猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第15話・生きる

 

 

 

 

日が暮れ、リーゼノールの森を月が照らす頃。

俺が打撃の鍛錬に使用していた大岩。ビル3階ほどは軽くあるそれ。本来では『硬い』と認識される物であるはずの岩。

 

生身でありながら砕くこと自体、常識的には不自然であった。

が、竜のパワーの前では技術も気合いもなく粉砕ができた。初めてここに来た時には多くの大岩が横一列に連なっていたが、今では見る影も無い。⋯最後の1つを除いては。

 

 

「ほう⋯この短時間でコレか。並の冒険者より筋があるぞ。まずセンスがある。そしてその貪欲な姿勢も素晴らしい。」

 

 

俺の肩を叩きながら激励するバルドール。

月の光が大岩を照らす。全貌を表したそれには複数の穴が開き、そのほぼ全てが反対側の景色が覗けるものであった。

 

そしてたった一つ、大岩の表面に突き刺さった何か。

月光を銀色に反射する金属質⋯いや、金属の槍。人1人の長さがある。銀灰竜、もといグレイドラゴン特有である、魔力を金属に変換できる能力。

 

本来は身体を覆い防御、鉤爪に纏わせリーチを伸ばした攻撃の2択でしか使われない。しかし彼、燗筒 紅志の使い方は違った。それは遠距離攻撃として生成した金属を使用するという、この種として異例のものだった。

 

異例で、合理的であった。

金属の強度は恐らく鉄以上。加えて竜の筋力のおかげで高威力の遠距離への攻撃方を生み出す事ができたのである。

 

特に相手を仕留める、という点では優秀な攻撃法だ。

遠くから、迅速に。確実に死に至らしめる。自然界に生きる以上、不可欠な要素だった。

 

 

「ハッハッ⋯」

 

「それは息が上がってんのか?それとも笑ってんのか?」

 

 

息が上がっている。

と言いたがったが、会話すらままならないので目線で返す。これは消耗する。眠気と疲労が波のように襲ってくる。

 

全身に汗をかき、立っているのさえ辛い。

その状況下で俺は思った。『想定以上に以下だった』と。確かに倦怠感はある。汗も止まらない。⋯が、この程度か。

 

あの岩をあぁするのに20本、槍を作っては投げを繰り返した。初撃から貫通、半分投げる頃には標準を絞れるように、19本目ではヒビすら入らず岩を通過していた。

 

 

ここまではいい。

最高とも言っていい結果だと言える⋯が、最後の1本こそが今後の課題だ。

 

バルドールから教わった魔法は2つある。

1つは魔物本来の魔法。まぁこれに関しては人間である彼は難儀していたが、元々魔法が使えた俺は直ぐに感覚を掴むことができた。鉛筆ほどの棒の生成から始まり、グレイドラゴンの基本である防御面と攻撃面の使い方、そして槍などの武器⋯。

 

 

2つ目は操作魔法。

これは俺がかなりねだって、渋々教えてもらった魔法だ。

⋯残念ながら、物体を浮遊させて動かせるだけであって自身を浮かせる事はできない。

 

聞けば自分を飛ばす魔法は高度なものらしい。

ただこの魔法をそれの基礎になるというのでかなり打ち込んだ。それはもう血眼で。

 

で、この魔法☾フーへ(操作)☽で俺が作り出した槍を大岩に飛ばしてみたんだが⋯威力はご覧の通りだな。槍全体の半分も刺さっていない。わざわざ魔法使わなくても、投げればいいとかそーゆー問題じゃなくて、もっとこう⋯ファンタジー要素が欲しいというか⋯なぁ?

 

今は光線とかは出せないにしても、やっぱり物理攻撃よりそっち系に憧れる。まぁ練習あるのみってやつだな。うん。

 

 

「⋯あ、そうだ。思い出したんだが、バルドール。昼間に使っていたあの魔法はなんだ?テュラングルにトドメさしたアレ⋯」

 

「ぉん?あーあれか。ベゼ・ファル⋯『邪悪な矢』って意味の魔法だ。文字通り、邪悪な能力だったろ?」

 

 

うん、かなり。

追い回された挙句、爆発する⋯しかも高威力×3⋯それが1度に出てくるんだから、2回同じ魔法使ったら6⋯3回なら9本のアレに追い掛けられるんだから恐怖だ。

 

 

「つーか、お前いくつだ?」

 

「え?なんだ急に」

 

 

まぁ0歳(29)な訳だが⋯

あれか、呼び捨てとかタメ口な点が気に触れたか?魔物だから人間の上下関係なんてどーでもいい!って密かにガッツポーズしてたなんて言えないんだが。ここは探ってから⋯

 

 

「そう言うバルドールは?」

 

「俺か?40だが⋯」

 

 

⋯え、四十路?わっかぁ⋯若過ぎだろコレ。

30前半で普通に信じるレベルの見た目なんだが。あ、あれか?エルフとか長寿な人種みたいな?いや、耳長くないし。小じわもない、髭も整っている、声も若い⋯単にこの世界の人間、もしくはこの人が若くみえるのか?

