猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第156話・知っていた

「──紅志ッ!!!」

 

 幼女が、大きな声で叫ぶ。

 それに振り返るのも束の間。瞬時に目の前に現れた幼女が、俺の周囲に3重の結界を創った。

 どうやら異常事態が発生した様子だが、何が起きたかは大方予想がつくぜ。

 俺への厳重な保護処置と、幼女のあの真剣な表情から察するに⋯⋯

 

「見つかった、か?」

「⋯⋯うん」

 俺の質問に、幼女は静かに頷く。

 やはりそうか。

 原因は知らないが、オーガが遂に俺達の居場所を突き止めたらしい。

 まぁ俺も、ずっと隠れ続けているつもりは無かったが⋯⋯。

 全く、あまり良くないタイミングで来やがったもんだぜ。

 

「──お? なんだ、向こうから来たのか?」

 

 事態を察知したのか、いつの間にかゼルが現れた。

 のそのそと歩き、頭の後ろをボリボリと掻く彼のその姿は、流石魔王という他無い。

 こんな状況でもロクに動じていないのは、圧倒的な力を有しているが故だろう。

 

「⋯⋯ゼル。なんで此処がバレたのか分かる?」

「ンン〜? よく分かんねェが、紅志が“何か”を発している様に見えるぜ。

 そいつが魔王城(ここ)に来た時からずっとあったが、今になってその“何か”が強くなってるっぽいなぁ」

「は? え、ちょ⋯⋯えぇ? それって、オーガが転生者に付ける監視の能力じゃないの?

 多分、“紅志が発している”んじゃなくて、“紅志に発せられている”のが正解だと思うんだけど??

 前々から言ってるよね? 『今の私は、感知可能な“神の力”に限りがある』ってさぁ。ねぇ?

 『微弱な“神の力”は認識出来ない』ってさぁ! ねぇ!」

 

 ゼルの肩を、幼女がぐわんぐわんと揺らす。

 対してゼルは、「そうだっけ?」とでも言う様な表情で幼女を(なだ)めた。

 そんな様子に腹を立てたのか、珍しくキレ気味の幼女がゼルの胸を拳で連打(ポカポカ)した。

 今の幼女に擬音を付けるなら、プンスコといった具合だな。

 うーむ、可愛い。

 

「もおー!! なんでもっと早く言わないのー!! もおおーー!!」

「そんな喚くなって、な? 飴ちゃんいるか?」

「んもおおーー!! いるううーー!!」

 

 やれやれ。これじゃあ、本当の意味で幼女だぜ。

 ゼルもゼルで悪く思って無さそうな態度だし、そりゃ幼女もキレるだろうよ。

 ⋯⋯いや、てか、なんで魔王が飴玉なんて持ってんだ?

 まさかとは思うが、幼女がこうなった時の対策として⋯⋯?

 

「──しっかし、妙だな。紅志に付けられた『精神操作』も『外部干渉』も、どっちも解除しただろ?」

「⋯⋯確かに。どっちの能力も、ちゃんと消滅させた筈なんだけどな⋯⋯」

「んじゃあ、なんでオーガ達が此処を見つけられたんだよ?

 お前の『能力解除』の研究には、俺も多少手を貸したが⋯⋯

 紅志に使った時にも、効果は確実にあったじゃねーか」

「⋯⋯⋯⋯うーん」

 

 何やら、2人は難しい顔をしている。

 「話し合いをしている場合か?」と言うべきか悩むが、まぁそもそもオーガ自体は脅威では無いか。

 大幅に弱体化している幼女ですら、オーガに対して一方的に戦えんだ。

 幼女もいる、ゼルもいる、魔王幹部もすぐに来る。

 あれ? 別に警戒する程でも──。⋯⋯って、ちょっと待てよ? 閑話休題だ。

 ⋯⋯さっき、俺に掛けられた能力に対して、ゼルはなんて言った?

 

 ──どっちも解除しただろ──

 

 ──効果は確実にあったじゃねーか──

 

 ⋯⋯言葉の使い方の問題、か?

 ゼルの言い回しは、まるで()()()()()()()()()()()()()()()かの様だ。

 ⋯⋯そうだ。そういえば、ゼルと初めて会ったあの日にも、

 

 ──確かにソイツの成長ぶりに興味があったが──

 そんな事を言っていた気がする。

 まさか、つまりは、そういう事なのか⋯⋯??

 俺はずっと、幼女とオーガの因縁は、その二人だけの間にあるものだと思っていた。

 ゼルは、あくまでそれを傍観しているだけで、幼女の策略とその結末には、何ら関わりの無い者だと⋯⋯

 もし仮に、初めからゼルが全て知っていたとしたら、今までの台詞が繋がる。

 そう、それは即ち──

 

「⋯⋯なぁ、ゼル」

「ン? どうした、紅志」

「俺が、この世界に生まれた日を、アンタは知っているか?」

「あン? そりゃあ 紅志お前、一年くらい前だろ?

 アリアがアホみたいに喜んでた日だ。よく覚えてるぜ」

 

 ま、マジか。やっぱり知ってたか。

 いや、考えた事も無かったぜ。俺、生まれた瞬間から魔王に目を付けられてたのかよ。

 

「⋯⋯紅志。ごめん、言ってなかったね」

「え? いやいや。お前が言ったんだろ? 『全ては君の成長の為に、私か仕組んだ事だった』的な台詞を。

 俺がこの世界に生まれてからの経験は、その殆どが計画通りの出来事だって。

 まさか、その中に魔王が含まれているとは思っていなかったけど⋯⋯」

「ンまぁ、別に俺ぁ紅志に何かした覚えは無ぇけどな」

「それは分かってるが⋯⋯。なんと言うか、アンタ程の男が最初から俺を知っていた事に驚いてて⋯⋯」

 いやぁ、世の中広いんだか狭いんだか。

 別に隠していた訳では無いのだろうが、ここに来て真実に辿り着けるとはな。思ってもみなかったぜ。

 

「──魔王様。参上致しました」

「おう。来たか、グレンデル」

 

 俺が感動に浸っていると、グレンデルが上空から現れる。

 彼に続いて、ティガ、アイン、ギルルも魔王城に到着。

 どうやら、既にゼルが魔王幹部達に招集を掛けていた様だ。

 

「手短に言う。オーガがカチコミに来た。ブッ潰す」

「しゃアッッ!! ブチのめすぜ!!」

「ハッ! ティガ、はしゃぎ過ぎんなよ?」

「えっ? アインへルムがそれ言うの?? 君も大概じゃん」

 

 ゼルの言葉に、魔王幹部達は盛り上がりを見せる。

 しかし。それぞれが、それぞれらしく振る舞う最中で、唯一グレンデルだけは違った。

 ⋯⋯いいや。若しくは、()()()()が彼本来の姿なのかもしれないな。

 静かで冷たく、それでいて烈火の様に。僅かに口角を上げたその貌が──。

 

「行くぜ。遅れんなよ」

「紅志。私とゼルから離れないようにね」

「⋯⋯あぁ。そうする。まだ、死にたくねぇ」

 

 俺の台詞に、幼女とゼルは軽く笑う。

 魔王城の外。あの草原へと、俺達は向かうのだった。

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