──“暗黒神オーガ”による、新たな一手。
それは、己が転生させた者達へ行った『星廻龍アルノヴィアと魔王ゼルに強い敵意を持つ』という洗脳に、『更なる内容』を付け加えるモノである。
そしてその内容とは、『彼らの仲間達の完全排除』。そして、『
これにより、“例外”を除く転生者達が一斉に行動を開始。
無数の黒異種と、その上位種である【神将】と名付けられた
そう、無かったのである。全くの、これっぽっちも。
そもそもだが、燗筒 紅志の現在地は魔王城である。
外界から断絶されたその城と領土は、仮にも神の力を持つオーガですら現状として発見が出来ていない。
そんな場所に対して、捜索にいくら人手をあてがった所で、見つかる筈も当然無く⋯⋯
万が一。いや、兆が一に誰かが発見出来たとしても、魔王ゼルを含む魔王軍が速攻で消しに来る始末だ。
どう転んでも紅志の発見に繋がらないのが、オーガが打ち出した一手なのである。
そして、『ゼルやアリアの仲間達の完全排除』という洗脳も、効果は未だに発揮されていない。
理由は単純で、彼らのその『仲間達』が異常なまでに強者揃いだからだ。
異常なまでに強く、そしてそんな連中が異常なまでに多い。
ゼルの仲間達とは、無論 魔王軍の事を指しており、そのメンツはグレンデルを初めとした最上位級の魔族である。
それを相手に、大抵が“力を与えられただけの一般人”である転生者達が太刀打ちするなど不可能なのだ。
そして、それはアリアの仲間達に対しても同じ事が言える。
まず、魔物という生物の頂点であるドラゴン族。
“火龍テュラングル”を王とする彼らは、氷・水・風・土・雷のそれぞれを司る個体が王の配下として存在する。
先の再襲撃にも、彼らはその威力を存分に発揮していた。
『火山地帯を氷漬け』、『大陸全土が千年降雷』、『大砂漠を海底に』。
これら全てが、ドラゴン族によって成された出来事である。
『スケールが違う』と、言葉にするのは容易い。
だが、それを目の当たりにし、あまつさえ彼らを相手どらされる転生者達は、哀れと言う他ないだろう。
──そして、もう1つ。
オーガの洗脳対象の“例外”である、アリア側の転生者達。
彼らは、ドラゴン族と遜色が無いレベルか、若しくはそれ以上の次元で強者と化け物が揃っている。
同じ転生者でも、玉石混交であるオーガ側と比べると、その差は天地どころか月と太陽程に離れているのだ。
付け加えるなら、オーガ側の玉石の“玉”の方の転生者ですらが、アリア側の“石”にも勝れない実態もある。
この様な差が生まれる理由としては、アリアとオーガの『転生者への扱いの違い』が大きい。
オーガは、力を与えて転生させれば、後は本人の好きにさせる。
と、そう言えば聞こえはいいが、実際は洗脳もするし、好きにさせるといっても、単に放置するだけである。
稀に、与えた力を大きく育てた──紅志の様な──者は、優秀な駒として使える様に監視する事もあるが。
それに対して、アリア側の転生者。
そもそも彼らは、『オーガがアリアと敵対する以前』に転生してきた者達である。
故に、アリアやゼルへの敵意を持たせる必要が無く、洗脳もしていないという訳だ。
裏を返すなら、アリアと敵対したオーガが、自らの手駒として『転生時』に洗脳を掛けた者達が、オーガ側の転生者なのである。
無論、紅志もそれをやられている。
転生するかを決めあぐねていた彼に苛立ちを覚えたオーガが、彼と意思を強引に前に進ませたのだ。
アリアが予め作成していた、
それは置いておいて。
アリア側の転生者は、オーガがアリアと敵対した5万年前の2万年後。つまり3万年前から、オーガの軍勢と戦っている。
更に言うなら、3万年前から“戦い続けている者”もいる。
死ねば新たな転生者を、というオーガ。
犠牲を出さぬ為に強く育てる環境を、というアリア。
オーガ側の転生者が“消耗品”だとしたら、アリア側の転生者とは“芸術品”や“国宝”の領域にいるのである。
当然、敵う筈が無い。
騒ぎを起こした所で即鎮圧。掛かってきた所で、即制圧。
何かをした所で即対処されるというのが、オーガ側の転生者であった。
つまるところ、今回の“オーガの新たな一手”による被害は、事実上で皆無なのである。
「──クククッ!」
例えば、とある裏路地にて、下卑た笑みを浮かべるこの男。
『転生者は
確かに男は、長めの青髪と紫の目を持ち、高身長な爽やか風イケメンと、まず前世では有り得ないモノだ。
だが、やはり中身は一般人である事が多いのが転生者である。
大抵の者が、服装や言動、所持品など、“前世のクセ”の様な特徴が現れているのだ。
もっとも、それらは全て“よく観察すれば分かる”という話ではあるが。
「派手にやってやるぜ⋯⋯。そしたら、あの神も更に力をくれる筈⋯⋯!!」
ブツブツと早口で呟き、男は魔力を両手に集中する。