 

 

「⋯本当か?」

 

「⋯フッ、良い目してるな、本当は43だ。秘密だぞ。」

 

 

そう言う疑問じゃなかったんだが⋯どーしよ。

何さりげなく盛ってるんだよ。⋯俺、こんな歳上の人にあんな口調だったのか。ナマイキだと思われてそうだな。

 

⋯⋯。

 

⋯⋯まぁ、いいか。

俺、竜、無問題。人間のあれこれはもう気にしない。

 

 

「訳があってだな、魔力の所持量が多いとなんやかんやで体の老いが遅くなるんだよ。俺は結構、影響を受けている方だ。」

 

「なんやかんやってなんだよ⋯」

 

「ハハッ。まぁ俺より年上で若見えな奴もいるけどなー」

 

 

まじ?

信じられないんだけど⋯。あーし信じられなぁい。

ちょーウケるんですけどー。どんびきー。まぢどんびきー。

 

 

「⋯で?お前は」

 

「⋯40。」

 

「嘘つくな。グレイドラゴンの平均寿命は50〜100年だ。成体はあの大岩程でかい。そのデカさだと1年でせいぜいだろ。」

 

 

くっ、なんでそんな知識あるんだ。

一見、強いけど頭悪い脳筋系っぽいのに。後なんで見た目で判断できるなら聞いたんだよ。

 

というかあの岩程?もはや怪物じゃん。

グレイドラゴンの成体って大きいんだな。これじゃあまるでゴジr⋯

 

 

──ド─────────⋯⋯ッ⋯

 

 

「!!」

 

「⋯感じたか。」

 

 

大きな大気の揺れ。

それと同時に覚えたこの感覚。バルトールが言うには、俺は魔力の感知ができるらしい。まだまだ甘いが、感知した位置と、ある程度のサイズの区別ができる。⋯これはアイツだ。

 

俺は気配の方に振り向いた。

集中して感知する程、強くなる魔力。もはや輪郭となって見えるほどに強大な魔力が密集していた。

 

⋯さて、どうするか。

俺の出る幕ではない事は分かっているが、昼間の俺と今の俺は格段に力量に差がある。多少だが、物理戦闘面も改善されたと思っている。支援程度は出来る気がするが⋯

 

バルドールは⋯髭いじってブツブツ言っているな⋯

 

 

「よし、俺はこれで帰るとする。じゃ、約束忘れんなよ。」

 

「えっ、ちょっ⋯」

 

「⋯なんだ。」

 

 

なんだじゃなくて、帰る?

冗談にしては面白くないし⋯あの顔、真面目じゃん。本気で帰る気だこの人。仕事終わりに上司に呼び止められたくらいの反応だし。頭だけこっち向けて身体は帰宅の準備万端みたいな⋯

 

いや、困る。

アレには勝てない。話し合い通じる相手でも無さそうだし、倒してもらわなければ、命が危ない。

 

⋯分からないな、何故今なのか。

まさか、このタイミングを伺っていたとか?⋯ありえそうだな。仮にそうだとしたら、あえて倒さなかったという結論に至るが⋯。

 

倒し損ねる、なんてミスをする人間には見えないしな。

少なくとも殺し合いにおいては。

 

 

「心配するな、今のお前なら何とかなる。⋯というか何とかしろ。じゃ」

 

 

その言葉を最後に光に包まれ、バルドールは姿を消した。

すげえ、瞬間移動かーってそんな場合か。アイツ、いつか勝負とやらをする時が来たら絶対に俺が勝つ。これは、許せない。

 

だが今は⋯どうでもいい。

どうすればいいのか分からない。俺どうこうできる相手でもなし。俺、死んだかも。

 

絶対に不可能。

無理だ勝てない。

奇襲とか、時間稼ぎすら出来ない圧倒的な差。

 

 

俺はどうすればいい⋯

 

俺は──⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⋯──‎〖魔物。〗

 

 

 

「⋯?」

 

 

今、俺の考えとは別に言葉が聞こえてきた。

正確にはイヤホンで聞いた様な、頭に直接響く声。声質で判別するなら少年。幼い音声が俺の頭の中で再生された。

 

魔物?

