猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

138 / 218
第137話・紅白

「──魔王軍の、それも本陣で戦闘した上で無傷で帰還?

 それこそ、我々魔王軍の面子はどうなる? 魔王様ですら、それは気に掛けておられる事だぞ? それを貴様らは⋯⋯」

 

 グレンデルは、苛立ちながらティガ達を叱責する。

 いやはや。想定よりも、ずっと真っ当な意見だ。

 確かにゼルは、魔王軍を『組織というより単なる集団』と表現していた。

 だが、少なくとも、魔王というトップとしての肩書きを重んじている面もあった。

 人類との表立った共闘を嫌ったのも、“人間の言う通りに動く魔族”という場面を作りたく無かったからだろう。

 その上で、今のグレンデルの発言。⋯⋯うーむ、中々どうして厄介だな。

 極めて理解がしやすい内容だからこそ、それに対しての反論は難しいモノだ。

 

「──まァ、言われてみれば、グレンデルの言った通りだな。

 建前とはいえ、俺ら全員とボスとやり合ったってんだ。

 擦り傷も無しで帰られた日にゃあ、魔王軍として格好が付かんわな」

 

 ピリリと、空気に緊張が走る。

 アインの端的な説明によって、ティガもギルルも状況を理解した様だ。

 よくない。すこぶるよくない流れだぞ、コレは。

 

「まぁ、取り敢えず、どっちか死ねばいいんじゃない?

 んで、もう1人は片手と片脚無くしちゃってさ? どう?」

「おン。いいんじゃねェか? ちっと甘ェ気もするが、今後を考えたら及第点だろ」

 ギルルの提案に、ティガがゆっくりと席を立つ。

 右肩をグルリと回すティガは、セシルガとセイリスを交互に見てから後者の方を指差した。

 眉を(ひそ)めるセイリスは、ティガを静かに睨みつつ腕を組む。

 彼女へ席を立つ様に促したティガは、指の骨を鳴らしながら口を開いた。

 

「お前、殺すから動くな」

「⋯⋯はっ。がっかりだわ」

「そう悲しむなって。ラクに済ませてやるぜ」

「違う。アンタらの目が節穴な事にがっかりしてんのよ。

 “1人が死んで、1人が重症”──。そのシナリオは、アンタ達が小さな脳で考え付いたモノでしょう?

 本当に“そう”なる可能性が、実際いくらなのかも知らずに」

 

 セリイスが、ソファの横に立て掛けていた武器を掴む。

 ギターの様な形状のソレの弦に指を添えると、彼女はギラつく笑みを浮かべてみせた。

 セイリスの額には青筋が入っており、割と平常心を失っている事が窺える。

 ⋯⋯まぁ焦燥しているよりかは、ただ単にエキサイトしている様子だが。

 

「ヘェ? やろうってのか? 俺ら全員を相手に?」

「それで対等よ。四の五の言わずに掛かってきなさい。

 ⋯⋯あぁ。それとも、パパ(魔王)に手を借りないと難しいの?」

「この、アバズレがァ⋯⋯!!」

 

 セイリスの煽りに、真っ先にグレンデルが反応する。

 纏う蒼黒(そうこく)の魔力を更に(たぎ)らせ、セイリスを睨むグレンデル。

 その直後。彼の足が遂に動く──のを、俺が目にした瞬間だった。

 

「タダでは死なせてやら──」

「まぁ、待てよ」

 

 俺は、目を疑った。

 この時、真横を風切り音が通過した事に気付かなかったのは、目にした光景への驚愕が大き過ぎた為だろう。

 見間違いでは無い。確実に、明確に、グレンデルは背後から刃を据えられていた。

 首筋を横になぞる様に。それでいて、初めからそこに置かれていたかの様に。

 

「「「「ッッ!!!」」」」

 

 ティガも、アインヘルムも、ギルルも。

 エスキラ、セイリス、白厳。俺は勿論、グレンデルも──。

 幼女ですら、僅かに驚愕した様な表情を浮かべる。

 その男。セシルガ・ネストールの、驚異的な移動速度に。

 

「貴様⋯⋯」

「おい、それ以上動くな。まだやるってんなら、俺はこの刀を押し引かなきゃならん。

 ⋯⋯無論、そんな事させないよな? 魔王幹部さんよ」

「⋯⋯⋯⋯。」

 

 ⋯⋯あ、これ、動くな。

 グレンデル、多分、被弾上等でおっぱじめる気だ。

 参った。さっきみたいに止めに入る覚悟は、流石に無いぜ。

 いや。仮に止めに入った所で、速攻で斬り伏せられるか、殴り飛ばされるかのどちらかだろう。

 こうなっては、もうどうしようも無いか。──少なくとも、俺では。

 

「無意味です。いや、実に」

「⋯⋯白厳。そりゃあ、どういう意味だ?」

「──“人類と魔族の戦い”ですよ? こんな陳腐な言い争いが発端で、尚且つ私の様な足でまといもいる。

 しかも、どちらが勝ってもタダでは済まない上に、オーガという課題も待ち受けていて⋯⋯

 やれやれ。ここで戦いを始めて得られる利益は、一体どこにあるやら」

 

