猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第163話・青と蒼

「──ふおうっ!?」

 

 おっ? 初撃を躱されたか。

 突っ込んで来たトコに右でズドンの単調な攻撃ではあるが、反応されるとは思って無かったぜ。

 ふむふむ。コッチの右ストレートに対して、咄嗟に急ブレーキ&顔を後ろに逸らす事で回避したのか。

 俺は一発で決めるつもりだったし、それだけを踏まえるなら勝ちを譲ってもいいかもな。

 

「あ、甘い!! 正義の味方がこの程度で──」

「そうか。じゃあ次だ」

「へ??」

 

──ブオンッ!

 

 左脚を軸に回転し、尻尾で薙ぎ払う。

 今度は反応が間に合わなかったらしく、尻尾がヒーロー(仮)の脇腹へ真っ直ぐと吸い込まれていった。

 スパンという甲高い打叩音の後、全身がくの字に曲がったヒーローが唸りながら崩れ落ちる。

 ⋯⋯が、膝を着く寸前で両手を地面に突き出し、倒れかけた身体を支えてみせた。

 

「ぐ、うう⋯⋯!!」

「⋯⋯⋯⋯。」

 

 悶えるヒーローを、静かに見下ろす。

 俺が思っていたより、あの変な装備(ヒーロースーツ)は装甲が分厚いらしい。

 打撃はモロに入った手応えだったが、それに反して見受けられるダメージが少ない。

 ⋯⋯それに、勘違いかもしれないが、“妙な感覚”があった。

 打撃のインパクトの直後に、ごく僅かに押し返される感じがした気が⋯⋯した様な、しなかった様な。

 ふうむ、少し興味が湧いてきたぞ。もうちょっと踏み込んでみるか。

 

「こ、こんなもの、正義のヒーローなら⋯⋯」

 

 力強く立ち上がり、再び俺へと向かってくるヒーロー。

 頑張っているところ本当に申し訳無いのだが、もう一発だけ殴らせてくれ。

 痛みを感じるより早く気絶する様に、上手く加減するから。

 

「はあッ!!」

 

 掛け声と共に、ヒーローがハイキックを打ち出す。

 馬鹿の一つ覚えだな⋯⋯と、言ったら口が悪いか。

 まぁ戦略の変更をした点は正しい判断だと思うが、殴るから蹴るに変えたのは単純過ぎたな。

 そんなのは、こうして一歩だけ下がれば躱せるし──ほら、空振り。

 おまけに、キックを打った直の身体は隙だらけなんだよ。

 

「──ッ!」

「ぐぁはッ!!?」

 

 がら空きの脇腹に、右拳で一撃。

 負傷箇所への追撃で、今度こそ膝を地面に⋯⋯

 

「ぬああッ!!」

 

 付かないか。

 直前で片足を前に出して留まった様だ。ガッツだけは大したモンだぜ。

 ⋯⋯いや、この場合は痩せ我慢って表現の方が正しいのか?

 兎に角、膝を付かないという点に関しては、凄まじい気合いを感じるな。

 

「⋯⋯ん、」

 

 びりり。

 右拳に、僅かだが痺れる様な感覚が現れる。殴った衝撃の反動によるものだ。

 しかし、反動にしては()()()()()。それに、やはりヒーローへのダメージが随分と軽い。

 それらを複合して考えると⋯⋯。原因はあのヒーロースーツにありそうだな。

 あくまで予想ではあるが、あのスーツには『爆発反応装甲』の様な能力が備わっているのだろう。

 敵からダメージを受ける際、被弾箇所の表面を意図的に爆発させる事で、ダメージの浸透を防ぐ的なアレだ。

 そう考えれば、ヒーローのダメージの少なさと俺が感じているこの痺れに頷ける。

 

「──アンタ、名前は⋯⋯。──いや、これは不躾だったな。

 俺の名は紅志(あかし)。あの街には、ただの興味本意で来た。今後、街の住民に危害を加えるつもりは無い。

 唐突だが、君の名前が知りたくなった。教えてくれ」

「⋯⋯は? え、えぇっと、う〜ん⋯⋯そ、そっかぁ⋯⋯」

 