俺⋯が魔物という事か?

 

 

‎〖そうだよ。もっとも、中途半端な魔物擬きだけどね。〗

 

(誰だおま⋯君は。)

 

 

クスクスと笑う声が聞こえる。

今度は少女の声⋯いや、違う。老若男女の声が繋ぎ合わされているような、奇妙な声で返答をしてきた。

 

緊張高まる俺とは真逆に、とても落ち着いた様子だ。

一頻り笑い終えると、息を1つ吐いた。不思議な雰囲気で、なんて例えればいいか分からないが、聞いておかずにはいられない⋯そんな気がした。

 

 

‎〖僕が誰かって?ふふっ、そうだねぇ⋯──〗

 

 

この声、全て聞き覚えがある。

前世で関わって人間の声だ。父、母などの家族、友といった近しい人間の声が大半。

 

その他、職場や人間や学生時代の教師⋯記憶に薄い声。

まるで、1つの曲を聞いてる様なそんな感覚。それぞれの声が重なり合うように言葉を紡いでいた。

 

ただ、1つだけ分からないのがある。

この声の集合体の軸にいる少年の声。一番最初に聞こえた声だった。引っ掛かるのは、分からないだけで『聞き覚えがない』というものでは無かった事。⋯どこかで

 

 

〖──⋯まぁ、強いて言うなら君自身、かなぁ?〗

 

 

は、俺?

そこで俺の思考はまっさらになった。彼の正体に気が付いたかもしれないからだ。

 

この世界に転生してきて初めに持った疑問。

俺は卵の中で目覚めた。殻を破り、自分の姿を見た時から考えていた事。

 

俺の意識が宿った事により、この肉体の元々の意識はどうなったのか。あの時点では、まだ意識はなかったのか。消滅したのか。⋯いや、消滅させられたのか。あの神のような老人からすればどうでもいい事かもしれないが、俺はずっとそれが気になっていた。

 

 

しかし、今の台詞⋯確信した。

 

この子の正体は『本来の宿主』⋯グレイドラゴンの子ども⋯

 

 

〖せいかーい!もー、答えるの早すぎ〜!つまーんないっ!〗

 

 

まんま子どもだな。

魔物なのに流暢に喋るのと、そもそも人間の言語で会話しているのが気になるが。⋯待てよ、つまり肉体も頭も俺の意思で動くが、意識だけはこの子と俺の2つがあるって事か⋯。

 

中々興味深い。

 

だが、どんな理由があって出てきたのかは知らないが、今はこの子に構っていられない。アイツの対処をしなければ⋯虎徹を回収してさっさとここを離れるのが最優先だ。

 

 

(⋯本来の宿主の君なら、どうにかこの身体を活かせないか?)

 

 

俺が意識で問い掛ける。

しかしは返答無く、代わりに風の音と虫の鳴き声が聞こえる程の静寂に、俺は包まれた。

 

消えたのか、単に黙っているだけなのか⋯

分からないが、深く考えている余裕は無い。今はこちらの件に集中しよう。

 

大きな魔力は未だ動いていない。

下手に騒ぎを起こさなければ、こちらに気付くことはないな。早めに家に向かおう。

 

幸い、魔力は家の反対方向から感知していた。

このまま、暫く静かに潜んでアレがどこかに行くのを待つしかないな。

 

極力足音を消しつつ、俺は向きを変えた。

俺が魔力の感知出来るということは、俺より上の存在であるヤツも同じように感知ができるかもしれない。

 

興奮せず、ゆっくり⋯

 

 

「ッ!!」

 

 

魔力の変化を感知、魔力の塊が縦長に伸びた。

咄嗟に振り向く。変化の内容がおかしい。空へ移動しているのなら遅すぎる。飛んでいるのだとしたら姿が見えるはずだ。

 

それに、あんな風に魔力が伸びたりは普通しない。例外は、身体自体が伸びる性質の場合とかだ。身体を象るように発せられる魔力も同じ動きをするが⋯どうやら違うな。これは。

 

これは⋯なんだ?

 

疑問に浸っていると、俺はある事に気づいた。

あの魔力が消えていたのだ。確かに魔力の変化は感知できたが、全く姿形が見えなかった。

 

魔力を上空に放った⋯?

