋯それ、どうやってんだ?」

「あン? 細けぇ事気にすんなよ」

 

 ⋯⋯うむ。改めて、魔王幹部は凄いと思わされる。

 空中に魔力で絵を描く。仕組みとしては、魔法陣の作成と何ら変わらない事だが⋯⋯

 魔法陣の作成にも、個人差や種族差はあるが“最小・最大限度”がある。

 魔法陣の生成を筆記用具で行うとしたら、俺の限界は最小が鉛筆。最大がクレヨンってところだ。

 要するに、同じスペースでも描ける内容が違ってくるって訳だが⋯⋯そこはいい。

 肝心のアインへルムだが、例えるなら習字の太筆程には大きなサイズで絵を描いている。しかも、どうって事ない表情で。

 もし仮に、あのサイズの魔力で魔法陣を描いたら、その威力はどうなるんだが⋯⋯

 

「──魔王幹部ってのは、バケモンばっかだな」

「あァん? 急に褒めんなよぉ。エェ? コノヤロ〜」

「ぐえっ。嬉しいなら締め上げんなよ⋯⋯」

「ンン? 気に入った相手とは普通ハグするだろ〜?」

 

 バックチョークをキメておきながら、なんだコイツは。

 首の後ろにちょっと角が刺さって痛いし、はよ離してくれ。

 

「──まぁ、兎に角だ。話を戻すぜ」

「あぁ、分かった。確か、循環って所からだな」

「おう。これがお前、これが炎装、この矢印が発散した魔力、そんでもって⋯⋯」

 

 描いた図解を指差し、アインへルムは更に書き足しをする。

 俺と炎装の絵、そして魔力の矢印。その両方を囲う様な円形だ。

 アインヘルムは魔力を操作し、全ての矢印を進ませる。

 そして円の内側に矢印が当たると、跳ね返って再び中心へと戻ってくる⋯⋯といった映像を作り出した。

 

「──この外側が、“魔力が逃げない範囲”だな」

「あぁ。前に幼女にも似た事を聞かされたな⋯⋯」

 

 アインヘルムが言うソレは、つまりは使用した魔力を半永久的に使えるモノだ。

 魔力は、使用すると当然 体外に発散される。しかし、使った魔力を極力発散させない事で、うんたらかんたら⋯⋯

 という話だそうだ。

 

「確か、すっげぇ難しいと言ってた気がするが⋯⋯」

「いんやぁ? そうでもねぇかもしれねぇぞ? お前の炎装は、“この技術”と相性が良いからな。

 まぁ、お前が未熟なのはあるし、まずは“逃げにくい”ってトコを目指すつもりだが」

「相性が⋯⋯?」

 

 話を聞けば、『“纏う能力”との相性が良い』との事。

 成程。通常の場合では、使用する魔法の効果(射程)範囲の全てを覆わなければいけない。

 そうでなくては、使用した魔力の回収ができないからな。

 魔法によっては、しっかりと距離を確保して打たなければ最大の威力は出ないし。

 だが俺の場合はそうでなはい。炎装は使用した魔力の⋯⋯いうなれば“発散距離”が極めて短い。

 つまりは、発散した魔力の回収がしやすく、循環させやすいという訳だ。

 

「──紅志。グレンデルの仕業で、お前は“自分自身”を手にした。それは事実だろ?」

「あぁ、そうだ。⋯⋯正直、今度グレンデルに会った時に、どんな顔でいるべきか分かんないが⋯⋯

 少なくとも、自分では気付けない事をアイツは気付かせてくれた。礼を言うべきだと、俺は考えてる」

「⋯⋯おう。それは、お前が好きにすればいい。

 ──で、だ。お前がお前になった分、今までとは色々勝手が違ってくる筈だ」

 

 ⋯⋯勝手が違ってくる、か。確かにその通りだろう。

 今までは、あの子がいた事で、俺の意識と行動には力加減に“差”が生まれていた。

 その“差”が、どれ程のものだったかは分からない。

 あの子を悪く云う気なんか無いが、その点については認めるべき事実だろう。

 

「──思考、身体、魔力の操作⋯⋯。全ての感覚が、大きく違ってくる事になる。

 魔力の循環についても、以前のお前ならば出来なかったかもしれない」

「⋯⋯だが、今は違う」

「あァ、その通りだ。これから先のお前がどんな風に成長するのかは、お前次第って事だ」

 

 コートを風に靡(なび)かせ、アインへルムは背を向ける。

 ポケットに両手を突っ込むその後ろ姿は、思わず『師匠!』とでも叫んでしまいそうな程に眩しかった。

 ⋯⋯まぁ実際、魔王幹部は全員師匠みたいなモンなんだが。

 