 困惑気味のヒーローを眺め、俺は返答を待った。

 彼の名前を知りたくなった理由。それは至って単純だ。

 あのヒーロースーツが仮に俺の予想通りの性能ならば、彼は『被弾を覚悟して戦っている』という事になる。

 そして、ドラゴンという魔物の中でも上位種にあたる存在を相手にして、一歩も引かずに相対している──。

 それは、彼自身の覚悟があまりにも強いからこそ完成している事実だ。

 ⋯⋯彼だって馬鹿ではないだろう。俺との実力差を感じて、勝てない相手だという事も理解してる筈だ。

 それでも尚、立ち向かってくるその根性。なにより、気概に惚れてしまった。

 きっと⋯⋯。まぁ確証は無いが、名前を知っていた方がいい気がするんだ。

 

「──悪いが教えられない。ヒーローは、自ら正体を明かさないんだ」

「⋯⋯!! そうか、少し残念だ」

 

 ⋯⋯けど、まぁそれでもいいかな。

 なんか気持ちの良い相手だったし、いつかまた会えるだろ。

 さて、それはそれとして。

 男が覚悟を持って挑んできたのならば、俺も男して恥の無い態度を示すべきだよな。

 

──ゴウッッ!!!!

 

 蒼い炎を全身に纏い、ゆっくりと構える。

 炎装形態から炎輪形態に移行し、出力を大きく増加。俺の背後に、宙に浮いた50cm程の蒼炎の輪を生成した。

 恐らく炎の輪があるのは、元から背にあった二つの炎柱の輪の中間辺りだ。

 まぁ背後にあるので実際には見えないのだが、魔力を操作している感覚では想像通りの形だと思う。

 何の為にある炎の輪かと聞かれるなら、炎輪形態の性能向上を目的としたモノだと答える。

 従来の炎輪ですら、魔力の循環率は100%には程遠かった。

 そこで俺は、“魔力の循環通路”である背中の二つの炎柱の輪とは別に、新たな循環要素を加える事にした。

 その結果が、現在の炎輪形態の姿だ。

 循環通路から多くの魔力が漏れ出てている点を考慮し、背後の空中に高速回転させている炎の輪を形成。

 漏れ出た分の何割かの魔力を、背後の炎の輪の回転によって発生する空気の渦に巻き込ませる。

 つまり、魔力をその炎の輪の周囲に留める事で、再吸収をしやすくしているという訳だ。

 大きさとしては、まぁ大きければ大きい程いいのだが⋯⋯

 現状では長時間の維持は難しいので、炎の輪の直径は50cm程度が今の所の限界となっている。

 ──そしてこの炎装が、今の俺の最強形態だ。

 

「⋯⋯えっとぉ、紅志、さん? ちゃんとした話が出来る事が分かったんで、わざわざ戦う必要もない気が──」

「フッ⋯⋯。まさか、怖気づいたワケじゃねぇだろう?」

「いや、怖いです。自分で言うのもなんですが、強敵に立ち向かってる時は結構ノッているというか⋯⋯

 まぁ、その、なんです? シラフでソーユーのはちょっと、と言いますか⋯⋯?」

「あぁ⋯⋯そう? そうなの? それじゃあ⋯⋯まぁしょうがないかぁ⋯⋯しょうがないよなぁ⋯⋯」

 

 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯うん。

 ⋯⋯なんというか、めっっっちゃ恥ずかしいんだけど。

 なんか一人で盛り上がってた俺がバカみたいじゃん、これ。

 いや普通、ヒーローにノリもシラフもあるかってんだよう。

 いついかなる時もぉ、なんかこう、『正義!』って感じなのがぁ、ヒーローってもんじゃなぁい? ねぇ?

 なんか今日、俺って恥ずかしい目に遭い過ぎじゃねぇか?

 フルチンは見られるし、下手な芝居を打つ事になるし、1人で勝手に盛り上がってるし⋯⋯

 ちょっと、もう1回だけ死にたいんですけど。いいっすか?

 

「──えっと、じゃあ、特に他の用事は無いから、最後に一つだけ頼みが⋯⋯」

「はい、なんでしょうか? 俺に出来る事なら、紅志さんの言う事は聞けますけど⋯⋯」

「あぁ、どうも⋯⋯。まぁついさっきの事なんだけども⋯⋯

 兵士の人達が、金髪でエプロン姿の少女を保護していると思うのね?

 で、その子がカクカクシカジカで──⋯」

 

 

 

「⋯──なるほど。つまりは、その子の形見であるオルゴールを修理したいと。

 そしてそれの修理代を、紅志さんが提供したい⋯⋯と?」

「そう、ではあるんだけど、今は金を持っていないから──」

 

 言葉を区切り、自分の右腕を掴む。

 刃物でもあればよかったのだが、まぁ贅沢は言えない。

 あの少女には、面と向かって『助けになる』と約束した訳だからな。

 男たるもの、約束は必ず守るべしだぜ⋯⋯っと!!