いや、そうと仮定しても、本体の魔力が消える事はない。

 

俺は魔力が伸びていた先、空を見上げた。

空を見渡した俺は、1つ違和感を覚えた。月が欠けている。三日月のような欠け方では無く、1箇所黒点がある様な⋯。

 

今日は満月に近い。

その奇妙な現象をこの目で確認するのには十分な程、金色の月が映えていた。ゆっくりと黒点が月を侵食していく。

 

そして遂に俺は、これらの現象の原因を刮目することになった。

 

 

「チィ⋯逃げよったか人間め⋯」

 

その大翼を広げ俺の前に降り立ったソレ。

月光に照らされ輝く真紅の甲殻。翼の影の中で緋色の光を放つ瞳。四肢は隆々とした筋肉で覆われ、その巨躯の総てが見る者を圧倒する存在感を放っていた。

 

 

(やはり、テュラングル⋯。アレで生きていたのか。)

 

 

成程、合点がいったな。

先程の魔力の異常運動⋯言うなれば、魔力の残像って所か。俺の感知力では追い切れない程のスピードで上昇、見れていたのは数秒前のコイツの魔力の動きだったか。

 

冷や汗を流しながら、俺はテュラングルの様子を確認した。

昼間のような殺意は無い。いや、そんな感情を向ける程の興味は無いともとれるな⋯。

 

恐らく片手間で屠れるであろう相手に対して、わざわざ思考を交える必要も無い、か。

 

とにかく、俺の目の前に降り立ったのは訳があるのだろう。

向かい合うしかない。⋯気掛かりなのは俺の背後の林、それを抜けた所にある俺の家。虎徹は俺が連れ出さない限りは家を出ない。

 

つまり、この位置で昼間の交戦でも発射されたら、かなりまずい。しばらく面倒を見ている身としては、何の抵抗も無しに虎徹が灰にされるのは見てられない。

 

せめて俺がここから数歩横に移動出来れば⋯

 

 

「貴様⋯先刻、無謀にも我に対峙した貧相な竜ではないか。

竜種とはいえ、これと同じ括りに人間にされていると思うと⋯全く持って腹立たしい。」

 

「⋯そうか、それじゃあアンタみたいに強く逞しい竜になれるように俺も頑張るよ。」

 

 

⋯話題はなんでもいい。

今は機嫌を損ねず、出来るだけ時間を掛けれる話を場を繋ぐんだ。全ては俺が移動し終わってから、だ。

 

やり合うか、このまま機嫌取り続けて帰ってもらうか⋯。

さりげなく横に歩きだす。あちらの身体を観察する素振りを見せ、適当に相槌したり唸ったりする。

 

フン、と鼻息を鳴らしつつも仕掛けては来ない。

⋯どうやら警戒すらされていないようだな。怒ってもいない様子だし、割と荒事にならずに済むかもしれない。

 

 

〖⋯えーっ、君はさ、それでヤじゃないの?悔しくないの?〗

 

 

煩い、そんなわけないだろ。

消えたと思ったら急に出てきてなんだ。俺だって力があったら堂々と構えてるさ。だが、無理だ。今の俺にコイツは。

 

歩きながら頭で会話する。

頼むからこのタイミングで喋りかけて来ないで欲しい。気が削がれて、思わず表情に出てしまいそうだ。

 

人に不機嫌な顔されてムカつくのは魔物だって同じだ。

特に高度な知性があるならな。本当にアイツを刺激したくない。いつ気が変わるかわからん相手だし、その気になったら俺なんて一瞬で塵だろう。慎重に事を進めねば⋯。

 

取り敢えず、移動は完了した。

俺は話題を途切れさせず話し続けているが、痺れを切らしたテュラングルが遂に行動にでた。

 

 

「もうよい。消えろ。」

 

 

その言葉を言い終わると同時に、俺は灼熱に包まれた。

咄嗟に両腕でガードする。熱に強い俺ですら、身体中に火傷を負う程の威力と熱量。俺の背後数メートルに渡って焼け焦げた地面。その黒焦加減が今の一撃の威力を物語っていた。

 

⋯いきなりこんなのありか。

展開の緩急が激し過ぎる。普通に話しかけてた相手がいきなり殺しにかかってくるとか⋯。ただ、攻撃は見えた。負傷はしたがガードは間に合っていた。思ったのほどのダメージも無い。

 

⋯意外と、なんとかできるかもしれない。

 

 

幼竜の話に飽きたテュラングルは、屠るつもりで火球を放った。自分の一撃を防がれた龍は冷静を装いつつ、内心怒っていた。

 

己より、

 

魔力も!

 

強さも!!

 

大きさも!!!

 

偉大さも!!!!

 

魔物としての存在の格も!!!!!

