猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第135話・人魔会議㊡

「──つ、つまり、あの襲撃による犠牲者は帰ってくると!?」

 

 驚愕を表情に、エスキラは声を荒らげる。

 フィリップや神の役割等の話まで、常に腕を組んで難しい顔をしていたエスキラだが、途中で一転。

 幼女が“生き返り”の話をした途端、食いつく様に前のめりになったのだった。

 

「その通り。“事情”があって、まずは冒険者達の蘇生を優先するつもりだけど⋯⋯」

「も、もう何でも構わん!! 犠牲となった者達が帰ってくるならば、何だっていい!!」

 

 眉を(ひそ)めつつ、それでいて口角を上げるエスキラ。

 同じく話を聞いていたセシルガやセイリスも、流石に目を見開いて驚いた様子だ。

  

「⋯⋯ただ、だからと言って楽観して欲しい訳じゃない。

 “生き返り”が可能とはいえ、それが成せるのは私だけだ。

 今回のオーガの件に甘んじて、いつか再び人類に大きな厄災が降り掛かった時。私に助けを求められても、必ずしも同じ対応が出来るとは限らないから」

 

 少しだけ、幼女は語気を強めて言う。

 彼女の言葉と眼差しに、エスキラ達も態度を改めた。

 まぁ“甘えるな”と言いたいのは分かるが、その表現の仕方は幼女らしいな。

 

 ──必ずしも同じ対応が出来るとは限らない──

 

 その台詞は、自分への保険の様に聞こえる。

 幼女は優しいからな。他人に頼られた時、自ら断れないのを踏まえた上での言葉だろう。

 

「──さて。ここら辺で、一度おさらいをしましょう。

 双方の話を踏まえて、今後の方針と課題の提示をしつつ⋯⋯」

 ハクゲンが、何やらゴソゴソとしながら話を進める。

 足元に置いていた革製のカバンを漁りながら⋯⋯って。

 は? なんだ今の。明らかに、カバンの厚みより深い所まで腕が入っていたぞ?

 間違いか? この距離で? ドラゴンの目を持ってして?

 ⋯⋯いや、ンなワケあるかいな。

 

「白厳。貴方⋯⋯何をやってるの?」

「いえ、この際ですからね。親睦を深める1歩として⋯⋯」

 

 首を傾げるセイリスに、ハクゲンは笑いながら振り返る。

 彼の行動に部屋の全員がハテナを浮かべる中、当の本人はカバンから腕を引き抜く。

 その両手に握られていたのは、魔法陣が描かれた板と大きなフライパンであった。

 

「──皆さん、ご一緒に昼食でもいかかでしょう?」

「「「「「⋯⋯は?」」」」」

 

 

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 ハクゲンの提案により、皆で飯を食う事になった。

 多分、この星の歴史上で1番不可解なメンツで。

 エスキラ達は山に、ティガ達は平原に。ゼルとアリアは、それぞれの付き添いで食材の調達へ向かった。

 まぁ監視の目が無ければ、万が一面倒事が起こった時に⋯⋯って、そうじゃない。そもそも何だ、この状況は。

 

「⋯⋯あ、あのう?」

「はい。なんですか?」

「なんで、俺達だけここに残って下ごしらえを⋯⋯??」

「まぁ魔王城の周囲は危険が沢山ですからね。私らでは、同行するだけ足でまといでしょう?」

 

 ⋯⋯いや、まぁそう、そうなんだが⋯⋯そうじゃない。

 そもそも何で飯を食う事にって聞いてんだが⋯⋯聞き直せる雰囲気ではないな。

 やれやれ。こうなってはしゃーなしだ、しゃーなし。

 ハクゲンに気になってた点もあるし、適当に話して時間を潰すとするか。

 

「──ハクゲン⋯⋯さん。アンタって、どんな立場にいるんだ? 幼女やゼルとも親しそうだったが⋯⋯」

「幼女? アリアさんの事ですか? 彼女を幼女呼びとは、ユニークな方だ。

 まぁお答えします──が。その前に、私からもいくつかよろしいですか?」

「⋯⋯?」

「まず1つ。モノを聞く時は、自分を名乗ってから。

 2つ。初対面の相手に、『アンタ』は良くない。私は気にしませんが、全員がそうとは限らないのでご注意を。

 3つ。同様の理由で、タメ口も相手を不快にする場合があるので、今後は意識するようにすべきです」

「え、あっ、その、すいませんでした。気を付けます⋯⋯」

 

