猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第133話・人魔会議①

 俺、ゼル、幼女。

 その並びでそれぞれ一人掛けのソファに座り、テーブルを挟んでエスキラ達と向き合う。

 彼らにもソファが用意されていたが、黒スーツの男だけは中央のテーブルの真横に座っていた。

 今の所、正体不明な人物ではあるが、恐らくこの会議の見届け人の様な立場なのだろう。

 パッと見では、ただの人間にしか見えないが⋯⋯一体、何者なんだろうか。

 

「⋯⋯まずは、今回の一件の原因について話そう。

 以前にも話した通り、黒幕は“偽神オーガ”という者だ」

 

 ソワソワする俺を傍目に、幼女が話を始める。

 ⋯⋯まぁ別に、彼女も『特に何かをして欲しい訳ではない』って言ってたしな。

 会議の内容自体には大して興味無いし、静かに傍観して時が経つのを待つとするか。

 

「彼の目的は、この星に存在する総ての生命を絶滅させる事。

 そして、それの達成の為に私を殺す事だ。

 つまり、この前の人類襲撃は、私を炙り出す為の行為だったという訳で⋯⋯

 人類に被害が及んだのは、私に全ての原因がある事になる」

 

 真っ直ぐな眼差しで、幼女はエスキラ達に語る。

 俺は、思わず身構えていた。

 幼女の台詞は、このタイミングではかなり不味いモノであると考えたからだ。

 手を取り合うのが目的の会議で、被害の原因は此方であるというのは⋯⋯なぁ。

 俺だったら、幼女の素直な眼差しを信じて言葉を理解しようとするかもだが⋯⋯

 それは、あくまで第三者の視点で考えればの話だ。

 エスキラやセシルガ達の立場で考えた時に、同じ様な考え方が出来る自信は俺には無い。

 

「⋯⋯多くの国々が襲撃を受けた中、異様な迄に被害が少なかった地域がいくつもありました。

 該当地域のギルドの者達に問い合わせてみると、皆が口を揃えて言った。『白い少女に助けられた』と。

 ──感謝します。貴女には多くが助けられた、アリアさん」

白厳(はくげん)。⋯⋯いや。私は、感謝される様な事はしてないよ。

 もっと用心深く、私がオーガの思考を理解出来ていれば、こんなに被害が出る事は無かったんだ」

「貴女がそんな風に落ち込むとは意外だ。らしくない。

 貴女の持つ最も優れた武器は、いつもの素敵な笑顔である筈ですよ」

「⋯⋯本当、君には敵わないよ、白厳」

 

 ハクゲンと呼ばれた男は、温かい声色で幼女を慰める。

 彼の言う通り、幼女が落ち込むなんてのは意外だったが⋯⋯はて、ちょっと待てよ?

 ハクゲン? どっかで聞いた名前だよな。どこだっけ?

 ハクゲン、ハクゲンん〜⋯⋯

 

「──さて、会議に戻りましょう。

 オーガについて、彼らに説明をお願いします。アリアさん」

「よし分かった。じゃあ、今後のオーガの行動パターンの分析から始めよう」

 

 俺が頭を傾げる中、会議は進行する。

 エスキラもセシルガ達も、話に意識を注いでいる様だ。

 ⋯⋯しっかし、俺はどうかと聞かれれば。“ハクゲン”の単語に脳みそをフル回転させていた。

 絶対にどこかで聞いたハズなんだがなぁ⋯⋯

「──一つ、聞いておきたい事がある」

「何か? エスキラさん。大抵の事は答えるけど⋯⋯」

「今後、そのオーガが再び人類を襲撃する可能性は?」

「⋯⋯大いにある。今回の会議では、それの対応策についても提案があるんだ」

 

 エスキラは俯き、テーブルに両肘をついて手を組んだ。

 まぁそりゃあそうだろう。あの惨劇がまた起こるだなんて話は、言葉に出来る苦悩ではない。

 対応策があるとはいえ、被害がゼロがなる訳でも無いだろうしなぁ。

 ⋯⋯それはそれとして、ハクゲンって誰だっけな?