裏路地の奥で光る妖しい輝きに、通行人は気が付かない。
建物に挟まれた暗い空間で、男がついに魔力を解放する──
「はいはい、そこまでねー。話は後で聞くからねー」
「なんッ!? だrゅだッ!?」
「噛んでるよー、焦んないでねー」
慌てる男を、突如現れた男が羽交い締めにする。
無論 彼も転生者であるが、アリア側の転生者である。
彼が、オーガ側の転生者を発見出来た理由は、アリアが作り出した道具にある。
その道具とは、オーガが転生者に分け与えた力。即ち、“神のエネルギー”を識別する能力を持っている。
仕組みとしては、超高性能の魔力感知を展開し、得た情報を可視化するというものだ。
魔力で神の力に干渉する事は不可能なので、神の力の発見自体は出来ない。
だが逆に言えば、オーガ側の転生者には、必ず干渉が不可能な部分があるという事に繋がるのだ。
つまり、見れない箇所がある。“ない”が“ある”という事態が発生している訳である。
「は、離せ! 俺は、君臨者になる男!」
「はいはい、カミサマに選ばれし者ね。そんなの君以外にも沢山いるよ」
「⋯⋯は? 俺以外に?? どういう事だ!?」
「質問はこっちがするからねー。洗いざらい話して貰うからねー」
激しく抵抗する男の声は、裏路地の奥に消えてゆく。
街は、今日も平和なのであった。
──また、別の都では。
巨大な防壁に設置された無数の大砲が、一斉に発射される。
その先には、超が付く程に巨大な、正しく“怪獣”と呼ぶに相応しい生物の姿があった。
そして、それ“ら”は列を成してゆっくりと迫り来る。
ある怪獣は蜘蛛の様な、ある怪獣はゴリラの様な、ある怪獣はヒトデの様な──。
無数の怪獣達に炸裂した大砲は、まるで豆鉄砲の様に効果が無い。
街を守る兵や、住民や、貴族や、王でさえ、その光景に絶望して膝から崩れ落ちた。
「ひ、ヒヒッ! 潰れちゃえ、潰れちゃえ!」
迫り来る怪獣の、その最後方。
プテラノドンの様な巨大生物の頭に乗った金髪赤眼の少年は、前世では引き籠もりニート(36)である。
意を決してバイトの面接に赴こうとした所で、信号無視のトラックに轢かれた哀れな人物だ。
──が、転生した際にオーガから貰った『魔物支配』の能力に魅了され、巨大な魔物での破壊行為に快感を覚えた人の形をした怪物である。
彼に手を差し伸べたのが、他の者であれば⋯⋯といった話は、もう遅い。
やる事は、既にやってしまった男である。
「も、もう終わりだ。逃げる時間も⋯⋯」
「──大丈夫だ、任せろ」
絶望する兵士の横に、1人の青年が立つ。
黒髪、黒目、整った顔立ち。日本人の転生者である。
青年は徐に懐へ手を入れると、薄い緑の小さなステッキの様なアイテムを取り出す。
ステッキに付いた赤いボタンを青年が押すと、直後にステッキの先端が発光を始めた。
「き、君は?」
「俺は、通りすがりのヒーローだ」
青年は、右手を力強く空へ掲げる。
そして、“音”が響き渡った。独特な音だったが、それは正しく“希望の音”であった。
──ズズンッ!
地響きと共に現れたのは、灰色の全身に、赤いラインが入った──巨人であった。
胸の青い光を輝かせ、無数の怪獣の前に立ちはだかるその巨人。
そして──
『Hey
現れた巨人の後方。街の反対側から、別の巨人が歩いてくる。
全身が金属のその巨人は、胸で明るく光るタービンの前で掌と拳をぶつけ合わせた。
ガシン! と響く音は、先の巨人の出現音と同様に、希望そのものの音色であるかの様な──。
勢いよく走り出した巨人達は、力強く声を上げて怪獣の群れを薙ぎ払ってゆく。
その場にいた兵士は勿論、住民も、貴族も、王でさえ、2人の巨人の姿に希望を持って立ち上がるのであった。
──戦闘は、世界の各地で始まっていた。
そしてその全てにおいて、ゼルとアリア側は優勢を維持している。
自身の手駒であった転生者のほぼ全てが鎮圧されたオーガだが、その心境はいかばかりか?
当然、穏やかでは無い。
だが、強行作戦に移行する程の荒れ具合でも無いのが、今のオーガの状態であった。
元より、彼は転生者へそこまでの期待は寄せていなかったのである。
それでも、自身の力の一部を分け与えてまで転生者を生み出していた理由は1つ。“大当たり”に賭けているのだ。
直近の転生者を例に上げるなら、紅志がソレである。
与えられた力を、“より強い物にしよう”と考え、努力を惜しまない。
そんな、“都合の良い人間”が来るのを待っていたのだった。
「──約立たず共が⋯⋯。転生者による戦力補強はやめじゃな」
杖を地に打ち付け、オーガは苛立ちを顕にする。
静かに鼻で溜息をついた彼は、その後ゆっくりと振り返った。
「⋯⋯これより、儂は【オヌシ達】の強化に専念する。
力に耐え切れぬ。その様な事態は、決して許さん」
オーガの台詞は、彼の目の前にいる者達へと降り注ぐ。
総勢5名の【神将】が、その姿を現した。