猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第132話・会議開始

「⋯⋯⋯⋯はッ!?」

 

 ガバッ! と、俺は飛び起きた。

 数秒固まってから、俺は自分が気を失っていた事に気付く。

 そして、その直後。ようやく目の前の光景に意識が向いた瞬間であった。

 俺の魔物としての本能が、全力で警鐘(けいしょう)を鳴らしたのは。

 

「「⋯⋯⋯⋯。」」

 

 男と女。ソファに座る2人の姿に、俺は戦慄する。

 計り知れない威圧感と、それに見合う鋭い眼光。

 

 凄腕の──。圧倒的な──。目を疑う──。

 猛者──。強者──。実力者──。

 

 ⋯⋯いや、ダメだ。

 今までの俺の経験では、コイツらを表現できる言葉が見つからん。

 確実に云えるのは、目の前の2人が“人間”の領域を遥かに越えた存在である事だけだ。

 

「──魔力中毒だよ。⋯⋯私の考慮不足だった、ゴメンね」

 

 幼女が、俺の背にそっと手を添える。

 彼女の口から出た言葉に、俺は大きく動揺した。

 ただ、それと同時に納得させられたのも事実だった。

 『魔力中毒』とは、端的に言えば、魔力の過剰摂取が原因となって起きる現象だ。

 より正しく云うなら、“摂取”といった自ら行う場合でなくても発生する。

 特に、空気中の魔力濃度が異常に高い場所では、魔力中毒の確率は大きく上がる訳だ。

 ⋯⋯だが、魔王城内での魔力中毒の発症なんてのは、考えてもみなかったぜ。

 空気中の魔力濃度の高さで、ここより上の場所はそうそう無いだろうからな。

 

「⋯⋯んもう。今回の会議は、お互いの信頼を確かめる為のものでしょ〜?

 なんでゼル達も冒険者さん達も、出会い頭に殺気を放つのさ〜?

 お陰で、ウチの切り札が可哀想な目にあったじゃないの!」

 

 (おど)けた様子で、幼女がゼル達と人間達の間に立つ。

 彼女の台詞から、俺は自身の身に起こった事態を完全に理解するに至った。

 気を失う直前の俺が最後に見ていたのは、部屋の扉が開いて人影が僅かに動いた瞬間までだった。

 相手側もゼル達も、普段は敵対している関係な訳だし、互いの総大将が会するとなれば⋯⋯

 まぁ当然、出会った瞬間は威圧し合う事から始まるだろう。

 つまりは、俺はその睨み合いの余波に当てられ、そして耐え兼ねて気を失った⋯⋯という感じなのだろう。

 

「──切り札? ソレが?」

 

 その時、1人の老人が俺を指差した。

 長い白髪は丁寧に整えられており、気品のある紺のスーツで身を包んでいる。

 年齢は、見た所80やそこら。ギルバートよりも、いくらか年寄りに見える。

 背後にいる黒スーツの男は、極めて日本人寄りの顔付きをしているが⋯⋯部下か何かだろうか?

 

「エスキラさん、目の前の相手を指差すのは良くない。

 この場は、人と魔のそれぞれに厳粛な態度が求められます。

 ここは一つ、相手が魔物でも優しく、丁寧に⋯⋯」

「あぁ、すまない。君の言う通りだな。──よしよし、良い子だ」

「え⋯⋯ちょ、やめてくれよ。こう見えて子どもじゃないんだ」

 

 断りを入れ、伸びてきた老人の手を躱す。

 今の黒スーツとエスキラという老人の()り取りを見るに、上司と部下という関係ではなさそうだな。

 どちらかと云うと黒スーツの方が偉いか、若しくは、重要な立ち位置にいるっぽいぞ。

 礼儀を重んじているのも日本人っぽいが⋯⋯って、なんだ? 黒スーツがめちゃくちゃ目を見開いてるな。

 

「あ、アリアさん!? 今、この子が喋ったのは、貴女方の仕業では無いですよね!?

 ドラゴン君!! も、もう一度喋ってみてくれないか!?」

「あ、スゥ〜⋯⋯ええと、その⋯⋯こういう遣り取り久し振りで、なんか思い出が色々蘇る気が⋯⋯する?」

「はぁ〜これはこれは! どうやら本当に会話が出来る様だ! アリアさんも意地が悪い!

 彼の事を、もっと早く知りたかったですよ!!」

「いやぁん。事情がね〜あったからねぇ〜、もうホント。

 こーゆータイミングじゃないと、下手にこのコに関わるとオーガに目を付けられちゃうじゃない?」

 

 親しげに話す幼女と黒スーツ。

 話し込む彼らを後目に、俺はこの場にいる他の者達へと視線を向けた。

 エスキラ爺さんは、先程の黒スーツと同じく俺に対する動揺がある様だ。

 ううむ。ガバンからギルバート、ギルバートから爺さんみたいに、情報は上手く流れないのだろうか?