 溜息を零して、白厳は中折帽をテーブルに置く。

 続いてネクタイを解き、背広を脱ぐと、彼は腕を巻くりながらソファから立ち上がった。

 静かにセシルガ達へと歩み寄る白厳は、最後に両腕を広げて笑みを浮かべてみせる。

 

「──それでもやるなら、まずは邪魔者から排除した方が効率的な事はお分かりですね? どうぞ、お好きに」

「「⋯⋯⋯⋯。」」

 

 ⋯⋯おぉ、上手い。

 セシルガ達のヘイトを自分に向けて、戦意を削いだぞ。

 多分だが、彼らが自身に攻撃する事を躊躇(ためら)うのを踏まえた上での行動だろう。

 そうでなければ、『じゃあ消す』で解決してしまう話だし。

 

「魔王幹部の皆さん、貴方達の言い分は正しい。

 組織の者として、面子を重んじる⋯⋯。えぇ、とても重要な事です。──が、それ以上に重要な事もある」

「魔王軍としての面子。冒険者としてのプライド。

 双方がそれを大事にした所で、オーガにとっては有利に話が進むだけ。

 奴の目的が、“この星の生命の根絶”である以上、魔族にも人類にも等しく危機が迫っている状況だ」

「⋯⋯!! そう、紅志さんの言う通りです。

 今、ここで戦いが発生し、仮に片方が消えてしまった場合、今後はどうやってオーガに対処するというのですか?

 『自分達だけで十分?』『コイツらが消えた所で問題外?』

 ──ゼルさんとアリアさんが、揃って今回の会議を設けた事実はどう捉えるのですか?」

「理由があるから、2人は人類と魔族の休戦を望んだ。

 グレンデル、お前ら。アンタ達は、ゼルの意思に反する事がしたいのか?

 セシルガ、セイリス。アンタらがどんだけ強いか知らない。

 だが、たった2人で魔王幹部全員を同時に相手にして、その上 魔王ゼルにまで勝てると本気で思っているのか?

 仮に勝てたとして、魔王軍の規模はどれだけのモノか知っているのか? 彼らに報復される可能性は? その影響を民間人が受けない確証は?」

 

 白厳に合わせて、俺はセシルガ達へと向き合う。

 実際、俺も魔王軍の規模なんてのは知らないが、この場では有効な台詞だろう。

 未知数の脅威には、それと同等かそれ以上の警戒が必要だからな。

 

「──分ぁッたよ。少しちょっかい掛けたかっただけだ。

 もう引き下がるから、2人揃って説教は勘弁してくれ」

 

 素早く納刀するセシルガは、数歩下がって壁に寄り掛かる。

 同じくグレンデルも、魔力を引っ込めて舌打ちをした。

 『ガキ共が知った様な口を⋯⋯』と言い残して部屋を出るグレンデルを見届け、俺はようやく溜息を付いた。

 

「だがよ。そもそも俺ぁ、アイツを止める為にだな⋯⋯」

「あの殺気で、『戦う気は無かった』なんて言うなよ?」

 

 ギクリと、セシルガは肩を動かす。

 直後に見せた悪びれの無い笑顔に、俺と白厳は呆れた。

 どうして、冒険者にはこうも変人しかいないんだろうか?

 サンクイラやシュレンが懐かしいぜ、全くよお⋯⋯。

 

「で、どうすんだ? 話は分かったが、このまま帰ってもらう訳にはいかねェ」

 

 全員が落ち着いた後、ティガが前へ出る。

 何も話を分かってない様だが⋯⋯確かに、『何もせずに終了だ』とも言えないか。

 うーむ。こういう時は、どうするべきだろうか。

 

「⋯⋯まぁ()()()()程でしたら、大した問題も無いでしょう。

 勿論、誰であろうと命を落とす事は認めませんが」

「ハッ! 『認めません』ね。マジでいい度胸した男だぜ」

「恐縮です。──アリアさん。付近で、地形が変わっても問題無い場所はありますか?」

 

 外した衣服を着直しながら、白厳は尋ねる。

 対して幼女は、両手を広げながら左右へ軽く回った。

 つまりは、『どこでもどうぞ』というワケらしい。

 

「しゃあッ!! そうと決まれば、いっちょやるかァ!!」

「アンタ、さっき私に『殺す』って言ったの忘れてないから。

 セシルガ! アンタもよ! ぶっ飛ばしてやるわ!」

「え? 俺なんか言ったっけ? おいデカモモ。俺、忘れちまったぜ」

「⋯⋯絶対、ぶっ殺してやるんだから」

 

 和気あいあい(?)と部屋を去る連中を背景に、俺は白厳の肩を叩く。

 改めて溜息を付いた彼は、肩に乗った俺の手をさすった。

 

「まぁ何はともあれ、これにて一件落着ですよ」

「そうだな⋯⋯。まぁ今後も付き合う事になろだろうし、よろしく頼むぜ」

「紅志さん。⋯⋯えぇ。こちらこそ、宜しくお願いします」

 

 握手をして、互いに軽く一礼を行う。

 外から爆音が轟く中、俺は部屋を出る白厳を見送るのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。