猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第145話・戦々累々

 ──“暗黒神オーガ”による、新たな一手。

 それは、己が転生させた者達へ行った『星廻龍アルノヴィアと魔王ゼルに強い敵意を持つ』という洗脳に、『更なる内容』を付け加えるモノである。

 そしてその内容とは、『彼らの仲間達の完全排除』。そして、『燗筒(かんとう) 紅志(あかし)の捜索及び抹殺』であった。

 これにより、“例外”を除く転生者達が一斉に行動を開始。

 無数の黒異種と、その上位種である【神将】と名付けられた黒異人(コクト)の存在もあり、オーガに形勢が傾く──事は無かった。

 そう、無かったのである。全くの、これっぽっちも。

 

 そもそもだが、燗筒 紅志の現在地は魔王城である。

 外界から断絶されたその城と領土は、仮にも神の力を持つオーガですら現状として発見が出来ていない。

 そんな場所に対して、捜索にいくら人手をあてがった所で、見つかる筈も当然無く⋯⋯

 万が一。いや、兆が一に誰かが発見出来たとしても、魔王ゼルを含む魔王軍が速攻で消しに来る始末だ。

 どう転んでも紅志の発見に繋がらないのが、オーガが打ち出した一手なのである。

 

 そして、『ゼルやアリアの仲間達の完全排除』という洗脳も、効果は未だに発揮されていない。

 理由は単純で、彼らのその『仲間達』が異常なまでに強者揃いだからだ。

 異常なまでに強く、そしてそんな連中が異常なまでに多い。

 ゼルの仲間達とは、無論 魔王軍の事を指しており、そのメンツはグレンデルを初めとした最上位級の魔族である。

 それを相手に、大抵が“力を与えられただけの一般人”である転生者達が太刀打ちするなど不可能なのだ。

 そして、それはアリアの仲間達に対しても同じ事が言える。

 まず、魔物という生物の頂点であるドラゴン族。

 “火龍テュラングル”を王とする彼らは、氷・水・風・土・雷のそれぞれを司る個体が王の配下として存在する。

 先の再襲撃にも、彼らはその威力を存分に発揮していた。

 『火山地帯を氷漬け』、『大陸全土が千年降雷』、『大砂漠を海底に』。

 これら全てが、ドラゴン族によって成された出来事である。

 『スケールが違う』と、言葉にするのは容易い。

 だが、それを目の当たりにし、あまつさえ彼らを相手どらされる転生者達は、哀れと言う他ないだろう。

 

 ──そして、もう1つ。

 オーガの洗脳対象の“例外”である、アリア側の転生者達。

 彼らは、ドラゴン族と遜色が無いレベルか、若しくはそれ以上の次元で強者と化け物が揃っている。

 同じ転生者でも、玉石混交であるオーガ側と比べると、その差は天地どころか月と太陽程に離れているのだ。

 付け加えるなら、オーガ側の玉石の“玉”の方の転生者ですらが、アリア側の“石”にも勝れない実態もある。

 この様な差が生まれる理由としては、アリアとオーガの『転生者への扱いの違い』が大きい。

 オーガは、力を与えて転生させれば、後は本人の好きにさせる。

 と、そう言えば聞こえはいいが、実際は洗脳もするし、好きにさせるといっても、単に放置するだけである。

 稀に、与えた力を大きく育てた──紅志の様な──者は、優秀な駒として使える様に監視する事もあるが。

 

 それに対して、アリア側の転生者。

 そもそも彼らは、『オーガがアリアと敵対する以前』に転生してきた者達である。

 故に、アリアやゼルへの敵意を持たせる必要が無く、洗脳もしていないという訳だ。

 裏を返すなら、アリアと敵対したオーガが、自らの手駒として『転生時』に洗脳を掛けた者達が、オーガ側の転生者なのである。

 無論、紅志もそれをやられている。

 転生するかを決めあぐねていた彼に苛立ちを覚えたオーガが、彼と意思を強引に前に進ませたのだ。

 アリアが予め作成していた、魔物(の転生者)に作用する魔法があったからこそ、今の紅志は紅志自身でいられる訳である。

 

 それは置いておいて。

 アリア側の転生者は、オーガがアリアと敵対した5万年前の2万年後。つまり3万年前から、オーガの軍勢と戦っている。

 更に言うなら、3万年前から“戦い続けている者”もいる。

 死ねば新たな転生者を、というオーガ。

 犠牲を出さぬ為に強く育てる環境を、というアリア。

 オーガ側の転生者が“消耗品”だとしたら、アリア側の転生者とは“芸術品”や“国宝”の領域にいるのである。

 当然、敵う筈が無い。

 騒ぎを起こした所で即鎮圧。掛かってきた所で、即制圧。

 何かをした所で即対処されるというのが、オーガ側の転生者であった。

 つまるところ、今回の“オーガの新たな一手”による被害は、事実上で皆無なのである。

 

 

 

 

「──クククッ!」

 

 例えば、とある裏路地にて、下卑た笑みを浮かべるこの男。

 『転生者は現地人(異世界人)と見分けがつかない』 という事を利用して、街中で良からぬ事を画策している。

 確かに男は、長めの青髪と紫の目を持ち、高身長な爽やか風イケメンと、まず前世では有り得ないモノだ。

 だが、やはり中身は一般人である事が多いのが転生者である。

 大抵の者が、服装や言動、所持品など、“前世のクセ”の様な特徴が現れているのだ。

 もっとも、それらは全て“よく観察すれば分かる”という話ではあるが。

 

「派手にやってやるぜ⋯⋯。そしたら、あの神も更に力をくれる筈⋯⋯!!」

 

