猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

155 / 218
第154話・滾る炎

「あっ」

 

 ギルルが、僅かに声を漏らす。

 その眼前で交差する、俺とギルルの右腕。

 そして、彼の右腕に絡み付く俺の尻尾──。

 

──とんっ。

 

 軽やかな音を立て、俺の拳がギルルの頬に触れる。

 直後。湧き上がってくる歓喜と共に、俺は地面に大の字で倒れ込んだ。

 

「当てたあァァ──────ッッッ!!!」

 

 右拳を天に突き上げ、思い切り叫ぶ。

 遂に。遂にギルルヘ一発当てる事に成功したのだ。

 左腕が消し飛んだ激痛も、殆どの骨が砕けた苦痛も、全身に鮮明に残る痣の鈍痛も。

 何もかもが、余りに巨大過ぎた課題を突破した事実、その歓喜に打ち消された。

 

「えーっ。今の当たってたー?? ⋯⋯なんちゃって。

 凄いね、紅志。当たってあげる気は、全然無かったんだけどな〜」

 

 珍しく、ギルルが褒めてくれた。

 胸を張って返事をしたかったが、凄まじい疲労と倦怠感によって上手く声が出せない。

 仕方が無いので、右腕をギルルへと掲げて笑顔を作る。

 思いを汲み取ってくれたのか、ニッと笑った彼が俺に手を差し伸べた。

 

「──やったね! 紅志!」

 

 その時、幼女が拍手をしながら現れる。

 ギルルに手を借りながら立ち上がると、彼女は俺の顔を腹に(うず)めて撫で回した。

 普段なら嫌がるトコだが、今は成長を褒められるのが最高に気分良いぜ。

 

「ほんっとうに! 君ってコは!」

「ね、ね、僕も頑張ったよ?」

「ギルルもお疲れ様! よしよしヨシヨシ!」

「えへへぇ」

 

 いやん、なにソレ尊い。

 さっきまで、ザ・魔王幹部みたいな雰囲気で戦ってたのに、人が変わり過ぎだろ。

 少年と少女の()り取りみたいで癒されるんだが? まぁ実際に片方はロリなんだけども。

 

「──ぶっちゃけると、今の君がギルルに一撃でも当てるのは不可能だと思ってたんだ。

 最低でも三ヶ月。長くて半年くらい鍛錬を積んで、ようやく本番。って流れを想定していたんだけど⋯⋯」

「いいや。ボロボロになって、最後の力を振り絞って、やっとの思いで当てたのが、跡にもならない一発だ。

 まだまだ鍛錬は足りないし、甘やかさないでくれ、幼女」

「⋯⋯ふふ、そっか。紅志らしいね」

 

 幼女は、俺の頬に手を当てる。

 それと同時に、全身の傷が一瞬にして回復。無くなっていた左腕さえ、いつの間にか再生していた。

 まるで母親の様に暖かな目で、幼女は優しく微笑む。

 ⋯⋯あ。なんか、不意に実際(前世)の母親を思い出しちゃったな。

 小さい頃、良い事をした時はこんな風に顔を撫でられっけ。

 

「うおーん、オカーチャーン」

「えっ!! お母ちゃん!? 私が!?」

 

 動揺しつつ、どこか満更でも無さそうな幼女。

 それを見ていたギルルが『ママぁ〜』と言って覆い被さった事で、その表情は満面の笑みへと変わった。

 少年の様に甘える俺達に、幼女は小さく唸り声を上げる。

 キュートアグレッションを起こしたらしい幼女だが、その様子で俺にも同じ現象が起きそうだぜ。

 

「ははっ。アホやってんな〜俺達」

「ね〜。僕もソレ思ってた〜」

「いやもう、全ッ然良いよ〜♪ カワイイ坊や達〜!」

 

 団子状態のまま、幼女が俺とギルルを撫で回す。

 いや〜ホント、こういうバカなコトしてる時が1番楽しいんだからなぁ。

 今日も、魔王城は平和だぜ。

 

 さて、閑話休題。

 ここらで、今後の俺がやるべき事を見直しておこう。

 最重要課題をクリアし、炎装の出力制御も順調で、ゼルに教わった技術も習得中。オーガに直接触れる手段も確率した、と。

 後は、まぁ今まで身に付けた能力・技術の洗練と、基礎身体能力の強化に重きを置くって所か。

 強いて云うなら、そろそろ回復能力も欲しくなってきた感じだな。

 毎度毎度 幼女やアインに治してもらって、流石に情けなさを覚えているし。

 

「──今日は私がご馳走作っちゃうよー♪」

「わーい!! アリアの料理好きー!!」

「⋯⋯⋯⋯。」

 

 盛り上がるギルル達を見て、少し無言になる。

 なんか、ふと、幸せそうだなと思った。

 微笑ましい遣り取りだとか、俺の成功を祝ってくれているんだとか、そういうのじゃない。

 ⋯⋯俺が難しく考え込むのは、弱者の立場にいるからだ。

 強者であれば、ゴチャゴチャした考えなんて持たなくても、幼女達みたいに生きられるんだろうなぁ。

 

「「──紅志!」」

「⋯⋯ん? なんだ?」

「なんか、」

「すごく、」

「「ニヤけてる!!」」

 

 ⋯⋯。あぁ、やっぱり。

 こういう時の俺は、いっつもそうだ。 

 とんでもなく強い奴と会った時、大きな壁にぶつかった時、自分の弱さを実感した時。──堪らなくなる。

 強くなりたくなる。壁を壊したくなる。強い奴を⋯⋯

 

「なぁ。アリア、ギルル」

「「??」」

「──いつか、絶対に越えてやるぜ」

 

 俺の台詞に、二人は笑う。

 愉快そうで、それでいて獰猛に。

 

 俺が、この星に生まれた日から。

 全ては決まっていたのかもしれない。

 

 焔。

 心で滾るそれが、俺の行く道を照らす事を。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。