猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第136話・人魔会議③

「──では、今後の方針について纏めましょう」

 

 全員に食事が並んだタイミングで、白厳が口を開く。

 アホみたいな量の飯で前が見えないが、取り敢えず耳を傾けとくとするか。

 

「まず、本日以降の人類の方針からです。

 事前にゼルさんとエスキラさんが付けておいた段取りを踏まえ、私が筋書きを考えました。

 “魔王軍による人類襲撃に対し、人類の主力であるセシルガとセイリスが魔王城へ出陣。そして交戦。

 2名の帰還後、魔王軍による襲撃は止まないものの、その被害は大幅に減少した”⋯⋯と」

 

 骨付き肉を片手に、俺は白厳の説明を聞く。

 人類側に都合が良いシナリオな気もするが、まぁ前回の襲撃の被害を考慮すれば、この程度はいいのかね。

 ⋯⋯しっかし、これ何の肉だ? めっちゃ柔らかくて美味いんだが。食えば食うだけ腹が減るぜ。

 

「──今回の会議に関しては、一般に公表はしません。

 まぁ私としては、人類と魔族の為を考えて大々的に発表したいですが⋯⋯」

「いや。悪ぃが断るぜ。どうせ、いつかやり合う間柄だ」

「ええ、そうでしょう。今回ばかりは引き下がります。

 その代わり、水面下では互いの強固な連携が重要になりますので、その点はご留意ください」

「⋯⋯強固な連携? ンなモン、そこまで重要か?」

 

 モグモグと頬を動かしつつ、ゼルは片眉を吊り上げる。

 確かに、彼の言う通り、「強固な連携」の必要性はそこまで感じられない気もする。

 どうせ、ゼル達魔族は人類と表立って共闘したくない訳だし、連携もヘッタクレも無い様な⋯⋯

 

「──先にお伝えした通り、今後のオーガの襲撃への対応策では、安定した戦力の供給が求められます。

 特に、各地点の魔力感知に反応があった後は、その情報を味方へ通達し、そして行動を開始するまでの速度が最重要です。

 魔力感知の展開者が、人間である場合にしろ魔族である場合にしろ、互いに不信感があっては確実に遅れが生じる⋯⋯。

 私が伝えたい事、お分かりですね?」

「⋯⋯ハッ! ホントに大した人間だぜ、お前はよお。

 ──いいだろう、よく分かった。魔王軍(ウチ)の連中には、キツく言い聞かせておくぜ」

 

 にやりと笑うゼルに、白厳も同じ様に口角を上げる。

 恐らく、白厳の台詞の真意は、『オーガに遅れを取る可能性がある』的なものだろう。

 無論、魔王軍を率いているゼルとってそれは、間違い無く避けたい出来事だ。

 とはいえ、それを踏まえても、ゼルに直接意見が出来る胆力は俺には無いがな。

 

「──では、総括に移りましょう。

 公の流れは、一連の出来事は魔王軍の仕業であり、セシルガさん達がそれに対応。

 以降の襲撃の被害を大幅に減少させた事で、一般市民と一般冒険者の士気を回復。

 被災した各地の復興に尽力していただく事を目標とします」

 

 白厳の言葉にエスキラやセイリスが頷く。

 人類側は、どうやら意見が纏まった様だ。

 ⋯⋯さて、続く魔族側はどうだろうか。

 

「──人類が復興に専念する状況を作った一方で、ゼルさんとアリアさん達には打倒オーガに集中してもらいます。

 そして、今後の黒異種・黒異人(コクト)襲撃に対しては、先程にお伝えした作戦の決行を目指して進めましょう」

 

 頷く幼女とゼルに、ティガ達も納得した表情を見せる。

 調子に乗って、魔王軍に攻撃を仕掛けよう、なんて連中もいるかもだが⋯⋯

 それに関しては、この場にいるエスキラの出番か。 

 ⋯⋯しかし、“人類が復興に専念する”という点を、こんな風に利用するとはな。

 この白厳という男、他人からの信頼も厚く、個人的にも気に入った人物ではあるが⋯⋯。先を読む才能が恐ろしいな。

 

「それでは、本日の会議は以上としましょう。

 アリアさん。後日、また我々で詳細を詰める事に⋯⋯」

「──待て、白厳。一つ、最も重要な事を忘れているぞ」

 

 場を締めようとした白厳を、エスキラが止める。

 何か話がある様だが⋯⋯一体なんだろうか。

 初めよりは表情から険しさが無くなっているが、今の一瞬でまた少し固くなったな⋯⋯

 

「何だよジイさん。話はした、飯も食った。後は帰って寝るだけだぜ?」

「魔王ゼルよ、同じ場でお前も聞いていただろう?