 

「──この魔王城とその周囲は、外界からの認識が不可能になっている。

 だからこそ、私とゼルが貴方の所に行った時、ここに辿り着ける道程を教えたんだ」

「⋯⋯道理で。いつまでも城が見えて来なかった訳だ。

 そちらの部下に出迎えられなければ、今も彷徨って居たかもしれなぬな」

 

 ⋯⋯えっ? ちょっと待て、そうだったのか?

 魔王城周囲は、外から見えないって⋯⋯

 いや、思えば確かにな。俺が初めてここに来たのは、魔王本人が傍に居た記憶がある。

 魔王城から離れる時も、基本的には魔王幹部と共に行動してたし⋯⋯

 まぁ俺は、そもそも魔王城の領域から遠く離れた場所まで行った事も無いけども。

 

「──それで? 今の話が何だと言うのだ?」

「認識が不可能とはいえ、だ。私がある方角へと消えたとなれば、次はそちらを重点的に調査するだろう。

 以前、私がオーガと会った時、私はワザと目の前で撤退してみせた。律儀に、丁寧に、小細工無しで。

 つまり、私が逃げる方角をオーガに確認させたんだ。

 ──次回の襲撃で、彼の()()()を狭めておく為にね」

「「「⋯⋯⋯⋯!!」」」

 

 幼女の言葉に、室内の多くが反応する。

 彼女が言いたいのは、つまり“オーガの行動範囲を限定した”という事だ。

 そうとなれば、此方も対応する範囲に戦力を集中させる事が出来る⋯⋯と。

 

「──ちょっと待ちなさいよ。それはおかしいいんじゃない?

 オーガの思惑が全人類にも関わっているとはいえ、貴方達の都合で他の冒険者にまた戦えというのは⋯⋯

 あの襲撃を経験した冒険者達が負ったのは、身体の傷だけでは無いのよ?」

 

 セイリスが、鋭い意見を述べる。

 人類側であるなら、至極当然な考えで出てくる言葉だろう。

 ⋯⋯とはいえ、この場では流石にピリつくが。

 

「それについては──」

「あァ? なんだテメェ。襲撃で死んだ人間共は、弱ぇえから死んだんだろ? コッチの知った事かよ」

「⋯⋯何ですって?」

 

 割り込んできたティガに、セイリスが眉を(ひそ)める。

 部屋の隅にいたティガは、背を壁で弾く様に前へ出る。

 ⋯⋯不味いな。「魔王幹部最強」の名を持つティガの煽りだ。

 人類側からすれば、ここで引いては格好が付かないだろう。

 ティガとしては平常運転なんだろうが⋯⋯ここでは勘弁して欲しいぜ。

 

「──ティガ、今はやめて」

「ンだよ、おかしいだろ? 自分らが弱ぇのが被害の原因だっつうのに、俺らが悪者みてぇじゃねぇか」

「ハッ! 確かに、そりゃあ言えてんなァ」

「アインヘルムまで⋯⋯。いい加減、怒るよ?」

 

 ⋯⋯あ、コレやばいわ。

 既にセイリスは武器に手を掛けているし、エスキラは額に青筋が入って、セシルガは⋯⋯何か楽しそうだな。

 自らは事を起こさなそうだが、何か起きればいち早く参加するタイプだろう。

 

「──魔王の手下共が。言わせておけば⋯⋯!!」

「エスキラさん、貴方がここで平静を失ってはいけない。

 まずは深呼吸をして⋯⋯」

「我々の、人類の努力がこんな連中に笑われている!!

 ここで引き下がっては、ギルド最高統括者として恥だ!!」

 

 声を荒らげるエスキラは⋯⋯って、何だと!?

 ギルドの最高統括者だって!? そんなのが⋯⋯

 いや、まぁそれ程の人間でなくてはこの場に相応しくないが⋯⋯うーむ。

 それなら、このジジイは何やってんだ? 恥だと??

 

「やーい、やーい。オイボレの血圧が上がってるー」

「こら、ギルル!! ⋯⋯もう皆、一旦静かにして!!

