──ズドドドッ!
重い打撃音が、3連続で響く。
同時に、俺の目の前にあった岩が木っ端微塵に粉砕された。
うむ、悪くない。前のギルルとの手合わせで最後に放った蹴りを改良してみたが、見込める効果は高そうだ。
相手の正中線。つまり“身体の真ん中”を、下から上に掛けて高速で3回蹴り上げる技だが⋯⋯
強いて云うなら、相手が此方に前のめりになっている時にしか打てない欠点があるか。
現状では、
少なくとも、顎への蹴りは中々当てられるタイミングは来ないだろう。
「──よう、やってるか?」
「ん? あっ、ゼル⋯⋯様。何か俺に用事でも?」
「いいや。最近は、
俺が戦線に出たところでヒマなだけだし、折角なら、たまにはお前の様子でも見に行ってやろうってな」
腰に両手を当て、ゼルは肩を一度上下させる。
やはり、こうして会話するだけなら、気さくなニイチャンといった感じだが⋯⋯
彼から伝わってくる存在感は、恐ろしく巨大なものだ。
「ンま、気楽に続けろ。今は打撃の鍛錬をしてんのか?」
「あぁ。蹴り技について、まぁ色々と」
「ほう、蹴りか? 確かに、ドラゴンと戦うって時に蹴りを警戒する奴はいねぇ。⋯⋯ウン、悪くねぇ攻撃手段だ」
腕を組んだゼルが頷く。
まさか、魔王に直々に褒められるとは。嬉しさがある半面、謙遜するか素直な反応を見せるかで緊張するな⋯⋯
『気楽に』なんて魔王に言われても、『はい分かりました』で切り替われるワケがないぜ。
「──蹴りってのは大きく二つ、“薙ぎ”と“突き”がある。
紅志。
そこら辺も含めて、ちゃんと考えてるのか?」
「勿論。俺の場合、脚で“薙ぎ払う系”の蹴りを打つより、尻尾での薙ぎ払いの方が打ち易いし高威力だ。
なにより、俺の脚の筋力を最大限に活かすなら、“突き出す系”の蹴りの方が威力は出ると思う⋯⋯のですが⋯⋯?」
「あァ、正解だ。元々人間だっつうのに、グレイドラゴンとしての肉体構造をしっかりと理解しているな。
それさえ大丈夫なら、俺が口出しする点も無さそうだぜ。
⋯⋯ついでだが、堅い口調はよせ。お前はアリアが見込んだ男だ。俺も認めてやるよ」
ポンと俺の肩を叩き、ゼルは軽く笑う。
思わず引き
本人がどう言おうが、俺からすれば怖いもんは怖いしなぁ。
指先どころか、髪の毛1本でも俺を消せそうなのが魔王ゼルだって事を、本人も自覚して欲しいぜ。
「──
ぶっちゃけ、その後に会ったグレンデルの方が強いんじゃないかと思ってたんだ」
「⋯⋯!! それは、どうしてだ?」
「いや⋯⋯その、なんというかな。今でもそうだが、あの時のアンタは俺にとって巨大過ぎる存在だったんだ。
だから気が付けなかった。例えば、“大きな山”があったとして、その上にある“空”に意識が向かない様な感覚で⋯⋯」
「ハッ、成程な。デカすぎて気が付けなかった、と」
ゼルの台詞に頷き、俺は溜息をつく。
まさに、その通りなのである。
あの当時、グレンデルを含めた魔王幹部達の方が、多少は『俺がいる領域』に近い強さだった。
だからこそ、僅かながら力の片鱗が感じ取れたが⋯⋯。この魔王ゼルだけは違った。
足元に床があり、大地があり、それは1つの大陸であり、そして更には地球という星である──なんて事に、そもそも意識が向かない様に。
そのあまりの存在の巨大さ故に、俺が持つ感覚では認識が不可能だった。
魔王城で鍛錬を積み、ごく僅かに俺が『魔王の領域』に近付いた事で、ようやく彼を感じ取れる様になったが⋯⋯
やれやれ。“上には上がいる”とはいうが、何百、何千、何万先の“上”にいるんだかな、ゼルは。
「──まぁ、そもそもだ。俺を目の当たりにして、イッパツで力量を見抜いたってヤツぁ、かなり少ねぇ。
覚えてる限りだと、アリア、グレンデル、蓮⋯⋯。ンまぁ、片手の指で収まるくらいだ」
「蓮って、転生者の?」
「そうだ。⋯⋯あれ、言ってたか?」
「あぁ。いや、幼女から前に話を聞いて⋯⋯」
そう。彼女曰く、『私やゼルと同類』だとか。
普通に考えて、ヤバすぎる奴だ。転生者ならば、まぁ当然人間なんだろうが⋯⋯
“魔族だから”とか“龍だから”とかの“言い訳”が、これっぽっちも通用しないんだから困る。
いつかは会ってみたいと思うが、会ったら会ったで、なんか嫉妬してしまう気がするぜ。
そりゃあ、長くこの世界で転生者をやっているんだろうし、俺と全く同じ境遇とは限らないが⋯⋯
やっぱり、素の実力でゼルやアリアに認められているのは、かなり羨ましいトコがある。
俺は、あくまで“オーガを倒せる可能性”を持っているだけだしなぁ。
別に、俺自身が特別って訳でも無いし⋯⋯って、いやいや。
ちょっとネガティブになり過ぎたぜ。俺は俺で、前向きに行こう。
「──また今度、会ってみたいぜ。その蓮って奴に」
「ン? 会いてぇなら会わせてやろうか? 連れてってやる」
「いいや。今は、まだいい」
「そうか? そりゃ、どうしてだ?」
魔王の問に、少し間を開ける。
次の台詞を考えた俺は、少し口角を上げてから口を開いた。
「──自己紹介する時、『ゼルやアリアと同類だ』って言いたい」
「⋯⋯ハッ! そりゃあいい。改めて気に入ったぜ、紅志」
大きく笑うゼルが、俺の背を叩く。
また一歩、踏み出せた気がした。