猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第127話・力の代償

「──えっ??」

 

 間抜けな声が出る。

 アインと幼女を正面に、俺は口を半開きにしていた。

 原因は、2人が口を揃えて言った とある台詞である。

 アインからは“指摘”、幼女は“提案”という形で伝えられた“ソレ”は、俺の脳を数秒停止させたのだった。

 

「バカ、『え?』じゃねぇよ。お前の伸び代を最大限引き出すには邪魔なんだよ。

 お前が持っている、グレイドラゴン本来の能力がな」

「アインヘルム、もっと言い方があるでしょ? もう」

 

 幼女は、アインをポカンと叩く。

 やいのやいのと言い合う2人を後目(しりめ)に、俺は俯いていた。

 アインが言った、“グレイドラゴン本来の能力”。それが示すのは、つまり“金属生成”の事である。

 彼としては、『今後その能力が役に立つ事は無いので捨ててしまおう』という訳らしい。

 幼女は、一応は選択肢を与えてくれたが、『捨てない選択する場合は鍛錬はより厳しくなる』との事。

 

「──お前の金属を生成する能力。アレは、言ってしまえば“殲滅”か“応用”に使う能力だ。

 雑魚を相手にする殲滅は兎も角、ある程度の実力者が相手では応用は通用しない。そこは理解してるだろ?」

「⋯⋯あぁ。思い当たる節は、いくつかな」

「だろうな。そりゃあ、使いこなせれば強ぇだろうが⋯⋯

 まぁ、そんな事言ったら どんな能力だってそうだしな。

 だったら、より強い能力を優先して伸ばすべきだと思わねぇか?」

「⋯⋯⋯⋯。」

 

 反論は出来ない。

 アインの言った事は、一言一句正しい。

 だが⋯⋯金属生成。炎装を使える様になるまでは、それが俺のアイデンティティだった。

 何度もピンチを乗り越えてきたし、日常生活でも随分と助けられた能力だ。

 そう簡単に切り捨てられる程、軽くない。

 

「──分かった、捨てる」

「⋯⋯!! 紅志、もう少し考えても──」

「いや、十分に考えた回答だ」

 

 軽くはない。だがそれは、俺にとってだ。

 俺だって馬鹿じゃない。自分の役割くらい理解してる。

 俺の我儘と、人々の命。天秤にかけるまでもないぜ。

 

「俺の⋯⋯俺達の目的は、オーガの撃破だ。

 奴が今後も民間人を襲撃する気なら、当然 多くの命が脅かされる事になる。

 ここで俺がゴネた所で、その数が増えるだけ。だろ?」

「⋯⋯そうだねぇ。私が馬鹿だった。君の方が、ずっと状況を理解してくれているよ」

「ホォ、良かったな紅志。アリアが認めたんなら、お前が世界最高の頭脳だぜぇ?」

「ハッハッ、そりゃあ良い気分だぜ。──で、俺は今から何をすればいいんだ?」

 俺の質問に、幼女とアインが顔を見合せる。

 どうやら、今すぐに取り掛かるつもりは無かったらしく、俺の台詞に少し驚いている様子だった。

 

「まぁ、まずは簡単なオベンキョーからだな」

「そうだね。それについては、私が説明するよ──⋯」

 

 

 