 ゼル、貴方がこの子達を収めなくてどうすんの!!」

「まぁ、血気が盛んな時期だからな。静かに見守るのが、オトナってヤツだ」

「言ってる場合?!」

 

 ⋯⋯はぁ。なんなんコイツら。

 あまり目立つ気は無かったが⋯⋯ちょっと酷すぎるな、このメンツ。

 アリアもゼルも、その気になれば威圧で場を収められるのだろうが、状況が状況だ。

 エスキラ達を下手に刺激すれば、信頼関係の構築は難しくなるだろう。

 

「上等じゃない、ここで始めてもいいわよ⋯⋯!!」

「オウ、掛かってこいや。やるぜ、オメーら!!」

「しゃアッ!!」

「わーい。人間相手なら僕もやるーっ」

 

 あー、あー、最悪だ。

 こうなったら仕方無い。本当は嫌なんだが⋯⋯分からず屋はすこぶる嫌いだ。

 特に、世の中の状況を理解してない馬鹿共は。

 

「皆さ──」

「お前らちょっと黙れぇッ!!」

 

 俺は、目一杯に叫んだ。

 ハクゲンが何か言おうとしていたが、どうせ空気は変わらなかっただろう。

 ここで声を上げて一番注目を浴びるのは、間違いなく俺だ。

 少なからず、一瞬の静寂は生み出せる。

 その間に、伝えたい事を伝えて分かってもらうしかない。

 ⋯⋯思わず口調が荒くなったのは、もう諦めよう。

 会議が終わったら殺されるかもしれないが、俺の命一つでコイツらが纏まってくれるなら、まぁいいか。

 

「⋯⋯あ、紅志、お前そんなキャラだったか?」

「いいってそれは! ⋯⋯ったく。お前もアインも、ギルルも。遊んでる場合じゃねぇんだよ!! 今は!!」

「「⋯⋯⋯⋯。」」

「フン! 魔物の言う事を素直に聞くとは、貴様らは──」

「おめぇも黙れジジイ!! 何が最高統括者だ!!

 本当に世の中の人々の事を思ってんなら、この場で感情的になる事が間違いなのは分かんだろがァ!!」

「む⋯⋯うぅ、」

 

 シーンと、静寂が室内を包む。

 やばい。この後の言葉を考えていなかった。

 全員に注目されている手前、何か台詞を捻り出さないと気まずさで死ねるぜ。

 

「──フフ⋯⋯ハハハ!!」

 

 突然、ハクゲンが笑い出す。

 愉快げなその様子に、全員の視線が彼に移動した。

 

「全く、なんて素敵な方だ。伝え方に難はありますが⋯⋯それでも、私が言おうとしていた事を全て言ってくれた」

「白厳? 貴方が言おうとしていた事を⋯⋯?」

 片眉を吊り上げる幼女は、驚いた表情を浮かべる。

 何が何だが分からんが、兎に角 俺はさっさとフェードアウトしよう。

 ここはアリアとハクゲンに任せて、後は会議後にティガ達にリンチされない事を必死に祈るしかない。いやガチで。

 

「──さぁ、仕切り直しです!!」

「⋯⋯しゃあねぇ。紅志と白厳に言われちゃあなァ」

 

 ティガの台詞に、アインもギルルも引き下がる。

 ⋯⋯やれやれ。本当に何とかなってよかったぜ。

 1番ヤバそうなのが、いい加減 痺れを切らしそうだった事だしな。

 

「⋯⋯⋯⋯フンッ」

 

 グレンデルが、静かに鼻を鳴らす。

 はあ〜おっかねえ。ひい〜おっかねえ。

 俺だって気付いているんだぜ? 真に「魔王幹部最強」なのが、実際にはアンタだって事にな。

 恐らくだが、ティガはその性格上、戦った相手を見逃す場合がある。だからこそ、その名が広がっている訳だ。

 そう、【豪拳(ごうけん)】という異名がつく程にはな。

 対してグレンデルは、そんな異名は持っていない。

 それが意味する事は、つまり⋯⋯

 

「⋯⋯なんだ?」

「いや⋯⋯なんでもない」

「なら、そのツラを俺に向けるな」

 

 ⋯⋯本当、おっかねぇな。

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