猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第160話・光

 ──数時間前・魔王城。

 オーガに啖呵を切って城に帰還した俺は、やる気満々モードであった。

 爆上がり中のモチベーションを治める為、炎装を発動しては中断するといった行為を繰り返す。

 舌打ちしたグレンデルに「目障りだ」と一喝されてからも、俺はフンスフンスと鼻息を荒らげていた。

 しかし。待ちに待った幼女の次の言葉は、俺の高まる意気を(くじ)くものとなる。

 

「さて。決戦の日が確定したワケだし、ここらで紅志には英気を養ってもらおう。今日からバケーションだ♪」

「⋯⋯ば、バケーション??」

「そ、ばけーしょん。久し振りに会いたい人とか、行きたい場所とかあるでしょ?」

「いや、まぁ無い事は無いけども⋯⋯」

「うんうんっ。そーゆーコトだし、力を抜いてさ、ね?

 身体は勿論、精神も万全の状態で決戦には臨んで欲しいし、しばらくはうんっと寛いでてよ♪」

 

 えーっ、えーっ。やだやだー、鍛錬したいー。

 ⋯⋯と、駄々をコネたい気持ちはあるが、幼女の言い分にも納得させられる部分は多いか。

 別に死ぬつもりで決戦に赴くじゃないが、心残りは無くしておきたいのはあるし。

 ⋯⋯それに俺は、オーガによる民間への被害を直接目にした事が無い。

 しっかりと現場を見ておいた方が、決戦当日の俺の心構えも変わるというものだろう。

 

「決戦の前には、当日を見据えた予行鍛錬とかもするしさ。

 今だけは、とことんリラックスして来て欲しいなっ♪」

「分かっ──たっ。それじゃあ、その言葉に甘えるとするぜ」

 

 頷く俺に、幼女はニッコリと笑う。

 話はトントン拍子で進み、迅速な移動手段としてティガが同行してくれる事や、確実に行きたい場所等が決まった。

 だが、話が纏まりかけたタイミングで、俺は大きな問題点に気が付いてしまう。

 ()()()()()のだ。俺が人間と行動していたのは、数ヶ月も前の事である。

 短くも感じるが、その数ヶ月の間で俺は急激な変化をした。

 俺の事を『アイツだ』と認識出来る奴は、かなり少なくなっている可能性がある。

 知り合いとかと話が出来れば手短に済むだろうが、都合良く居合わせてくれる保証も無い。

 エスキラに事情を伝えたとしても了承されるか不明な上に、対応してくれたトコで流石に時間が掛かるだろうし⋯⋯

 

「──あ。」

 

 その時。ふと、()()()()が蘇った。

 ここ魔王城に初めて来た日の事⋯⋯。正しくは、来る直前の出来事だった。

 とある村に立ち寄った際、俺は自分が竜の姿である点が少し不都合になった。

 そして、見かねた幼女に助けてもらった事があるのだが⋯⋯

 彼女が問題を解決する為に取った“手段”というのが、今の俺にとって理想的なのだ。

 “擬人化”⋯⋯。幼女がそう呼んでいた能力は、元が人間である俺からすれば極めて有用性が高い。

 なにより肝心なのは、その能力の関して、俺は()()()について心当たりがある点だ。

 

「⋯⋯幼女、ちょっと」

「ん? なになに?」

「まぁ話というか、少し見ていて欲しいんだが──」

 

 そこまで言って、俺は魔力を操作する。

 魔法陣を創り上げる時の様に、魔力で“式”を構築してゆく。

 そして“その式”は、俺の中に記憶として残っていたものだ。

 ただし、それは頭で憶えていた訳では無く、“全身に刻まれていた”という表現の方が似合う。

 云うなれば、肉体感覚の記憶といった感じだろうか。

 

「⋯⋯おっ」 

 

 記憶通りに魔力を操作していくと、徐々に異変が現れる。

 全身が縮こまっていく感覚と同時に、見える景色がどんどん低くなっていくのだ。

 その他にも魔力感知の性能低下や、全身の筋肉が減少する程に異変は大きくなったが、これそこが俺の狙いである。

 

「──こんなので合ってるか?」

「紅志⋯⋯!!」

 

 尋ねる俺に、幼女は驚いた表情を浮かべる。

 彼女と視線の高さがほぼ同じになっているのを鑑みるに、どうやら上手く成功した様だ。

 

「ホォ? まだ精度は甘ぇが、肉体の変化が出来るたぁな」

「ね!! 凄いよね!! ホントにいつ覚えたの!?」

 

 アインと幼女が、俺を覗き込む。

 間近で見ると、幼女より今の俺の方が少し背が低い様だ。

 見える景色や感じ取れる情報は少ないし、手も小さいし筋力も落ちてるが⋯⋯

 いやしかし。人間の生活圏に入るなら、この子どもの姿である方が圧倒的にメリットが大きい。

 それに、自分で云うのもアレではあるが、6歳頃の俺は美形の少年だしな。

 困っている振りでもすれば、人々はこんな可愛いショタ()を放っては置かないだろう。ヘヘッ。

 

「それじゃ、休暇を楽しんでくるとするぜ。行こう、ティガ」

「オウ、分かった。まずは何処に──」

「ちょっっっと待たぁっ!!」

 

 早速、というタイミングで幼女の声が響く。

 大きく慌てた様子だが、何か問題でもあるのだろうか。

 全く。コッチがワクワクしているってのに、人騒がせな⋯⋯

 

「紅志、擬人化を成功した事は褒めるよ? うん、凄い。

 けどね? もう少し⋯⋯その、色んな点にも意識を向けて、肉体の変化はした方がいいかなぁって思うんだ。

 特に人間には、倫理観とか社会性とか、色々あるじゃない?