 

 

全てにおいて『下』のこの幼竜に防がれた。

そして豪炎を振り払いながら見せた一瞬の表情。

 

笑っていた。

まるで大したものを食らっていないかのような余裕振り。数多の生命を絶ってきた、自身の炎。加減したとはいえ、反応され防がれ、笑われた。

 

本人に笑みを浮かべたつもりは無く、あの火球を防げた事に僅かに喜びを覚えていた。それが無意識に、表情に出ていたのだろう。

 

しかし、この事実だけで十分だった。

テュラングルの高過ぎるプライドを深く傷付けるのには十分すぎる材料となった。

 

 

──圧倒的格下と思っていた相手が己の攻撃を防いだ──

 

 

「⋯塵如きが⋯調子に乗るなよ。」

 

(身体は動く⋯問題ない。)

 

 

多少痛むが、回復は済ませた。

こうなってしまった以上、撤退は不可能。それなら撃退を目的に切り替える。弱点⋯特に目を狙い、鬱陶しい攻撃を全力でやり続ける。

 

まぁ逆上の心配はあるが、むしろ攻撃が安直になってやりやすいかもしれない。今は──⋯

 

そこまで考えた時、俺の視界が大きく傾く。

そして、何が起きたか理解する間もなく、気付けば岩壁に激突していた。衝突のダメージで身体が動かない。視界が安定せず、立つことすらままならない。⋯脳震盪か。

 

激しく吐血をしつつ、唯一動かせる頭を動かす。

テュラングルが先程いた正面の位置から、俺がいた場所に移動している。それを見た俺は、ここでようやく何が起きたのか理解した。俺の動体視力で捉えられない速度で肉薄、薙ぎ払うように攻撃。

 

意識が追い付かなかった俺に見事に命中。

で、この有様か。くそ、痛みが戻ってきた。全身⋯特に壁に打ち付けられた箇所が痛い。右肩から下半身にかけて骨もいっているな⋯。左半身は問題なし。何とか脚も動くが、左腕の感覚だけが無い。⋯痛みすら。

 

 

(⋯感覚が⋯?無い?)

 

 

妙な違和感。

確認のため、頭を左腕が見える様に動かす。

 

 

「オ"ア"ァ"ァ"ア"──ッッ!!」

 

 

直後、絶叫。

彼の左腕は、肘から下が無くなっていた。一気に激痛が蘇り、先程まで動かなかった身体を飛び起こし、のたうち回った。

 

言葉での比喩を許さない痛み。

事切れた左腕がテュラングルの足元に転がっている事に気が付いたのは、叫びに叫び、暴れに暴れた後だった。

 

 

「〜〜〜ッッ⋯」

 

 

フラつきつつ、身体を起こす。

回復を試みるが、無くなった腕が元に戻る事はなく、ただ溢れる鮮血が地面に注ぎ続けられるだけだった。

 

焦燥、焦燥、焦燥。

 

激痛、激痛、激痛。

 

困惑、困惑、困惑。

 

それらが高速で脳内を駆け回り、吐き気と目眩すら催していた。

 

しかし、それ以上に彼を支配した感情。

怒り、である。ガムナマールの群れを殲滅した時よりも強く、固く意識を縛り上げる。

 

痛みからの絶叫ではなかった。

自身の身体が欠如した事に、本能が激しい拒絶反応を起こしたのだ。

 

魔物の生存本能。

自らを一個の生命として主張する事が魔物にとってのソレである。『闘争』とは魔物にとって自身の絶対的な存在証明となるのである。

 

己という存在を示す体の一部が完全に欠けてしまった。

 

これが魔物としての彼をどれほど抉ったか。

頭が沸騰するとはよく言ったもので、銀灰竜は現在、眼前の龍をはっきりと『敵』として認識していた。

 

皮肉な話だが、先程までは敵対意志すら持っていなかった。

自身の生命を脅かす怪物。もはや同じ魔物とすら認識していなかった。腕を切断され、魔物としての彼を大きく傷つけた結果、ここに来てようやく、真正面から格上に『敵』として相対する形となった。

 

彼自身、自分の成長力には驚いていた。

今日というこの日だけで、数字にしてどれほど上がったのか、何倍か、それとも何十倍か。

 

実際に生命としての終わりを感じた肉体と本能は、それを乗り越えるために、大きく高く強化されていった。

 

⋯少なくとも、今の銀灰竜が『もしかしたら勝てるかも』と自惚れてしまうほどに。

 

 

「向かってくるか⋯!!」

 

 