 

「があァ!!」

「へえッ!?」

 

 ブチンと右腕を引き千切り、ヒーローにパスする。

 俺の二の腕から先を受け取ったヒーローは、俺と俺の右腕を交互に見ながら変な顔をした。

 そんな彼を見つめ、猛烈な痛みが全身を駆け巡る最中の俺は、息を整えてから言葉を続けた。

 

「──()()をさ、適当に売っぱらって金にして欲しいんだよ。

 大した金額にはならないだろうけど、少しでもあの子の助けになりたいんだ」

「⋯⋯そ、その前に紅志さんの方が助けが必要なのでは?」

「大丈夫だ、問題無い。この程度なら、自分で簡単に治せる。

 なんなら、俺の四肢フルセットもいってもいいんだが⋯⋯」

「い、いやぁ⋯⋯。あはは、変わった方だなぁ⋯⋯」

 

 苦笑いするヒーローが、自身の後頭部を撫でる。

 俺の行動に困惑している様子だが、確かに目の前で自分の腕を千切る奴がいたら驚くか。てへぺろだな。

 

「それじゃあ、もう行くとするわ。人を待たせてるんだ。

 ⋯⋯随分と迷惑を掛けたな、騒がせてすまなかった」

「あぁ、いえ、その⋯⋯。コホンっ。──我が好敵手(ライバル)よ!! 良い戦いだった!! いつかまた会おう!! さらばっ!! ハーッハッハッ!!」

「⋯⋯ははっ。『さらば』か高笑いかのどっちかで〆ろよな」

 

 走り去って行くヒーローを、後ろから見守る。

 ライバル、ね。まぁそんな奴が居ても悪い気分はしないか。

 

「⋯⋯さて。俺もそろそろ、ティガんトコに戻るとするかぁ」

 

 ぐっと伸びをして、ファンダルの街を背に歩き出す。

 しっかし、短い滞在だったが得られたものは多かったな。

 困難に立ち向かう人々の存在も、困難の最中にいながら頑張っている子も、そして俺がやるべき事も⋯⋯。

 良い学習になったし、なんやかんやで立ち寄って正解だったと思えるな。

 ⋯⋯あ、そうだ。やたら痛むなと思ったら、右腕を治すのを忘れていたぜ。

 

「ふ──! っと⋯⋯」

 

 メキョメキョメキョッ。

 木の枝が生える様に、切断面から新たな腕を創り出す。

 以前までは、魔力で筋肉やら骨やらの組織の原型を構築し、それに沿うように再生を行っていた訳だが⋯⋯

 最近では、切断面から先端に掛けてじっくりと再生する様にしている。

 そうした方が、一気に治した時よりも()()()のが早いと気が付いたからだ。

 パッと治した所で、負傷箇所との神経の再接続とか、血液が血管を流れ始めるまでの時間が掛かるからな。

 じっくりと一から順に丁寧に治した方が、戦闘時なら結果的に時間短縮に繋がるって訳だ。

 まぁじっくりといっても、それでも以前より遥かに早い速度で回復が出来るのだけれど。

 

「──よォ、随分と楽しんで来たみてェだな」

「まぁな。待たせたか?」

 

 ティガと合流し、再び擬人化をする。

 街中で擬人化を解除した時とか、ヒーローを相手に炎装を全開にした時とか⋯⋯。

 内心で、これティガ来ちゃうかもなって心配してたんだが、どうやら杞憂に終わったらしい。

 まぁどの道、俺の行動については大抵を知ってそうだけど。

 ⋯⋯あぁ。今のティガの台詞、てっきり俺が竜の姿で戻って来たから言ったものかと思ったが、そういう事か。

 というより、寧ろ魔王幹部がこの距離内での出来事を把握してない訳が無いよな。

 

「ほんじゃあ、次のバケーション先に向かうとするぜ」

「あァ、分かった。次は何処だ? アッチか? コッチか?」

「アッチの方だ。──行こう、王都クローネに」

「はいよ。振り落とされるんじゃねェ⋯⋯ぞッ!!」

 

 空高く跳ね上がるティガ。その背にしがみつく俺。

 ⋯⋯ふふ。久し振りに友人に会えるかもと思うと、ワクワクしてくるぜ。

 ギルバートは元気にしてるかな。ファリドは相変わらずなのかな。サンクイラの丸っこい笑顔が見たいな。またシルビアのボインにドキドキしたいな。

 ──ヴィルジールと、色々話がしたいな。

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