 だから、例えば⋯⋯身体の⋯⋯周囲の⋯⋯周囲に⋯⋯身に付ける⋯⋯布と言うか⋯⋯」

「それって服の事か? 俺って何か変な格好でも──⋯」

 

 

 

 

「⋯──ギャハハハハ!!」

「笑うなティガぁ!!」

 

 バカ笑いするティガの背を、後ろから叩く。

 飛行中の彼の背中に座る俺は、先程の出来事を思い出しては変な声で唸りまくっていた。

 いや確かに、ありのままの姿をしているとは思っていなかったけども!!

 幼女に擬人化させてもらった時は、ちゃんと上も下もも履いてたじゃん!!

 くっそう。ギルルには「パオ〜ンw」とか笑われるし、ゼルは「ふはw足の小指w」で、アインは「無いのと変わらんw」って!!

 だぁーー!! 子どものチ〇コなんてそんなもんだろ!!

 全員で俺を笑いモンにしやがって、あのろくでなし連中!!

 なんなら、幼女だって「まぁ、可愛くていいんじゃない?」とか言って笑ってたし!!

 それはフォローになってねーからぁーーーー!!!!

 

「ハァ〜、もう生きていけない⋯⋯。このまま魔王城に帰んなくてもよくね?」

「まァ、落ち込むなって。俺ら魔族は、別に衣服なんて気にしてねェぞ?」

「⋯⋯そう? そうか?」

「ンまぁ、人前でフルチンになんのは、流石にアホのやる事だけどな」

「飛び降りるね」

「待て待て悪かったってw」

 

 わざとバランスを崩す俺を、ティガが右手で受け止める。

 まぁなんやかんやはあったが、人の姿になった事で随分と行動可能な範囲が増えたのは事実だな。

 以前と同じの、少し大きめな灰色のロングTシャツと黒いズボンも幼女に貰った事だし、切り替えてくかね。

 ⋯⋯ただ、いつかぜってーーに、俺の大事なモノを笑いやがった連中のナニを指差して笑ってやるぜ。

 

「で、まずはどこ行く?」

「ん? あぁ、そうだな、えーっと⋯⋯」

 

 ティガの台詞に、俺は首を傾げた。

 そういえば、どこに向かうかの順番は決めて無かったな。

 といっても、今の俺は人間の子どもの姿だし、何処に行こうが大した問題は起きないと思うが。

 取り敢えずは“話をしたい男”がいるし、まずは王都クローネに向かうか?

 もしクローネに居なかったら、次の候補はベルトンだが⋯⋯

 

「ン? 紅志見ろ、街があるぜ」

 

 ティガが指差す先には、かなりの広さの街があった。

 魔王城の周囲にも廃墟の城下街があるが、それとは比べ物にならない程に鮮やかに見えるな。

 豆粒より小さく見える無数の人々が行き交い、それぞれの営みを感じ取れる。

 ⋯⋯あぁ。なんか、こういうのは久し振りで泣けてくるな。

 あんな風に、文化やその風情を感じさせてくれる景色は良いものだ。

 ──よし、決まりだな。

 

「ティガ、あそこに下ろしてくれ」

「はいよ。俺ぁ街の外で待ってっから、楽しんで来い」

「あぁ、ありがとう」

 

 ギュン! と加速し、ティガが地上に降りる。

 彼の背中からずり落ちる様に離れ、俺は地面に足を付ける。

 ただの地面だというのに、それにすら感動してしまう。

 思えば、魔王領域は空気中が常に高濃度の魔力で満たされていた訳だしなぁ。

 今では慣れたが、ずっと水中にいる様な感覚で息もしずらかった記憶がある。懐かしいぜ。

 

「じゃあ、行ってくる!」

「おう」

 

 ティガに別れを告げ、俺は走り出した。

 たった数km先の街だというのに、この身体だと途方も無く遠く感じるな。

 だが、それ以上にワクワクが止まらない今の俺なら、どれだけ遠くても走れる気がする。

 ⋯⋯でも、この興奮は一体何が所以なんだろうか?

 休暇だから? 久し振りの街だから? 子どもの体だから、思考もその影響を受けているとか?

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

 無我夢中で走り続ける。そして、理解した。

 この湧き上がる感覚の正体は、至極単純なものだった。

 

 ──自由──

 

 それが、堪らなく嬉しい。

 誰かに言われて何かをする。誰かの為に何かをする。

 今までそんな事ばかりだった俺は、“自分が自分の為にやりたい事”を、今この瞬間に楽しんでいるんだ。

 そりゃあ、俺だって強くはなりたいし、助力や助言してくれるのは嬉しい。

 強くなって誰かを護れる様になるのも、きっと悪い気分では無いのだろう。

 だけど、俺が心の底から求めているのは、そんなものでは無い。

 俺が、俺の為に、俺だけの為に。行動して、思考して、何かを達成する──。

 そんな、“最高な我儘”を叶えている自分に憧れてしまう。

 

「はぁっ、はぁっ。⋯⋯ははっ、はははっ」

 

 零れる笑みに、また笑う。

 走るその先。俺の目指す場所は、眩い光に包まれているのだった。

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