 ブツブツと早口で呟き、男は魔力を両手に集中する。

 裏路地の奥で光る妖しい輝きに、通行人は気が付かない。

 建物に挟まれた暗い空間で、男がついに魔力を解放する──

 

「はいはい、そこまでねー。話は後で聞くからねー」

「なんッ!? だrゅだッ!?」

「噛んでるよー、焦んないでねー」

 

 慌てる男を、突如現れた男が羽交い締めにする。

 無論 彼も転生者であるが、アリア側の転生者である。

 彼が、オーガ側の転生者を発見出来た理由は、アリアが作り出した道具にある。

 その道具とは、オーガが転生者に分け与えた力。即ち、“神のエネルギー”を識別する能力を持っている。

 仕組みとしては、超高性能の魔力感知を展開し、得た情報を可視化するというものだ。

 魔力で神の力に干渉する事は不可能なので、神の力の発見自体は出来ない。

 だが逆に言えば、オーガ側の転生者には、必ず干渉が不可能な部分があるという事に繋がるのだ。

 つまり、見れない箇所がある。“ない”が“ある”という事態が発生している訳である。

 

「は、離せ! 俺は、君臨者になる男!」

「はいはい、カミサマに選ばれし者ね。そんなの君以外にも沢山いるよ」

「⋯⋯は? 俺以外に?? どういう事だ!?」

「質問はこっちがするからねー。洗いざらい話して貰うからねー」

 

 激しく抵抗する男の声は、裏路地の奥に消えてゆく。

 街は、今日も平和なのであった。

 

 

 

 

 ──また、別の都では。

 巨大な防壁に設置された無数の大砲が、一斉に発射される。

 その先には、超が付く程に巨大な、正しく“怪獣”と呼ぶに相応しい生物の姿があった。

 そして、それ“ら”は列を成してゆっくりと迫り来る。

 ある怪獣は蜘蛛の様な、ある怪獣はゴリラの様な、ある怪獣はヒトデの様な──。

 無数の怪獣達に炸裂した大砲は、まるで豆鉄砲の様に効果が無い。

 街を守る兵や、住民や、貴族や、王でさえ、その光景に絶望して膝から崩れ落ちた。

 

「ひ、ヒヒッ! 潰れちゃえ、潰れちゃえ!」

 

 迫り来る怪獣の、その最後方。

 プテラノドンの様な巨大生物の頭に乗った金髪赤眼の少年は、前世では引き籠もりニート(36)である。

 意を決してバイトの面接に赴こうとした所で、信号無視のトラックに轢かれた哀れな人物だ。

 ──が、転生した際にオーガから貰った『魔物支配』の能力に魅了され、巨大な魔物での破壊行為に快感を覚えた人の形をした怪物である。

 彼に手を差し伸べたのが、他の者であれば⋯⋯といった話は、もう遅い。

 やる事は、既にやってしまった男である。

 

「も、もう終わりだ。逃げる時間も⋯⋯」

「──大丈夫だ、任せろ」

 

 絶望する兵士の横に、1人の青年が立つ。

 黒髪、黒目、整った顔立ち。日本人の転生者である。

 青年は徐に懐へ手を入れると、薄い緑の小さなステッキの様なアイテムを取り出す。

 ステッキに付いた赤いボタンを青年が押すと、直後にステッキの先端が発光を始めた。

 

「き、君は?」

「俺は、通りすがりのヒーローだ」

 

 青年は、右手を力強く空へ掲げる。

 そして、“音”が響き渡った。独特な音だったが、それは正しく“希望の音”であった。

 

──ズズンッ!

 

 地響きと共に現れたのは、灰色の全身に、赤いラインが入った──巨人であった。

 胸の青い光を輝かせ、無数の怪獣の前に立ちはだかるその巨人。

 そして──

 

『Hey Bro(兄弟)! 1人で美味しいトコもってくなよ!』

 

 現れた巨人の後方。街の反対側から、別の巨人が歩いてくる。

 全身が金属のその巨人は、胸で明るく光るタービンの前で掌と拳をぶつけ合わせた。

 ガシン! と響く音は、先の巨人の出現音と同様に、希望そのものの音色であるかの様な──。

 勢いよく走り出した巨人達は、力強く声を上げて怪獣の群れを薙ぎ払ってゆく。

 その場にいた兵士は勿論、住民も、貴族も、王でさえ、2人の巨人の姿に希望を持って立ち上がるのであった。

 

 

 

 

 ──戦闘は、世界の各地で始まっていた。

 そしてその全てにおいて、ゼルとアリア側は優勢を維持している。

 自身の手駒であった転生者のほぼ全てが鎮圧されたオーガだが、その心境はいかばかりか?

 当然、穏やかでは無い。

 だが、強行作戦に移行する程の荒れ具合でも無いのが、今のオーガの状態であった。

 元より、彼は転生者へそこまでの期待は寄せていなかったのである。

 それでも、自身の力の一部を分け与えてまで転生者を生み出していた理由は1つ。“大当たり”に賭けているのだ。

 直近の転生者を例に上げるなら、紅志がソレである。

 与えられた力を、“より強い物にしよう”と考え、努力を惜しまない。

 そんな、“都合の良い人間”が来るのを待っていたのだった。

 

「──約立たず共が⋯⋯。転生者による戦力補強はやめじゃな」

 

 杖を地に打ち付け、オーガは苛立ちを顕にする。

 静かに鼻で溜息をついた彼は、その後ゆっくりと振り返った。

 

「⋯⋯これより、儂は【オヌシ達】の強化に専念する。

 力に耐え切れぬ。その様な事態は、決して許さん」

 

 オーガの台詞は、彼の目の前にいる者達へと降り注ぐ。

 総勢5名の【神将】が、その姿を現した。

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