 そこにいる星廻龍アルノヴィアから、人類を信頼させる“証拠”を見せる、と」

「あぁン? ⋯⋯あぁ。そういえば、そうだったな。

 アリア、さっさと済ませろよ。俺ぁ、もう寝るぜ」

 

 大きな欠伸をしながら、ゼルは部屋を出る。

 一瞬、幼女が引き留めようとしたが、直後に呆れ顔に変わって溜息を付いた。

 ただ、同時に安堵も含まれた表情にも見える。

 ⋯⋯成程。確かに、ゼルが部屋を去った事は、幼女にとってメリットだろう。

 

「エスキラさん、言っておく事がある」

「⋯⋯何だ?」

「貴方達を信頼させる証拠。──そんな物は、無い!」

 

 高らかに言う幼女に、エスキラは口を半開きにする。

 幼女の台詞をどうにか理解している様だが、納得に至るまでは苦戦しているらしい。

 かくいう俺はと聞かれれば、そんなエスキラの様子に内心で笑っているがな。

 なんせ、俺は幼女の言葉の意味を知っている。

 この会議が始まる直前。あの草原で、幼女は予め俺に言っていた──⋯

 

 

 

『⋯──正確には“物体としては存在しない”って感じだけどね。

 今回の会議は、魔王本人、魔王幹部全員、加えて私達までいた訳だ。

 向こうから見たら、勿論“敵”と見えてる連中がね。

 敵が勢揃いしているにシチュエーションで、誰1人死ぬ事無く会議が無事に終了した⋯⋯。

 その事実こそが、彼らに魔王軍を信頼させる証拠となるんだよ──⋯』

 

 

 

 ⋯──本当、彼女のお人好しは否めないが、信頼を築くという点ではこれ以上無い状況だ。

 それを考慮して、ゼルがエスキラ達の前で目の前で出ていったのは、アリアからして有利な事だろう。

 少なからず、ゼルが人類に強い敵意が無いという証明になるからな。

 

「ば、莫迦な⋯⋯。そんな事が、本気で通用すると思って、我々をここへ呼び寄せたのか⋯⋯?」

「勿論。今のシュチュエーションこそが、私達を信頼してもらう何よりの証拠だよ」

「⋯⋯ふ、ふふ、ふははは!! まさか、そんな事を考えていたとは!! 面白いぞ、アルノヴィア!!」

「それはどうも♪ ⋯⋯で、そっちの回答は?」

 

 派手に笑うエスキラに、幼女は指を組んで尋ねる。

 戯ける素振りこそ見せているが、その瞳は明確に鋭利な光を放っていた。

 エスキラの回答次第では、争い事とまではいかないが、少々面倒な事になるのは間違い無いだろう。

 

「──結構。今回だけは、お前達に付き合うとしよう。

 セリイス、セシルガ。何か意見や異論はあるかね?」

「⋯⋯こうなったらヤケよ。付き合うわ」

「ンま、俺ぁ強え奴とヤレんならそれでいい。ノるぜ」

「双方、結論は出たようですね?」

 

 エスキラ達の意見が纏まるのを見て、白厳はすかさず動く。

 懐からA4程の紙を1枚取り出した彼は、それをテーブルの上に置いた。

 『人魔休戦協定』。そう大きく書かれたその紙に、全員が視線を落とす。

 まるで、この会議の結末を見越していたかの様に、『人類代表』と『魔族代表』と書かれた空白が開けられていた。

 どうやら、サインか何かを書くスペースらしい。

 