テュラングルが銀灰竜の動きを認識。

真っ直ぐこちらへ駆けてくる。スタートダッシュによる衝撃波が生じたのは、彼が鉤爪を振り上げたのをこちらが捉えた後だった。

 

振り上げのタイミングがやや早い。

恐らくブラフであるというテュラングルの予測は見事に当たった。勢いよく振り下ろされる鉤爪。勿論、そこには何も無く、空を切ったが、その余った勢いは身体に乗せられ、高速で全身を回転させた。

 

そして次に予測が立つより早く、銀灰竜がしかける。

龍の視界が何かに覆われた。液状、赤色⋯先程落とした腕の切り口から出た血だ。わざと腕の筋肉を緩め、大量に出血させていた。彼の目的は視野を奪う事。

 

回転の勢いを利用し、弾丸の如き速度で血を飛ばす。

 

しかし、所詮は弾丸レベル。

テュラングルは軽く首を捻り、難なく躱した。が、次に銀灰竜を捉えた瞬間、テュラングルは思わず舌打ちをした。

 

銀灰竜の目的は視野を奪うこと。

視界ではない。ほんの一瞬、意識が血に向いてくれるだけで十分だった。その隙に体勢を変える。最も尻尾を打ち付けやすい様に。

 

 

──ズドンッ!!

 

 

大きく砂煙が舞った。

彼が放った尻尾の振り下ろしは、見事にテュラングルの脳天に直撃、その顔面を大地にめり込ませた。命中後、即座に距離を取る。

 

 

「⋯ハァ、ハァ⋯手応えはあったが⋯」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」

 

 

沈黙。

動かない⋯が、大体この場合は対して効いてないのがオキマリだ。感触はバッチリだったが、どうも響いていない。まるで分厚い鉄板を叩いた様な⋯そんな感じだ。

 

呼吸を整え、『次』に備える。

鉄の槍を生成、強く握り締め、構える。今度はどう来るか?突進か、火球か、引っ掻きか、薙ぎ払いか⋯。思い付く限りのパターンを浮かべ、全てに対応するべく行動を練る。

 

完全ではなく最善。

それを念頭に、浅い呼吸を繰り返す。

 

 

(来るッ!)

 

 

その思考とほぼ同時に、地面が爆発した。

咄嗟にバックステップをし、被弾を回避する。凄まじい熱量だ。まるで火口の様に熱気を放つ大地、空気。そしてその中心にいるテュラングル。

 

あの目だ。

獲物を殺すと決めたあの殺気に溢れた目。少し前の俺ならかなり恐怖してた自信がある。あの気迫は、普通の人間⋯いや普通の生命体なら気絶しても不思議ではない。そちらの方が自然だと思う。

 

もはや痛みすら覚える視線を真っ向から見返す。

 

視線が交差したその刹那、動いた。

先手を取ったのはテュラングル。火球を3つ生成し発射した。

 

速度、捉えられる。

 

大きさ、普通。

 

熱量、耐えられる。

 

ここは回避よりカウンターを狙おう。

初撃をサマーソルトで上空へ弾き飛ばす。からのバックステップ。二撃目は岩の破片を魔法で操作、火球にぶつけて相殺。そして最後。大きく踏み込み、生成した槍を目一杯の力で投げる。

 

放たれたソレは火球を貫き、大穴を開けた。

ヤツから見て火球より向こうは死角⋯そしてあの速度の攻撃。これは当たる。正直、掠めれば上々って所だが、千里の道もいっ──⋯

 

 

(⋯いない。)

 

 

穴が広がってゆく火球。

その穴から見える奥の景色にテュラングルの姿がない。莫迦な、そんなはずは無い。ヤツが火球を放ってから今の状況まで十数秒も掛かっていない。

 

魔力感知も働いている⋯。

⋯まさか、まさか⋯さっきと同じ様に魔力の残像を見ていた⋯?今どこに

 

 

「弱い。」

 

 

頭から爪先まで、くまなく響く声。

全身に大量の冷や汗が流れる。声の方向は⋯背後か。

 

生唾を吞み込む。

1ミリの動きすら緊張で強ばる。首が飛ぶか、灼熱に包まれるか、はたまた齧られて千切れるか。ここからの打開策が思い浮かばない。俺は今、詰んでしまった。

 

ゆっくりと振り向く。

目に入ったのは凶悪なアギト、そしてそこから生成される炎の塊。⋯どうやら、バーベキューがお好みらしいな。

 

どの方向に移動しても無理だ、これは。

あの巨体でいて、素で俺より俊敏に動けるのが何より脅威だ。魔法を使う?コイツに有効なものなんて1つも持ってない。火球が放たれるに接近?生成を中断してガブリ、だ。

 

