猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第149話・魔力と筋力

 暇を持て余すゼルが、鍛練に付き合ってくれる事となった。

 といっても、基本的には腕組みをして遠くから見ているだけで、時々ちょっとした助言をくれる程度だ。

 まぁそれは、俺が『そうしてくれ』と頼んだ結果なのだが。

 “魔力量の増強”を目的としている現状、戦闘技術に関しては大きく向上する見込みが無い。

 なので、基礎的な鍛錬に重きを置いているのが今の俺だ──ったのだが、

 

「折角だ。技や能力の一つでも、この機会に教えてやるぜ」

 

 俺が昼食を終えた頃、ゼルがそんな事を言った。

 俺としては基本を見直すという目的があり、基礎鍛錬を見せたゼルに指摘をして欲しかったワケで⋯⋯

 と、食い過ぎによって顔が青ざめる中、ゼルに断りを入れようとした俺だったのだが。

 考えてみれば、“魔王から技を教わる”なんて経験、今後する機会があるだろうか?

 そりゃあ頼めばあるかもしれないが、俺が云いたい事はそうではない。

 ゼルが、自らの意思で俺に良い影響を与えようとしている。

 それはつまり、“魔王の尺度”で、俺が強化される可能性があるという事だ。

 此方から何かを望んだ場合であれば、ゼルは相手に合わせた叶え方をするだろう。そこら辺の加減は理解している男だ。

 しかし、今回の場合は⋯⋯。──いや、もう細かい事はどうだっていい。

 一択だ。俺の返答は、一択しかないぜ!

 

「お願いします!!」

「おう、この魔王ゼル様に任せろ。⋯⋯お辞儀するグレイドラゴンって、なんかヘンだな」

「申し訳ありません!!」

「いや、別に悪く言ってるワケじゃねえが⋯⋯。なんでグレンデルみたいになってんだ?」

 

 困惑気味のゼルは、自身の頬を指で掻く。

 “魔王に技を教わる”。その事実に目を大きく輝かせる俺に、ゼルは鼻で小さく溜息をついた。 

 期待し過ぎなヤツだな、とでも言いたいのだろうか?

 もし本当にそうだとしたら、『魔王ゼル様に任せろ』なんて言った どこぞの男に手鏡を渡したい所だぜ。

 

「ンまぁ、なんでもいい。何か、欲しい能力とかあるか?」

「欲しい能力? う〜ん⋯⋯」

 

 ゼルの質問に、俺は首を傾げる。

 確かに強い能力は欲しいのだが、具体的にどんなものかと聞かれると難しい。

 まぁ強いて云うなら、魔力系の能力より物理格闘の技術強化をしたいかもな。

 現状の俺は、基礎の見直しと それによる格闘能力の向上を目指している所だが⋯⋯ 

 

「──お前は殴り合いが得意なんだろ? じゃあ、()()()()はどうだ?」

 

 そう言いながら、徐(おもむろ)に右手を前に出すゼル。

 デコピンの形を作った彼は、何も無い空間に向かって指を弾いた。

 ボッ! という轟音と共に空気の塊が射出されたが、その威力は俺の飛拳とは比べ物にならないだろう。

 あくまで、デコピン。あくまで、空気の塊。⋯⋯だと言うのに、魔王のスケールはやはり異常だぜ。

 

「──今のが、悪い例だな」

「わ、悪い⋯⋯?」

「あァ。“体内の魔力”と“肉体”の動きに、ズレが生じている。

 これじゃあ、自分の力の100パーセントを使えてねぇ」

「んん⋯⋯?」

 

 わ、分からん。何を言っているんだこの魔王は。

 体内の魔力と肉体の動き⋯⋯? それのズレ⋯⋯? 

 ズレてるデメリット。同じであるメリット。どっちも全然分かんないんだが。

 というか、そもそも同時に両方を動かすなんて、考えた事も無かったが⋯⋯

 

「──難しく考えんな。肉体は“箱”、魔力はソレに入っている“水”で考えろ。

 その二つが 同一の方向に移動し、そして何かに衝突する時。

 “箱”だけの速度が速ければ、衝突時の破壊力は“箱”の速度と質量のみに比例する。

 逆に、“水”だけの速度が速ければ、“箱”が“水”の抵抗となり、これもまた、完全な破壊力が発揮される事は無い。──が、」

 

 ニヤリと笑うゼルは、改めてデコピンの形を作る。

 そして、

 

「“水”と“箱”が全く同じ速度で移動するとどうだ?」

 

 彼は無空間へ向けて。──正確には、遥か遠くにある巨大な山へ向けて。指を弾いた。

 その直後、一瞬だけ大地と大気が揺れ、真っ白な衝撃波が超高速で発射される。

 目視するのがやっとのレベルの速度の空気弾が、遂に巨山へと衝突した次の瞬間。()()()()()

 穴が空いたとか、吹き飛んだとかではない。

 比喩ではなく、山が丸ごとパッと消え去ったのである。

 例えるなら、スマホやパソコンの『編集』で『削除』した様に。

 

「使った力は最初のと全く同じだ。だが、筋力と魔力を完全に同時に動かしただけで この違いだ」

「つ、つまりは、二つの別々のモノから、“一つの塊”として力を使ったという訳か⋯⋯??」

「そうだ。──どうだ、悪くねぇ技術だろ?」

 

 ゴクリと、俺は喉を鳴らす。

 迫り来る歓喜に全身を震わせ、拳を強く握り締めた。

 これしか無い。今の俺が求めるモノは、これしか無い。

 魔王ゼルからすれば、なんて事の無い、能力とも呼べない様な技術なのだろう。

 それは、彼の表情と話し方から大いに伝わってくる。

 ──だが、

 

「欲しい⋯⋯!!」

「ハッ! 発情期の雌みてぇなツラしやがって」

「げ、下品って事か??」

「バカ言うな。そんなんだからこそ、俺ァお前を認めたんだぜ」

 

 ギラリと歯を剥いて、ゼルは笑う。

 “魔力と筋力の同時操作”。新たなる目標が、俺の中に生まれた瞬間だった。

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