 ⋯──紅志。君の炎装は、テュラングルの角を喰らった事が発端となって発現した。

 彼の強力な魔力が、未熟だった君の肉体に大きな影響を及ぼしたワケだね。

 テュラングルは火龍の王だからねぇ。その魔力も、炎の属性を持っているんだ。

 まぁ、正確には、魔力というエネルギー自体に属性なんて無いんだけど。

 ⋯⋯前にも話したけど、魔力というのはDNAの様なモノであって、持ち主によって必ず性質が違ってくるんだよね。

 テュラングル程であれば、魔力の働きが“炎の生成”という能力を生み出しているんだよ。

 ──まぁ、小難しい話は出来るだけ省こう。

 つまりは、炎装の根幹というはテュラングルの力であって、グレイドラゴンの本来の能力ではないワケだ。  

 君に入った彼の強力な魔力は、君の体内で残存し続けた。

 そして、時が経つにつれて、自らの“居場所”を君の中に作りだしたんだ。それが、君の炎装を生み出す器官だね。

 ⋯⋯ただ、一つ考えてみて欲しい。

 君の中には、既に金属を作り出す能力があった訳だ。

 そしてその能力を発揮させる器官は、当たり前だけど君の中で大分部を占めている。

 そうなると、後から来た“炎を作り出す能力”は、いくら強力な魔力から発現したとはいえ⋯⋯??

 

 ──その通り。

 金属生成を生み出す器官よりも、小さな器官である事になる訳だね。

 そこで君に提案したいのが、金属生成の体内プラントを炎装に切り替えるって策なんだよ。

 まぁ、まずは現状の“炎装生成器官”を完全覚醒させる事を目標に鍛錬を積んでもらう感じだけどね。

 折を見て、“炎装生成器官”をメインとして“金属生成器官”と統合。君の“魔力変換器官”を炎装の生成用に組み替える。

 能力⋯⋯。いうなれば、“スキルツリー”の拡張を目指す訳だね──⋯

 

 

「⋯──さて。ここまでの話で、何か質問はある?」

「一つだけ。もし仮に、俺が炎装か金属生成を極めたとして、誰かに魔力を譲渡するとなったら⋯⋯」

「まさか、テュラングルみたいな事ができるのかって?

 いやぁ、どうだろうねぇ。あのコは、そりゃあ並大抵のドラゴンじゃないし⋯⋯

 “魔力の働き自体が、何かの能力を持っている”ってコは、私もあんまり見た事ないからねぇ。

 ──強いて言うなら、“魔力を固定”できる相手や道具があれば、少なからず君の魔力は残存し続けるかな」

「そうか⋯⋯。いや、まぁ単なる好奇心ってだけだ。聞けて満足したぜ」

 

 魔力を固定か。

 そういえば王都に初めて行った時に、『登録』ってのをやったな。

 魔力を記憶する石に手をかざして、次回の王都入りがスムーズになる⋯⋯とか。

 うーむ、思い出すと懐かしいな。

 ⋯⋯あの頃は、今みたいに色々背負ってなかったなぁ。

 まぁ意識して無かったってだけで、元から俺の肩には色々乗っかってたんだけども。

 

「よし。そんじゃあ、こっからは俺の出番だな。

 早速だが、アリアの言っていてた“現状の炎装”の完全覚醒を目指すぜ。まずは炎装を発動しろ、紅志」

「あぁ、分かった」

 

 深呼吸をして、炎装形態に移行する。

 それを見届けた幼女は、『じゃあ任せたよ』と言って飛び上がった。

 真っ白いワンピースを揺らして⋯⋯って、おや?

 

「⋯⋯きゃっ! 紅志のえっちぃ!」

「ハッ、興味ねぇよ。⋯⋯ついでだが、ワンピースで空に飛ぶのは人前ではやめとけ」

「あン? お前ら、一体何の話してんだ?」

「⋯⋯そうか。アイン達の服は、あくまで身体の一部。

 履いてるワケでは無いんだったな。⋯⋯()も」

「あぁ? だから、何の話を──」

「さぁ〜修行だ修行! アイン、よろしく頼むぜ!」

 

 ハテナを浮かべるアインに、幼女はシシシと笑う。

 口をへの字にしつつ、鼻で溜息をするアイン。

 あ〜あ。ホント、こういう瞬間を、何の使命感もナシで楽しめる様になりたいぜ。

 いつか、オーガを倒した暁には、俺は自由になる。

 そうなったら⋯⋯そうだなぁ。

 

 

 

 ──もう少し、ここに居てもいいかもな。

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