 冒険者ギルドの情報流通は、意外と優秀では無さそうだな。

 ⋯⋯さてと。それは、まぁ置いておこう。今は、観察が重要な2人がいるからな。

 

「⋯⋯何よ、ジロジロ見て」

「それはコッチの台詞でもある。兎に角、自己紹介から。

 俺は名前は紅志(あかし)。ソッチでは猛紅竜って呼ばれてるらしい。

 ベルトンやクローネで冒険者と関わった経験があるが⋯⋯あまり知られてないのか?」

「さぁね。こう見えて多忙な身だから、()()()には関心が無いのよ。

 まぁ、取り敢えず私も自己紹介して⋯⋯って、何?」

 

 言葉を区切り、女性は眉を(ひそ)める。

 その仕草の原因は、会話の途中で脚を組んだ彼女へ、俺が思いっ切り目を開いた事だろう。

 いや、もうホント。下心では無いのだが、それでも見入ってしまうのだ。

 ⋯⋯その、ナニとは言わないが、先程組んだ脚の、その、あの⋯⋯“上”の部位に。

 敢えて。敢えて一言だけで表現するなら、コレに尽きる。

 

 ふっっっっっっっと!! と。

 

 いや、まぁでっっっかい点にも視点が行くのだが、それ以上にふっっっっっっとい。いやホント、マジでマジで。

 

「え、ちょっと。本当に何をジロジロ見てんのよ?」

「いやぁ、凄い健脚だなぁと思ってなぁ。ウンウン。

 俺って、こう⋯⋯脚の筋力が特長だし? 健康そうな脚を見ると、つい見入っちゃう的な? 感じだったり?」

「あら⋯⋯そうなの? それなら⋯⋯まぁ、そうね。

 貴方は魔物だしね。まさか、人間相手に下心なんて無いでしょうし──」

「あぁ、そのコは人間だよ? “以前までは”、だけど。

 燗筒(かんとう) 紅志(あかし)、25歳。健康で活発、元気のある日本男児だ♪」

「「──えっ??」」

 

 俺と女性は、同時に幼女に振り向く。

 幼女のカミングアウトに大量の冷や汗を流す俺に、目の前の女性はゆっくりと振り向いた。

 続いて俺も、ギギギ⋯⋯と恐る恐る彼女の方へ向いてみる。

 そこには、物凄く冷たい視線で俺を見つめ、武器らしきモノに手を掛ける女性の姿があった。

 

「──気になる事は色々あるけど、取り敢えず“ニホンダンジ”⋯⋯つまり、“男児”って事よね?」

「エイ、ヨウ、チル! チル! イッツアメリカンジョーク!」

「紅志、コッチの人達に英語は通用しないよ?」

「幼女⋯⋯悪あがきは誰だってしたいもんだぜ?

 というか、なんでわざわざカミングアウトしちゃうんだよ」

「下心、ヨクナイ」

 

 正論パンチをかまされ、額に流れる冷や汗が増える。

 マジでやばい。ちょっと本当に殺されるかもしれん。

 

「まぁ、落ち着け。デカモモ」

「は!? 誰がデカモモですって!?」

「お前以外いるか⋯⋯よっ! と」

「ちょっと!? アンタ殺すわよッ!?」

 

 突然割り込んできた男が、女性の膝を叩く。

 女性に胸ぐらを掴まれる男は、余裕そうに笑ってみせた。

 一見するとギャグなのだが、魔王とその幹部が勢揃いの場所でやるあたり、尋常ではない胆力である。

 

「──俺はセシルガ、こいつはセイリス。どっちも冒険者だ。

 お前の事は、お前が気を失っている間に少しだけ聞いた。

 魔王の幹部共に稽古をつけてもらってるんだって?」

「え⋯⋯あぁ、まぁそうだ。中々大変なんだぜ」

「フ〜ン? 俺からすりゃあ、羨ましい限りだがなぁ。

 こんなに強え連中が常にいるんだ。いつでも手合わせできるじゃねえかよ?」

「俺はそこまでの次元じゃないんだよ。基礎鍛錬を仕込まれてるってだけだ」

「なんだ、そうなのか? ハハハ、てっきり毎日殴り合いでもしてんのかと思ってたぜ」

「ハハハ⋯⋯」

 

 あぁ、今の会話だけで理解した。こいつマジでやばいな。

 ティガやグレンデルを前にして、殴り合いをするという考えが浮かぶアタマもぶっ飛んでるが⋯⋯

 会話の内容以上に、コイツから伝わってくる雰囲気に恐ろしく寒気がする。

 多分だが、ゼルと初めて会った時よりも大きな悪寒を感じるぜ。

 ⋯⋯ただ、少し考えれば、それは当然なのだろう。

 幼女からこの男女については、ある程度話は聞いていた。

 セイリスは置いといて、この男。セシルガは、なんでも人類の中で【最強】の称号の持ち主らしい。

 そして、彼は冒険者であると。

 魔族という一応は魔物寄りのゼルとは違い、コイツは根本から魔物と敵対している人間だ。

 ⋯⋯一体、何千、何万の魔物を殺してきたんだかな。

 もう、身体の隅々にまで、魔物の返り血を浴びたのだろう。

 

 ──だって、感じるんだもの。

 僅かな血の匂いと、人間である筈のコイツの魔力が、魔物のソレに酷似している事を。

 

「──さて、そろそろ始めようぜ。人間共」

「⋯⋯よかろう。我々の信用を勝ち取ってみせろ、魔族」

 

 ゼルとエスキラが、静かに睨み合う。

 人と魔。それぞれの命運を掛けた会議が始まった。

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