「──出来たあーーっ!!」
魔王城に、幼女の叫び声が響き渡る。
反射的に目と耳を塞いだ俺は、ゆっくりと声がした方向へと振り向いた。
地面が揺れるレベルの大声だったが、一体何が『出来た』というんだろうか⋯⋯??
「出来た 出来た 出来た!! 紅志はどこーっ!?」
「お、おーい。ここに──」
慌てた様子の幼女に、俺が手を振った瞬間。
『いたぁ♪』と大きく口角を上げた幼女が、いつの間にか俺の目の前まで移動していた。
いや、本当に目の前。目の前に目があるくらいに近い。
なんなら眼球と眼球がくっつきそうな近さで、幼女が俺を覗き込んでいる。
いやガチ怖い。なんなんコイツ。
「──出来たよ、紅志♪」
「あぁ。そう。よかったな。よしよし。⋯⋯で、何が?」
「オーガの! 転送能力を! 突破する“鍵”が! だよっ!」
「⋯⋯!!」
おぉ、遂に。
物理的にオーガを打倒する手段が、ここに来て完成したか。
幼女からすれば、5万年も掛かった目標達成の第一歩⋯⋯。
そりゃあ、テンションも上がって当然だな。
「──具体的には、紅志の中にある“神の力”に、『転送能力を解除する指示』を書き加える感じだね。
どんな能力であれ、それを発動している本人の意思と、それによる力の操作よってONとOFFが出来る筈だ。
だから、オーガの転送能力に対して、君の中の力で『展開状態をOFFにするという指示』を作り出し、オーガ本人の能力に“誤認させる”ってワケ!!」
得意げに説明し、幼女は鼻息を荒げる。
小難しい内容の話だが、つまりは強制的にオーガの能力を引っペがすって感じだろうか?
能力頼りのオーガが相手なら、その能力を失った瞬間の顔が楽しみだ。
⋯⋯が、まだ大きな懸念点が残っているな。
「その“誤認させる”って手段自体が、転送能力で無効化される可能性はあるんじゃないか?」
「ノンノン! そこら辺は、ちゃんと考えているよ〜。
あの転送能力は、
その理由は、オーガの能力が“神の力”と魔力等の“その他”を判別して、転送するかしないかを決めているからだ。
恐らくは、もっと詳細な判別の基準があるだろうけど⋯⋯
兎に角、“神の力”を持っていれば、あの能力への干渉が可能なんだよ。
で、その上で、能力を強制的に停止させるってワケだ」
⋯⋯あぁ。成程、そういう事か。
つまり、オーガの転送能力に対しては、オーガ自身の力であれば“外側”からでも干渉が可能という事だな?
確かに、“神の力”なんてモノは唯一無二だろうし、自分自身の力を判別するもなにも無いって話か。
「──紅志の中の“神の力”。それを限界まで薄〜く引き伸ばして、君の肉体と魔力に張り巡らせる。
同時に、張り巡らせた“神の力”には、さっきの『転送能力を強制停止させる指示』を与えておく。
それによってオーガの転送能力を突破し、直接攻撃を可能とし、そして撃破。ここまではオーケー?」
「一つだけ、気になる点がある。その『転送能力の強制停止』さえ済めば、俺がオーガと戦う必要は無いんじゃないか?」
俺の疑問に、幼女は少し俯く。
言葉の先を詰まらせる彼女に、俺は『続きは?』という視線を送った。
幼女が表情を曇らせた理由なんて、簡単に想像が付くしな。
意地悪だと言われたら言い返せないが、このタイミングなら幼女にはちゃんと続きを言って欲しいぜ。
「⋯⋯オーガとの直接対決は、紅志にしか出来ない事なんだ。
君の中にある“神の力”っていうのは、ごくごく僅かでね。
紅志の中の“神の力”は、君の肉体と魔力を『転送の強制停止能力』で覆うだけでギリギリなんだよ。
つまり、オーガの能力の間合いに入った君の肉体と魔力だけが、転送の無効化をできる感じだ」
「おっけい。それさえ分かったんなら別にいい」
「⋯⋯え? いや、でもホラ、大変な思いをするかもしれないんだよ?」
はいはい、やっぱりな。
幼女の事だから、俺の身を案じてくれていたんだろうが⋯⋯
見くびってもらっちゃ困る。オーガと戦う為に俺がどれだけ鍛錬を積んだのか、一番知っているのはお前だろうに。
「──俺は、あの星廻龍に認められたグレイドラゴンだぜ?
オーガみたいなジジイを相手に、負ける様な男じゃねえよ」
「フフ、君は随分と変わっ──。⋯⋯いや、元からだね。
優しく、大胆不敵で、前向き。何も変わらない、紅志らしい紅志だ♪」
「お前もな。いつも笑顔で、それでいて明るい」
「⋯⋯ありがとう。君がこの星に生まれてくれて、本当に良かったと思ってるよ」
俺の胸に手を当てる幼女が、静かに微笑む。
その時の顔は、いつもの天真爛漫な笑みとは違い、どこか切なさを含んでいる様に見えた。
幼女の手から、金色の光が俺へと流れ込んだのだった。