 ハクゲンの説教に、俺はペコりと頭を下げる。

 言われてみれば、俺は今まで“相手が気にしてない”という事と“魔物だから”という理由で、礼儀なんて忘れていたかもしれない。

 なんというか、久し振りに真っ当な説教を受けたせいで、感動すら覚えるな。

 謙虚で清楚。いやはや、日本人の心を思い出したぜ。

 

「よろしい。──では、最後にもう1つ。私は、大城(おおしろ)白厳(はくげん)

 恐らく、貴方と()()の人間ですが⋯⋯『アメリカ』という言葉に聞き覚えはありますか?」

「アメリカ? そりゃあ、まぁ知ってますケド⋯⋯

 生まれも育ちも日本です。名は、紅い志と書いて紅志(あかし)です。

 1998年生まれの25歳で、コッチに来たのは1年経たないくらい前です」

 

 う〜ん、丁寧な自己紹介なんてホント久し振りだな。

 特に、日本人である事も含めて言うのは、中々無い機会だ。

 ⋯⋯しっかし、同じ日本人なら、どうしてアメリカを知っているかだなんて聞くんだ?

 どうせなら、『日本を知っているか?』でいい気が⋯⋯

 っと? いや、ちょっと待てよ? そういう事か。

 そうか。考えてみれば、そりゃあそうだな。

 転生者という存在が発生する理由は不明だが、シンプルに考えて日本人だけが転生の該当とは限らないか。

 寧ろ、母数の多いアメリカ・中国の人間の方がこの世界に転生しているのかもしれない。

 

「1998年生まれという事は⋯⋯フフ、知っていますよ?

 私が転生したのは、紅志さんより約50年前ですが⋯⋯

 今は、“平成”なんでしょう? えぇ、知っていますとも」

 

 自慢げな表情で、白厳は言う。

 うーむ。ここは、正直に言うべきだろうか?

 いや、まぁ⋯⋯言うべきなのだろう。白厳の台詞を考えて、彼が出会った最新の転生者が俺なんだろうから。

 今後、彼に恥をかかせない為にも、俺が教えておくべきだ。

 

「2019年、5月1日⋯⋯」

「それが、何か⋯⋯?」

「“令和”元年です。昭和、平成ときて⋯⋯その、“次”が」

「えっ」

 

 僅かに声を発し、白厳は固まった。

 なんというか、ショックと驚愕を味わった表情だ。

 まぁ俺も、最新だと思っていた情報が、一歩遅れていたモノだったと知ったらな。こんな風になるかもな。

 

「──ど、どんな漢字で書くんです!?」

「命令の“令”に、平和の“和”で⋯⋯」

「はぁー令和!! 令和ですか!! 成程成程!!」

 

 倒れる様な勢いで、白厳は首を後ろに反らせる。

 しばらく感慨にふけた白厳は、鼻で深呼吸をしてから首を戻す。

 そして俺を数秒見つめた後、彼は再びを口を開いた。

 

「──最近の日本国は、どんな様子でしたか?」

「さぁ? 俺も、ごくごく一般の人間だったもので。

 俺が死んだ頃は、新型のウイルスが世界中で蔓延してたけども⋯⋯」

「それ、大丈夫なんですか?」

「⋯⋯さぁ?」

 

 2人して腕を組み、揃って首を傾げる。

 もう関わる事の無いであろう故郷ではあるが⋯⋯。やはり、気になるものは気になる。

 とはいえ、人間は強かな生き物だからな。

 今頃は解決してるか、若しくは関心を持たれる事が無くなってそうだ。

 

「まぁいつかは真実が知れる事を祈りましょう。

 ──さて、本題の“私の立場”についてですが⋯⋯こういう者です」

「ン⋯⋯?」

 

 白厳は、1枚の小さな紙切れを俺に渡した。

 『人材派遣会社 うた』。そう書かれた名刺の端には、白厳の名前もある。

 どうやら、人事の代表という事らしいが⋯⋯はて?

 人材派遣会社の人間が、どうしてエスキラの様な大物と(つる)んでいるんだ?

