──“それ”は、突然であった。
⋯⋯いや。やはり、突然では無かったかもしれない。
例の草原で自己鍛錬に俺が励んでいると、ティガとアインが何処かへ高速で飛んでいったからな。
ある意味では、それが“予兆”だったとも言える。
だが⋯⋯。あぁ、やっぱり、突然起こった出来事だったな。
ただでさえ魔力濃度の高い魔王の領域に、途轍もなく強い魔力反応が現れたのは。
その内、2つはティガとアインの反応である事は分かる。
しかし、彼ら以外にも複数人⋯⋯。特に、ティガ達と同じく2つの強大な魔力反応が感じられた。
そして、その4人の魔力のせいで認識しずらいが、更に2つの魔力反応ある様だ。
「──お〜い、紅志〜」
魔力感知に意識を絞っていると、幼女が此方へ歩いて来る。
ティガ達の件を彼女に伝えると、どうやらそれに関して俺に用事があるとの事。
状況の詳細を尋ねてみると、幼女は困った様な表情で説明を始めた。
「ホラ⋯⋯前にさ、面倒事を避ける為に、人類の偉い人と話してくるって言ったじゃない?
そこでさ、私は一つその“偉い人”に提案したんだよ。
コッチがソッチを信頼させる証拠を見せるってね」
「成程。今日はそのソッチ側が証拠を見に来た訳か。
⋯⋯となると、ティガ達は彼らの出迎えをしに?」
「まぁ、そうだねぇ。──ちょっぴり、睨み合いになってるっぽいけど」
「あぁ⋯⋯通りで、向こうで魔力が荒れてんのね⋯⋯」
「そうそう。もーホント、勘弁して欲しいよ」
やれやれといった様子で、幼女は溜息をつく。
まぁそりゃあそうだろうな。平和的に話を進める為の第1歩が、睨み合いだなんて。
しかも、コッチ側からは魔王幹部でもバトルに積極的な2人が出迎えに行ってしまっている。
まぁそもそも、最初から最後まで穏便に行けるとも思えないが⋯⋯出だしからソレだと、俺も気が滅入るぜ。
「──兎に角だ。今日は重要な会議をするんだけど、紅志にも参加して欲しいんだ。
まぁ、参加するだけで、特に何かをして欲しいって訳でもないから気楽にいこう♪」
⋯⋯気楽に、ねぇ。どうだかな。
こういうシチュエーション、苦手なタイプなんだよな俺。
まぁサラリーマン時代は、重要な会議に呼ばれる程の立ち位置では無かったのはあるが⋯⋯
それでも、プレッシャーには弱い点は自覚しているぜ。
こう、自分より“上”の相手複数人に見られているとな、テンパっちまうんだよな。
⋯⋯ええい。ここは覚悟決めろ、
出来るだけ口を開かず、極力動かず、徹底して空気になるのだ。
「──会議の内容は、大きく2つ。
オーガについての情報共有。今後の都市襲撃の可能性と、それに対して対応策の提案だ」
「⋯⋯ん? さっきの俺達の話を信用させる証拠ってのは、いつ出すんだ?」
「うふふん。そんなモノ、実際には無いよ」
「⋯⋯なに?」
眉を
そして彼女の台詞の真意を知った時、俺は思わず笑ってしまっていた。
その表情は呆れも含んでいたが、それ以上に驚愕があった。
幼女の人類への信頼。それに対する驚愕が。
「──俺が言うのもなんだが、どうしてそこまで人間を信じれるんだ?
必ずしも、幼女の言った通りになるとは限らないだろ?」
「いいや、大丈夫だよ。人間に関しては、一応紅志より詳しいつもりだからね♪」
俺の疑問に、幼女は自信ありげに答える。
大きな波乱を予感する中、俺は魔王城へと足を踏み入れる。
魔王城・最上階、【狡知の間】と呼ばれるそこには、魔王ゼルが部屋の最奥にて座していた。
そして、彼の右後方。手を後ろで組んで姿勢よく起立するのは、久し振りに見たグレンデルであった。
「──グレンデル」
「⋯⋯なんだ?」
「今更だが、アンタに礼を言っておきたかった。ありがとう」
「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯フン」
静かに視線を逸らし、グレンデルは鼻を鳴らす。
どうやら、いつも通りの様子だ。いや、安心したぜ。
⋯⋯さて。アイツについても色々思案したい所だが、それは今ではない。
今から行う会議では、人類の今後⋯⋯。ひいては、俺の今後に途方も無く大きな影響がある筈だ。
意識を最大限に集中させて望まなくてはな──⋯
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「──2人で出迎えだなんて、中々気が利くじゃない。
わざわざ倒しに行く手間が省けて助かったわ」
「あ"? こちとら3、4万年の喧嘩不足で死にそーなんだわ。やるかコラ、あァ?」
ゼルやアリアが準備を整えた一方。
アリアの予想通り、セイリスとティガは睨み合っていた。
ティガの後方で腕を組んでいるアインヘルムも、目の前の人間達へ向けて殺気を放つ。
老人が1人。中年が1人。そして、黒いスーツ姿の男が1人──。
「よォ! 誰かと思ったら、白厳じゃねえか!」
「なにィ? マジか、お前まで来てたのかよ!!」
「──お久しぶりです、お二人共。ゼルさんは相変わらずで?」
「「おうよ!!」」
唐突に、ティガとアインヘルムの態度と表情が変わる。
まるで、親しい友人とでもあったかの様なリアクションに、セイリスやエスキラは呆気に取られた。
「な⋯⋯白厳! 君は魔王の手下とまでも知人なのかね!?」
「えぇ。公表は避けていましたが⋯⋯この際です。
彼らの紹介でもしながら、魔王城へと向かいましょうか」
「あ、貴方って人は⋯⋯困った人ね本当に」
「フフフ、恐縮です」
それぞれがそれぞれの反応を見せる中、唯一動じていない人物がいた。
人類最強の称号を持つ男、セシルガ・ネストールである。
少なからず、白厳の“友人関係”に驚いているのはあるが、それも言葉として出る程ではない。
何故なら、どんなイレギュラーも彼にとっては大抵がでどうにかなる話だからである。
無論、実力行使に至る場合もそうだが、今回の様な場合でも、今までの人生経験から動じる事は少ないのだ。
「──テメェとは、初めて会うな。名前は?」
「セシルガだ。セシルガ・ネストール。一応、【最強】って呼ばれてる。
まぁ、今の所は人類の範疇に収まってるぜ。この称号はな」
アインヘルムの質問に、セシルガはクセを付けて返答する。
──今の所は人類の範疇に収まっている──
まるで、いずれは魔族をも超えるとでも言う様なその台詞。
意図を理解したアインヘルムとティガは、静かに殺気を放った。
侮辱こそされていないものの、セシルガの台詞はティガ達の怒りを買ったのである。
当然だ。自らが心の底から信用し、絶対的な忠誠を持った存在、魔族最強の男・魔王ゼル。
彼に対して目の前の人間の男は、“その内 超える”と言うニュアンスの台詞を放ったのだ。
「──ハッ。この場に来たのが、グレンデルじゃなくて良かったぜ。
もしもアイツが今のを聞いていたら、確実に誰かしら死んでいただろうな」
「違ぇねぇ。⋯⋯だが、俺達の目的は、テメェら出迎えだ。
余計な手間を掛けるつもりはねぇ。着いてこい」
同時に手を煽り、ティガとアインへルムは背を向ける。
次の瞬間、セシルガ達は青の結界に包まれ、結界ごと浮かび上がる。
ティガとアインヘルムを先頭に、人類達は魔王城へと高速で向かうのであった。