⋯⋯。

 

⋯⋯⋯。

 

 

 

 

くっっっそ。

 

 

あー、もう少しやりたい事とかあったんだけどなー。

まぁ、命乞いとか柄じゃないし、最後は潔くいこうかな。

あー、死ぬのか。2度目⋯か。また転生できないかなー。

 

どうしようもない現状。

俺は目を閉じ、自身の最期のその瞬間を待った。盛る炎の音に喧しさを覚える程、静かに。

 

 

〖ね、ね、ピンチ?助けてあげようか?〗

 

 

頭に声が響いた。

なんだコイツは。気紛れにも程があるだろ⋯。出ては消えて出ては消えて⋯もう、いい。

 

 

〖まぁまぁ、そう諦めないで。もう少しがんばろっ?〗

 

(⋯何とか出来るのか?この状況を。)

 

〖んー、勝てるかはわかんないけど。まだ生きれると思うよ?どうする?僕に〗

 

(わかった。)

 

〖おぉ⋯食い気味だね⋯。まぁまっかせて!〗

 

 

それを最後に、俺は業火に包まれた。

すがる。すがるさ、俺は。まだ生きたい。まだ死にたくない。

まだ終われないんだよ。俺が⋯求める所にいけるまで──⋯

 

 

 

 

 

NOW LOADING⋯

 

 

 

 

 

どこかの街の、とある裏路地。

暖かみのある光を放つステンドグラスのランプが並び、カウンターとテーブルの5席づつある、熟練冒険者行きつけの酒場。

 

扉の鈴が鳴り、1人の男が入店した。

バルドールである。銀灰竜と別れた後、ここまで移動してきたのだ。理由は単純に、彼がこの店を気に入っているから。

 

1番奥のカウンター席、いつもの席に腰を下ろした。

そして注文することも無く出された木製のジョッキ。彼、バルドールのお気に入りである果実酒がなみなみと注がれている。

 

 

「⋯⋯今日は良い事でも?」

 

 

低く、喉から出ている様な声。

声の主はこの酒場の主人である。やや長めの白髪をうなじでひとまとめにし、同じく白い眉と口髭は1本の乱れなく整えられていた。ブラウンの澄んだ瞳は、殆ど閉じられた瞼によって隠され、1部の客の間では、瞳を見れればいい事があるというジンクスが生まれていた。

 

白いシャツに茶色のエプロン。

これといって着飾っている訳でもなく、特別人当たりがいいという事も無い。それでもこの店に客足が絶えないのは彼の腕がいいから、という事は言うまでもないだろう。

 

 

「ん⋯仕事の方でちょっと、な。」

 

 

現在、店内にいるのは店主とバルドールの2人。

というのも、今はもう深夜で大抵の冒険者は帰宅し寝ている頃なのだ。一般人なんて以ての外である。

 

まぁそんな事は気にしなくていい。

 

お互い、浅からぬ付き合いである為、表情や仕草などで大凡の思考が読めるのだ。特に店主に関しては経験が豊富で、今のように言わずとも察せるのだ。

 

 

「⋯⋯ほう。珍しいですな。アナタのような方が⋯」

 

「フッ⋯そうか?」

 

 

珍しい、と言うのもバルドールは冒険者の中でも実力者で、毎日のようにクエストの依頼が大量に届き、何か割く余裕など基本無い。

 

 

「実は⋯気になる魔物がいてな。ソイツが中々に見所があるんだよ。」

 

 

成程、といった様子で頷く。

因みに先程からしきりに手を動かしているのだが、単に料理しているだけなので、これも気にしなくていい。

 

 

「ま、今はガキだし、育成途中だけどな。」

 

「⋯⋯育成?また、変わった事をする男ですな。アナタは。」

 

 

溜息にも似た息を吐き、バルドールの前に料理を並べる。

 

 

〜本日のメニュー〜

 

雪果草(せっかそう)琳蜜花(りんみつばな)のサラダ

 

世界樹チップの燻製チーズ

 

ワイバーンのモモ肉ハーブ焼き

 

 

「今日はずいぶんと贅沢な食材を使ってるな?」

 

「⋯⋯えぇ、大切なお客様の特別な日という事で。」

 

 

粋、である。

一見、不器用そうなバルドールだが見事にナイフとフォークを使い分け食事を取る。本来、彼はこういったタイプの食事は好まないのだが、この店の味を知ってからマナーを一通り学んだという意外に、真面目なところがある。ぶっちゃけ、かなりのツウである。

 