 なにより、幼女やゼルとまで知り合いである訳は一体⋯⋯

 

「転という字には、“うた”という読みがあるのをご存知で?」

「あぁ⋯⋯転寝(うたたね)とかの?」

「そうです。──この人材派遣会社というのは、あくまで表向きの顔でしてね。

 その実体は、“転生者で形成された組織”なのです。

 名を、【転生者組合】。転生者の“発見”を目的とした組織です」

「発見? それはまた、どうして⋯⋯」

 

 尋ねる俺に、白厳は指を組む。

 静かに俯く彼の表情はどこか暗く、話す事に抵抗がある様に見えた。

 

「──全ての人間が、恵まれた状態で転生する訳ではない。

 仮に能力に恵まれていても、本人がそれに気が付けない場合もある。

 家系や地域や生活⋯⋯。他にも理由はありますが、全員がその環境に適応できるとは限らないのです。

 逆に、恵まれた能力に自惚れ、人々に大きな損害を与えてしまう者もいる」

「確かに⋯⋯。俺だって、何かに恵まれた訳じゃないし。

 初めからあったは、この五体だけだったぜ⋯⋯」

「ええ。まぁ貴方は、優秀な精神力があった様ですが。

 ⋯⋯さて。我々【転生者組合】の仕事ですが──」

「うーぃ。帰ったぜー!! 飯だ飯ィ!!」

 

 勢いよく扉が開き、ティガが現れる。

 俺と白厳の肩に腕を回して激しく揺らしながら、ティガは天井へと手を掲げた。

 直後、彼の手の先に魔力の弾が発生。高いエネルギーが凝縮されたソレを、ティガは思い切りぶちかました。

 見事に吹き飛んだ天井の先の上空には、呆れ顔のゼルと、巨大な骨付き肉が大量に浮かんでいる光景があった。

 

「おいコラ! ティガお前バカ! ブッ飛ばすぞコラ!!」

「いいじゃんかよ〜こうした方が広いぜ〜?」

「魔王様、ここはお任せを。あのド阿呆を、俺がブチ殺してきます」

「え〜、いいじゃんグレンデル〜。どうせこのお肉部屋に入んないもん」

「黙れギルル!! それとこれとは別だ!!」

 

 ブチギレ中のグレンデルは、大声で荒ぶる。

 彼の魔力の奔流で俺と白厳が揺らされる中、ゼルはグレンデルを(なだ)めながら肉をアインへとパスした。

 

「おい、アイン。この肉焼いとけ。イ〜イ感じで頼むぜ」

「おっ。魔王サマ、俺に任せちゃう〜? プロだぜ〜?」

「おう。あのジジイの分は生焼けか黒焦げにしとけよ」

「──聞こえとるぞ! ミディアムにしろ!!」

 

 ゼル達に続き、エスキラの声が魔王城の外から聞こえくる。

 消し飛んだ天井から顔を覗かせてみると、大量の山菜を背に腕を組むエスキラの姿があった。

 キノコ類や香草類は勿論、ゼンマイの様な植物も見受けられる。

 だが、何より俺の目を引いたのは、セイリスに担がれる小山程に巨大な魚だ。

 20⋯⋯いや、30メートルはあるだろうか。

 クジラくらいデカいくせに、見た目だけは普通のマグロかカツオの様な形だ。美味そうな見た目しやがって。

 

「──紅志さん。また今度、じっくり話しましょう。

 私も、今の日本の様子が気になる。ただ今は、この会議を何事も無く終わらせる事に集中したい」

「あぁ。俺も【転生者組合】の話をまた聞かせて欲しい。

 オーガの件が片付いたら、また会おう。⋯⋯あ、会いましょう」

「ふふ。言いましたよ? 私は気にません、と」

 

 革カバンを漁りつつ、ハクゲンは優しく笑う。

 小さな紙袋を取り出した彼は、俺にそれを渡した。

 どうやら、コーヒー豆が入っている様だ。

 

「──知り合った人には、お渡ししているんですよ。

 迷惑でなければ、是非。とても美味しいコーヒーなんです」

「ありがとう、貰って置く。出会いの記念にするぜ」

 

 受け取った紙袋を、俺は軽く掲げる。

 肉が香ばしく焼ける匂いが漂う中、俺と白厳は静かに笑みを浮かべるのだった。

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