「──ところでお前、最近いつ炎装を使った?」

「⋯⋯え? あぁ。昨日のグレンデルの件の直前までギルルと鍛錬してて、その時に。

 一件の後は、幼女に『炎装は完治してからの方がいい』って言われて使ってなかったかもな⋯⋯」

「フ〜ン? 流石はアルノヴィアだ、良い判断だぜ。

 聞いた話じゃあ、身体の内側からブッ壊されたってんだし、炎装を使ったら死んでたかもなァ」

「⋯⋯炎装を使って死ぬ?」

 

 何故⋯⋯と、思い掛けたが、そういえばそうか。

 魔物による魔力の使用は、体内の『魔力変換器官』によって行われている。

 そしてその器官は、魔法陣と同じ仕組みで成り立っていると。

 そうなると、破損したソレに無理やり魔力を流し込むと暴発して⋯⋯って感じだろう。

 おおう。グレイドラゴンの肉塊花火なんて想像もしたくないぜ。

 

「まぁ、今なら問題無さそうだな。⋯⋯どれ、折角だ」

「⋯⋯!!」

「──場所を変えるぜ、紅志」

 

 

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 やって来たのは、やはりギルルとの鍛錬場である荒野だ。

 地平線まで続く程に広く、果ての果てまで何も無い。

 だからこそ、何事にも思い切って挑める。

 

「試してみろ。紅志」

「おう⋯⋯!!」

 アインヘルムに言われ、俺は両脚を大股に広げる。

 ⋯⋯そうだ。俺が炎装を使う時は、そういえばいつもそうだったな。

 発動の直前には、どんな時でも静けさに包まれる。

 心臓が大きく鼓動する感覚と、それを合図として全身が内から温かくなる様な──。

(⋯⋯思えば、ここまで集中して炎装を使う事も無かったか)

 フフフ、なんだか感慨深いかもしれない。

 初めは、炎装を使う時はこうしてワクワクしていたな。

 自分は特別なんだって思える⋯⋯そんな感じが。

 

「フゥ────⋯⋯」

 

 深呼吸。

 ⋯⋯深呼吸って、こんなに静かだったけか。こんなに心地良いモノだったけか。

 身体の内側。底の底から、滾り、湧き、煮え、登り上がってくるこの感覚は⋯⋯なんて言うんだっけ。

(──あぁ。そうだ。これは⋯⋯この感覚は⋯⋯)

 静かで暖かい。それでいて──⋯

 

「⋯⋯ハッ」

 

 いや、“これ”に名前なんて必要無い。

 “そうである”。それを、俺自身が感じられているのなら。

 

──ズンッッ!!

 

 大地が、俺を中心として大きく揺れる。

 天空(そら)が、大気が、そして星そのものすら。

 俺の一人の力で揺れている様だった。

 

「⋯⋯ふう」

 

 角も──。首も──。背も──。

 尻尾も──。脚も──。拳も──。

 

 全てが蒼になっていた。

 

「──“上”にようこそ。歓迎するぜ、紅志」

 

 アインヘルムが、俺に向けて拍手を行う。

 ⋯⋯分かる。今なら、アイツの魔力も明確に感じれる。

 アインヘルムだけじゃない。遠くにいるティガも、ギルルも、よく感じれる。

 魔王城の領域。そこに生息する無数の魔物達も、そして俺自身も。

 

「⋯⋯⋯⋯。」

 

 俺は、自身の手に目をやる。

 握り、開き、それを数回繰り返す。

 ⋯⋯手って、指って、こんなに複雑に出来ているんだ。

 身体って、肉って、骨って、血って──。“俺”って、こんな形をしているんだなぁ。

 

「──()()()()、紅志」

「⋯⋯ン、」

 

 アインヘルムが、銀翠(ぎんすい)の魔力を纏う。

 眩しく、美しく、煌めくソレからは、超繊細な魔力の流れが感じ取れた。

 

 ──そして。

 それと同じ様に、俺の蒼炎も。

 透き通り、ひたすらに輝き、力に溢れていた。

 

「⋯⋯いい瞳だ」

「アンタもな、アイン」

 

 静かに腰を落とし、互いを見つめ合う。

 ハハ。これじゃ、恋人みたいだな。

 ⋯⋯いや、あながち間違ってないか。熱く激しくぶつかり合う、その点においては。

 

「さぁ、紅志。構えろ」

「⋯⋯あぁ」

 

 起爆は、そう遠くなさそうだ。

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