 

(おい、そこの詳しい説明いらないだろ)

 

「⋯⋯?」

 

 

閑話休題。

 

食事を一通り食べ終え、煙草をふかすバルドール。

相変わらず店主は手を動かしている。暫く無言の間が続いた。

 

それを破ったのは店主だった。

 

 

「⋯⋯先程の魔物の話なんですが⋯。私、少々気になります。お聞かせ願えませんか?」

 

 

灰皿に煙草を置く。

バルドールは何処から話すか悩んだが、面倒だったので全部話す事にした。

 

最初は冗談を言っていると思われていたが、話していくうちに真実だと分かり、たまに質問を挟みながら話を続けた。

 

 

「⋯⋯ふーむ。家を作り、料理を行う⋯。人間と会話をし、挙句の果てには魔法の習得まで⋯」

 

「あぁ⋯魔物の基本魔法はともかく、比較的簡単とは言え、一目見た浮遊魔法を数時間でマネできるようになるとは驚きだったな。」

 

「⋯⋯しかし、あの龍⋯テュラングルと一体一で勝負をさせるのは、いかがなものかと⋯」

 

 

苦笑いをしながら、俺の前に料理を出す店主。

 

 

〜デザート〜

 

キラーハニーのバニラジェラート

 

 

「ま、ここは冒険者のカンってやつだ。ここで死ぬようじゃ、俺の勘違いだったって話だ。」

 

 

俺には分かる。

あの銀灰竜⋯アカシという名の魔物は必ず生き延びる。魔法を短時間でモノにするあのセンス。俺が相手でもよかったが、時間がかかる。何より勢い余ってしまいそうだし。

 

ここは自然に任せる。

俺は単に引き寄せただけだ、勝てとは願わん。生きろ。

 

それこそが⋯お前の道になるはずだ。

 

 

そして⋯いずれ⋯⋯⋯

 

 

 

デザートを食べながら気味の悪い笑みを浮かべるバルドールに若干引きつつ、食器を片付ける店主であった──⋯

 

 

 

 

 

NOW LOADING⋯

 

 

 

 

 

「ハ、ハ⋯」

 

「咄嗟に身体に魔法を纏い、ダメージを減らしたか。フン、無駄な抵抗をする。」

 

 

炎が止み、現れたのは金属の球体。

花が咲く様に球体が割れ、中から銀灰竜が姿を見せた。先程の火炎を食らって無傷。魔法で自身を完全に守り切ったのだった。

 

あの声が聞こえた後、俺の魔力が噴火した様に溢れてきた。

そして俺が火炎を浴びるより早く、俺を包み守ってくれた。完全に俺の意思ではなく、勝手に発動した感覚だった。

 

グレイドラゴン本来の意思と、本来の魔力。

成程、元が人間の俺とじゃあ、扱いに差が出る訳だ。⋯しかし、ここまでとは。

 

 

「ハ、ハ、ハ⋯」

 

「無茶に魔法を使ったのだ。そら、息が切れているぞ。最後のよしみだ。抵抗し無ければ苦しませずに殺してやる。」

 

「ハハ、息が切れている?違うな、笑ってんだよ。」

 

 

確信した。

コイツ、昼間の一戦で弱っている。防御したとはいえ、厚さ数センチしかない金属の壁を破壊できなかった。やろうと思えば、あの光線だって放てる筈だ。こいつの性格上、格下相手の俺の敢えてトドメを刺さない、なんてのは考えられない。

 

いや、もはや格下と思う余力すらないハズだ。

今はもう、手が届く⋯!!こんなの笑わずにいられるか!

 

 

「貴様⋯このテュラングルを愚弄するか。」

 

「するか、じゃない。もうしてんだよ、愚弄。」

 

 

ギロリと碧色の瞳が動く。

湧き上がってくる魔力を使用、槍を大量に生成、浮遊させる。そして全身に鎧のように金属を纏う。⋯機動力に問題は無し。

どうやら俺の動きに合わせて伸縮しているようだ。

 

無くなった腕の場所に、鋭い刃を作り出す。

これで実質元通り。五体満足(フルコンディション)ってやつだ。

 

 

〖⋯いいね、いい感じだよ。僕はサポートに回るから、君はガンガン攻めちゃって⋯!〗

 

(あぁわかってる⋯!)

 

 

この子の顔はみえないが、恐らく笑っている。

今の俺と同じように、悪い笑みを浮かべている事だろう。

 

 

 

⋯さて、いっちょ派手に暴れ⋯

 

 

 

いや、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

派手に踊るとするか⋯!!

 

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