「この私、大城(おおしろ) 白厳(はくげん)が見届け人です。──では、」

「ゼルに変わって、私が書くよ。何か問題はある?」

「いいんじゃね? 別に」

「あァ。ボスなら気にしねぇだろ、多分」

「うん。いーいんじゃない? 知らないけど」

 

 アリアの質問に、幹部達はそれぞれの回答する。

 全員確証があるワケでは無さそうだが、彼らの立場であれば、俺も同じ感じで答えていただろう。

 だって、あのゼルだもんな。どうせ、『好きにしろ』とか『興味無ぇ』とか言って、ヒトに任せるのがオチだ。

 まぁ手短に済むんなら、ソレはソレでいいと思うがな。

 

「──で、グレンデルはどうなの?」

「フン⋯⋯」

 

 おっとイカン、そうだった。一番肝心なのが居たぜ。

 コイツの回答次第では、この場の全員の協力で黙らせるしか無くなるが⋯⋯

 さて、どうなるだろうか。

 

「どうでもいい。俺の知った事か」

「はい、おっけい。んじゃ、サインしよう」

 

 興味の無さそうに、グレンデルは腕を組む。

 一波乱に身構えていたが、どうやら杞憂に終わった様だ。

 ⋯⋯しかし、『どうでもいい』とは意外だったな。

 アイツの事だから、ゼルが自ら意思決定していない物事には反論すると思っていたぜ。

 案外、ティガ達と同じ⋯⋯。いや、どちらかというと、ゼルと同じ思考なのかもしれないな。

 

「うむ」

「うんっ♪」

 

 サインを書き終え、エスキラと幼女は頷く。

 人類と魔族が、初めて公式に手を組んだ瞬間であった。

 まぁ形としては公式というだけで、それ自体は非公式の出来事ではあるが。

 魔王軍は置いておいて、人類は寧ろ今日以降が本番だろう。

 各地の復興、冒険者達の統制、次なる襲撃への準備──。

 課題は山積みだ。

 だが、今日踏み出した1歩は、限りなく大きいのだろう。

 魔王。ファンタジーでは、徹底して人類の敵である存在。

 冒険者。魔物や魔族を打ち倒す為に存在する人々。

 それが、手を取り合って共通の敵に立ち向かう⋯⋯。ハハ、こんな世界もあるもんなんだなぁ。

 

「──では。本会議の終了を持って、協定の締結とします」

 

 サインの書かれた書類を預かり、白厳が立ち上がる。

 それと同時に、幼女とエスキラも席を立ち、互いに右手を差し伸べた。

 

「「よろしく頼む」よ♪」

 

 握手。

 握った手を、2人は軽く揺する。

 うむ、これにて一件落着だ。

 

「⋯⋯しゃっ。飯も食ったし、身体動かしたくなってきたぜ」

「おっ、紅志。いっちょやるか?」

「あぁ。ティガ、久し振りに軽く組手でも──」

「待て」

 

 ドン! と、魔王城全体が揺れる。

 低い声で威圧を放ったのは、グレンデルだった。

 彼が鋭い視線を送るのは人類では無く、同じ魔王幹部であるティガ達だ。

 コイツめ、最後の最後でいきなり何をする気だ⋯⋯?

 

「休戦協定。それは認めてやる。⋯⋯だが、」

 

 蒼黒(そうこく)

 グレンデルから、凄まじい量の魔力が発せられる。

 本人としては、ただ魔力を纏っただけなのだろうが⋯⋯

 この熱気には、思わず立ち竦んでしまうぜ。

 鮮やかに煌めく蒼と、どこまでも深い黒。蜃気楼のように揺らめくその魔力は、いつか見た幼女の魔力を彷彿とさせる。

 やはり、魔王幹部の中で最強なのはグレンデルで間違い無いだろう。

 

「グレンデル。今すぐ止めないなら、私が相手になるよ」

 

 グレンデルの前に、幼女が立ち塞がる。

 紅く潤う魔力を纏った彼女は、静かにグレンデルを睨んだ。

 

「⋯⋯いいか、よく聞け」

 

 そう言うグレンデルは、ティガ達の方へ向きを変える。

 張り詰める空気の中、彼はゆっくりと口を開くのだった。

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